王女を下着で強化!?
お久しぶりです。
久々の投稿は番外編となります。
時系列的にはフォードが双子王女と出会った後、森の屋敷で雇われた頃になります。
こういう話もあったんだ的な風にで楽しんで頂けると幸いです。
「クソが、また負けた!」
「てめえ、イカサマしやがったな! 死ね!」
「あ? 今なんつった、やんのかコラァ!」
カード賭博場はいつにも増して賑やかだった。
艶めかしい装いをした娘や、魅惑の笑みの婦人、目も眩むような宝石を十指にはめた紳士や、ごろつき紛いの巨漢。
怒声と罵声が飛ぶ空間は、さながら興奮の坩堝で、血管が浮き出して怒鳴る青年や、口角泡を飛ばす壮年、胸元を互いに掴み合う中年など、まさに喧騒の只中といった有様だった。
「ここはいつ来ても混沌としてますね」
「ははっ、賭博場の醍醐味だな。主よ、試しに喧嘩にでも混ざるか?」
「冗談。今日はそんな目的で来たわけではないです。それより景品を確認しましょう」
双子のエルフ王女のために働く事になったフォード。今日は主に資金集めと装備集めに来ていた。
特に、強い装備は可及的速やかに必要で、これが果たせなければ訓練にも支障が出る。
他も重要だが、ひとまず上質の装備集めに訪れていた。
「そういえばエリゼーラ、あなたは宝を感知することはできますか?」
〈なんだ藪から棒に。そんな機能は我にはない〉
「暇があれば金、宝石、娯楽! とうるさいあなたは、そういうものを感知できるかと」
〈主は我を何だと思っているのかな? そんな面妖なことはできぬよ〉
ブラックジャック、ポーカーをはじめとして、多様なゲーム台が用意されている一角で止まる。酒や煙草の臭いの中、フォードは部屋の中央を眺める。
「さて、手始めにこの階の景品を見てみましょう」
天井が煌びやかに装飾されたカード賭博場、ダンスステージのような高台の上に、いくつもの景品の見本が置かれている。
壮麗な装備の数々を眺め、エリゼーラが楽しそうな声を発する。
〈おおっ、煌びやかなものばかりだな! 『汚獣の牙』に『ラステルの翠鎧』に、『モレクの緋ダンビラ』に『カトブレパスの模眼』! めぼしいものがいくつもある!〉
名のある名工や、強大な魔物、そして偉人などの名が冠された装備は流石だ。
どれも一級品だがしかし、こちらの適性を踏まえると少し厳しい。
「王女や親衛隊三人に合うものがありませんね」
〈ふむ? あの翠鎧など、王女に似合いそうだが?〉
「ルルカ王女もリリカ王女も、基本は軽装重視です。ルルカ王女は魔術師なので、重い鎧だと集中力が切れますし、リリカ王女に至っては治療師のためそもそも鎧に頼らざるを得ない状況でアウトです」
〈はっはっは。なるほど、まあリリカに関しては鎧に着られるようだな。可愛らしいだけマシだが〉
同感だが、王女を可愛いと言ってはあれなので、頷くに留めておく。
フォードは他の階も覗いてみる。
同じ賭博場でも階が違えば扱っている物も違う。そうなれば景品も違うわけで、実質同じ建物間で競争をしているに等しい。
そして上階なら立地で勝る一階に劣ることのないよう、豪華な景品が用意されているのも当然のこと。
二階に上がると、一層多様なゲーム台が用意されていた。
ビリヤード、ダーツ投げ、ルーレット……広い、綺麗、豪華、といった言葉が似合う空間には、各種のゲームを巡り、熱い戦いが繰り広げられている。
見本の前に書かれている装備品の名称プレートを見て、
「えっと、この階の景品は……」
〈『ミーエルの角兜』、それに『スケルトンキングメイル』が上等よな。おお、見ろ我が契約者よ、『蒼水晶の斧』! あれは強そうだな!〉
「斧、ですか……使える者がいないので意味ないんですよね」
〈そうか? ぬしが投擲に使えば良かろう? いつも投げてるではないか、剣を〉
「いや、斧は投げるのにコツが……」
二人して相談し合い、ああでもないこうでもないと品評しつつ、その後も賭博場を見て回る。
しかし、なかなかこれと言った名品に出会うことはなかった。
