第11話
俺を知っているという噂のお姫様より、1分も経たないうちにスレへ書き込みがされた。
「あたしの為にスレ立てしてくれてありがとっ!」
「いいよいいよ!暇だったしw ごめんだけど、最初に本人確認だけさせてね。どこに住んでるの?」
「ごめんっ!あたしも君が本物か疑ってるから、先に質問していいかな?まず、クラスは何科?」
答えてくれないかぁ。まさかって事もあるし、少し焦点をずらして回答してみよう。
「商業科の高校3年生だよ!」
「あれー?ちょっと嘘言ってるでしょw あたしちゃんと知ってるんだもーん」
だもーん、だって!ぐふふふ。
「やっぱり俺も君のこと知ってるかもしれないなw ちょっとイニシャル言ってみてくれない?」
「そうだなぁ…。あたしが住んでるところ当てたら教えてあげるっ」
「簡単だよ、◯◯県の◯◯!」
「あったりぃ〜♪…ありゃ、ごめんちょっと待ってて!」
「何かあった?ゆっくりでいいからね!」
やっぱりまどかさん本人かな?楽しみー!
「お・ま・た・せ!あたしの最初の頭文字は……M!どう?当たってる!?」
き、き、き……
キタ━━━━(゜∀゜)━━━━!!
「じゃ、じゃあ俺も…。Tから始まります!」
「いじわるだなーw どっち?」
あ、そういうことか。
「名前の方だよ!」
「じゃあ、そのまま名字いってみよーw」
「いや、でも、いろんな人が見てるから…」
「大丈夫。名字だけだったら特定されないよ?それに、あたしの中でちゃんと確認したいから…」
そうだ。これはまどかさんのため、まどかさんのため……。
「わかった。……夜神と言います」
さぁ、どうだ?
「そっか。やっぱり夜神くんなんだね…。まどかです」
そっか。まどかさん……。
釣りじゃねぇかボケぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!!!
『夜神』というのは、発破をかける為に俺が咄嗟に出した偽名だ。そうだよデスノートだよヴァーカ!2ちゃんねる1年やってんだこっちは!こんな所で易々と本名なんざ出せるかダボが!この下手くそ釣り師め、女子さんのがよっぽど釣りが上手いわ!!
……溢れ出る怒りを1人、リビングでぶちまける。家族が買い物へ出掛けていて本当に良かった。少し冷静になり、何故こんなにまどかさん情報が一致したのか疑問になり、思い当たる節を振り返ってみた。まさかと思い、先程まで実況していたスレを過去から遡っていく。以下、俺の発言。
「まどかさんに似てるな」
「俺の通ってる情報系の学校だと、このタイプはいないわ」
さらに先ほどのやり取りを見返す。
「◯◯県の◯◯!」
「Tから始まります!」
「名前の方だよ!」
俺、めっちゃ個人情報出しとるやん。
先程とは違う心臓の音が鳴り始める。2ちゃんねる1年やってて、なんだって?あの怒りのテンションをどう処理してくれようか。これ後で思い出して『ワー!』ってなるやつだ、と思いつつ、さてこのスレをどうしようかと考えた。ここで『釣り乙』と打てばスレはすぐにでも終わってしまう。俺のうっかり個人情報もDATの海の藻屑となるであろう。だが果たして、このままやられっぱなしで終わりで良いのだろうか。それにスレは毎回すんなり立つ訳じゃないし、なんだかもったいない気もする。よくよく考えると、俺がいなくなった後に野次馬が個人情報を特定して面倒な事になるかもしれない。もしもこのスレがネタみたいな雰囲気になったら、どうにか誤魔化せるのでは…?
よし、全力で釣られよう。
天国板の住民とはいえ元VIPPERだ。底力というものを魅せてやろうじゃないか。
「やっぱりまどかさんなんだ!こんな所で会えるなんて夢にも思わなかったよw」
俺は脳内でまどかさんに変換し、あたかも本人と話しているかのようにレスを始める。
「あたしも!…あのね。えっと、夜神くんだけに話すね。誰にも言わないって約束できる?」
「うん、いいよ。なんでも話して!」
「ありがと。あたしね、同じ陸上部の人と付き合ってるの」
「そっか。知らなかったよw」
本物のまどかさんはそんなこと言わないそんなこと言わないそんなこと言わないそんなこと
「それでね、同じ陸上部の子にね。…彼氏とのエッチ見られちゃったんだ」
「えー、最悪じゃんw 大丈夫だった?」
ふざけんな糞がふざけんな糞がふざけんな糞が糞が糞が糞が糞が糞が
「実は、エッチしてる写真撮られちゃって…。あたしどうしたら…」
「落ち着いて。まずは警察に相談すれば大丈夫だから」
見たい見たい見たい見たあああああああああああああああああああああ
「パパとママに知られるのが怖くて…。その人に5万円用意しろって脅されてるの。それがないと、学校中に写真ばら撒くって…」
「そっか。じゃあ、俺が渡しに行こうか?◯◯駅に17時。どう?」
いきなりしょっぱい脅しされてんなぁオイ。なんか冷めるわ。
「あたしの為に無理しないで…。でも、本当に来てくれる?」
「もちろん。まどかさんの為ならね」
「夜神くん、優しいんだね。じゃあ、◯◯駅で待ってるから。絶対来てね」
「うん。待ってて」
よし、なんとなく綺麗に終わっただろう。端折った部分もあるが、実際のやりとりはなんやかんやで50レス以上だった記憶がある。その後、ここまでのやり取りを見ていたであろう名無し達がどんどん姿を現した。
「切ない恋の始まりを見てしまった…」
「工房きめぇな。頭おかしいんじゃないの」
「あんまり個人情報うpしない方がいいぞ」
「世の中には香ばしい輩がいるんだなぁw」
「特定しますた」
「◯◯駅に行ってみようかなw 近いしw」
うむ。良い反応だ。ここで俺が反応してしまうとスレが成り立たなくなってしまうので、スレが落ちるまでみんなの反応を楽しんでいた。もちろん駅に行くわけないし、そもそも駅名は適当だ。みんなの暇つぶしぐらいにはなっただろうか。
無事にスレが落ち、同時に俺の個人情報も消えていった。とりあえず一安心。しかし、心にモヤモヤが残る。原因はわかっている。まどかさんの口から出た『エッチ見られた』が頭の中でループしているのだ。いや偽物なんだけどさ。本人で変換してるので、もうムラッムラしてしまって大変なのである。この妄想癖はどうにかならないものだろうか。気を紛らわせる為に2ちゃんねるを色々と見て回る。すると、今まで見た事がなかった『オカルト板』という所で変な名前のスレを見つけた。
『タルパを作ってみよう』
タルパ?なにそれ美味しいの?
