キラナとオカネ:不思議を超えて 2
それでは、お話を始めましょう。
しばらくすると、すべてを包み込んでいた白い光がゆっくりと弱まっていった。
それまで激しく吹き荒れていた風の音も、少しずつ消えていく。視界を覆っていた色とりどりの煙も次第に薄くなり、やがて跡形もなく消え去った。
しばらくの間、辺りは静まり返っていた。
森の中では、茶色い毛並みの猫が草の上に横たわっていた。
キラナはまだ動いていなかった。目を閉じたまま、木々の葉の間を吹き抜ける風の音に反応して、耳をわずかに動かしている。
数秒後、彼女はゆっくりと目を開けた。
キラナ:「……あれ?」
頭を持ち上げ、周囲を見回す。
辺りには高い木々が生い茂っていた。地面には草や枯れ葉が広がり、ところどころに木の根が突き出している。少し離れた場所には茂みや小さな石も見えた。
そこは、一見すると普通の森だった。
雲を突き抜けるほど巨大な木があるわけでもない。あちこちに光る植物が生えているわけでもない。空中に川が流れているわけでもなかった。
しかし、キラナはすぐにあることに気づいた。
ここは、さっきまで桜森で歩いていた森ではない。
彼女は慌てて立ち上がり、右や左を見回した。
キラナ:「アイカ?」
返事はない。
キラナ:「ハルト? レン? カイト?」
聞こえてくるのは、風と木の葉の音だけだった。
キラナはだんだん不安になってきた。
キラナ:「アイカ! ハルト! レン! カイト!」
友達の姿を探して、木々の間を見回す。
キラナ:「みんなどこにいるの?! もう、冗談はやめてよ!」
誰の姿も見当たらなかった。
キラナはごくりと唾を飲み込んだ。さっきまで常識では考えられないようなことが起きていたのに、今度は友達までどこかへ行ってしまった。
キラナ:「待って……オカネも……」
彼女が言い終わる前に、背後から声が聞こえた。
オカネ:「キラナ。」
キラナはすぐに振り返った。
キラナ:「オカネ!!」
彼女は、数歩先に立っている二本の尻尾を持つ白猫のもとへ駆け寄った。
オカネは無事そうだった。白い毛並みは少し乱れていたものの、左目の周りにあるハート形の模様は、はっきりと残っていた。
キラナは心配そうな顔で近づいた。
キラナ:「オカネ! 大丈夫?! よかった! でも、アイカたちは? ハルトもレンもカイトも、ここにいるの?! みんな怪我してない?! 早く探しに行かなきゃ!」
オカネ:「キラナ、まずは落ち着いて。」
キラナ:「でも、みんなが――」
オカネ:「キラナ。」
オカネの声が少し厳しくなった。
オカネ:「まず深呼吸して。みんながどうなったのか、まだ分からないんだ。そんなに慌てていたら、次にどうするべきか考えるのも難しくなるよ。」
キラナは黙り込んだ。
彼女はうつむき、ゆっくりと息を吸い込んでから、静かに吐き出した。
一回。
二回。
しばらくすると、少しずつ落ち着きを取り戻してきた。
キラナ:「……うん。少し落ち着いた。」
オカネ:「よかった。」
それからオカネは、キラナの頭から尻尾の先までをじっと観察した。
そして、黙り込んだ。
キラナはその視線に気づいた。
キラナ:「どうしたの、オカネ? 私の後ろに何かある?」
オカネはすぐには答えなかった。
もう一度キラナを観察する。その表情は、さっきよりも真剣になっていた。
オカネ:「キラナ……」
キラナ:「なに?」
オカネ:「どうやら、君に伝えておかなきゃいけないことがある。」
キラナ:「何?」
オカネは前足の片方を上げ、キラナの体を指し示した。
オカネ:「君はもう、人間じゃなくなっているよ。」
沈黙。
キラナは瞬きをした。
一回。
二回。
キラナ:「……え?」
オカネ:「今の君は猫の姿になっているんだ。」
キラナ:「えええっ?!」
キラナは勢いよく立ち上がった。
そして、自分の体を見下ろす。
全身が茶色いふさふさの毛で覆われていた。前足は小さく、人間の手とはまったく違う。彼女は片方の前足を持ち上げ、じっと見つめた。
続いて、もう片方の前足も持ち上げる。
キラナ:「ちょ、ちょっと待って! これ、どういうこと?!」
体をひねって後ろを確認しようとすると、茶色い尻尾が動きに合わせて揺れた。先端は白くなっている。
キラナは固まった。
キラナ:「し、尻尾?!」
尻尾をつかもうとしたが、体まで一緒にくるりと回ってしまった。
キラナ:「なんで尻尾があるの?!」
オカネは笑いそうになるのをこらえた。
オカネ:「だって、今の君は猫だからね。」
キラナ:「それは分かってるよ! でも、なんで猫になっちゃったの?!」
キラナは再び自分の前足を見た。
高く持ち上げて、信じられないという表情で眺める。
キラナ:「私の手はどこ?! いつもの手はどこに行ったの?!」
オカネ:「今はその前足が手の代わりだよ。」
キラナ:「そういう答えが欲しいんじゃないの!」
とうとうキラナは、混乱した表情のまま草の上に座り込んでしまった。
キラナ:「もう……夢だよね? お願いだから夢だって言って!」
オカネは彼女の前に座った。
