43. 堕ちた少年の咆哮
第九迷宮七十八階層の大広間では、苦悶の声が広がっていた。
「ぐあ……」「痛ぇよぉ」「毒が……ルザ様ぁ」
哀れにも、広間に残されたのはルザに見捨てられた配下達だった。
呻く声と嘆きの声。血溜まりがあちこちに広がり、苦痛に歪む声が聴こえる。
ルルカとリリカは、ようやく暴力から解放された事に、安堵に息をついていく。
「た、助かったわ……」
「でもいったい、どうしたのだ……?」
「わからないわ。急にルザたちが同士討ちをして……」
ルルカ達としては、狐につままれた思いだった。
ルザに暴行されそうになったら突然に異変が発生。ルザの配下達は次々と正気を失い、ついにはルザが慌て逃げるまでの事態になってしまった。
途中、何か、懐かしいような、安心を抱かせるような、『知っているような』気配を感じたのは、気のせいだろうか?
「――ともかく逃げなければ。またいつルザが戻ってくるか判らないわ」
「うん。ここにいたら危険なのだ。急いで外に――あ」
乱暴されかけて恐怖を抱いたせいだろう、うまく立ち上がれず、ルルカ達は転びかけてしまう。
硬い地面に、華奢な体がぶつかる、その寸前――。
ぽすん。
と、『誰か』の腕に受け止められて、王女達は驚いた。
「え?」
「……な」
「――急に立たれては駄目です。まだ体は疲弊して動けないはず。まずはゆっくりと、落ち着いて立ち上がってください」
聞き覚えのある声に、ルルカ達が見上げてみれば――。
そこで「あっ」と王女達は口を押さえる。
黒髪に蒼の瞳。
優しそうな顔に、精悍な雰囲気。
夢で何度も話し、触れ合い、助けてくれた少年。
「……フォード、さん」
「――フォードっ! ああ……っ」
涙と歓喜に染まった目を浮かべ、ルルカとリリカは抱きついた。
見間違えるはずもない。夢の中とはいえ、温かく、逞しく、柔らかな少年の腕の感触を忘れた時などない。
彼はルルカとリリカの英雄であり。
とても頼りになる護衛であり。
いつだってそばにいてほしい――頼りになる少年なのだから。
穏やかな中にも優しい瞳を向け、フォードは王女を抱き返す。
「遅くなってすみません。ルルカ王女、リリカ王女。幻の夢より、参上致しました」
「フォードぉ……っ」
「――良かった、フォードさんっ!」
ルルカとリリカが、頬を染めてより強く抱き締める。安堵と嬉しさにまみれた歓喜の涙。
この時、この瞬間を待ち焦がれてきた。ルザの仕打ちにずっと耐えて耐えて。もう駄目かもしれないところでようやく会えた喜びに、王女達は強く、少年へしがみつく。
「会えて良かったのだ、本当に……」
「あぁフォードさん、夢じゃないわよね……? 本物よね?」
「もちろん。夢の中より男前でしょう? 王女様がたも、夢よりずっと美し……」
あえておどけるように言おうとしたフォードだったが、そこではたと硬直した。
王女たちが、あられもない格好でいるのに気づいたのである。
ルザに破られ、ほとんど裸同然の格好。
肩は剥き出しでお腹も露わ、前の大事な部分こそかろうじて布切れに守られているが、太腿もお尻も丸見えで目に毒というか目に猛毒であった。
気のせいかルルカやリリカの胸元で見えている桃色のそれは乳り……
「え、あ、やだわたし……っ」
ルルカが恥ずかしそうに、かあっと、頬を染めた。
「わ、わ、恥ずかしいのだ……で、でもフォードも照れてる姿、ちょっと面白いぞ」
リリカが頬を真っ赤にしつつも、ぱちんぱちんとはにかんでウインク。『アポーピスの神胃』から適当にローブを取り出し、ルルカ達に着せると、安心させるよう告げた。
「ま、まあとりあえず……ここに来るまで邪魔な魔物は蹴散らしました。ひとまずは安心して下さい。いま、皆さんの治療を」
「ま、待つのだフォード、ここは危ないのだ」
「そうだわ。まだルザはいるし、いつ戻ってくるか判らない――」
