表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

21/78

2-1-21 いざ大空へ

いよいよ、有人ドローンの出航が迫っていた。


サーラは緊張した面持ちで、自分を含めた四人の搭乗者を指名する。

自らとエヴァ、シオン、そして最後にエレイン。


名を呼ばれたエレインは、何も言わずに小さく頷き、サーラの目を真っ直ぐに見つめ返した。

先ほど渡された手紙──そこに込められた想いを受け取り、彼女はすでに覚悟を決めていた。


これで、ドローンは出航の準備が整った──はずだった。


だが、その直後、サーラの表情が曇る。


「……必要な人数は、八人だったよね?」


連携魔法を成立させるためには、八人の魔法使いが魔法陣とリンクし、同時に魔力を供給する必要がある。

しかし、ここに集まっているのは七人だけだった。


アリア、リアナ、アリス、エグバート先生。

そして、シオンが連れてきたセレナとフィー、月の騎士団のルナ。


──あと一人、足りない。


リアナが悔しそうに眉をひそめる。


「七人でも不可能ではないわ。でも……負荷が大きすぎる。

短時間ならなんとかなるかもしれないけど、長時間の飛行は……正直、賭けね」


その言葉に、広場を包んでいた空気が一瞬、張りつめた。

誰もが言葉を失い、表情を強張らせる。


サーラは仲間たちの顔を、ひとりひとり見渡した。

自分のために、ここまで集まってくれた人たち。

命を懸ける覚悟で、この場に立っている人たち。


胸が熱くなると同時に、重い責任がのしかかる。


「……ありがとう、みんな」


サーラは微笑もうとしたが、声はわずかに震えていた。


「私のために、ここまでしてくれて……本当に感謝してる」


その時だった。


アリアがふいに顔を背け、肩を震わせ始めた。

サーラは驚いて姉に駆け寄る。


「アリア、どうしたの?」


振り返ったアリアの頬には、大粒の涙が次々とこぼれていた。


「サーラ……もし、これが今生の別れになったらって……

あの時、私がもっとしっかりしていれば……」


言葉は途切れ、嗚咽に変わる。


「そんなこと言わないで!」


サーラは思わず、強い声を上げていた。


「アリア、あなたがいたから、私はここまで来られたんだよ。

ずっと支えてくれたのは、あなただった」


そう言って、サーラは姉の手を両手で包み込む。


「私を信じて。必ず……必ず戻ってくるから」


アリアの涙は止まらなかったが、その手の温もりが、少しずつ心を落ち着かせていった。


「……絶対に、戻ってきてね」


震える声で絞り出されたその言葉に、サーラは深く頷いた。


名残を断ち切るように、サーラは踵を返す。

ドローンへと向かう一歩一歩が、やけに重く感じられた。


胸の鼓動は早鐘のように鳴り響く。

それでも、振り返ることはできなかった。

今ここで立ち止まれば、きっと前に進めなくなる。


有人ドローンは、広場の中央に静かに鎮座していた。


四人乗りのオープン型機体は、必要最低限まで削ぎ落とされた骨格構造をしており、外装は軽量化された魔法強化素材で覆われている。

船体というより、巨大な魔法装置に近い印象だった。


機体の四隅には、それぞれ独立した大型プロペラが配置されている。

羽根は金属とルーンで構成され、回転軸には淡い魔力光が脈打つように走っていた。

四基同時に稼働することで、無理やり機体を持ち上げる──そんな力任せな設計思想が、むしろサーラらしい。


中央には四人分の簡易座席が並び、囲いはない。

落下防止の魔力拘束具と簡素なフレームだけが、搭乗者の身体を支える構造だ。

安全性よりも、軽さと即応性を優先したことは一目で分かる。


そして、機体前方の副操縦士席。


そこには、黒猫のネフィリスがちょこんと座っていた。


彼の頭には小型のヘルメットが装着され、側頭部から伸びたルーンケーブルがドローンの制御中枢へと直接接続されている。

ヘルメットの表面には制御式が刻まれ、ネフィリスの思考と機体の挙動が、ほぼ遅延なく同期する仕組みだ。


「やれやれ……僕は皮肉を言うのが使命だと思ってたんだけどね。今日は珍しく、命を預かる係だ」


皮肉めいた呟きとは裏腹に、彼の尾はぴたりと静止し、金色の瞳は冷静に制御系の状態を読み取っていた。

このドローンの“頭脳”は、間違いなく彼だった。


即席。

無謀。

それでも──飛ぶために必要なものは、すべて揃っている。


サーラはその姿を見上げ、胸の奥で静かに息を整えた。


座席に足を踏み入れると、エヴァが小さく微笑み、そっと手を振っていた。

不安を抱えながらも、信じてくれている──その気持ちが伝わってくる。


シオンは静かに装備を確認し、エレインは無言のまま、ただ気迫を漲らせていた。


「……行こう」


サーラは小さく息を吸い、心の中で自分に言い聞かせる。


「みんなを……そして、シェリーを助けるんだから」


残った七人はドローンの外で魔法陣を囲み、同時に魔力を集中させ始めた。

幾重にも重なる魔力の流れが、機体へと注ぎ込まれていく。


やがて、ドローンがゆっくりと浮かび上がった。


だが、すぐに分かる。

七人で支えるには、あまりにも限界に近い。


機体は細かく震え、空中でわずかに揺らぐ。

安定を欠いた挙動に、不安が胸を締めつけた。


「……お願い、飛んで……!」


サーラは歯を食いしばり、祈るように呟く。


「プロペラ回転数、基準値突破。上昇フェーズに移行する──振り落とされないでくれよ!」


ネフィリスが警告した直後、四基のプロペラが悲鳴のような音を上げ、機体が空気を踏み抜いた。


そして次の瞬間──

有人ドローンは、ついに地を離れ、大空へと舞い上がった。


ブクマでサーラたちの応援をお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