オカネ:「残念だけど、そうは言えないね。」
キラナは両方の前足で顔を覆った。
キラナ:「冬休みを楽しむことすらできてないのに……。」
オカネは尻尾を軽く振った。
オカネ:「でも、休みを楽しむことはできるよ。少し体に変化があっただけさ。」
キラナ:「少し?!」
キラナはすぐに立ち上がった。
キラナ:「オカネ! 今、少し変化があっただけって言った?! ほかには何が変わったの?!」
オカネは小さく息を吐いてから、一つずつ説明し始めた。
オカネ:「分かったよ。まず一つ目。君の体は、茶色いふさふさの毛で覆われている。」
キラナは自分の体を見た。
キラナ:「……それはもう見たよ。」
オカネ:「二つ目。頭の上には、白い角が二本生えている。三日月みたいに曲がった形だね。」
キラナはゆっくりと両方の前足を頭の上に伸ばした。
そして、その辺りを探ってみる。
コツ。
片方の前足が、何か硬いものに触れた。
キラナは動きを止めた。
今度は反対側にも触れてみる。
コツ。
本当に二つとも存在していた。
キラナ:「な、何これ?!」
オカネ:「角だよ。」
キラナ:「なんで頭に角が生えてるの?!」
オカネ:「理由はまだ分からないけど、なかなか珍しい形だね。」
キラナは二本の曲がった角を触りながら、見えにくい頭の上を何とか確認しようとした。
キラナ:「自分じゃ見えないじゃん!」
オカネ:「あとで鏡を探せばいいよ。」
キラナ:「あとでじゃなくて、今知りたいの!」
オカネはキラナの抗議を気にせず、説明を続けた。
オカネ:「三つ目。猫の耳の下には、ウサギの耳みたいな長いものが二本垂れ下がっている。色は毛並みと同じ茶色で、先端は地面に届きそうなくらい長いよ。」
キラナはすぐに横を向いた。
体の横に、何か長いものが触れているのを感じたのだ。
ゆっくりと下を見る。
頭の両側から、茶色い毛に覆われた二本の長いものが垂れ下がっていた。
その長さは、地面に届きそうなほどだった。
キラナは目を大きく見開いた。
キラナ:「今度は何これ?!」
片方を前足で持ち上げてみる。
少しだけ持ち上がったものの、すぐにまた垂れ下がった。
反対側も試してみる。
結果は同じだった。
キラナ:「自分では動かせないの?!」
オカネ:「どうやら普通の耳とは違うみたいだね。」
キラナ:「つまり、角があって、猫の耳があって、使えないウサギの耳まであるってこと?!」
オカネ:「そういうことになるね。」
キラナ:「そんなことを冷静に言わないでよ!」
オカネはまた尻尾を軽く振った。
オカネ:「四つ目。君の目の色も左右で違うよ。」
キラナはぴたりと動きを止めた。
片方の前足を上げ、顔に触れてみる。
キラナ:「……どう違うの?」
オカネ:「右目はオレンジ色だね。それに、右のまぶたにも、特徴的な曲線のオレンジ色の模様がある。」
キラナは首を傾げた。
キラナ:「目の色だけじゃないんだ?」
オカネ:「そうだよ。まぶたにも模様があるんだ。左目は白色で、まぶたにも白い曲線模様が入っている。」
キラナはますます困惑した表情でオカネを見つめた。
キラナ:「左目が……白?」
オカネ:「そう。」
キラナは両目を前足で覆い、それからまた開いた。
キラナ:「自分じゃ色が分からないよ!」
オカネ:「あとで確認する方法を探そう。」
キラナ:「またあとでって言う!」
オカネ:「今は森の中にいるし、まだ友達も見つかっていないからね。」
キラナは少しだけ黙った。
体の変化に驚いているのは確かだが、オカネの言うことが正しいのも分かっていた。
オカネはキラナの後ろへ少し回り込み、背中を確認した。
オカネ:「五つ目。首の後ろには、白い硬い突起がたくさんある。小さな角が並んでいるように見えるね。」
キラナはすぐに振り返った。
キラナ:「トゲ?!」
首の後ろを前足で触ろうとしたが、うまく届かなかった。
キラナ:「首にもトゲがあるの?!」
オカネ:「だいたいそんな感じかな。本当に全部が角なのか、それとも別のものなのかは、まだ分からないけど。」
キラナ:「お願いだから、まだ何かあるなんて言わないでよ!」
オカネは少し黙った。
オカネ:「実は、もう一つあるんだ。」
キラナは青ざめた顔で彼を見た。
キラナ:「……やっぱり。」
オカネ:「ペガサスの翼に似た翼が一対あるよ。色は毛並みと同じ茶色だね。」
キラナはゆっくりと後ろを振り返った。
体の両側には、茶色い羽毛に覆われた一対の翼が折りたたまれていた。
彼女はその翼を見つめた。
それからオカネを見た。
そして、もう一度自分の翼を見た。
キラナ:「……。」
オカネ:「キラナ?」
キラナ:「私、翼まであるの?!」
驚いて小さく跳び上がった拍子に、翼が少しだけ開いた。
キラナはそのまま草の上に倒れ込んだ。
キラナ:「あああっ! 私、いったい何になっちゃったの?!」
オカネはすぐに彼女のそばへ駆け寄った。
オカネ:「キラナ、落ち着いて! 翼があるからって、すぐに飛べるとは限らないよ。どうやって使うのか、まだ分からないんだから。」
