33. 完勝
活動報告にも記載致しましたが、魔石収拾の制限を1時間から3時間に修正致しました。
詳しくは後書きを参照お願い致します。
「馬鹿な……魔石、二百八十八個だと!?」
制限時間の一時間を終え、二十階層に戻ったルザが、驚愕していた。
眼前に溢れるフォードの魔石、魔石、魔石の山。
小さなものから大きな物まで、総数三百近く。一人の収穫にしては異常だろう。
ランクも一から四の低級から、ランク五、六の中級も多数ある。
対して、ルザたちの魔石は総数五十八個。
かなり上々だが、それでもフォードには遠く及ばない。
もはや計算をするまでもなく、フォードの圧勝だった。
「て、めえ……たった一時間で、これだけの魔石を……?」
「ええ。多少砕いてしまった魔石があったのですが、完全体はそれだけです」
涼しい顔をしながらぬけぬけとフォードは語る。
傍らにはルルカ、リリカ、親衛隊の三人が唖然としている。
当然だろう。単騎で迷宮二十一階層以降に潜り込み、一時間でこれだけ成したのだ。驚愕を超えて茫然である。
「さて。では約束です、ルザ。あなたたちに罰を与えるとしましょう」
冥王臓剣を翻すフォードに、ルザが焦った顔を浮かべる。
「待て。フォードてめえ……これを一人でやった証拠はあんのか?」
「失礼ですね。ギルドカードには倒した魔物を記録する機能が備わっているでしょう? 倒した数、倒した日時、倒した魔物の種類、それら履歴を見れば僕の成果は一目瞭然。子供にだって判る結果ですが?」
ことさら見せびらかすように、フォードはギルドカードを掲げてみせる。
『一時間以内に討伐した魔物――三百二十五。うち魔石の習得――二百八十八個。
内訳:ストーンリザード23、ハーピー24、ダースラット28、ケルピー27、コボルト25、レイスソード19、インプ28、キラーバット26、ベノムアント30……』
紛れもない証明の立体文字が、カード状に表示されている。
討伐数、討伐種類、討伐日時――
ギルドカードに付与された魔術は超一級のものだ。おいそれと偽装する事は叶わない。
つまり表示された立体文字は、まさしくフォードの偉業を証明していた。
「ば、馬鹿な……あり得ねぇ……こんな、こんな……」
それでも、目の前の結果が認められないのだろう。ルザは震えつつも小癪なことを言い始める。
「偽装だ、そうに違いねえ! 幻術系の魔術具を使ったに違いねえんだ! 俺が親父から貰った装備で! この武装で! てめえに負けるわけがねえ!」
「これは見苦しい。敗北を認めず勝手な決めつけですか? ギルド幹部の息子の名が泣きますね」
「黙れ! 高等魔術具での偽装だ! そうだそうに決まっている! フォード、てめえ何として偽りの勝ちが欲しいみたいだなぁ!?」
「戯言に付き合うほど、僕は暇ではありません。結果は出ました。なら誓約も果たしませんか? 敗者は片腕を斬り落とす――そういう約束でしたね、ルザ?」
「違う! 俺は、俺は! 認めねえぞ! てめえら、殺――」
ルザが配下の人間に命じかけ、武器を抜き放つ瞬間――。
フォードは懐から翡翠色の牙を取り出すと、凄まじい風がルザたちを襲った。
「ぐああああっ」「なん――ぐえっ」「うおおおおっ!?」
『風蓮翠晶』と呼ばれる牙である。フォードはハイハーピーを倒した時の素材から、その牙を確保したのだ。念じるだけで暴風を生み出す翠牙により、ルザたちは容易く壁へ吹き飛ばされた。
「ぐっ……。なん、だと――そいつは、ハイハーピーの牙!?」
起き上がったルザの顔が、ほとんど恐怖めいたものになる。
フォードは勤めて涼しげな口調で語った。
「あなたも知っているでしょう、ルザ。ハイハーピーは《岩窟》の八十層辺りに生息する魔物です。その牙の一本は魔術の要であり、別名『翔牙』とも呼ばれる――ギルド幹部の息子であるあなたたら、僕がこれを持つ意味、判りますね?」
ルザとその取り巻き達は震え上がる。
第五迷宮《岩窟》は初心者にも易しい迷宮だが、七十層を超えると飛躍的に魔物が強くなる。ベテランの探索者でも手こずる魔窟だ。
フォードがそれを持っているということは、つまり七十階層以上の魔物を単騎で屠る実力がある事に他ならない。もはや彼の実力を疑う事は、哀れを通り越して滑稽と言うべきだろう。
「(まあ実際には八十階層ではなく五十階層で戻って来たんですけどね)」
どちらにせよルザへの脅しとしては十分だろう。
ルザも取り巻きもすっかり蒼白色になっている。この辺が落とし時だ。
「ルザ、さあ約束を果たしてください。あなた達の片腕を今から斬り落とします。右腕でも左腕もどちらでも構いません。今から一直線に並び、好きな腕を差し出してください。僕がこの魔剣で斬ってあげましょう」
「ま、待て! 腕は困る! 探索に支障をきたしちまう!」
フォードが黒き魔剣を振り上げると、ルザが悲鳴を上げる。
「おや、自分の約束を違えるのですか? これは滑稽。ギルド幹部の息子たるあなたが、自ら約束を反故にすると? 大勢の前で? いいのですか? そんなことで。未来のギルド幹部は随分と嘘つきのようだ。いずれあなたも父の七光りで幹部に立つのでしょう? 今から嘘ばかり吐いていては、ついてくる部下もいないのでは?」
「くそが……っ、てめえ……っ」
