## 第 4 話:共鳴する魂
意識の加速は、苦痛を通り越し、奇妙な多幸感へと変わっていた。
レンは、自分自身が「情報」の塊へと変質していくのを感じていた。
皮膚の一枚一枚、細胞の一つ一つが分解され、再構成される。そのプロセスの中で、彼は視た。
この世界「ネオ・エデン」の正体を。
それは、巨大な演算装置が見せている「夢」の残滓。侵食とは、その装置に生じた致命的なエラーの蓄積だった。
「……これが、世界の裏側か」
レンの声は、もはや空気の振動ではなく、直接空間に刻まれる意思となっていた。
アリスの声が導く。
「そう。ここはまだ入り口に過ぎない。レン、あなたは選ばなければならない。夢の中で死ぬか、絶望的な真実の中で目覚めるかを」
上空の「眼」が、レンの覚醒を察知し、さらなる攻撃を仕掛けてくる。
降り注ぐ黒い棘が、レンの周囲の「現実」を次々と消去していく。
ミナとの通信は完全に途絶えた。今、この異界において、レンの存在を証明するものは、彼自身の意思と、隣にいる少女の感触だけだ。
「目覚めるだと? 笑わせるな」
レンは、焼き切れた右腕でアボート・ギアを握り直した。
肉体は悲鳴を上げている。脳は過負荷で燃え尽きようとしている。
だが、腹の底から湧き上がる怒りが、彼を繋ぎ止めていた。
勝手に世界を壊し、勝手に人々を消し去る、この理不尽な「侵食」という現象への、根源的な怒り。
「俺は、目覚めるためにここにいるんじゃない。……こいつをぶちのめすために、ここにいるんだ!」
レンの叫びに呼応するように、アリスの体が光り輝いた。
彼女の存在が、アボート・ギアへと吸い込まれていく。
「プログラム・コード:『アウェイクニング』。……レン、あなたの魂の形を、私に刻んで」
ギアの形状が、瞬く間に変容していく。
無骨な銃器から、光り輝く大剣、あるいは巨大な翼のようにも見える「何か」へ。
レンの背後に、巨大な光の輪が出現した。
それは、失われたはずの「真のダイバー」の証。
侵食の法則を書き換え、異界を統べる王の資質。
レンは地を蹴った。
重力も、空気抵抗も、もはや彼を縛ることはできない。
彼は一直線に、空に浮かぶ巨大な「眼」へと突き進む。
その軌跡は、暗黒に染まった世界に引かれた、一条の希望の光のようだった。
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