キラナ:「飛び方のことなんて考えてないよ! なんで翼があるのかって聞いてるの!」
オカネ:「それは僕も知りたいところだね。」
キラナはゆっくりと頭を持ち上げた。
キラナ:「……ほかにもある?」
オカネは尻尾を指した。
オカネ:「茶色い尻尾と、白い先端。それで最後だよ。」
キラナはもう一度、自分の尻尾を見た。
今度は叫ばなかった。
ただ、何とも言えない表情で見つめていた。
キラナ:「分かった。茶色い毛並み、三日月形の角が二本、ウサギみたいな長い耳、左右で色と模様が違う目、首の後ろにある小さな角みたいなトゲ、ペガサスの翼、それから尻尾……。」
彼女は言葉を切った。
キラナ:「……もう帰りたい。」
オカネは近づき、そっと頭をキラナの体に寄せた。
オカネ:「うん。分かってるよ。」
キラナはうつむいた。
目を覚ましてから初めて、彼女はもう叫ばなかった。ただ静かに座り、自分の体が本当に変わってしまったことを受け止めようとしていた。
キラナ:「オカネ……私、元の姿に戻れると思う?」
オカネは真剣な表情で彼女を見つめた。
オカネ:「まだ分からない。でも、原因は一緒に探そう。それに、アイカたちも見つけなきゃいけない。」
キラナはゆっくりとうなずいた。
キラナ:「うん。できるだけ落ち着いて行動するね。」
オカネ:「そのほうがいい。」
するとキラナは、急に真剣な表情で彼を見た。
キラナ:「でも、あとで鏡を見て、自分がすごく変な姿だったら、また大騒ぎしてもいいよね?」
オカネは思わず小さく笑った。
オカネ:「それはそのときに考えよう。」
キラナ:「オカネ!」
彼らが見知らぬ森で目を覚ましてから初めて、木々の間に小さな笑い声が響いた。
けれど、その笑い声は長く続かなかった。
キラナは、ここにいる理由を再び思い出したのだ。
キラナ:「オカネ、アイカとハルトとレンとカイト……。」
オカネは静かに首を横に振った。
オカネ:「どこにいるのかは分からない。」
オカネ:「あの花が僕たちを別々の場所へ運んだ可能性もある。みんな別の森にいるかもしれないし、街の近くにいるかもしれない。あるいは、ここからずっと離れた場所にいる可能性だってある。」
キラナ:「じゃあ、みんなを探さなきゃ。」
オカネ:「そうだね。でも、その前に自分たちがどこにいるのかを確かめて、安全な場所を見つける必要がある。」
オカネは木々の隙間に目を向けた。
遠くのほうに、かすかな光が見えていた。
オカネ:「この辺りには見覚えがある。森を抜ければ街にたどり着けるはずだよ。」
キラナはすぐに顔を向けた。
キラナ:「街? オカネの故郷の世界にある街なの?」
オカネ:「そうだよ。」
キラナは少し黙ってから、うなずいた。
友達を探したい気持ちはあったが、自分たちがどこにいるのかも分からないまま歩き回るのは賢明ではない。
キラナ:「分かった。私も一緒に行く。」
オカネはうなずいた。
オカネ:「僕のそばを離れないでね。街に着いたら、情報を集めよう。」
キラナは立ち上がり、体についた草を払い落とした。それから歩こうとした。
しかし、最初の一歩はとてもぎこちなかった。
前足と後ろ足を交互に動かしてみるものの、新しい体の動きにはまだ慣れていない。翼が少し揺れ、頭の横に垂れ下がった長い耳のようなものも、歩くたびに揺れていた。
キラナは立ち止まった。
キラナ:「……なんで歩くだけでも違う感じがするの?」
オカネ:「新しい体に慣れる必要があるからだよ。」
キラナ:「猫になってまだ数分なのに、また歩き方から覚え直さなきゃいけないなんて。」
オカネ:「新しい経験だと思えばいいさ。」
キラナは小さくため息をついた。
キラナ:「変なことを普通のことみたいに言うの、ほんとに上手だね。」
オカネ:「ありがとう。」
キラナ:「褒めてないよ!」
二匹は森の中を歩き始めた。遠くに見えるかすかな光を目指して進んでいく。
しばらく歩くと、木々の間隔が少しずつ広がってきた。
それまで道を塞いでいた茂みも少なくなり、森の地面は次第に歩きやすい場所へと変わっていった。道の両側には短い草が生えている。
そして、ついにキラナとオカネは森を抜けた。
キラナは目の前に広がる光景を見て、思わず足を止めた。
そこには、広大な草原が広がっていた。
緑色の草が風に吹かれてゆっくりと揺れ、小さな波のような模様を作りながら、遠くの丘のふもとまで続いている。
草原を一本の土の道が横切っていた。その道は、遠くに見える街へと続いている。
空気は暖かかった。
肌を刺すような暑さではなく、心地よい暖かさだった。十二月の終わりの桜森で感じていた寒さとは、まるで違う。
キラナは驚いた様子で周囲を見回した。
キラナ:「わあ……。」
道の端まで歩き、広がる草原を眺める。
キラナ:「オカネ、ここは本当に桜森とは全然違うね。」
オカネ:「当然だよ。もう君の世界にはいないんだから。」
キラナは空を見上げた。
そして、すぐに言葉を失った。
二匹の頭上には、黄金色の月が浮かんでいた。
その周りには、ダイヤモンドのように輝く星々が散りばめられている。