ルザが退散したとはいえ、ルルカたちにとっては原因が判らないのだ。いつまた彼らが戻ってくるかを考えると居ても立ってもいられず、当然のように出た言葉だった。
しかしフォードは薄く唇の端を緩め、
「いえ、大丈夫です。問題はありません」
懸念に顔を寄せる王女達に、フォードは毅然と応じる。
「襲撃の際、強力な助っ人を用意しました。彼女は少々アブナイ人間ですが、間違いなく強いです。何せ、殺しても死なない化物ですから」
「え?」
きょとんと目を見開く王女達に、フォードは微笑する。
その、信頼とも確信ともつかない声音を含んだ少年に、ルルカ達は協力者の強さを悟った。
何より、体も精神も限界に近かった。
極限の状態から解放された反動だろう。しどけない格好のまま、王女達は涙ながらにフォードの胸に頭をうずめる。
「……なら、もう安心していいのか?」
「はい、もう大丈夫です」
「怖くてたまらなかったわ。フォードさん……あなたがいなくて……」
「心細い思いをさせてすみません。ですがもう大丈夫です。あなた方は僕が守ります。もうずっと一緒ですよ、ルルカ王女、リリカ王女」
「フォードぉ!」
「フォードさんっ! ありがとう……っ」
王女達は歓喜にむせび泣く。
体も、心も、酷く疲れきっていて。
体は疲弊し鉛のよう。
けれど、逞しく、優しい少年の腕に包まれながら、王女達は大きな安らぎに、涙をこぼしていったのだった。
† †
「くそ、くそっ、くそっ……!」
七十九階層。襲撃されたルザは、忌々しげに吐き捨てていた。
あと少しでエルフ王女の肢体を存分に堪能できたのに。邪魔をして横槍入れた奴は誰だ。あの野郎、絶対に捕らえて、殺してやる。
だが、状況は悪いと言わざるを得ない。
何者かは知らないが、襲撃されたという事は、この場所が露見したのだろう。
当然、後詰の人間も迫るはずで、そうなると分が悪い。ルザの配下五十人はほとんどが戦闘不能で、敵に大挙されれば敗北は確実だ。
「くそっ、くそっ、くそがっ!」
胃の腑が怒りで震え上がる。憎悪の炎で体が焼き付きそうだ。
襲撃者はギルドだろうか? それとも傭兵だろうか? 未知の魔物か? ――やはり、フォードが何らかの関与を?
疑念や恐怖に縛られる。正常な思考ができなくなる。脳内で煮えたぎるのは怒りと激しい憎しみ。殺しても八つ裂きにしてもなお足りないと思うような、憤怒がルザを突き動かしていた。
「ル、ルザ様! いったい何です、さっきのは!」
配下の八人が、矢継ぎ早に叫んできた。
「ルート五から退去した方が良いのでは!?」
「そ、それより襲撃者の排除ですぜ! あれはヤバイです!」
「ま、魔物の仕業なのでは!? ひいいいっ、怖いっ!」
「うるせえ黙れゴミがぶっ殺すぞっっ!」
狂乱に陥りかける配下たちに、ルザは大喝を入れる。
なに、焦る事はない。何しろこの第九迷宮《冥府》は、七十八階層付近を改造して拠点化している。有事に際しての逃走ルートは九つもあり、さらには自動で動く魔術人形も要所に完備。さらには地雷型の爆炎、氷杭、雷撃の魔術具も百以上ある。襲撃者が通れば、立ちどころに排除するだろう。いずれもルザの父、グレスの計らいだ。
相手が誰であろうと自分たちを捉えるのは不可能。
体勢を立て直し、必ずやルルカ達を引っ捕らえる。
クク、見ていろ、あの体、必ずモノにしてやる――
そうルザが思っていた、矢先であった。
「あっはははははははははははははっ!」
意味の悪い声が洞窟内を満たす。
ルザ達は背後を振り返る。
ぎょっとした。狂気に満ちた橙色の髪の女が、笑いながら追ってきたのだ。
「なんだあいつは!?」
ルザが叫んだと同時、女が獣のごとく跳躍してくる。
ルザの配下の入れ墨男が鋼の鞭を振るうが難なくかわされる。
血飛沫が弾け飛んだ。入れ墨男は手刀で喉を貫かれ、絶命する。
命が四散し無残に消える、悪夢の光景。
「なっ!?」
ルザ達が青ざめる。手刀だと?
