表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/55

29. 魔術返しの階層主

「皆さん! 第二十階層までそろそろです!」


 三日後。第五迷宮《岩窟》。第十七層。

 フォードの掛け声共に、ルルカの火炎の槍が宙を貫く。

 その横で紫電走らせるのはカルキノスの雷精霊だ。鳥人型の魔物ハーピーに直撃した炎の槍と紫電の鞭は、ハーピーの翼を焼き焦がし、感電させ、地面に落とす。


「おらああああっ! 闘技! 『一閃突き』ぃぃ!」


 その真横を、ロブの槍突進が突っ切っていく。


「グヒ!? ヒヒィーンッ」


 青ざめた体を持つ馬型の魔物ケルピーの悲鳴が響く。その頭上にネイラが飛ぶ。放たれた二つの円月輪チャクラムの刃が真っ直ぐケルピーの首に吸い込まれ、血と、さらなる悲鳴を呼ぶ。


「ロブ! 大丈夫か、今回復するぞ!」

「ありがたき幸せっ!」


 ストーンリザードの噛みつきに腕を怪我したロブへ、リリカの回復魔術が癒やす。

 その隙にルルカのフレイムアローがストーンリザードを怯ませ、ネイラのダガーがその眼球を刺し貫いた。


「皆さん、その調子です! 畳み掛けましょう、前進っ!」


 フォードの声に嬉しさが混じる。

 五人とも良い連携だった。ロブの突進、ルルカの援護魔術、ネイラのかき回し、カルキノスの攻撃、そしてルルカの回復――どれも素晴らしい。

 この三日、徹底的に連携訓練を行ったのだが、それが功を奏したようだ。


 前回の時とは違い司令塔のフォードを核として連携される構成は、攻守共に上々。複数の魔物が列を成してきても対応できるほど。加えて士気もなかなかに高く、初めて見る魔物相手にも尻込みしない。

 ロブの槍闘技《三連突き》がダースラット二匹を一度に串刺しにする。

 ネイラの毒吹き矢がハーピーの両目に突き刺さる。

 カルキノスがウンディーネの水撃でストーンリザードを吹き飛ばし、ルルカが火炎や氷の魔術を当て撃ち倒す。


 元々迷宮には入り浸っていた彼らとはいえ、劇的な変化である。

 元々彼らは《岩窟》では第十五層が限界だった。個人技に秀でて迷宮探索に不得手だったため、各自散発的な攻撃で失敗していたのだ。

 しかしフォードの的確な指示、フォードの技能スキル『戦意高揚』、彼ら自身の高い気迫が渾然一体となり、活力を生み、これまでにない攻勢を可能にしていた。

 群の数だけは多かったが、冷静にネイラやルルカ、カルキノスが魔術や暗器で各個撃破し、ロブやネイラがとどめを刺していけば問題ない。波濤の勢いで、彼らは十九階層まで突破した。