月明かりが草原を照らし、草の先端が柔らかく輝いて見えた。
空は暗かったが、不思議と怖さは感じなかった。
むしろ、どこか美しく、心が落ち着くような景色だった。
キラナはさらに顔を上げた。
キラナ:「月が金色だよ?!」
少し先を歩いていたオカネが振り返った。
オカネ:「そうだね。」
キラナ:「それに星も! なんであんなにキラキラしてるの?!」
オカネ:「星はもともとキラキラして見えるものだよ。」
キラナ:「でも、ここの星はダイヤモンドみたい!」
キラナは空を眺めながら、ゆっくりと歩き続けた。
そのせいで、自分が角や翼や尻尾を持つ猫の姿になっていることさえ、少しの間忘れかけていた。
オカネは横目でキラナを見た。
オカネ:「キラナ。」
キラナ:「なに?」
オカネ:「そんなに上ばかり見ていたら、つまずくよ。」
キラナは慌てて顔を下ろした。
キラナ:「あっ!」
目の前の道を確認し、今度は気をつけながら歩き始める。
キラナ:「ごめん。こんな空、今まで見たことがなかったから。」
オカネ:「気持ちは分かるよ。」
キラナはオカネの隣を歩いた。
キラナ:「じゃあ、オカネの故郷では月はいつも金色なの?」
オカネ:「少なくとも、今夜の月はそう見えるね。空の状態によって、色や見え方が変わることもあるんだ。」
キラナ:「星は?」
オカネ:「街に着けば、ほかにもいろいろなものが見られるよ。」
キラナはすぐに顔を向けた。
キラナ:「これよりすごいものがあるの?」
オカネは小さく微笑んだ。
オカネ:「どうだろうね。」
キラナの表情が明るくなる。
しかし、数歩進んだところで、彼女の表情は再び真剣になった。
キラナ:「オカネ、オカネの故郷の世界を見られるのは嬉しいよ。でも、やっぱり友達のことが心配。」
オカネはうなずいた。
オカネ:「僕もみんなのことが心配だよ。決して忘れたりしない。」
キラナ:「街に着いたら、みんなを見かけた人がいないか聞いてみよう。」
オカネ:「そうだね。力になってくれそうな人たちに尋ねてみよう。」
キラナは前方の道を見つめた。
キラナ:「それから、みんなを見つけたら、全員で私の世界に帰る方法を探さなきゃ。」
オカネは少し黙ってから答えた。
オカネ:「できる限りのことをしよう。」
キラナはうなずいた。
オカネが確かな約束をできないことは分かっていた。それでも、今は目指すべきものがはっきりしている。
二匹は草原を歩き続けた。
やがて、遠くに見えていた街の形が、少しずつはっきりしてきた。
尖った屋根を持つ高い建物が、街の城壁の向こうに立ち並んでいる。建物の窓からは金色の明かりが漏れていた。
屋根の間にはいくつもの塔がそびえ、街へ続く入り口の周辺では、大勢の人々が行き交っているようだった。
キラナは少し歩く速度を上げた。
キラナ:「あそこが街なの?」
オカネ:「そうだよ。もうすぐ着く。」
キラナはますます興味津々で街を眺めた。
キラナ:「まるでファンタジーの物語に出てくる街みたい……。」
オカネ:「実際に見てみれば分かるよ。」
二匹は道を進み、ついに街の門の前へたどり着いた。
そこには、二本の石造りの塔に挟まれた立派な門がそびえ立っていた。
門は灰色の石で造られており、上部にはシンプルな彫刻が施されている。門の両側にはランタンがいくつも吊るされ、入り口とそこに立つ門番たちを照らしていた。
門の向こうには、石畳の道や尖った屋根を持つ昔ながらの建物、明かりの灯った窓、そして通りを歩く人々の姿が見えた。
何人かの門番は軽い防具を身につけていた。別の者たちは、胸元に街の紋章が入った長いコートを着ている。
キラナは歩く速度を落とした。
キラナ:「わあ……本当に魔法の街みたい。」
オカネ:「あまり驚きすぎないでね。まずは門番を通らなきゃいけないから。」
オカネは先に進み、門へ向かった。
入り口を確認していた門番の一人が顔を上げた。
その門番は、暗めの金髪に青い目をしていた。肩には金属製の防具をつけ、濃い青色の門番用コートを着ている。
彼はオカネを見ると、驚いたような表情を浮かべた。
門番:「……ソラト?」
オカネは足を止めた。
オカネ:「こんばんは、ガレス。」
ガレスと呼ばれた門番は、すぐに近づいてきた。
ガレス:「まさか……本当に君なのか!」
キラナはオカネの後ろで、思わず顔を上げた。
キラナ(心の中):「ソラト?」
彼女はあることを思い出した。
オカネの本当の名前。
2019年8月3日に、オカネが初めて彼女の世界にやって来たときから知っている名前だった。
キラナ(心の中):「そうだった……この世界ではソラトって呼ばれているんだ。」
その一方で、ガレスは信じられないという表情でオカネを見つめていた。
ガレス:「最後に会ってから、いったいどれくらい経ったんだ? 君がいなくなってから、ほとんど何の知らせもなかったんだぞ!」
ソラト:「話せば長くなるよ。」
ガレス:「長くなる? 何も言わずに突然いなくなって、今度は何事もなかったみたいに夜の門へ戻ってくるなんて!」
