2-1-23 反撃の狼煙
高速小型飛空艇スルトの炎が迫る中、サーラたちは必死に抵抗を続けていた。
ドローンのボディは魔法で強化されており、直撃する炎には耐えていたが、そこに乗り込んでいる彼女たちの身体は別だった。火傷と煤にまみれ、息を吸うたびに喉が焼けるように痛む。
熱と煙に包まれる中、エレインが歯を食いしばり、手を振りかざしてシールドを展開する。しかし、その光は揺らぎ、明らかに限界が近づいていた。
「くっ……このままじゃ……!」
汗と煤に濡れた顔で、エレインが叫ぶ。
「もう少し……なんとか……!」
シオンもまた魔法で炎を押し返そうとするが、魔力の消耗は隠せなかった。
操縦席のサーラは必死に制御を続けていた。
腕の火傷がひりつき、視界の端が暗くなる。それでも歯を食いしばり、操縦桿を握り続ける。
「大丈夫……まだ、飛べる……!」
その瞬間、ドローンが大きく揺れた。
エヴァが真っ先に異変に気づき、声を上げる。
「高度が下がってる……!」
ついに魔力供給が限界に達し、機体はゆっくりと降下を始めていた。
エヴァは振り向き、サーラを見つめる。
「もう無理よ……サーラ。このままじゃ、落ちる……!」
その言葉に、誰も言い返せなかった。
サーラ自身も、現実を理解しきれないまま、落ちていく感覚だけを確かに感じていた。
「……ここまで、か……」
静かにつぶやき、目を閉じかけた、その瞬間だった。
「──諦めるな!」
鋭い声が、耳元に叩きつけられる。
サーラがはっと目を開けた瞬間、空を覆う巨大な影が視界に飛び込んできた。
雲を割って現れたのは、伝説にしか聞いたことのない竜。
その背には、確かに人影があった。
「な……何……?」
言葉を失うサーラの横で、エレインが息を呑む。
「あれは……ミーナよ。
国の危機を救うために、伝説の竜を探しに行くなんて言ってたけど……まさか本当に見つけるなんて!」
ミーナは竜を巧みに操り、ドローンの近くまで迫る。
その背には、さらに三人の戦士の姿があった。
「ヴァイ、レイラ……そして……カリナ!?」
エレインが驚きの声を上げる。
「カリナは、エレインの代わりね。防御役が他に居ないってのは、皮肉なものだわ」
ミーナが淡々と言うと、カリナが鎧を叩いて応じた。
「アンタがいなくても、この《金牛の鎧》があれば、どうにかなるってことよ」
エレインは苦笑いを浮かべたが、視線は戦場から離さない。
彼女たちと、伝説の竜──それは、スルトに対抗する最後の切り札だった。
「小型飛空挺は任せて! あんたたちは先に進みなさい!
行くぞ、アルカンティス!」
ミーナの号令に応え、紅色の鱗を持つドラゴンが翼を大きく広げる。
轟音とともに空を蹴り、一気に高度を上げたその姿は、まさに伝説そのものだった。
その隙を逃さず、ヴァイが一撃必中の《天蠍の弓》を構える。
放たれた矢は炎を裂き、スルトの一機を正確に撃ち抜いた。
「すごい……」
思わずサーラの口から、感嘆の声が漏れる。
さらにレイラが《宝瓶の壺》を掲げ、内部に蓄えられた水を解き放つ。
水の魔法が炎を抑え込み、ドローンを包む灼熱をわずかに和らげた。
「このままじゃ焦げちゃうわね。少しは涼しくなった?」
冗談めかした声とともに、彼女は再び水を操る。
サーラはその援護に深く感謝しながら、フェンリスへと視線を向け直した。
──進まなければならない。今こそ。
—-
地上の魔法陣にも異変が起きていた。
魔力を送り続けていたルナは、ついに限界を迎え、視界が滲み、膝が崩れ落ちそうになる。
その身体を、力強い腕が支えた。
月の騎士団団長だった。
「団長……? どうして……」
ルナがか細い声で尋ねる。
「どうしてだと?」
団長は軽く笑い、ルナの肩を叩いた。
「俺たちに黙って行くとは思わなかったぞ。
この計画が失敗すれば、参加者は“反抗勢力”だ。……騎士団全体がそうなるのを避けるために、わざと遠ざけたんだろう?」
ルナは思わず目を見開いた。
「ですが……」
「水臭いことを言うな、ルナ。仲間だろう」
団長はきっぱりと言い切る。
その言葉に、ルナの肩から力が抜けた。
他の騎士団の精鋭たちも次々と加わり、疲弊した魔法使いたちと交代していく。
「休め。お前の役目は、まだ終わっていない」
団長は優しくそう告げた。
—-
一方、ドローンの操縦席で、サーラは再び気力を振り絞っていた。
機体が持ち直した感触が、確かに伝わってくる。
「……今こそ、反撃の時だ」
操縦桿を握り直すサーラの目には、新たな決意の光が宿っていた。
空と地上、すべての仲間の想いが、彼女を前へと押し出していた。
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