剣や鎧などは豊富なのだが、肝心の王女二人に使える装飾品がない。親衛隊三人向けも同じ。槍使いとレンジャーと召喚師向けの装備もここにはないらしい。
とはいえ、仮にも都市の賭博場である。ここまで偏った景品は普通置いてないはずなのだが……。
「すみません、ちょっと伺いたいのですが」
フォードは、スタッフの一人に聞いてみることにした。
「景品に偏りがあるみたいですが、何故です?」
燕尾服にも似た上品な装いの青年はかしこまった仕草で、
「……申し訳ありません。昨日、第九迷宮に『プラチナクラウンジェネラル』が出現しまして。その討伐に、一部の装備が品切れの状態です。補給には数日を要し……」
要は、レアな魔物を狩るために最適な装備が売れてしまった、手軽かつどんな装備にも合いやすい装飾品などは皆無らしかった。
不運といえば不運な話である。
「まあ仕方ないですね、他をあたりましょう」
〈希少種か。そう言えばぬしが集めた資料の中にも、そのような存在が記されていたな〉
希少種とは、魔物の中でも特に稀有な種類である。
貴重な魔石を有している他に、素材自体も強力で希少だ。探索者にとっては喉から手が出る程欲しい存在。出現すれば、名うての探索者が一斉に《迷宮》に赴くのも珍しくない。
一体仕留めれば金貨百枚とも二百枚とも言われる希少種は、まさに生きた宝だった。
フォードは別の賭博場に向かう事にする。
歓楽街には多数の賭博場があるためだ。その中に一つや二つ、めぼしいものは残っているいるはず。そう、フォードは思っていたのだが――
「申し訳ありません、後日補給が届く予定でございます」
「現在、装飾品等は品薄でして……」
「最後に残った『秘石のペンダント』を、お客様がお持ち帰りしてしまいました」
どの賭博場も品薄か売れてしまったかどちらかという状況。
さすがに希少種、一度出れば噂は瞬く間に広がり、多くの人が貴重な魔石や素材のため動いたらしい。
「うーん、困りましたね、これは」
〈まあこんな事もあろう。人生山あり谷あり、明日は明日の風は吹く……ふむ、我が契約者よ、ここは発想を変えてみればどうかな?〉
「発想を変える? ……賭博場で少し遊んで気分転換、とか言ったら怒りますよ?」
〈違う、我は交換でもしてみたらと思っただけだ〉
「トレード、ですか……」
〈然り。どうせろくな品物がないのだろう? 希少種は昨日に出現、もう討伐しているだろう。装備が用済みになり、遊ばせている輩の一人や二人、いると思うが?〉
確かに、昨日の時点で必要な装備品も、もはや無用の長物、扱いに困る人も零ではないだろう。
売ってもらうのは難しくとも、賭博場の景品同士なら譲ってくれるかもしれない。
「そうですね、そうしましょう。あなたは頼りになりますね、エリゼーラ」
〈くふふ、我が契約者のためならばこの程度、造作もない。さあ主よ、さっそく賭博だ!〉
「……あの、エリゼーラ? それ結局、僕に賭博しろと言っているだけでは……」
〈何のことかな? 我は賭博場に一秒でも長くいたいなどと、これっぽっちも思っていない、これっぽっちも思っていないそ?〉
「なぜ二回言うのです……」
〈くふ、気にするな。さあ主よ。さあ征こう、我らの聖戦を! 賭博場に殴り込み、勇壮な装備を得ようではないか!〉
「賭博場にいると元気ですね、あなたは。ほんとに」
まるで水を得た魚のような悪霊王に促され、フォードは苦笑しつつも、ゲーム台でポーカーに精を出すことにした。
「すげえ、なんだあいつ……」
「連戦連勝……もう二十連続だぜ」
「イカサマじゃねえのか? マジすげえな」
連戦連勝だった。相手が気の毒になるくらいフォードは圧勝した。
相手は常連の髭紳士、巨体の中年、怜悧な眼鏡青年といった面子。
いずれも顔は真っ青。髭紳士は立ったまま凍りついているし、巨漢の中年は顎が外れんばかりに愕然としているし、眼鏡青年なんて怪鳥のような叫びをあげて床に崩れ落ちている。
