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第八章 現像

 現像という言葉は、なかなか大仰である。

 何しろ「(すがた)を現す」と書く。暗い音のない世界で、いままでそこには存在しなかったものが、現像バットの不穏な液体の中からぬるりと浮かび上がってくるのだ。写真というものは昔から、わりと平気な顔で、なんだか怪談めいたことをやっていたわけだ。

 そりゃあ昔の人も、「撮られると魂抜かれる」とか言うってもんだろう。

 もっとも令和の今日、ほとんどの場合その怪談は、モニターの上のミリ秒単位の出来事で終わるわけだが。


 あのカフェでの「お見合い」から数日後。

 春日澄の縁談は、藤堂嶺の側から正式に断りの連絡が入り、あっさりと破談が決まった。


 庄三郎のスマホに、春日澄からメッセージが届く。

 『破談ですって』

 ずいぶんと簡単な知らせだ。


 庄三郎は学食の隅で、今日は醤油辛さが比較的ましだったきつねうどんを啜りながら返信をした。

 『正式に?』

 『正式に。藤堂さんがちゃんと断ってくださったみたい』

 『そっか、おめでとう』

 少し間が空いてから、返事が来る。

 『今日、会える?』

 庄三郎はうどんのつゆを飲みきって(今日は飲める)、ゆっくり返した。

 『会える。俺も話したいことがある』


 ・


 「結局、全部無駄だったってわけだ」

 「そうね」

 写真学科棟の小スタジオ。二脚のパイプ椅子に並ぶと向かい合うの中間のような向きで座り、二人はそう言い合った。

 あっけない幕切れ。

 庄三郎は、パイプ椅子のパイプを指で弾く。ぴん、と安っぽい金属の音がする。

「まあ、結果オーライってことで」

「結果オーライで済ませていいの? 私の五千円は」

「返すよ」

「返さなくっていい。プリント代と台紙代と合わせたら、あんたの儲け、たぶん千円も無いでしょ」

「千円無いってことはない。けどな」

 でもまあ、確かにそんなに利益が出るものではない。六切り(むつぎり)のプリントに装丁用の台紙に、もろもろ合わせると、材料費だけでそこそこかかってはいる。だが。

「実際、いい勉強にはなったんだ。『ブスに撮る技術』なんて、どこの教科書にも載ってないし」

「今後の人生で、二度と必要になりそうにない技術ねぇ」

「お見合い写真をブスに撮ってくれなんて注文、他にないだろうしな」

 と言った庄三郎は、しかし、頭の中ではもう別のことを考えている。


 ・


 前章の末尾、読者のみなさまにはお気づきいただけただろうか。

 カフェを出る直前、庄三郎と澄が、ほぼ同時に同じところに辿り着いていたことを。


 庄三郎が、他人のカメラで、操作ミスをした。するとあっさりとブスが撮れた。

 自分のカメラで、自分のレンズを使ったときには、全力で条件をおかしくしても、それでも「なお」きれいに撮れてしまっていたのに。

 あの違いはなんだったのか。


 ・ 


「それでだ」

 庄三郎は椅子から立ち上がり、テーブルの上に、ごろごろとレンズの群れを並べた。

 大小さまざまの交換レンズが五本ほど。それと、カメラボディが二台。一台はいつもの重厚な一眼レフ。もう一台は写真部の備品のミラーレスだ。

「確かめたいことがあるんだ」

「わかった、わたしも確かめてみたい」

 うなずいて澄も立ち上がった。その目には、はっきりとした好奇心が浮かんでいる。自分がブスに撮れた理由を知りたい。それは澄にとってちょっと切実な問いでもあった。澄は、庄三郎のカメラの前で、あらゆる手を尽くして「なろうと思ったブスになれなかった」のだから。

