2-2-2 王都侵攻作戦
グリムロス帝国総司令、ヴォルフガング・アイゼンバルトは、前線基地の作戦室に主力部隊の幹部たちを集めていた。
戦況は一見すれば不利にも映る。しかし彼の眼差しには、王国制圧への揺るぎない確信が宿っていた。
作戦卓の上には王国全土を示す地図が広げられ、三本の赤い進撃ルートが鮮やかに描かれている。
中央突破を担うのは、ヴォルフガング自身が率いる重装部隊。
東方では、特殊部隊を指揮するナディア・ヴァルシオンが山岳地帯を越え、敵の死角を突く奇襲を敢行する。
そして西からは、エリート魔法剣士カール・ユグドラシルの部隊が派手な攻撃で戦線をかき乱し、敵の注意を引きつける──それが全体構想だった。
「全ての準備は整った」
ヴォルフガングが、重々しい声で口を開く。
「中央部隊は私が率いる。王都の門を正面から叩き、守備隊を粉砕する。
カール、お前は西から側面を牽制しろ。派手にやれ。敵の目を、徹底的に引きつけろ」
カールは口元を歪め、ニヤリと笑った。
「任せてくれよ。爆発と騒ぎは得意分野だからな」
ナディアは腕を組み、冷ややかな視線をカールへ向ける。
「だからあなたの部隊は、いつも補充が必要になるのよ」
「派手な方が戦争らしいだろ?」
カールは肩をすくめる。「それに、俺がやらなきゃ誰がやる?」
ナディアは軽くため息をついたが、険しい表情は崩さなかった。
「私の部隊は、山を越えて東から奇襲する。
無駄に暴れるのはやめて。タイミングが狂えば、作戦全体が崩壊するわ」
ヴォルフガングは指で作戦卓を軽く叩き、全員の注意を引き戻す。
「ナディアの言う通りだ。無駄な戦闘は避けろ。
重要なのは、各部隊が確実に連携することだ」
カールは小さく笑い、「わかってるよ」と応じたが、その表情はどこか楽しげだった。
ヴォルフガングが地図から視線を上げ、全員を見渡したところで、ふとカールが思い出したように口を開いた。
「そういや総司令。
フェンリスの残骸はどうする?あれだけ派手に落ちたんだ。回収班くらい出さなくていいのか?」
室内の空気が、わずかに変わった。
ナディアは一瞬だけヴォルフガングの顔を見た。
その視線の動きはごく短く、だが確かに、彼女は“何か”を読み取ったようだった。
ヴォルフガングは答えなかった。
ただ、地図の上に置かれた指先を軽く叩き、沈黙で場を制する。
ナディアがすぐに言葉を挟む。
「余計なことを考えるな、カール。
今は王都制圧が最優先よ」
「へいへい」
カールは肩をすくめ、軽く笑って引き下がった。
「聞いただけさ。仕事は仕事だしな」
ヴォルフガングは何事もなかったかのように視線を地図へ戻す。
それ以上、フェンリスの名が出ることはなかった。
「最終確認だ」
ヴォルフガングは言葉を続ける。
「中央から私が押し込む。
ナディア、お前の部隊が奇襲に成功すれば、敵の増援は確実に遅れる。
カールの牽制が機能すれば、敵は全方位への対応を強いられ、王都防衛は崩れる」
ナディアは静かに頷く。
「《ヘルダル》に搭乗する兵士たちには、すでに指示を出してある。
迅速かつ静かに、拠点を制圧するわ」
「静かに、ねえ」
カールが茶化すように口を挟む。
「俺が敵の注意を全部引き受ける。
だからお前たちは、気楽にやってくれよ」
「敵に背中を預ける気はないわ、カール」
ナディアは冷ややかに言い返す。
「でも、あなたの無茶がなければ──作戦は成功するでしょう」
「おいおい、俺だって一応はプロなんだぜ?」
不服そうに呟きながらも、カールの瞳には揺るぎない自信が宿っていた。
ヴォルフガングは二人のやり取りを黙って聞いていたが、やがて低く笑った。
「やり方は違えど、結果を出せばいい。
それが我々の任務だ」
そして、部隊全体の士気を引き締めるように言葉を放つ。
「我々は北の誇りだ。
この作戦を成功させ、帝国の旗を王都に掲げる。
そのために、全力を尽くせ」
ナディアは無言で立ち上がり、敬礼して作戦室を後にする。
その背中には、任務への責任と覚悟が滲んでいた。
カールも立ち上がり、ヴォルフガングに向かって軽くウインクを飛ばす。
「じゃあ俺も行くぜ、総司令。
後で勝利の酒を奢ってくれよ」
ヴォルフガングは重々しく頷いた。
「まずは勝利を手に入れることだ」
やがて、三人の幹部が搭乗する《ヴァルク》が次々と起動する。
ヴォルフガングの重装ヴァルクは圧倒的な存在感を放ち、
カールのヴァルクは俊敏に駆動音を響かせ、
ナディアのヴァルクは、音もなく夜の闇へ溶け込むように進んだ。
三つの部隊は、それぞれの進撃ルートに従い、南の王国へと進軍を開始する。
彼らの目標はただ一つ──王都の陥落だ。
ヴォルフガングは通信機越しに命じた。
「全軍、前進開始。三日で王都を落とす」
カールの声が即座に返る。
「了解。あっという間に終わらせてやる」
ナディアも冷静に続けた。
「遅れは取りません」
ヴォルフガングは一度目を閉じ、深く息を吸う。
戦場に立つこの瞬間こそが、彼の人生のすべてだった。
「グリムロス帝国に、栄光あれ」
静かに、しかし力強く言い放つ。
そして三つの部隊は、それぞれの運命を背負いながら、進撃を開始した。
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