それもこれも原因はエリゼーラのせいである。
何しろ彼女は『他人には視えない』という特性を利用して、相手の背後に回り込んでは、『こやつキングとスペード持っておるぞ、要注意だ』『全然だめな役柄だ、楽勝』『ぬしが最も強い役柄よ』と反則上等、ぺらぺらぺらとフォードに報告をしまくる。
おかげで知りたくもないのにフォードは相手の手札が判っているのため楽勝。脅威の二十連勝となった。
もちろん、誰かフォードを調べてもイカサマの証拠など出るわけがない。
視えない悪霊王は、その事を良いことに盗み見し放題だった。
〈くふふ! 我が契約者の常勝! 連勝! 完勝! いやー、爽快よな!〉
「(イカサマで悦に入る悪霊王とはいったい……いや、勝手に悪霊王に偏見を持つのも何ですが)」
エリゼーラはとにかく機嫌が良い。長い艶めいた髪が躍る躍る。人の欲望や、絶望が好きな悪霊王は、まさに享楽の極地にいた。
「(……たまには自力で勝ちたいんですが。勝ちが続くと飽きが来るというか……罪悪感が)」
別に聖人ではないので、フォードは目的のためなら多少のイカサマは行うが、こうも勝手にエリゼーラが出しゃばると困惑する。
何事にも限度がある。はじめの三、四度目くらいこそ、頼りになる悪霊王のお茶目と思って受け入れていたが、相手側が涙目だったり屈辱で顔が真っ赤になっているのを見ると、済まないという気持ちの方が上回る。
とはいえ――
「フォードさん連戦連勝! すでに二十三連勝となりました! どなたか、挑戦する人はいませんか!?」
スタッフがここぞとばかりに場を盛り上げる。店側としては熱気があった方が喜ばしいのだろう。多くの客達が、凄まじいフォードの連勝ぶりに、寄り集まってきていた。
〈連勝! 完勝! くはっ、我が契約者が勝ち続けるのは気持ち良いのう!〉
「(あの、エリゼーラ、もう少しこう、抑えてくれませんか?)」
〈むう? 何故だ?〉
「(いや……こういう事が続くと、決まって面倒な事が引き起こされ……)」
フォードがそう思った瞬間だった。
「おい兄ちゃん、ちょっといいか」
「(……来ましたよ、予想通り)」
フォードの横に、見上げるような巨漢が三人寄ってくる。
いずれも胸板厚く、腕は太く、虎か熊のような仰々しい顔。子供なら泣いて逃げるような強面だ。
「さっきから見てたらよぉ、兄ちゃんちょーとばかし勝ち過ぎだぁな。俺らにも、メンツってもんがあるんだよな」
「(いつの間にか、周りの人が散っている……)」
見ればフォードの周囲には、スタッフはおろかお客の一人もいない。皆、三人の巨漢の出現に、逃げたらしい。例外はただ一人。ゲーム相手だった巨漢の中年のみ。彼の仲間が強面三人なのだろう。
「……ああ、すみまぜん。つい、ツキがあるうちに欲張ってしまって」
「まったくだな。で、兄ちゃん、まだ続ける気なのかい?」
〈我が契約者よ、このような木偶、ぬしの力で打ち倒すが良い〉
「(そんなことは望んでいませんよ。そもそもここには景品集めのために来たのです)」
連勝してもいいのだが、度が超すとこういう面倒な輩が現れる。それを避けるために景品が取れるぎりぎりで勝てば良かったが、後の祭りだ。
もはや余裕で景品七つは取れるほど勝ってしまっている。
「……僕はここで降ります。これほど勝ってしまったらあとのツキが心配ですし。あの、少しコインをあなた方に分けて差し上げたいのですが」
言うと、強面たちは一斉に頬を緩くした。
「ほう? ……まあ兄ちゃんも悪気があってやったわけじゃないしな。今回はそれに免じて許してやろう」
「恐縮です」
景品二つに必要な最低限のコインだけを渡し、フォードは事なきを得る。
と、思ったのだが。
「……兄ちゃん、見ればそれなりに裕福そうじゃねえか。どうだい? 有り金と装備、全部俺らに快く贈呈する気はないかい?」
「……追い剥ぎは他所でしてください」
「んだ兄ちゃんよぉ、俺らに寄越せっつったらとっとと寄越せや!」
やれやれとフォードは思った。