「いつもの場所に立ってくれ。俺がレンズを取っ換え引っ換えして撮る。あと、わざと下手に撮る」

「また?」

「今度は、俺の『呪い』の仕様を確認するのが目的だ。たぶん30分もかからん」


 ここから先、庄三郎がカメラとレンズを替えながら試行撮影を繰り返す工程を、作者は詳しくは記さない。「延々とテスト撮影の描写を読まされる」なんてつらいだけだし。

 だから結果だけ述べよう。

 15分ほどの試行ののち、庄三郎は二台のカメラを作業台に置くと、それぞれの背面モニターに今日撮影した画像を表示した。スクロールしながら澄に画面を向けて語り始める。


「思った通りだ、見てみろ。こっちは備品のミラーレス。レンズもキットレンズ(カメラのおまけ)。わざと条件を崩して撮った」

 モニターに映し出されたのは、「ちゃんと下手な写真」だった。まあ、腐っても写科生、そうはいっても手癖でそこそこ撮れている。だがそれは、庄三郎が意図して仕込んだ「下手さ」を覆すようなものではなかった。「普通の人なら大失敗写真だったかもしれないものが、ちょっと失敗、のレベルになってる」みたいな。

「普通に下手に撮れてるわね。ていうかこれ、私けっこうブスよ?」

「いい感じにブスいな。で、こっちが俺のカメラ。前とちょっと違うレンズをつけて撮ったやつ」

 今度は、「下手に撮れてるのだけれど妙にいい」写真だった。だが、圧倒的ではない。「失敗気味なんだけど、逆にそれがちょっといい効果みたいに撮れちゃった」そんな感じの。

 「うーん。ちょっといい感じになってる・・・けど、まあ、うん?」

「で、」

 庄三郎はスクロールを止めた。

「こいつだ」

 モニターに映るのは、先ほどの撮影中、いつものあの、銀色のフードのレンズをつけて撮った一枚だ。

 わざと下手に撮ろうとしたはずだ。構図もハズした。照明も崩した。にもかかわらず、写真の中の澄は、おかしなほど美しかった。条件の悪さを嘲笑うように、被写体の持つ何かが、レンズに「正解」を伝えている。

「・・・また、これ」

 澄の声がかすかに固くなった。

「ああ。またこれだ」

 庄三郎は、傍らに置いてある、銀色のフードの付いた、大きな眼玉そのもののようなレンズを手に取った。

「こいつを使った時だ。こいつをつけると、どうやっても『正解』が出る。俺の頭が『下手に撮れ』と命じていても、手が、指が、体が、正解を選ぶ」


 庄三郎の脳裏に、古い記憶がフラッシュバックする。

 たしか小学校に上がるか上がらないかくらいだったか。庄三郎は家に転がっていたボロい一眼レフをおもちゃにして、あちこちに向けてシャッターを切っていた。母親を撮り、猫を撮り、庭の花を撮り、テレビに映っている人を撮り。

 それを見ていた庄太郎爺ちゃんが、ある日、にやりと笑って一本のレンズを差し出した。

『ほら庄三郎、いいものをやるぞ。このレンズで撮ってみろ』

 大きなレンズだった。幼児の手には重すぎる、銀色のフードの付いた、大きな眼玉のようなレンズ。鏡筒にもフードにもまだ擦り傷はほとんどなく、今よりずっと綺麗だった。印画紙と停止液と、少しだけ煙草の残り香がする爺ちゃんは、幼い孫の小さな手にそれを握らせて、ボロい一眼レフのマウントにガチャリとはめた。

 あのとき爺ちゃんの目は、面白がっていた。孫がどんな写真を撮るのか、試しているような、期待しているような、いたずらっ子のような目。子供だった庄三郎は、意味もわからず、ただ眼玉みたいなガラス玉の大きさに見とれた。

