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32. 快進撃

「グギュアアッ!」「ブゲッ! ギャオオォッ!」


 魔物の爪牙が飛び交う。それらをハーピーに憑依したフォードがすり抜ける。

 断末魔に次ぐ断末魔が舞う。洞窟内に血飛沫が飛んでいく。


 ハーピー(フォード)はそれから一気に三十層にたどり着いた。

 後に群がる魔物の死骸、死骸、死骸。

 屈強なるストーンリザードも、軽快なるケルピーも、群れて迫るダースラットも問題にならない。まさしく屍山血河――ハーピー(フォード)の猛威。

 ルザなどとうに追い抜いた。背後からハーピー(フォード)に強襲され気絶したルザは、今頃悪夢に苛まれているだろう。


「グボボオオォォッ!」


 前方、黒く邪悪な瘴気をまとう、巨躯の魔物が現れる。

 三十階層の『階層主』、トロールだ。

 見上げるばかりの巨体。丸太のごとき太い腕。毒々しい緑の体は巌のように頑強そうで、分厚い筋肉は壁の如し。


「グボオッ! オオォォッ!」


 階層の王の証たる紅き瞳を光らせ、三十階層の主が跳ぶ。

 手に握るのは巨大な棍棒。分厚く、硬く、当たれば必死は免れないだろう。

 しかしトロールにとっては相手が悪かった。ハーピー(フォード)は例えるなら風の化身。くるりとフォードは独楽のように回ると華麗に棍棒を回避。『ウインドカッター』で眼を狙い、悲鳴にトロールが口を開けたところに、さらにウインドカッターを十発ぶち込む。ただ大きいだけの的でしかない。


「グボッ、ガォォ……ッ!」


 眼と口を潰されたトロールがか細い悲鳴を上げる。

 フォードはありったけの力を込めウインドカッターをトロールの喉奥へと放った。

 口内をずたずたに斬り裂かれたトロールが倒れる。

 ひくひくと痙攣する体にウインドカッターを五発打ち込むと、そのまま息絶えた。


 ハーピー(フォード)の等級レベルが35に上がる。

 その結果、魔物としての格が上がり、ハーピーから『ハイハーピー』へと進化する。

 こうなれば迷宮攻略は断然有利だ。


 本来《岩窟》三十階層にはずっと格下の魔物しかいない。ハイハーピーとは八十階層クラスに住む中級魔物なのだ。

 フォードは続く三十一階層、三十二階層へハイハーピーのまま躍り込むがどの魔物も相手にならない。コボルト、インプ、レイスソード、キラーバットなどそれまでより強力な魔物が迫るが、どれも赤子の手を捻るに等しい。

 ウインドカッターの進化版『ウインドトルナード』がコボルトの群れをなます切りにする。

 キラーバットが波状攻撃を仕掛けるも羽ばたき一つで吹き飛ばす。

 小型の悪魔とも言われるインプを『威圧』で硬直させ、爪で串刺しにする。

 探索者の遺物が魔物化したレイスソードの斬撃は、ハイハーピーが飛翔すると風圧で吹き飛んだ。


〈ははははははっ! 良いのう! 快感よ! 見よ、魔物どもが塵のよう!〉


 エリゼーラが上機嫌に笑う。フォードも叫びたいくらいだった。


 《憑依》でハイハーピーを操り魔物を倒すのが楽しすぎる。

 異形の怪物を異形の怪物で屠る快感。

 邪悪な技を使う優越感。

 人間として当たり前の技能を使って得られる経験とは雲泥の差。

 この飛翔、この爪牙、この絶技。

 いかなる人間も操る事叶わない。フォードの、フォードによる、フォードだけの《憑依》による蹂躙劇は、留まるところを知らない。


「――シンニュウシャ、発見。排除シマス」


 四十階層へ到達――『階層主』ストーンマンが立ちはだかる。

 トロール以上の巨躯の巨人。城壁のごとき硬い石の体。体型こそ人に近いが全身が鈍色の石でできている。歩く毎に地響きを引き起こす石巨人が、その豪腕を振り上げる。


「――排除、開始。『ストーンブロウ』」

「フフ、当たりませんよ」


 轟然と直進し突き込まれた拳をひらりとハイハーピー(フォード)はかわし、すれ違いざまに『ウインドヴェール』と『ウインドトルナード』を炸裂。

 風の刃の体当たりと風の螺旋刃を立て続けに受けたストーンマンの右腕が、ガリガリガリと削れる。


「――危険。危険! 『ストーンバスターパンチ』ヲ射出シマス」


 ストーンマンの左腕がゴゴゴゴゴと鳴動する。肘から炎が噴出。まるで砲弾のような勢いで、巨大な腕が飛んでくる。


「おっと危ない」


 それを風の流れを読むことで回避。背後にストーンマンの腕が壁に突き刺さる轟音を聞きながら、ハイハーピー(フォード)は特技、『振動咆哮』を発動。

 物質を振動させ内部崩壊を引き起こす絶技によって、ストーンマンの胴体が破砕される。その頑強な胴体の分子構造が揺さぶられ、砕かれ、ぼろぼろと砂のように崩れる。

 ぽっかりと空いた胴体を見つめ、石巨人が身震いした。


「損傷大! 修復不能! ……動作強制終了マデ、後三十秒……ブブ……」

「そんな時間はかけませんよ」


 損傷により停止寸前のストーンマンに追い打ちを放つ。

 『振動咆哮』を連発。ストーンマンの上半身に破壊の振動波が注ぎ、ストーンマンの顔が砕け、首が砕け、残った胴体と肩も破壊する。

 魔石のある下半身だけを残して、ストーンマンは崩れ落ちた。

 四十階層クリア。

 続いて、五十階層を目指す。


「キー! キーッ! ニンゲン、コロス!」


 第四十四階層にいたハイゴブリンはなかなかの強さだった。集団で陣を組み、槍と弓を使いこなす戦術は賞賛もの。

 もしもルルカやリリカがいれば、卓越した連携に翻弄されていただろう。

 しかしストーンマンを倒したことですでにフォードが操るハイハーピーの等級レベルは、51となった。すでに敵ではない。


 『ウインドブレイド』――巨大な風刃を打ち出す特技で、五体のハイゴブリンを一蹴。

 ホブスカラベ、ベノムアントといった昆虫型魔物が、岩の隙間から襲い来るが、ハイハーピーの常時発動技能パッシブスキル『ウインドアーマー』によって、全て風圧で壁に叩きつける。