ソラト:「心配をかけるつもりはなかったんだ。」
ガレスはため息をつき、それから安心したように微笑んだ。
ガレス:「まあ、無事に戻ってきてくれて何よりだよ。でも待てよ……君は本来、ここからずっと遠くにいたはずじゃないのか?」
ソラトはうなずいた。
ソラト:「確かに遠くにいたよ。ちょっと普通ではない出来事があって、ようやく戻ってきたところなんだ。」
ガレス:「普通ではない出来事?」
ソラトはキラナのほうをちらりと見た。
ソラト:「落ち着いてから説明するよ。今は街に入らせてもらいたい。」
そこでガレスは、ソラトの後ろに何かいることに気づいた。
そこには、茶色い毛並みの猫が立っていた。
白い角が二本、頭の上で曲がっている。ウサギの耳のような長いものが垂れ下がり、茶色い翼と先端の白い尻尾も見える。
ガレスは瞬きをした。
キラナを見る。
それからソラトを見る。
そして、もう一度キラナを見た。
ガレス:「……ソラト。」
ソラト:「どうしたの?」
ガレス:「その子は誰なんだ?」
キラナはすぐに姿勢を正した。
キラナ(心の中):「今度は私が自己紹介する番?!」
ソラトはキラナに顔を向け、ささやくように言った。
ソラト:「キラナ、自分で自己紹介してみたら?」
キラナは気まずそうに彼を見た。
キラナ(心の中):「まだこの体にも慣れてないのに、どうやって普通に自己紹介すればいいの?!」
それでも、彼女は少し前へ出た。
キラナ:「こ、こんばんは……。」
ガレスはキラナがよく見えるように、少しかがんだ。
ガレス:「こんばんは。僕はガレス。この街の門番の一人だよ。」
キラナは、こんな状況でも失礼のない話し方をしようと頑張っていた。
キラナ:「わ、私は……ヒツキです。」
ソラトは彼女をちらりと見たが、口を挟まなかった。
キラナは、この世界で自己紹介するために、今さっき決めた名前を使うことにしたのだ。
自分が別の世界から来た人間で、今はキャット・シーの姿になっていることは、まだ話したくなかった。
ガレスは親しげにうなずいた。
ガレス:「ヒツキか。いい名前だね。会えて嬉しいよ。」
キラナ:「こ、こちらこそ。」
ガレスはキラナの角や翼に目を向けたが、それ以上詳しく尋ねることはなかった。
ガレス:「こんな姿のキャット・シーは初めて見たよ。模様も体の特徴も、とても珍しいね。」
キラナは何とか笑顔を作った。
キラナ:「えへへ……ありがとうございます。」
キラナ(心の中):「私だって、こんな姿になったのは初めてだよ!」
ガレスは再びソラトのほうを向いた。
ガレス:「ヒツキは旅の仲間なのか?」
ソラト:「そうだよ。一緒に街へ向かっているところなんだ。」
ガレス:「そうか。それなら入っていいよ。通りはまだ賑やかだけど、気をつけてね。新年祭の準備が進んでいるから。」
ソラト:「新年祭?」
ガレス:「まだ聞いていなかったのか? 本格的な準備は明日からだけど、商人たちの中には今夜から屋台を開いたり、商品を用意したりしている人もいるんだ。」
ソラトはうなずいた。
ソラト:「なるほど。教えてくれてありがとう、ガレス。」
ガレス:「気にしないでくれ。ソラト、また会えて嬉しいよ。」
ソラトは小さく微笑んだ。
ソラト:「僕も戻ってこられて嬉しいよ。」
ガレスは道を空け、二匹が門を通れるようにした。
キラナは小さくお辞儀をした。
キラナ:「ありがとうございます!」
ガレス:「どういたしまして、ヒツキ。この街で楽しい時間を過ごせるといいね。」
キラナはうなずき、ソラトの後について門をくぐった。
門の内側に入ると、キラナはすぐにオカネのそばへ近づいた。
キラナ:「オカネ……。」
ソラトは振り返った。
ソラト:「どうしたの?」
キラナ:「さっきの門番さん、あなたのことをソラトって呼んでたね。」
ソラト:「僕の名前だからね。」
キラナ:「それは分かってるよ! ただ……ほかの人がその名前で呼んでいるのを聞くと、なんだか不思議な感じがするんだ。」
ソラトは微笑んだ。
ソラト:「君の世界では、君たちは僕のことをオカネって呼んでいた。でも、ここではみんな僕をソラトとして知っているんだ。」
キラナはゆっくりとうなずいた。
キラナ:「分かった。じゃあ、この世界の人たちの前では、その名前で呼ばれていることを覚えておくね。」
ソラトは少し面白そうに彼女を見た。
ソラト:「でも、二人きりのときは今までどおりオカネって呼んでもいいよ。」
キラナ:「もちろん! もうその名前に慣れちゃったからね。」
ソラトは二本の尻尾を揺らした。
ソラト:「それじゃあ行こう。休める場所を探して、これからどうするか考えないと。」
キラナは、賑やかな街の中へ入っていくソラトについていった。
門をくぐった途端、キラナは街の雰囲気にすっかり目を奪われた。
石畳の道が、昔ながらの建物の間をまっすぐに伸びている。
尖った屋根を持つ二階建ての家々が並び、小さな店や宿屋、食堂、魔法道具を売っているらしい建物も見えた。