 レンズの奥に、自分の顔が小さく映っている。


 ――あの時から、このレンズは庄三郎のものだった。


「こいつは爺ちゃんから貰ったレンズだ」

 庄三郎の声は、淡々としていた。だが、レンズを両手で持つ指先が、かすかに震えている。

「他のレンズでは、そうだな、自分で言うのもナンだが、ちょっと上手く撮れるかな程度だ。さすが写真学科の生徒だ、くらいの。そうでなきゃあれだな、俺自身は言われたくないんだが、「さすがは秋山庄太郎の孫だな」みたいな。そんなもんだ。だけどこいつをつけた途端に、意味がわからないくらいの強烈な『補正』が掛かる」

「・・・じゃあ、カフェで藤堂さんのカメラで撮ったとき、ブスが撮れたのは」

「こいつじゃなかったからだ。別のレンズ、別のカメラ。しかも操作ミスまでやらかした。あの条件なら、俺の写真に『補正』なんてかからないんだろう。だからあっさりブスが撮れた」

 庄三郎はレンズをテーブルに静かに置いた。

「つまりお前さんを『ブスに撮れなかった』原因は、このレンズってことになる」


 澄は腕を組んで、テーブルの上のレンズを見つめる。

「・・・おじいさまのレンズが、あなたの写真を無理やり『綺麗』にしてるってこと?」

「多分な。こいつを使うと俺は、意図的に|失敗しようとしても失敗できない《・・・・・・・・・・・・・・・》。そして最初にお前を撮った時から、俺はずっとこいつで撮ってたんだ。こいつは俺の持ってるレンズの中で、いちばん人を撮るの(ポートレート)に向いたレンズだからな。」

「全力で悪役令嬢を撮りに行って、そしたら――」

「そう。あの日いちばんいい写真が撮れちまった。あの日から」


 庄三郎はコントロールボタンを押し、さらに前の写真を表示させていった。


 するすると、スクロールが過去に遡ってゆく。

 今日の試行撮影のデータをすべて通り過ぎる、七割ブスを通り過ぎる、作戦会議の、あまりにも大量のボツ写真の群れを通り過ぎる、パリコレメイクの前衛的な一枚を通り過ぎる、

 スクロールが止まった。


 あの日の、最後の一枚。

 凛として、澄んでいて、美しい。

 嫌な女を撮ったはずの、あの日いちばんいい写真。

 澄が「・・・これは・・・使えないわよ」と言い淀んだ一枚。


「あの日から、ずっとこのレンズで撮ってただろ」


 庄三郎が言った。


 カメラの背面モニターに映るその小さな写真を、澄はじっと見つめる。

 澄の表情が揺れた。それを庄三郎は横目で捉えた。モニターから目を離せない澄に、その写真を預ける様に、一眼レフの重いボディを手渡す。


 ・


 ――さて。

 読者のみなさまにおかれては、ここまでお読みいただいて、「ああなるほど。そういう話だったのか。庄三郎のチートのような写真はあのレンズのせいだったというお話なんだな。」と、一つうなずかれたところかもしれない。

 作者も、「まあそういうことなんですよ」と、できれば読者と一緒にお茶でも飲んでくつろぎたいところなのだが、残念ながらそういうわけにはいかないのである。

 秋山庄三郎が、まだやることを残しているからだ。


 ・


 カメラの背面モニターに見入る澄を横目に見ながら、庄三郎は、やおらテーブルの下に置いていた手提げの紙袋に手を伸ばした。

 そして、きちんとした台紙に装丁された写真を取り出した。


 六切りのプリント用の台紙。写真館で「お見合い写真」を注文すると、たいていこういう体裁で仕上がってくる。堅い厚紙の装丁。表面はマット仕上げの白。表紙には銀の飾り箔が押されている。こういうのは安くない。いや材料費がどうという話でもないが。