 まさに虫けら。フンコロガシと毒蟻の魔物の死骸が増えていく。


〈くふふ! 愉悦の時よのう! この進撃! この快感! これこそ我が幸福よ!〉

「喜んで頂き光栄です。ではさらにペースを上げますか」


 ホブゴブリンとベノムアント十数匹を倒したことで、さらに等級レベルが上がった。

 等級レベル52のハイハーピー(フォード)は、『活性化』の特技を得た。

 これは使用することで身体能力が一・二倍になる特技だ。三十秒と効果は短いが、要所要所で使うことで飛躍的に攻略速度も上がる。

 くらうと酷い毒状態になるベノムアントの毒液も、旋風とかくやと言うべきウェアウフルの突撃も、まるで相手にならない。風の刃、風の鎧、風の螺旋刃、振動咆哮、大気を司るハイハーピーの蹂躙が、魔物の悲鳴と死体を量産する。


[浅慮なる愚者へ洗礼を! 我は乞う。睡魔の王の息吹よ、吹雪け! ――『昏倒の息吹(ヒュプノスブレス)』]


 フォードは『本体召喚』して何度か魔石を回収すると、五十階層の『階層主』――ラミアが祝詞を唱え、襲撃してくる。

 上半身が人間の美女で、下半身が蛇という魔物だ。

 その最大の特徴は『状態異常』――人間の弱体化を引き起こす魔術の多用だろう。


 『昏倒の息吹(ヒュプノスブレス)

 『魅了の涼風(テンプテーション)

 『麻痺霧の庭園(パラライズミスト)


 広範囲に眠り、魅了、麻痺の効力を及ぼすその魔術は、人間相手であれば有効である。

 しかし風の申し子たるハイハーピーには、『風』という絶対的な相性により敵わない。

 眠りの息吹も、魅了の風も、麻痺の霧も、全て常時発動の『ウインドアーマー』に弾かれ、消滅する。


「――っ!?」


 驚くラミア。それは致命的だった。ハイハーピー(フォード)は滑るように滑空すると両の翼を広げ、『ウインドブレイド』を撃ち、風の大剣でラミアを串刺しにした。


「キキアアアアァァッ!」


 それでも『階層主』としての挟持プライドがそうさせるのか、ラミアは『スプラッシュテール』という水の鞭技を放つも、ハイハーピーの『振動咆哮』で破砕される。

 無念に表情を歪める蛇女が崩れ落ちると、その額から魔石がこぼれ落ちた。

 この時点でハイハーピーの等級レベルは六十である。

 もはやこの周辺に敵う魔物は皆無だろう。


 しかし、フォードは少し前から能力の伸び悩みに気づいていた。

 どうやらハイハーピーは早熟型の魔物で、さほど後の伸びは期待できないらしい。

 五十一階層以降の魔物には遅れを取るかもしれない。

 そろそろルザとの勝負の時間切れだ。


 フォードは決心すると、《憑依》を解いた。『煙』状になり、『本体召喚』を使う。

 虚空より現れた自分の体に再び戻り、冥王臓剣を振り上げた。


〈どうする気だ?〉

「もうこの魔物には期待できません。この辺りが潮時でしょう」

〈ふむ。名残惜しいが、そうだな。もう十分この鳥は堪能した〉

「そうですね。ハイハーピー。ありがとうございました。あなたのおかげで楽しいひと時を過ごせました」


 冥王臓剣を振り下ろす。

 首を両断された風の申し子は、腹から魔石を残して果てた。

 そして、ハイハーピーを倒したことにより、フォード自身の等級レベルが上がる。

 等級レベル48――。

 元々が39だったことを鑑みれば、上々の向上である。

 連戦によって強化されたハイハーピーを倒した恩恵は大きい。

 

 素材もいくつか剥ぎ取り、早速、ハイハーピーの魔石共々『アポーピスの神胃』に収納する。

 この探索の肝は、《憑依》の強さもあるがこの収納魔獣具の力も大きいだろう。

 空間を湾曲させ道具を収納できる効力を持つこれは、魔石を吸い込み、容易く収納する機能を持つ。

 ハイハーピーで広範囲攻撃、高速攻撃をしつつ、『アポーピスの神胃』で即収容する。


 今回は魔石の数を競うため素材は最後のハイハーピーのみだが、三時間足らずの探索にしては異常とも言える成果だった。

 

「ではそろそろ戻りましょう。リリカ王女たちが首を長くして待ってます」


 これで、二十一階層から五十階層まで集めた魔石を合わせると――。

 もう、フォードの勝ちは決まったようなものだろう。


拙作をお読み頂きありがとうございますm(_ _)m

第31話も好評頂いたようで、とても嬉しく思います。

いよいよ本編はフォードやルザ、その他これまで登場した人物も交えて更なる佳境に入っていくので楽しんでいただけると幸いですm(_ _)m

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