通りのあちこちにはランタンが吊るされ、暖かな金色の光を放っている。
店の看板には、キラナが知らない文字が書かれていた。しかし、周囲の人々が話していることは、ほとんど理解できた。
それが、キラナにとって少し安心できることだった。
キャット・シーの姿に変わってしまったものの、この世界の人々が使っている言葉を理解し、話すことはできるらしい。
ある店の前では、商人が色とりどりの小物を入れた木箱を並べていた。その近くでは、二人の人が長い布を巻いたものを屋台へ運んでいる。
少し離れたところでは、小さなランタンを持った子供たちが走り回っていた。
キラナはあちこちを見回した。
キラナ:「ねえ、オカネ……。」
ソラトは彼女を見た。
ソラト:「ん?」
キラナ:「どうして街はこんなに賑やかなの? もう夜なのに。」
ソラトは周囲の様子を眺めた。
ソラト:「見たところ、この街は新年祭の準備をしているみたいだね。」
キラナは、布やランタンで飾られた屋台のほうを見た。
キラナ:「新年祭?」
ソラト:「そうだよ。必要なものを買いに来ている人もいれば、売る商品を準備している商人もいるんだろうね。」
キラナは、建物の前に飾りを取り付けている人たちを眺めた。
キラナ:「でも、ガレスさんは本格的な準備は明日からって言ってたよね?」
ソラト:「そうだね。だから今夜はまだ準備の初期段階なんだろう。明日になれば、もっと賑やかになるかもしれないね。」
キラナは笑顔になった。
キラナ:「わあ……じゃあ、私はお祭りの直前に来たんだね!」
ソラトは少し面白そうに彼女を見た。
ソラト:「まるで旅行に来たみたいな言い方だね。」
キラナは一瞬黙った。
そして、自分たちにはまだ解決しなければならない問題がたくさんあることを思い出し、少しうつむいた。
キラナ:「あ……そうだった。」
ソラトは優しい声で続けた。
ソラト:「アイカたちを探すことを忘れちゃいけない。それに、さっきの花について調べたり、今の状況を理解したりする必要もある。」
キラナはうなずいた。
キラナ:「分かってる。目的を忘れちゃだめだよね。」
それから、もう一度賑やかな通りを眺めた。
キラナ:「でも、全部が落ち着いたら……ここの新年祭を見てみたいな。」
ソラト:「状況が許せば、見に行こう。」
キラナの表情が少し明るくなった。
二匹はそのまま、大通りを歩き続けた。
しかし、数歩進んだところで、キラナは小さな建物の近くにある石のベンチに座っている二人の少女に気づいた。
二人とも、キラナと同じくらいの年頃に見えた。
一人は赤みがかった茶色の髪をしていて、うつむいたまま座っていた。泣いてはいないものの、肩はこわばり、表情も沈んでいる。
その隣では、淡い金髪の少女が優しい口調で話しかけ、彼女を慰めていた。
キラナは歩く速度を落とした。
数秒間、二人の様子を見つめる。
ソラトはその変化に気づいた。
ソラト:「キラナ?」
キラナは、うつむいている少女を見た。
キラナ:「あの子、何か困っているみたい。」
ソラト:「声をかけてみたいの?」
キラナはうなずいた。
キラナ:「助けが必要かどうか、聞いてみたいんだ。」
ソラトは特に驚いた様子もなかった。
ソラト:「やっぱり、そう言うと思ったよ。」
キラナ:「どういう意味?」
ソラト:「何でもないよ。」
ソラトは小さく微笑み、キラナの後について歩き始めた。
キラナは慎重に二人の少女へ近づいた。
キラナ:「あの……すみません。」
金髪の少女が顔を上げた。
金髪の少女:「はい?」
キラナは、二人を不安にさせないように少し距離を空けて、ベンチの空いている場所に座った。
キラナ:「突然ごめんなさい。さっきからお二人の様子が気になっていて……何かあったんですか?」
金髪の少女は隣にいる友達をちらりと見た。
赤茶色の髪の少女は、まだうつむいたままだった。
しばらくしてから、金髪の少女が答えた。
金髪の少女:「友達がね、誰かの持ち物をうっかり壊しちゃって。それで落ち込んでいるの。」
キラナは首を傾げた。
キラナ:「何を壊しちゃったの?」
金髪の少女は、ベンチの隣に置かれている小さな物を指さした。
それは、明るい色の薄い素材で作られた花の形の飾りだった。いくつかの部分が折れていて、中央にもひびが入っている。
金髪の少女:「これは、私たちが運んでいた飾りなの。新年祭の準備のためにお店の人に届ける予定だったんだけど、歩いているときにレイチェルがうっかり落としちゃって。」
うつむいていた少女が、ようやく少し顔を上げた。
レイチェル:「壊すつもりなんてなかったの……。」
声は小さかった。
レイチェル:「大切に運ぼうとしていたのに、通りかかった人を避けようとして横に動いたら、手が当たっちゃって。それで飾りが道に落ちたの。」
彼女は壊れた飾りを見つめた。
レイチェル:「直そうとしたけど、折れた部分がうまくくっつかなくて……。持ち主の人に怒られるんじゃないかって心配なの。」
金髪の少女は、優しくレイチェルの肩をなでた。
