2-1-22 スルト全機出撃
サーラ達のドローンは、七人分の連携魔法が生み出す動力によって、どうにか空を飛び続けていた。
機体は細かな振動を絶えず伝えてくるが、致命的な乱れはない。四基のプロペラが空気を切り裂き、必死に揚力を生み出しながら、ゆっくりと高度を保って前進していく。
雲の切れ間、その向こうに影が現れた瞬間、あまりの巨大さに、全員が言葉を失った。
「すごい……」
サーラは思わず息を呑み、呟く。
「あれがフェンリス……。こんな……こんな大きなものが、本当に空を飛ぶなんて……」
「……まるで空中要塞だな」
シオンは冷静さを装って言ったが、その視線は鋭く、明確な警戒の色を帯びていた。
エレインとエヴァもまた、無意識に身を固くする。
誰も口には出さなかったが、いよいよ“大きな戦い”の幕が上がろうとしていることを、全員が肌で感じ取っていた。
一方、鋼鉄と魔法に守られたフェンリス内部の司令区画──
巨大なスクリーンに映し出される小さなドローンの映像を前に、エドリックは不敵な笑みを浮かべていた。
既に彼は、サーラ達が接近していることを完全に把握している。
「彼女らの目的地は明白だ」
エドリックは、隣に立つリヒャルトへと視線も向けずに言い放つ。
「だが、慌てる必要はない。こちらは舞台装置を整えるだけでいい」
リヒャルトは一瞬、眉をひそめた。
横暴とも取れる態度に苛立ちが走るが、それを飲み込むように無表情で返す。
「……指揮は私が執る。分かっているな」
「もちろんだ、指揮官殿」
エドリックは肩をすくめ、皮肉をたっぷりと滲ませて続けた。
「だが、こちらにも“見せ場”は必要だろう。
スルトを全機出撃させろ。彼女らを歓迎するには、それが最適だ」
リヒャルトは短く息を吐き、黙したまま部下へ指示を飛ばした。
サーラ達を軽視しているわけではない。
だが、エドリックが描くこの展開に、拭いきれない違和感と疑念を覚えていた。
「……スルトを全て、か」
小さく呟き、視線をスクリーンに戻す。
「ふん。奴らがどれほど驚くか……見せてもらおう」
数分後。
フェンリス外装バリアが解除され、重厚な甲板に並ぶ無数のハッチが、一斉に開いた。
姿を現したのは、高速小型飛空挺。
鋭利なシルエットを持つ機体が、次々と射出されるように発進していく。
数十機にも及ぶその編隊は、空を泳ぐというより、獰猛な獣の群れが解き放たれたかのようだった。
「……出撃だ」
リヒャルトは低く呟き、横目でエドリックを一瞥する。
エドリックは、その様子を楽しむかのように、再び冷酷な笑みを浮かべた。
「さあ、ゲームの始まりだ」
その頃、ドローンの開放型コックピット──
フェンリスへの接近に備え、秘策の確認を進めていたサーラ達は、突如として迫り来る無数の影に凍りついた。
「なに、あれ……!?」
サーラが叫ぶ。
編隊を組んだスルトが、一気に距離を詰めてくる。
何が起きているのか理解する暇もない。
次の瞬間、スルトの先端が、不気味な光を放った。
直後、猛々しい火炎が噴き出す。
「嘘でしょ……火を、吐いてる!?」
サーラの声が裏返る。
「こんな兵器まで……!」
エヴァは必死に冷静さを保ちながらも、その攻撃力に圧倒されていた。
「火炎弾……いや、魔法か?」
シオンはスルトの挙動を目で追い、分析しようとするが、焦りと驚きは隠しきれない。
目の前の光景は、これまでの常識を軽々と踏み越えていた。
スルトの小型機体は、まるで意思を持つ生き物のように滑らかに旋回し、獲物を狙う。
火を噴きながら迫るその姿は、まさに空を駆ける竜そのものだった。
「……このままじゃ、まずい!」
サーラは歯を食いしばり、状況を整理しながら言葉を絞り出す。
次々と火炎を吐くスルトの群れが、ドローンを包囲し、焼き尽くそうとする。
「そんな……」
エレインが不安を隠せず、かすれた声で呟いた。
「私たち……どうすればいいの……?」
圧倒的な数。
圧倒的な火力。
その場にいる全員が、次の一手を見失いかけていた。
再び、フェンリス内部──
エドリックは高笑いを響かせていた。
「まさか、これで終わりだなどと思ってはいないだろう?」
冷たい笑みを浮かべ、独り言のように呟く。
彼にとってこれは、ただのゲームだった。
相手がどれほど足掻こうと、結末は既に決まっている。そう信じて疑わない。
嗚呼、協奏曲に紛れ込んだ、不協和の一音。
それは悲鳴だった。フェンリスの内部に、シェリーの声が突き刺さる。
双魚の鏡を通して、彼女はその光景を直視していた。
「……いや……!」
声が震える。
「サーラ……お願い……無事でいて……!」
ブクマでサーラたちの応援をお願いします!




