5 ギャル、魔界でつけまを手に入れる
「ね、せっかくメイクしたし出かけようよ!」
「まぁ・・・そうだな」
「じゃぁさ、遠足しない?!ピクニック的な!」
「遠足、ピクニック・・・それはどういう儀式なんだ?」
「遠足っていうのはみんなで出かけて外でお弁当たべる的な!」
「それはどんな意味があるんだ?」
「たのしーじゃん!」
なるほど。ギャル族は楽しいことがすきなのか。
「森で食べられそうなものを探しながらいって、食べて帰るということでいいか?」
「んー・・・ちょっと違うけど、とりまオッケー!」
そういうわけで今日もシャナが食べられそうなものを探しに森に散策にいくことにした。
昨日と違うのは持ち帰るだけでなく、外でも食べるということだ。
よくわからない習慣だが楽しいことをするのがギャル族には大事らしい。
念のため、ウンディーネがいる湖方面ではなく、森の奥方面に向かって歩き出す。
するとどこからともなくまたピクシーがあらわれる。
気のせいか少し人の形に近づいてきているような気がするのは気のせいだろうか。
ピクシーがからかうように飛ぶのをおいかけようとするシャナ。
「シャナ、危ない。手。」
そういって手をのばす。
「え、今日も?」
そういいながら手をつなぐ。
べつに私がつなぎたいんじゃなくて、シャナを一人で歩かせると危ないからで深い意味なんかないんだからな。
誰にいうまでもなく、シャナが安全に歩けそうな道をえらぶ。
ピクシーが近づく草花や果物を中心にカゴにいれながら歩く。
果実をとるためにリコとリンが奮闘しているときだった。
木の陰から漆黒のふたつの大小の影があらわれる。
「もし・・・お嬢さん、あなたは人間でありんすか?こちらにおいでなんし。」
「え?!黒髪に着物?!日本人?!」
シャナがふりかえり、駆けだそうとするのを抱きとめる。
「いや、シャナ。これはアラクネ、蜘蛛の魔物だ。」
アラクネは番ったあとに相手を喰らうこともある種族だ。
娘がいるようだから大丈夫だとは思うが、用心にこしたことはない。
二人の母娘がにっこり笑う。
「わっちはツケーマ。こちらは娘でありんす。」
「あちきはツケールでござりんす!ニホン、なつかしい響きでござりんす!」
「え?!知ってんの?!」
「今は遠い昔の話でありんすよ。この着物もその人から譲り受けたものでありんす」
「アラクネ、そのニホンジンとやらはもう亡くなっているのか?」
「ふふふ、その人はわっちのここにいるでありんす」
そういって手を胸にあてる。
「・・・その人はもういないってこと?日本には帰れたの?」
「彼女は花魁というそれはそれは美しい女性でありんした。ですが人間が求める純潔の乙女ではない上に病もありましたからこの森に捨てられて。わっちたちが出会ってしばらくして亡くなったでありんす」
「短い時間でござりんしたが、たくさんのことを教えてもらったでござりんす!心も美しく良い人だったでござりんす!」
「そうなんだ・・・」
「これも彼女が教えてくれたことでござりんす」
そういってツケーマは漆黒にそめられた絹の糸束をみせる。
「母上の黒絹、綺麗でござりんしょ!人間はこれが特別なものらしいでござりんす!」
ツケールが誇らしげに話す。
「彼女は美しく気丈な花魁でありんした。いつか同じような目にあうおなごがいたら助けてほしいと言われていたでありんす。まぁ、主さんには良いお人がついてるので大丈夫でありんすかね~」
口元をかくすように手をあてくすくすと笑う。
「困ってること・・・ギャルメイクできないってことくらいかな」
「ガルメイク?ニホンに帰りたいとは思わないでありんすか?」
「んー、まぁ別に。あーしはただギャル道をつきすすむだけ!」
シャナ・・・国には帰らずにここにいてくれるのか。
いつかいなくなると思っていたがずっといれるということだろうか。
「せめてつけまのノリがあればな~。つけまはギャルの命だっちゅーのに!」
そういってシャナがポケットからはつけまつげとやらをとりだす。
え、なんでそこから?!命なのに?!
「つけまつげとやらをつけたいでありんすか?それなら・・・ツケール、糸を紡ぐでありんす」
「で、でも母上・・・!あちきのは・・・」
「いいから出すでありんす」
ツケールは戸惑ったように爪先から粘り気のある白い糸をだす。
「ツケールの紡ぎたての白糸には粘液がつくでありんすよ。これをこのつけまつげにつけたらまたくっつくでありんすよ」
器用に爪で糸を切るとシャナがみせたツケマツゲやらとそっくりなものができる。
「ツケールちゃん、最高!マジ神!」
「え?あちきの糸が・・・?」
シャナはご機嫌で自分の目につけはじめる。
出会ったときのすごい顔に戻ってきている・・・!
「美しいでござりんす!わちきの糸がこんな風に使えるなんて!」
えぇ?つけまつげがない方がシャナは可愛いと思うんだが・・・。
「これは・・・わっちの黒絹で同じものをつくってみるでありんす」
そういうとツケーマはシャナがもっていたつけまつげとほぼ同じものを作り出す。
「え!やば!つけまじゃん!!もっと長くできる?!」
「良いでありんすよ」
「めっちゃいいじゃん!早速つかうし!マジュ、目とじて。」
「え?」
そう言ってシャナの手と顔が私に近づく。
……そ、そんなのまだ早いんじゃ?!
ドギマギしながら思い切って目を瞑る。
まぶたの上に、シャナの指がそっと触れる。
くすぐったい。
「できた!まじヤバ!盛れてる!」
「これがツケマでありんすか。素敵でありんす!」
「おお~あちきにもしてほしいでありんす!」
……ん?はしゃぐ声が聞こえる。
「ほら、マジュみて!」
そう言って差し出された鏡を見ると――
「なんだこれは?!?!」
「つけまつけた!」
目の上には、まるで黒い扇のように広がる巨大なまつ毛。
「盛れた!白ギャル爆誕!」
……盛りすぎだ。
私はその場で気を失いそうになった。