金髪の少女:「さっきも言ったでしょ。事故は誰にでも起こることだよ。それに、わざとやったわけじゃないんだから。」
レイチェル:「でも、やっぱり申し訳なくて……。」
キラナは、二人の話を黙って聞いていた。
その気持ちはよく分かる。
たとえわざとではなかったとしても、誰かの大切なものを壊してしまったら、申し訳ない気持ちになることはある。
キラナ:「悲しくなる気持ちは分かるよ。」
レイチェルはキラナのほうを向いた。
キラナ:「人の物を壊してしまったら、申し訳なく思うのは当然だと思う。特に、お祭りのために大切な物だったなら、なおさらだよね。」
レイチェルは小さくうなずいた。
キラナ:「でも、もう全部終わりだって考える必要はないよ。何か直す方法があるかもしれないから、一緒に考えてみよう。」
金髪の少女は少し驚いたような顔をした。
金髪の少女:「何かいい考えがあるの?」
キラナは壊れた飾りを見つめ、それから周囲を見回した。
残念ながら、キラナは修理に使える道具を持っていなかった。似たような飾りを作る方法も分からない。
しかし、道の端に落ちている小さな木の枝が目に入った。
その瞬間、キラナはあることを思いついた。
彼女はソラトのほうを向いた。
キラナ:「オカネ、あそこに落ちている枝を取ってくれる?」
ソラトはキラナの視線を追った。
ソラト:「あの枝?」
キラナ:「うん! お願い!」
ソラトは尻尾を持ち上げた。
白い尻尾の先端がほのかに光り、その周りに小さな魔法陣が現れた。
道の端に落ちていた枝が、白い光に包まれる。
枝はゆっくりと地面から浮かび上がった。
そのまま空中を移動し、キラナの目の前で止まる。
キラナは両方の前足で枝を受け取った。
キラナ:「ありがとう、オカネ!」
ソラト:「どういたしまして。」
レイチェルと金髪の少女は、目を大きく見開いて二匹を見つめた。
レイチェル:「あの猫……魔法を使ったの?」
金髪の少女はオカネの尻尾を見て、ゆっくりとうなずいた。
金髪の少女:「尻尾が二本あるから、キャット・シーなんだね、レイチェル。」
レイチェル:「あっ、そうなんだ。」
キラナは一瞬ソラトのほうを見たが、詳しいことを尋ねる時間はなかった。
二人を助ける方法を考えていたからだ。
キラナ:「ちょっと試してみてもいい?」
金髪の少女はうなずいた。
金髪の少女:「もちろん。何をするの?」
キラナはベンチの前にある平らな石畳を指さした。
キラナ:「オカネ、この枝を使って何か描いてくれる?」
ソラトは枝を見た。
ソラト:「何を描けばいいの?」
キラナは笑顔になった。
キラナ:「お花!」
ソラトは瞬きをした。
ソラト:「お花?」
キラナ:「うん! にっこり笑った顔のあるお花。真ん中は丸くして、その周りに十二枚のカラフルな花びらをつけてほしいの。」
ソラトは少し黙った。
キラナがどんな絵を描きたいのか、すぐに理解したようだった。
ソラト:「前に君が見せてくれた花の絵みたいな感じ?」
キラナはうなずいた。
キラナ:「そう! でも、特定の絵をそのまま真似する必要はないよ。明るくて、シンプルなお花にしよう。」
ソラトはベンチから降り、石畳の近くに立った。
尻尾を枝のほうへ向ける。
魔法の力によって枝が浮かび上がり、石畳の上を動き始めた。
最初の線が描かれる。
大きな円だった。
続いて、二つの目と笑った口が描かれ、その周りに十二枚の花びらが加えられていく。
キラナはその様子をじっと見守っていた。
キラナ:「いい感じ! 花びらをもう少し大きくしてみて。」
枝は指示に合わせて動いた。
キラナ:「それから、真ん中はあまり小さくしないでね。お花の顔がはっきり見えるようにしたいから。」
ソラトは絵の形を調整した。
やがて、石畳の上にシンプルな花の絵が完成した。
二人の少女は、興味津々でそれを見つめていた。
レイチェル:「かわいい絵……。」
金髪の少女:「こんなふうに絵を描くキャット・シーは初めて見たよ。」
キラナは二人に微笑んだ。
キラナ:「もう少し待ってね。まだ終わってないよ。」
キラナはソラトの近くに寄り、二人の少女に聞こえないように小さな声で尋ねた。
キラナ:「オカネ、さっきみたいな魔法って、どうやって使うの?」
ソラトはキラナのほうを向いた。
ソラト:「まだキャット・シーの体で魔法を使ったことがないの?」
キラナは首を横に振った。
キラナ:「だって、ついさっきキャット・シーになったばかりなんだよ!」
ソラトはうなずいた。どうやら、もっと簡単に説明する必要があると気づいたようだった。
ソラト:「そうだったね。キャット・シーの場合、尻尾は魔法を導くための通り道になるんだ。何をしたいのかを頭の中で集中して、それから魔力を尻尾に流していくんだよ。」
キラナは自分の尻尾を見つめた。
先端は白い。
キラナ:「つまり、やりたいことを考えて、尻尾を向ければいいの?」
ソラト:「だいたいはそういうこと。でも、魔法はただ結果を想像するだけじゃない。魔力の流れをうまく調整する必要もあるんだ。焦りすぎると、思ったとおりにならないこともあるからね。」