悪霊王の悪戯っぽい笑みを視界の端に捉えながら、フォードは拳を振りかぶる相手に「憑依」と小さく呟いたのだった。
〈くっはっは、見ものだったな! 奴らの顔! 茫然自失とはあのことよ!〉
強面たちを打ちのめし、大通りに至ったフォードの頭上で、エリゼーラが笑っている。
〈あの味方に殴られた顔! くは、思い出しただけで笑えてくる!〉
先程から彼女は笑い通しだ、黒いドレスと長い黒髪が愉快そうに躍る。
「あのですね、無闇やたらに騒ぎを起こさないでください。子供ですか」
〈何を言う、人を操り運命を非業のものとする、これすなわち悪霊王のみの特権よ! 賭け事の後には暴動に限る! あれこそ賭博場の醍醐味だな!〉
「もう半年は歓楽街に行きません」
〈な、ぬしよ、それは余りにむごいではないか!〉
エリゼーラは途端に焦りだした。
「もしくは歓楽街には行きますが、賭博場は素通りします」
〈ぬしは我に死ねと言っておるのか!? 理不尽だ、考え直せ!〉
契約の制約ゆえにフォードから離れられない悪霊王は、切実な声音で言った。
「ではああいう事はもう慎みますか?」
〈うむ。(十回に三回くらいは)慎もう〉
「いま小さな声で何やらつぶやいた気が」
〈嘘、冗談だ、そんなに怒るな、我が契約者よ〉
「どこかに悪霊王を賭け事にできる場所はないものでしょうか」
〈我が賭け事にされる!? ぬしよ、考え直せ!〉
そのようなやり取りで、二人は交換店に辿り着いた。
武器屋、防具屋、酒場を中心とするこの通りでは、雑貨店も多い。そういう店は武具類の交換も司っているため、探索者には重宝しているのだった。
猛禽の紋章に、太陽の印がついた看板の店に入り、フォードは主人に話しかけた。
「この鱗に見合った、装飾品が欲しいのですが」
「ほう、烈牙獣の鱗、それににクロムワイバーンの尾剣ですね。いま、比較的人気の品ですな」
赤ら顔の主人は、確認してそう評価した。
「治療師と魔術師に合う装備を探しています」
「ほう、男性ですか、女性ですか?」
「両方とも若い女性です」
言うと、主人はにやっと笑いつつも奥の間へ引っ込んでいった。両手に花とか思っているのかもしれない。当たらずとも遠からずだが。
「……今出せるのは腕輪、ネックレス、ピアス、ティアラのどれかですねぇ」
「うーん、あまり、めぼしいものはないですね」
品物と一緒に出された、説明が記された羊皮紙を眺め、そう言い切る。
結局賭博場では二つの装備品を得ていた。烈牙獣の鱗と、クロムワイバーンの尾剣。共に優秀な素材だ。
交換先として示されたピアスやティアラは、純粋な装身具として優秀だが、効果が『敏捷一・一倍』『火属性耐性』、それほど必要ないものばかり。
腕輪も、『魔術効果一・一倍』と悪いものではないが、物足りない。ネックレス類は戦士系の効果ばかりのため、断念。
「他を当たってみます」
礼を述べて店を出るフォードだが、その後もぴんとこないものばかり。
交換してくれる店は数あれど、なかなかめぼしい装備には巡り会えない。
これも希少種が出たことの弊害だ。フォードは道端で唸りつつ、
「困りましたね……交換も駄目ですか」
〈ふむ、そうだな、憑依してその辺の奴から奪ったらどうだ?〉
「馬鹿なこと言わないでください。面倒を起こす気ですか」
〈だが、めぼしいのがないのなら仕方あるまい。手段を選んでいる暇があるのか?〉
「憑依は悪人か正当防衛の時以外には使わないと言ったはずです。そこを曲げると王女へ顔向けできなくなります」
言うと、エリゼーラはくすくすと笑って言う。
〈その信念は好きだがな。しかしぬしよ、手詰まりであろう。何か良い案があるか?〉
「……地道に探して良い交換相手を見つける、というのでは日が暮れますね」
〈そうだな。人を雇って人海戦術も金が掛かる。無益だな〉
「いっそエリゼーラがストリップでもして人を集めてみるというのではどうでしょう」
〈ははっ、ぬしが裸になってゲイバーで人を集めればそれで事が済むのではないか?〉