 庄三郎は、カメラを持ってモニターに見入っている澄に向かうと、すっと、その六切りの写真をモニターと澄の視線の間に差し込んだ。


「無用になっちまった写真から、金はとりたくないんだ。だが」


 庄三郎は言う。ぶっきらぼうだった。ぶっきらぼうに言わないと、たぶん他の何かが声に混ざってしまう。


「もし君がこいつを受け取ってくれるなら、それが五千円だ」


 ・


 澄の手が、台紙を受け取った。

 表紙を開く。


 そこにあったのは、まさにその一枚だった。

 だが、カメラの背面の小さなモニターで見る画像とは手触りが違っていた。六切りのサイズに光沢プリントされて、台紙の上に乗せられている。光を吸い、光を返し、物質として紙の上に存在する、「本物の写真」になっている。


 モニターで見る写真と、プリントされた写真は、同じ画像であっても実に、実に別のものに見える。モニターは液晶の光が目に飛び込んでくるが、プリントは紙に吸われた光が反射して目に届く。前者は攻撃的で、後者は静謐と言える。そしてモニターの写真はスイッチを切ればどこかに消えるが、プリントされた写真はそこに存在し続ける。手に持てる。重さがある。


 澄はその写真を見た。


 そこにいるのは、自分だ。

 だが、自分が知っている春日澄ではない。

 毎朝、鏡の前で組み立てている春日澄ではない。SNSに載せるために、三つのアプリで磨き上げた春日澄ではない。眉の角度、ファンデの色、リップの塗り方、チークの位置、すべてをコントロールして、他人に見せるために作った春日澄ではない。


 冷たい目線を作ったはずだった。見下すような角度にしたはずだった。嫌な女に見えるように意図した。ブスに見えるように、そうコントロールしたはずだった。

 なのに、写真の中の自分の目は、澄んでいた。

 凛としていて、強くて、どこか危うくて、どこまでも澄んでいた。

 そして、この上なく美しかった。


 何かが、澄の内側で砕けた。


 感動した、というわけでは、きっと無かった。なぜなら、

 なにかを感じたのか、それすらもわからなかったから。

 「それ」はそれほどに透明だった。

 なにを見たのか、それすらよくわからない。のに、澄の眦からはいつの間にか、涙が流れた。


 澄んだ「自分」が、この写真の中にいる。

 そして、圧倒的に美しい。


 「私ってきれいでしょ」、そう作った顔ではない。

 作ることができなかった顔だ。

 ――「もう気持ちだけ顎をひいて、もうちょっと目を細めて。・・・・少し睨むように―――」

 あの時、庄三郎に言われるまま、いつの間にか、自分のコントロールを手放していた。

 その自分が、美しい。


 ―――こんなに美しい、この写真の中の女の子は、世界そのものから愛されているに決まっている。


 そう確信させるほどに。


 それは、自己肯定感などという言葉では足りない何かだった。

 自分を「赦す」感覚であるのかもしれない。

 作らない春日澄は、「本当の自分」は、私の心は正体は、もしや醜いのではないか。そんな疑問が、澄の意識と無意識の間に、今まで無かったと言えば嘘になる。その疑問は長い間、ずっと見え隠れしていたのだろう。しかしそんな問いはこの一枚の前で消え去った。醜くなどあるわけがない。作らなくても、何を見せる意図がなくても、そこに在る透明な自分が、だってこれほどに美しい。

 自分を自分のまま、肯定してしまえる。


 あのレンズを通して、そして庄三郎の眼差しを通して、自分が赦されていた。


 これが私の姿。


 衝動が波のように澄を揺らす。


「あなたには・・・」

 澄の声が震えていた。

「あなたには、私はこう見えているの?」


 庄三郎は、黙っていた。

 三人称の語りに徹しよう。庄三郎の側からは、このとき、こう見えていた。

 澄が台紙を両手で持ったまま、しばらく動かなかった。十秒か十五秒か、あるいはもっと長かったかもしれない。

 それから澄はゆっくりと表紙を閉じ、台紙を胸の前に引き寄せてかき抱いた。きちんと装丁された台紙が、少し撓む。

 顔を上げた。


 庄三郎は、その目を見た。


 澄の目には、庄三郎が今まで見たことのない光があった。

 熱、と言えばいいのだろうか。それは感謝とも違うし、好意とも違う。もっと根源的な何かだ。何かの鍵で、自分の中の最も深い場所が開けられてしまった。その鍵を、手放したくない。手放せない。もう一度、あの視線の向こうの自分に会いたい。