一撃で? 馬鹿な、冗談ではない。ルザたちが身につけているのはルザの父親に渡された特注の鎧なのだ。鋼の剣でも槍でも、傷一つつける事など叶わないはず。
それをたった一発――化物かっ!?
「迎撃しろ! ビルガ、ゲイル、爆炎をぶちかま――」
遅かった。斬閃、一発。ルザが命じるより先、女が長身の髭の配下へ迫る。
迎撃に戦斧が振られるが弾かれ、手刀が槍のごとく配下の胸を貫く。
鎧ごと貫通した一撃だった。即死である。貫いた手を抜き出し、臓物をたっぷり滴らせながら女が笑う。
「逃げちゃあいけないなぁ。あたしの領域から出る前に、遊んでよ」
ルザたちは知らないだろう。その女正体が悪女レミリアであると。フォードと契約を交わし、逃走者の排除にあたっていると。
当然、わけもわからない襲撃にルザたちは動転する。何だこいつはヤバイ、ヤバイと、空転する思考のもと悪夢は続く。
「散開しろっ! 固まるなぶっ殺せっ!」
ルザがとっさに指示を出し赤毛の男や山羊型兜の青年がそれも無意味。
レミリアが長い髪をまるで悪魔の翼のように翻し、ルザ配下の赤毛男の首を斬り裂く。
「いーひひひひひっ! 綺麗な血だぁ!」
返す力で放たれた爪の十八連突きが、逃げようとした禿頭の男の目、口、喉、眉間、胸、肩、腹……至る所を貫き、絶命させる。
「ひいいっ!」「なんだこいつはっ」「ヤバイ走れ走れぇっ!」
手刀や抜手の威力もさることながら、レミリアの俊敏性は野獣のごとくだった。
ルザ配下のフレイムウィザード、シャドウナイトらが火炎の鞭や闇の薙刀を振り回すが、当たらないしかすりもしない。
まさに死をもたらす冷徹な悪魔。死の国からの贈り物。死神という、冷たい殺戮者のごときレミリアを前に、ルザたちは総毛立つ。
「クソが、何だテメエ! 臓物晒して死ね! てめえら援護しろ!」
怒号と共にルザが装飾剣の力を解放する。
[破壊の頂きに我はあり。貫くのは狂人なる死女。その胸、千に砕け散れ。――『メイルシュトローム』!]