「キュウゥゥゥゥンッ」

「っ! 『階層主』です! 陣形を!」


 しかしそんな彼らの下へ、二十階層の階層主、『カーバンクル』が現れた。

 額に宝石を持ち、毛皮の立派な愛くるしいリスのような外見のカーバンクルだが、その力は厄介だった。

 『魔術反射』――。

 自らに撃たれた攻撃魔術をそっくりそのまま跳ね返し、迎撃するというその特性。


 これにはルルカやカルキノスが無力となった。

 ルルカのフレイムアローやカルキノスの召喚魔術も全て跳ね返される。

 連射して体勢を崩そうにも全て反射、こちらがやられる。

 中衛のルルカとカルキノスが攻撃できないため、前衛のロブやネイラが尻込みする。


 そこへカーバンクルが鳴き声を放った。

 キュウゥゥゥン、という可愛い鳴き声。その効果は『仲間増援』である。

 迷宮の奥からダースラット、ハーピー、ケルピー、ストーンリザードの大群が現れる。

 奇声、蛮声、咆哮、多種多様な魔物どもの響きが迷宮内を震わせる。

 増援の魔物たちは一斉に列を成し、襲い掛かってくる。


「うお!? なんだこいつらっ!」


 ロブが槍を必死に振り回し、一端下がる。


「大群だわ、牽制! カルキノス、協力を!」

「むうう、厄介なっ!」


 ルルカの指示に、カルキノスがサラマンダーに火炎を吐かせる。


「うわわ、どんどん迫ってくるのだ! 《ヒール》! 《ヒール》!」


 ダースラットの群れに体当たりされたロブを、リリカが必死に治す。


「フォード、これは不利。私たち、全滅の危険性がある」


 ネイラが魔物へ火炎玉を投げ込み、魔物の隙をつき後方のフォードの横へ着地。


「いいえ、撤退はしません。僕も加勢しません。カーバンクルは貴方たちで倒すのです」

「でも。魔術は効かないし、ロブと私の暗器では倒せない。魔物の手下、邪魔」


 いつもは氷像のように淡々としたネイラだが、この時は焦りが感じられる。

 しかし、それでもフォードは動かない。

 泰然と腕を組み、決然と前を見据え、戦うルルカらを見据える。


「ネイラ。あなたの魔術は攻撃系だけですか? 支援系の魔術もあるでしょう?」

「判ってる。でも私、魔力量(MP)は少ないし、大した事はできない。筋力や俊敏さはあるけど」


 フォードは以前、こっそり《憑依》で各自の能力を見たことがあるのだが、ネイラは魔力や魔力量は少なかった。暗器にばかり頼って魔術を疎かにした弊害だろう。

 聞けば彼女は昔魔術を暴発させ、友を傷つけた事があるらしい。レンジャーの罠スキルを当ててしまい、瀕死にまで至らせてしまった――その失敗が、今にまで尾を引いている。


「いいえネイラ、能力とは使えば使うほど伸びるものです。苦手意識があっても使い続ければ必ず自分の糧となります。それに――いいのですか? このままではルルカ王女もリリカ王女も、魔物どもの牙の餌食となるでしょう。そうなっては全てが遅い。――あなたのクラスはレンジャー。戦場を支配し、己の領域に書き換える者――あなただけが、絶望を希望に変えられるのです」

「……判ってる。うん。私は王女様を、守る」

「そうです、ネイラ。己を燃やし、敵を打破し、王女様に笑顔を!」

「うん!」


 ネイラは、疾風のように駆けた。そして天井高く飛び上がり、愛用のダガーを取り出し祝詞の詠唱。


[我が戦域に負けは無し。毒を以って悪を挫く。我は戦場の支配者なり。――『ベノムマーシュ』!]


 魔物たちの足元に、紫色の沼が湧き上がる。

 まるで霧のように吹き出て、黒い瘴気を放つ毒の沼。

 レンジャーが発生できる罠の一種である。


 悪寒、虚脱、酩酊、様々な効力を持つ毒が、ダースラットを、ケルピーを、ストーンリザードの体を蝕んでいく。

 体の構成物質を犯す毒にさらされ、動きが鈍る魔物たち。

 その隙を逃すルルカたちではなかった。

 ルルカのアイシクルランスを筆頭に、カルキノスやロブが、召喚魔術を、槍の薙ぎ払いを次々当て、殲滅していく。

 空中のハーピーの群れだけは毒沼の猛威から逃れていたが、それも一網打尽。


「やああっ!」


 ネイラが渾身の力で円月輪チャクラムを投げ、複数のハーピーの首を掻っ切った。

 残るは階層主、カーバンクルのみである。


「キュウゥゥゥ!?」


 罠魔術は反射できないことを悟った小動物が、驚愕の声を出す。


「これで決めましょう、ルルカ様!」

「ええ、わたしたちに、完全な勝利を!」


 ルルカがクラスチェンジを発動。

 闇夜の使徒のごとき艶衣装となった王女と、影のように跳ぶネイラの疾走。

 煌めく刃の閃がいくつもカーバンクルを襲った。


 斬、斬、斬、斬――雷閃のごとき刃の交差。

 カーバンクルが愛くるしい顔を血に染め、地面に倒れた。

 最後の力で逃げようとしたカーバンクルに、クナイを投げ、ルルカがとどめを刺す。


「勝った……」

 勝利の貢献者であるネイラにルルカが寄り、賞賛と感謝の言葉をかけていったのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