 それは恋に似ているが、恋よりもずっと危うい。

 恋は相手を求める。これは、相手の眼差しを通した「自分」を求めている。

 私はもう一度、世界よりも美しい、その姿に逢えるだろうか。私は再び、赦されるだろうか。


 澄が庄三郎を見つめたまま、再び口を開きかけた。


 何を言おうとしたのか。


 庄三郎にはわからなかった。

 澄にも、たぶん、わからなかった。


 ・


 数秒か、あるいは数十秒か。


 小スタジオの窓から差し込む午後の光が、ほこりの粒子をゆっくりと泳がせていた。

 どこか遠くで、なにかの講義が行われている音が聞こえる。声を張って解説する教授の声。別の場所からは何かの実習の音。


 澄は、逃げるように顔を横に向けた。


 長い沈黙のあと、澄がようやく口を開いた。

「・・・綺麗な写真ね」

 声は平静だった。いつもの、涼し気で聞きやすい春日澄の声だ。だが、その声を絞り出すまでの時間に、彼女はいったいどれだけの力を要したのか。

「ありがとう。大事にする」

 台紙を胸に抱いたまま、澄はトートバッグに手を伸ばした。

「・・・おう」


 ここで、庄三郎自身が今の瞬間をどう受け止めていたのか、少しだけ書いておく。

 澄が、自身の写真を見て、何かを感じた。庄三郎にも、それはわかった。だが、その何かが何であるかは、よくわかっていなかった。

 彼が見たのは、澄が写真を胸に抱いて、熱い目で自分を見て、それから目を逸らした、という事実だけだ。そして問われた事は、「あなたには、私はこう見えているの?」


 ・


 澄がトートバッグを肩にかけて、小スタジオの出口に向かう。

 ドアに手をかけたところで、振り返った。

「ねえ」

「うん?」

「この写真、元データはまだ残ってるの?」

「残ってる」

「消さないでね」

「消さないよ」


 庄三郎がそう答えた時、澄はほんの少しだけ微笑んだ。

 それは「春日澄」が設計した微笑みではなかった。かといって無防備な笑みでもなかった。何と呼べばいいのかわからない。そのまんまに言うなら、細いロープの上で、片足で踏みとどまったまま微笑んでいる人の顔、だろうか。


「じゃあ、また」

 澄はそう言って、ドアを閉めた。


 廊下を遠ざかる足音が消える。


 ・


 小スタジオには、庄三郎と、テーブルの上のレンズの群と、二台のカメラが残される。

 パイプ椅子に腰を下ろし、庄三郎は天井を見上げた。


 テーブルの上の銀色のフードのレンズに手を伸ばす。持ち上げて、両手の中で転がす。ずしりと重い。金属と光学ガラスの質量。

「・・・爺ちゃん」

 庄三郎は独りごちた。

「こいつはただのレンズじゃないよな」


 返事はない。当たり前だ。問うた相手はとうに墓の下だ。


 庄三郎はレンズを置いて、自分のカメラの背面モニターに目を戻した。

 あの一枚がまだ画面に映っている。凛とした澄。世界を従えている澄。

 庄三郎はその写真をしばらく見つめ、それからスクロールを始めた。ゆっくりと。


 ・


 作者として、最後に一つ言わなくてはならない。

 僥倖にも、今日、澄は踏みとどまれたのだろう。

 だが二度目があった時、彼女はロープの上に立ち続けられるか。


 現像されたのは、写真だけではなかった。

 春日澄という女の子の危うさと、秋山庄三郎の眼差しの中にある彼女のカタチと、その両方が、姿を現してしまったのである。


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