解き放たれた圧倒的な風の暴力が、レミリアを壁に激突させる。
「ああんっ」
レミリアが吹き飛び艶やかに喘いだ。
間髪入れず、ルザの配下の褐色ピアス女が、蜘蛛柄の痩男が、胡乱な目つきのシャドウナイトが、火炎や毒の杭を撃ち込む。
美しいレミリアの体が紅蓮の炎や猛毒で焼き尽くされる。
一秒に十発以上もの暴力的な火力が彼女を冥府に誘う。
ギルド支部幹部のルザの父親が、権力に身を任せた一級品の魔術具ばかりによる猛撃だ。レミリアは焼き焦がされ、貫かれ、体の至る所が刻まれる。
だがレミリアは笑う。まるで苦痛事態が悦びのように、甘美な愛撫であるように、ルザらが必死に撃ち込む様を嘲笑うように、ただその身を震わせ、歓喜に悶える。
「あっ、あっ、ああん! 気持ちいいっ! もっと嬲って! もって傷つけて! あなた達の攻撃ぃぃぃぃ、最っ高に気持ちがいいのっ!」
「な、なんだこいつ、変態か!?」
ルザ達は気味が悪くなる。百戦錬磨のルザ達だが、血塗られた顔をして、臓物を垂らして発情する女は不気味過ぎた。
しかし、いくらレミリアでもそれ以上は何もできない。ルザの暴風魔術に押さえつけられ、配下の魔術を立て続けに撃ち込まれ、その美しい顔も、体も、血塗られて原型を止めなくなる。
五分も猛撃にさらされれば炭か枯れた老木のごとく。レミリアは真っ黒に炭化して、そのまま無様に床へ倒れた。
「はあ、ぜえ、はあ……」
緊張で荒く息をついたルザが、乱れた息を吐く。
「くそが、これで終わった。逃げるぞ、てめえら――」
ルザが忌々しい顔と共に、その場を引き上げかけた時だった。
「死んでないのに、帰らないでよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」
レミリアがケラケラケラと笑みながら、ゾンビのように這い寄ってきたのである。
「なんだとおっ!?」
レミリアに抱きつかれたルザ配下の巨漢の男が、手刀で首を十字切りにされた。
恐怖にすくんだ男の顔が、びちゃっと四つに分かれ、生々しく音を奏で転がる。
「馬鹿な……」
ルザの残った配下、褐色のピアス女やシャドウナイトの男が、毒杭や雷撃魔術をぶちまけるが意味がない。
雨のごとく放った毒の杭も、雷撃の一撃も、レミリアを殺す事はできない。いや、一度殺す事はできるのだが、レミリアはその度に肉体を再生させ、幽鬼のように立ち上がり、そしてケタケタと笑って、手刀で、貫手で、ルザの配下を絶命させていくのだ。
「くそが、退け、退け、クソどもがっ」
ルザたちにとって、それはまさしく恐怖の光景だったろう。一級品の装備による攻撃が、まるで無力。霞か霧を相手に戦っている虚しさ。地獄の幽霊を相手にする不毛さ。
たちまち配下の八人全員が殺され、残るはルザ一人となる。
「こんな……あり得ねえ……」
「あはははぁぁ、追い詰めたぁ」
周囲に岩柱、背後に壁。
袋のネズミ状態のルザに、レミリアがニタニタと笑う。
その体にも髪にも、真っ赤な返り血が咲き、まるで派手なドレスのよう。
さながら地獄の底から這い出た死神の姫。
紅く顔が火照り、狂気に瞳を彩らせ、喜びに打ち震える悪魔の化身が訊く。
「ねえ、死ぬ瞬間ってどういう気持ち? 悔しいの? それとも悲しいの? 教えてよ。冥府に赴く前に、敗者の無念をさあ! イヒッ、イヒヒヒヒヒヒッッ!」
「クソッタレな変態女に答える義理はねえ。てめえは何者だ? どこから誰の差し金でやって来やがった?」
「ウフフ。黄泉の手向けに教えてあげてもいいよ。あたしはねぇ、レミリア。――フォード・オルトレールの奴隷さ。彼の命により、君の死神を仰せつかったのさ」
「な、に……っ!? フォードだと!?」
ルザの中に煮えたぎる憎しみが湧き上がる。
忘れもしない。自分より才能に溢れた少年。冤罪で未来を閉ざしたはずが、生きていやがった。
しかも、不死身の女などという刺客を送り込んで。
大体、おかしいと思ったのだ。最近寝ていると、夢にフォードが出てくる。
それも森の中で、ルザ達はフォードに破れ、エルフの王女姉妹を奪われる不快な内容だ。奴がたった一人で、自分達を圧倒する様に反吐が出た。
胸糞悪い夢はもう一つある。迷宮の中でフォードがルザと勝負し、勝利するというもの。その夢ではフォードは圧倒的な魔石の獲得数で勝利を飾り、ルザ達をこけにした。
許しがたい悪夢。きっとあれを見せたのもフォードだろう。意趣返しにくだらない魔術具を使ったに違いない。
という事は、先程の襲撃者もフォードではないか?