スレを開くと、1レス目に説明が色々と書いてあった。まず、タルパとはチベット密教の秘奥義で、修行を極めし者だけが使用できるという高貴なものらしい。本題はここからだ。まず、目の前に現れてほしい生物(二次元可能)を想像する。次に、目の前でその生物が現実世界と重なるように想像する。この時、イメージの揺らぎがないように、指先や身長の高さなど細部までしっかりと想像しなければならない。そして、その生物をただ想像するだけでなく『人格の形成』を同時に行う。例えば、目の前にその生物がいるかのように俺が話しかける。そして、俺の考えたセリフをその生物に喋らせる。その際、『この子はこんな性格だから、こう喋るだろう』とか『こんな思考回路をしているから、こんな答えが出るだろう』みたいに深く考えて喋らせなければならない。すると、だんだん何も考えずに想像の生物が喋り出し、さらに自分にしか見えないよう実体化していくのだという。スレの中ではすでに意識を注入できた人もいて、どうすれば早くタルパを実体化できるのか、という議論が白熱していた。妄想が止まらない今の俺なら絶対にできる、という謎の確信により、俺もこの日からタルパ修行を開始する事になった。修行と言っても目の前でぶつぶつ喋ってるだけなんだが。
誰を想像するのか、どんな感じの日常を送っていったのか、などと色々説明する部分はあるが、まずは結果から先にお知らせしよう。
誰が言うまでもなく、失敗しました。
というか、これって統合失調症の一種じゃないでしょうか。はっきり言います。これ、めちゃくちゃ危険です。読者諸君、挑戦するのはガチで止めておいて下さい。二次元の子と喋れない現実を知って泣く泣く諦めるだけです。俺の脳には特に障害が出なかった…と思うが、間違いなく1年以上続けていた。ちなみに、俺が想像していた生物ですが、適当に拾ったヌード画像に『まどか』と名前を付けて妄想してました。もうドン引き。マジでガチのドン引き。ホント俺だと思いたくない勘弁してくれ。この話題に触れる事はこの先無いと思いますが『裏でこんな事してたのかよ』と考えながら読み進めると面白いと思います。気分悪くなったら忘れましょう。それが、健全というもの。…なんだこの締めくくりは、こんなんで終われるか!
天国の方はというと『コテでも面白いことは書けるんだ』という事を証明したくて、もの凄く悩みながら書いていた。毎日のように色んなレスをするのだが、どうも滑っている感じが否めない。だんだんネタのキャパシティが無くなっていき、いよいよネタも思い浮かばなくなってしまった。これは困った。何か良い方法はないかと考え、とりあえず人生相談板へお邪魔する事にした。この辺り、すっかり2ちゃんねらーに染まってしまっていると思う。『お悩み総合スレ』というのがあったので、早速そのスレへ豚長として書き込みをした。
「天国板のコテです。最近、面白いネタが書けなくなってきて非常に困ってます。どうしたらいいでしょうか?」
どっかの知恵袋的な超テンプレ質問で回答を待つ。数時間経って覗くと、ちゃんと回答が返ってきていた。
「まずは知識を増やした方が良いかと。本や映画はご覧になりますか?きっとウィットに富んだ回答ができるようになるはずです。それと、興味のある物を追究するのも1つの選択ですね。そのテーマを調べていくうちに、新たな別の興味を発見する事があるんですよ」
ほほぉー。なんという丁寧な回答。
「ありがとうございました!たくさん知識を増やしてみんなを笑顔にします!」
それから夏休みを使い、映画を何本か観てみた。確か全部コメディ物だった気がする。普段から映画を観ることは滅多にないのだが、観終わった後の爽快感が体内を巡り、とても清々しい気分になったのを今でも良く覚えている。その勢いで天国のネタスレへ行き、あらゆるスレでボケてボケてボケまくった。後日、どっかの田中がいつの間に作った天国板のおもしろスレ紹介ブログを発見。そこに俺がレスしたスレが見事に書かれており、『おぉー!』と声を上げて大喜びした。そして、やっぱり知識って大事なんだなぁ、としみじみ感じたのである。
夏休みも終わりかけた頃、1つのニュースが世間を騒がす。後にそれは『のまねこ問題』と言われるようになる。俺もしっかり参加したが、少々苦い思い出が増える事になってしまうんだな、これが。本当はここだけ飛ばしたいんだけど、書かなきゃならないんだから仕方あるまい。