「それとも何ですか? 浅ましきルザくんは本当に約束を反故にすると? いいですよ別に僕は、どちらでも。あなたが約束を守るも良し。あなたが約束を破るも良し。あなたが自棄になって襲っても、僕はこの魔剣で迎撃するだけですから」
フォードは冥王臓剣を翻し、不敵に笑う。
彼の実力と強力な魔剣、さらにはハイハーピーの牙があってはルザたちは実力行使もままならない。彼らの命運は文字通りフォードの手のひらの上。全ての彼の意のままなのだから。
焦燥の汗がルザたちのこめかみを伝っていく。その心臓の高鳴りすら聞こえてくるようだ。迷宮内にはびこる、張り詰めた空気。
ルルカやリリカ、親衛隊も見守る中、フォードはふと、肩をすくめた。
「――なんて、物騒なことはやめにしませんか? 僕も王女様の前で血なまぐさい事を好みません。ここでお互い妥協しましょう。ルザ、金貨三十枚で手を打ちませんか?」
「なんだと?」
「あなたたちの片腕を金貨三十枚で肩代わりしようと言うのです。悪い話ではないでしょう? あなたたちはこのままでは隻腕です。一流の探索者には遠ざかる事でしょう。二度と手に入らない片腕より、いくらでも手に入る金貨の方が、まだマシだと思いませんか?」
「くそ……てめえっ」
その提案は屈辱ではあったのだろう。ルザは忌々しい顔を取るも、しかし反対の意は唱えなかった。
腕一本と金貨三十枚。馬鹿でも判る計算だ。
背に腹は代えられない。体の一部に勝るものはないのだから。
「……くそがっ! フォード、この怨み忘れねえ。てめえは俺が、必ずぶっ潰す!」
ルザは懐から金属音のする袋を取り出すと、地面に叩きつけた。
「負け犬の遠吠えほどみっともないものはないですね」
「……っ!」
ぶるぶると震えるルザの前で、フォードは袋の中身を確認する。
金貨三十枚、しっかりと詰められていた。以外と律儀だ。それともプライドがそうさせるのか。
ルザが殺意でまみれた瞳で言う。
「この借りはいつか必ず返させてもらう。フォード、油断しないことだな」
「できれば二度と僕の前に現れないでほしいですね。虫けらは虫掃除に、低階層のみで探索する事をおすすめします」
「て、めえ……っ、……っ、……っ、おいてめえら! 退くぞ!」
殺気立つ配下もいたが、取り巻きたちはその声に渋々ながらもついていった。
ルザ以下、二十名のパーティ全員が上層へと帰る。
全ての影が姿を消すと、フォードは冥王臓剣を鞘に収め、体を弛緩させた。
「ふう……」
「――フォードっ!」
真っ先に抱きついてきたのはリリカだ。
相変わらず大きな胸の感触がフォードの腕に押し付けられる。
「良かったのだ! 無事に終わって! とても心配したのだぞっ!」
「手荒な事を申し訳ありません。ですがこれでしばらくは安泰かと」
「ううん、そんな事はいいのだ! フォードが無事ならそれだけで嬉しい」
リリカが瞳を嬉しさいっぱいにすがりついてくる。
その心意気がありがたい。彼女のぬくもりと笑顔が、探索の疲れを癒やしていく。
殺伐とした気持ちが、煮えたぎる戦意が、王女の優しい声と笑みによって解きほぐされていく。
ルルカ王女もフォードの傍らに寄って来た。
「良かった……無事に終わって……。フォードさん、わたし、気が気でなかったわ……」
「申し訳ありません、ルルカ王女。ですがあの輩は、ああでもしないと退かないのです。集団戦にだけは、したくありませんでしたから」
ルルカもリリカも二十階層までの疲れが残っている。そこへルザたちとの戦闘は危うすぎる。
フォードは自分が負けるとは思わないが、王女たちにもしものことがあってはイルサールに顔向けができない。
危険だろうとも、無謀だろうとも、エルフ王女達のため、あの程度の事は些事だとフォードは考えるのだった。
「……いやー、冷や冷やしましたぜ。フォードさん、マジで強いっスね」
ロブがほっとした様子で息を吐く。他の親衛隊も同様だ、
「本当。まるで伝説に語られる戦神アスレウス。勇ましい男、好ましい」
「……まあ何だな。皆、五体満足で何よりだ」
「(くっ……フォードに美味しいところ全部取られた! 悔しいです姫様ぁあああ!)」
ネイラが尊敬の目を向け、カルキノスがむっつりとそう評した。
「さあ! 帰ろう! みんなフォードのおかげで無事なのだ!」
リリカが嬉しさをたっぷりと込めた瞳でフォードに腕を絡ませる。
「フォードは皆の守護神なのだ! これからもよろしくな! そなたはリリカ達にとって、英雄なのだ! うふふ~」
リリカが幸せそうに笑ってすがる。
温かく、柔らかな彼女の抱擁。
フォードは、この戦いを経て良かったと思った。
《憑依》の新たな力だけではない。
魔石二百八十八個の収穫や、素材の確保も全て些事。
リリカやルルカの笑顔。そして親衛隊の信頼。
彼らに慕われること、それが、何より大切な宝に思えたから。
フォードはリリカやルルカに親しげな声をかけられつつ、地上へと戻ったのだった。
拙作をお読み頂き、ありがとうございます。
いくつか修正がありましたので、本文に反映致しました。
・32話の魔石回収等に関して。賭博場で得た収納魔術具『アポーピスの神胃』に魔石を吸う機能があるというものに修正。
・30話から33話、魔石集めの制限時間を一時間から三時間に修正。
活動報告にもこの事に関して掲載致しました。
他の修正点に関しては、後日修正致します。




