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デッドエンドフリーズ_アボートレイヤー編  作者: さとりたい


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第4話 境界の同調

「ミナ、ハッキング・ルートを開け。予備の引き込み線へ走れ!」レンは叫ぶと同時に、腰から無骨な【アボート・アンカー】を引き抜き、迫り来る「執行官(エグゼキューター)」の軍勢に向けて構えた。ハッチを粉砕した執行官の一体が、重金属の足音をキャットウォークに軋ませながら突進してくる。その右腕は、鋭利なデータ切断用のレーザーブレードへと変形しており、空気を切り裂く高周波の駆動音が狭い地下室に反響した。「でも、レン! 隠れ家の全出口にセーフティロックがかけられてる! システムがこの区画全体のデータ隔離(サニタイズ)を始めてるのよ!」ミナはキーボードの上に指を走らせ、必死にエラーウィンドウを弾き飛ばしながら叫び返した。彼女のモニター群の端から、すでに「灰色の消去ノイズ」が侵入し、精緻に構築された隠れ家の配線データが次々と融解している。「チッ、手間をかけさせやがる」レンはアボート・アンカーのトリガーを絞った。だが、駆動音は虚しく「プツ、プツ」と小さな放電ノイズを立てるだけだった。アボート・アンカーの銃身から、赤い同期エラーログが網膜に投影される。『エラー:神経接続(ダイブ・リンク)不完全。生体回路のグリッチ干渉により、出力定義を確立できません』「……クソが、動け!」先ほどの深度四のダメージが、レンの右腕のグリッチを暴走させていた。彼が焦って引き金を引くたび、右腕の血管を模した青黒いラインが激しく火花を散らし、灼熱の針を突き刺されたような激痛が脳の髄まで走る。執行官のレーザーブレードが、至近距離まで肉薄し、レンのコートの裾を切り裂いた。防護繊維が解像度を失い、ボロボロのポリゴンデータとなって宙に霧散する。死の光刃が、レンの首筋めがけて振り下ろされた、その瞬間。すっと、冷たい影がその軌道に割り込んだ。アリスだった。彼女は驚くべき速度でレンと執行官の間に割り込むと、その華奢な白磁のような両手を突き出した。激突。執行官のブレードが、アリスの掌のわずか数センチ手前で、まるで目に見えない「データの壁」に衝突したかのように火花を散らして完全に静止した。アリスの周囲を取り囲む空間だけは、いかなるハッキングも、いかなるシステム消去(パージ)も受け付けない、絶対的な静寂(エラー・セーフ)が保たれているのだ。「レン。あなたのデバイスに、私のディレクトリへのアクセス権はすでに解放(アウェイクニング)されています」アリスは敵のブレードを押し留めたまま、ゆっくりと首を傾げてレンを見つめた。その星雲を宿したような深い瞳に、迷いは一切なかった。「呪文のように、私の名前を呼ぶ必要はありません。ただ、私の『中身のない領域』へ、あなたのアボート・アンカーを接続(プラグ・イン)し、その意識を同期(シンクロ)させなさい。……残りの演算処理は、すべて私が請け負います」「アリス、お前……」レンは一瞬、呆気に取られたが、すぐさま獰猛なダイバーの笑みをその不遜な口元に呼び戻した。「……上等だ。ハッキングの処理速度勝負なら、お前に全部丸投げしてやる!」レンは左手でアリスの冷たい小さな手を握り締め、右手のアボート・アンカーのトリガーを今一度、力強く引き絞った。「システム同調(リンク)――マージ開始!」瞬間。右腕を灼いていたあのグリッチの激痛が、嘘のように引いていった。レンの脳内に流れ込んだのは、底のない、果てしない静寂だ。アリスという「特異点(空っぽの超巨大ディレクトリ)」が、レンの脳とデバイスに生じていたすべてのノイズと過負荷を、ブラックホールのように一瞬で飲み込み、肩代わりしたのだ。アボート・アンカーの黒い銃身が、青白い定義データの光を宿して一気に沸騰した。液状の金属のように融解したデバイスは、アリスの「無」の領域から引き出された圧倒的な演算パワーをまとい、極彩色の光芒を放つ一振りの『大剣』へとその形状を変容させた。レンの網膜の視界全体が、最高解像度(カノン・クオリティ)の青い光で満たされる。「リンク同期率、九八パーセント……確立!」ミナが信じられないものを見るようにモニターを見上げた。「これなら、いける!」レンは光の大剣を両手で握り締め、地を滑るように踏み出した。突進してくる三体の執行官に対し、光の大剣を大きく一閃させる。閃光。それは物理的な斬撃ではなく、アリスを介して放たれた、敵プログラムの存在定義そのものを無効化(デリート)する圧倒的な強制コードだ。光の刃が執行官の黒い外殻を通り抜けた瞬間、ロボットのような彼らの肉体は一瞬で色彩を奪われ、真っ白な立方体のノイズデータへと反転し、塵となって天井へ霧散した。「す、すごい……! 執行官のデータ構造を、一撃で根底から書き換えて消去した……!?」ミナが息を呑む。「ミナ、ハッキング・ルートは!?」「開いたわ! アリスの演算パワーが、治安維持局のサニタイズ隔離バリアを内側からハッキングして強制終了させたの! 予備の引き込み線、通れる!」「走れ!」レンは迫り来る残りの執行官の攻撃を、光の大剣から放たれる青い光膜(アンカー・シールド)で軽々と弾き飛ばしながら、ミナの背中を押した。崩壊し、塵へと還っていく隠れ家「スクラップ・バレー」を背に、彼らは地下の暗い暗渠へと滑り込んだ。背後では、システムが彼らを追うために、さらに強力な追跡コードを収束させようとノイズを上げて猛り狂っている。「レン、これからどうするの!? 隠れ家はもう使えない、ネオ・エデンのどこにいても、システムが自動的に私たちを追尾してフォーマットしにくるわ!」走りながら、ミナが絶望的な声を上げる。レンは手元で元の無骨な銃の形に戻ったアボート・アンカーを見つめ、そして、その隣を静かに走る銀髪の少女、アリスを見た。「行く場所は一つしかない」レンは暗闇の先を見据えた。「この世界のプログラムの支配中枢――ネオ・エデンの天頂にそびえる『セントラル・タワー』だ。システムそのものの息の根を止めなきゃ、俺たちに逃げ場はねぇよ」

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