そうだ、きっとそうだ。
ルザの内に、消える事のない、暗く激しい感情が渦巻く。
「……よう、暗殺者さん。フォードは、健勝かい?」
「それはもう。エルフの王女達を助けるために必死さ。妬けちゃうね。彼は、救うだろう、彼女らを。下劣な君のような輩には、永遠に追いつけない偉人だ」
「――黙れ、黙れやこのクソ女ぁぁぁああああああああああああっっ!」
ルザの装飾剣が爆発的な光を解き放つ。
レミリアが壁にめりこみ血飛沫を上げる。
彼女の悶え声すら押し潰すかのごとく、ルザの装飾剣に、全身に、濛気が宿る。
「俺はよォ、自分より強いやつが大っ嫌いなんだよォォォォ! フォードあの野郎、エルフの姫はっっ! 俺様のものだ! 俺の上に、立つなやぁああああああっ! 俺が、世界で最上の! 神なんだよォォォォォォォォッ!」
もはや言語も怪しく、身勝手なルザの欲望は、暗い感情を呼び覚ます。ルザの装飾剣に仕掛けられた凶悪な力が、彼の怒号に呼応する。
「させないよ?」
「うるせえ、くたばれ女ぁああ!」
ルザの放った薙ぎ払いが、黒い衝撃波となりレミリアの体を粉砕する。
更なる斬閃の嵐を、ルザは見舞った。切断力ある剣風が、レミリアの手足を、頭を、バラバラに寸断し吹き飛ばす。
「アハハハハハッ! それで殺せるとでも?」
黒い靄が無限に湧き出て合わさり、レミリアの体が再生する。
だがルザは収まらない。その憎悪と激怒は再現なく燃え上がり、彼の、愛剣の、装飾剣の刀身が。禍々しい輝きを放ち続ける。
「お、オォ……ォオオッ!」
憎悪収まらぬルザの体が、黒い妖気で満ちていく。
彼の剣が、変形し、身の丈の五倍ほどの長さとなる。
さらに全身が暗黒のオーラに包まれ、硬質化し、黒く、黒く、闇の鎧へ。
痩身を暗黒色に染めた、禍々しい凶騎士となる。
「おおオ……ォォ、ォォオオオオオオ――――――――ッ!」
「――っ、これは」
その力こそが、ルザにとって最後の切り札。
父親から貰った一級品の中でもとびっきり、最凶の力を秘めた魔の武装。
理性を捨て魂を限りなく闇の存在へ近づけるため、使用は控えていた。
『ダーダヴォーリの魔剣』。
古の悪魔の体から作られし魔剣が、ルザの憎悪に反応し、この世に破壊の化身を創り上げるべく、彼を人為らざる者へ変貌させる。
「死ネ死ネ愚かしきフォードとその使徒ヨ。俺はコノ世の神。真に全てヲ手にスルべき覇者ッ!」
「悪魔への変身かな? させないよ。[踏めるなる灼皇の輝きよ来たれ、災禍の終焉に万条の――]」
「神に逆らう愚か者メ。死シテ永遠に後悔セヨ。ォ、オ、オオアァァァアアアッ!」
ルザが狂気と共に放った、圧倒的な闇の轟炎が、レミリアの体を塵一つ残さず葬った。
跡には何も残らない。黒ずんだ紋様を全身に宿し、今なお変貌し続けるルザの異様。
「全てテメエの差し金か! フォード! 許さネェ! 絶対許サネェええェェェエゾおおおオオォォォォォオッッ! フォーォォォォドォォオオオオ――――――ッ!」
絶叫と共にルザの肩から黒い翼が生え、羽ばたき、周囲の全てを拭き払う。
灰と緑の斑の牙が生じ、尾が槍のように生え、さらには体が波打ち、ひび割れ、中の筋肉が、骨が、膨張し、元の何倍もの体長へ膨れ上がる。
それはまさしく、ルザが狂気に呑まれ、悪魔と化した瞬間であった。