「綺麗な女性が人を集めた方が良い交換相手も見つかるかもですよ」
〈凛々しい男こそ裸になって群衆を集めればそこに良き装備はあるはずだ〉
などと、お互い馬鹿を言ってみるが、妙案など浮かばない。
金も時間も惜しい。それを踏まえて上質な装備品を得る手段など限られる。
ふとエリゼーラが言った。
〈そうだ、ぬしよ、発想を変えてみたらどうだ?〉
「何か名案が浮かびましたか?」
〈うむ、これならば王女への強い装備を獲得できるだろう。ぬしも喜ぶことになるし、まさに一石二鳥よ〉
「へえ、そんな案があるのですか。では、その方法を試してみましょう」
〈うむ。簡単なことだ、まずは賭博場へ戻るぞ〉
こうなれば悪霊王だけが頼りだ。フォードは自信ありげに浮かぶエリゼーラの指示に従い、最初の賭博場に戻った。
「……で?」
賭博場にて。
〈これこそが難業を打破するための起死回生よ! これさえあればぬしの望みは叶えられる!〉
自信満々にそう叫ぶエリゼーラの傍ら、フォードは冷たい口調。
「エリゼーラ」
〈まったく我も迂闊だったな、これほど簡単な解決策があるというのに、すっかり見落としていた。いや、灯台もと暗しという言葉もあるが、まさにそれよな〉
「エリゼーラ」
〈しかしてこれで本日の任務は完了。ぬしも今夜は枕を高くして寝れるというものよ!〉
「人の話聞いてくださいよ悪霊王」
フォードは呆れと侮蔑の入り混じった声音で言った。
「なんですかこれ」
フォードは指でその品を指し示した。賭博の景品の見本がある壇上、きらきら、ひらひらしたものが鎮座している。
〈ふむ? 下着だが?〉
「あなたは馬鹿ですか!」
フォードは人目をしのびつつ高らかに叫んだ。
「何がどうなって下着を得るなどという暴挙に!」
〈さて? ぬしはなぜ怒っているのは我には判らんな。ここにあるのは『フィラリアの下着』、かつて聖女とうたわれた乙女の下着を模した一品だが?〉
「そんなものを僕に示してどうしろと言うのです」
〈ふふ、簡単なことよ、よく見ればこの下着、装着すれば魔力一・三倍、属性耐性一・二倍、さらには消費魔力八割に節約と、すこぶる上質な装備品よ! これを選ばずして、何を選ぶ!〉
「女性の下着を僕が王女へ渡せというのですか? この、ピンクで、ひらひらで、いかにも可愛らしい、女性の下着を!」
〈くっふっふ、案ずるな。男性に下着をプレゼントされて喜ばない女性はいない〉
「いやいやいや! ちょっと待ってくださいエリゼーラ……」
人目を気にしつつなおも叫ぶフォード。
「仮にも王女の専属戦士である僕が、こんな破廉恥なものを贈るなどあり得ません」
〈何を言う、我が契約者よ、ルルカ王女もリリカ王女も、れっきとした乙女、日頃から感謝を抱き、頼りになるぬしから贈られたのなら、これこそ至高の喜びよ! 黙ってこの景品を得るが良い〉
「いや、なぜ王女たちの戦力強化と贈り物が混ざっているのですか。僕は別に王女へのプレゼントを贈る算段というわけではなく、強さの向上に……」
〈くふ、ここはまだ青いな、我が契約者よ。何も装備品だけが王女を強くするわけではない。少なからず想っている相手から、贈り物を貰う――これぞ人間の乙女がやる出すきっかけよ。考えてもみよ、人は感情次第で強くもなれば弱くもなる。下着一つで王女が強くなるのならば、願ったり叶ったりではないか?〉
「いや、あの、しかしですね」
一理あるが、だとしてもこれはない。下着だけはない。
賭博場の景品で下着を貰って、それを王女へプレゼントとか、専属騎士としてどうなのだ。
王女を崇拝する召喚師に殺されそう。
あと、娘を溺愛するイルサール王にも恨まれそう。
とにかく。
「僕は反対です、妙な諍いを起こす危険性がある。それは避けるべきです」
〈そうか、であれば、手段は一つしかないな〉
意外にも、素直にその案を引っ込めるエリゼーラ。
さっきとは打って変わって真面目な口調に切り替える。
「……なんだ、他に案があるのではないですか」
ほっと息をついてフォードは言う。
〈うむ。これは我にも少し躊躇いがあったゆえ、言うべきか迷っていたが……主がそこまで言うのなら仕方がない。いわゆる最後の手段という奴だ〉
「まあ、先程以外であれば何でもいいです。常識の範囲内なら」
〈王女の下着を奪って、交換の元としよう〉
何か馬鹿なことを悪霊王が言い始めた。
〈エルフの姫の下着ともなれば、命を投げ打ってでも欲しい輩は捨てるほどいる。それこそ金銀財宝、それ以上の価値よ。人間は好きな女の下着なら盗んででも手に入れるのだろう? ふ、我ながら恐ろしく冴えた案と自負し、〉
「駄目だ、僕は何て悪どい悪霊と契約してしまったんでしょう」
フォードは人知れず頭を抱えた。
「そんなことできるわけないでしょう。第一見つかれば重罪です」
鞭打ちもあり得るかもしれない。というよりバレた時の王女の視線が痛い。
〈ふふ、何を言っているのだぬしよ、ぬしには絶対に露見しない手段があるではないか〉
「《憑依》をそのように使うなどあり得ません」
そんなような事で過ごしていたとき、フォードは知った顔を賭博場で見かけた。
ネイラだ。
彼女はルルカ王女やリリカ王女に仕える、親衛隊の女性である。
体は細く、子供とも見紛う小柄な女性。
感情表現はやや薄く、怜悧な顔つきで黙っていると落ち着きのある趣きだ。
あくまで黙っていれば、の話だが。
「あれ。フォードを発見」
「どうも。奇遇ですね、ネイラも用事ですか?」
少しばかり驚いた顔つきで近づいたネイラは、周りを見て、次いでフォードがフィラリアの下着の景品の見本前にいるのを見ると、
「まさか……あれ、穿くの?」
驚愕と尊敬を込めた目つきでそう言った。
「違います。僕はそんな趣味ではありません」
「じゃあ、ネイラに穿かせるため?」
「どうしてあなたの中で僕はそんな変態なんですか」
もう嫌だ。もっと普通な女性と接したい。
などと思いつつ、フォードは事情を説明した。王女二人を強化する装備が欲しいが、さすがに下着を贈るわけにはいかない。なので困っていたのだが、そこへネイラが来たと。
「なんだ、そんなこと」
ネイラはこともなげに言った。
「ネイラが王女様へプレゼントする。それでいい」
「え? 僕が言うのも何ですが、大丈夫なんですか?」
「無問題。たまに、ネイラがルルカ様やリリカ様へリボンなどを贈ることもある。下着も、可愛いのを紹介した事ならある。だから平気」
フォードは肩の荷が下りた気分に至った。
「良かった……それならあなたにお願いします、ネイラ。ルルカ王女とリリカ王女にあの下着を」
「任せて。王女様たちが強くなるのは、ネイラとしても本望。それらしい文言で王女様たちに渡す。大船に乗った気持ちでいるといい」
「恩に着ます。このお礼はいつか必ず」
「東通りのクッキー四十個でいい」
食い意地の張った注文に、フォードは微笑した。
何はともあれネイラのおかげで、無事に装備品を贈ることができそうだ。
フォードは救世主のネイラに感謝し、一息ついて、帰路についたのだった。
余談。
ある日、ルルカ王女とリリカ王女の部屋に、可愛らしい下着が置かれていたらしい。
その下着のそばにはメッセージカードがあり、文面には、
『日頃の感謝を親愛の気持ちを込めて フォードより』
可愛い下着に添えられたメッセージと送り主の名に、王女たちは困惑しつつもフォードから大切な物を貰ったと喜んだらしい。
そしてある日、フォードの部屋にカルキノスが乱入して、「フォード貴様ぁ、どういうことだ、いったい王女様に何を贈ったぁぁぁっ!」
などと激怒された。
「ちょっと失礼するよ、フォードくん、娘たちに何を贈ったのかな? ん?」
そして王女の父親(イルサール王)に詰問されるのだが、それはまた別の話だった。
フォードの受難はまだ続く。
お読み頂きありがとうございました。
しばらく不定期ですが番外編は投稿したいと思っております。
本編については煮詰めの段階なのでもうしばらくおまちください。