キラナは真剣にうなずいた。
キラナ:「分かった。ゆっくり試してみる。」
ソラト:「無理はしないでね。君がどれくらい魔法を使えるのか、まだ分からないんだから。」
キラナは完成した花の絵をもう一度見た。
そして、一つの考えが浮かんだ。
キラナ:「それなら、この絵に色をつけてみたいな。」
ソラトは少し驚いたようにキラナを見た。
ソラト:「今、魔法を使ってみるの?」
キラナ:「簡単なことを試してみたいだけだよ。うまくいかなくても大丈夫。」
ソラトはキラナの表情をしばらく見つめた。
それから、うなずいた。
ソラト:「分かった。でも、ゆっくりやるんだよ。」
キラナは絵の隣に立った。
そして、尻尾を持ち上げた。
最初は何も起こらなかった。
キラナは少し目を閉じ、目の前の花の絵に意識を集中させる。
ソラトが描いた線を思い浮かべ、それがもっと明るく、色鮮やかになっていく様子を想像した。
少しずつ、尻尾の付け根に温かな感覚が生まれた。
尻尾の先端が小さく震える。
キラナは目を開けた。
キラナ:「……何か感じる。」
ソラトは注意深く様子を見守った。
ソラト:「焦らないで。絵に意識を向け続けて。」
キラナはうなずいた。
尻尾を花の絵に向ける。
白い光が尻尾の先端に現れた。
その光は絵の表面へと広がり、きらきらと輝く透明な霧のようなものを作り出した。
キラナは息をのんだ。
キラナ:「わあ……。」
光る霧が花の絵を包み込む。
すると、ただの枝の線だった部分が少しずつ変化し始めた。
中央部分は茶色になった。
二つの目は明るい黄色に変わり、中心には茶色っぽい輝きが生まれる。
口は大きな笑顔になり、その内側は濃い赤色に染まった。
そして、十二枚の花びらにも、それぞれ違う色がつき始めた。
赤。
オレンジ。
黄色。
緑。
青。
紫。
さらにほかの色も加わり、花の顔を囲む鮮やかな輪を作っていく。
白い光はしばらくきらめき、やがてゆっくりと消えていった。
花の絵は、まるで誰かが石畳の上に絵の具で描いたかのように、色鮮やかな姿へと変わっていた。
レイチェルは目を大きく見開いて立ち尽くした。
レイチェル:「わあ……。」
金髪の少女も近づいてきた。
金髪の少女:「すごくきれい!」
二人は笑顔でその絵を眺めた。
さっきまで落ち込んでいたレイチェルの表情も、少しずつ明るくなっていく。
レイチェル:「私、このお花好き!」
金髪の少女:「私も! 顔がすごくかわいいね!」
キラナは尻尾を下ろした。
先端の光は消え、少し疲れたような感覚があったものの、立っていられないほどではなかった。
彼女は二人を見て、ほっとしたように微笑んだ。
キラナ:「気に入ってくれてよかった。」
レイチェルは何度もうなずいた。
レイチェル:「ありがとう! さっきまではすごく落ち込んでいたけど、今は少し気持ちが落ち着いたよ。」
金髪の少女もキラナに微笑みかけた。
金髪の少女:「私からもお礼を言わせてね。レイチェルはずっと自分を責めていたから、どうやって元気づければいいのか分からなかったの。」
キラナはゆっくりと首を横に振った。
キラナ:「そんなにお礼を言わなくてもいいよ。私はただ、手伝いたかっただけだから。」
キラナは再びベンチに上がった。
その後、オカネもベンチに上がり、キラナの隣に座った。
ソラト:「いい考えだったね、キラナ。」
キラナは彼のほうを向いた。
キラナ:「えっ、そうかな? 別に普通のことだよ。」
ソラト:「でも、誰かを元気づけるために、こんなシンプルな絵を使おうと思いつく人ばかりじゃないよ。」
キラナは小さく微笑んだ。
キラナ:「ただ、二人が少しでも元気になれば、もっと落ち着いて問題を考えられるんじゃないかと思っただけ。」
ソラトはうなずいた。
ソラト:「そして、実際にそうなったね。」
キラナは再びレイチェルと友達のほうを見た。
キラナ:「そういえば、まだ二人の名前を聞いてなかったね。」
二人の少女は顔を見合わせ、それから微笑んだ。
先にレイチェルが口を開いた。
レイチェル:「私の名前はレイチェル。」
彼女は軽く頭を下げた。
レイチェル:「十二歳だよ。もうすぐ十三歳になるの。」
キラナは固まった。
キラナ(心の中):「十二歳? もうすぐ十三歳?」
レイチェルは続けた。
レイチェル:「実は、手芸や工作が好きなんだ。でも、緊張しているときは、ちょっと不注意になっちゃうことがあるの。」
キラナはゆっくりとうなずいた。まだ、その年齢のことを頭の中で整理しているところだった。
続いて、金髪の少女が自己紹介をした。
アピカ:「私はアピカ。よろしくね!」
彼女は親しげに微笑んだ。
アピカ:「十三歳で、もうすぐ十四歳になるよ。」
キラナは再び固まった。
十二歳で、もうすぐ十三歳。
十三歳で、もうすぐ十四歳。
キラナはゆっくりと二人を見つめた。
キラナ(心の中):「ちょっと待って……レイチェルは私とほとんど同い年で、アピカも私と同い年くらいなんだ!」
キラナは、とても驚くようなことを発見した気分だった。
彼女自身も、キャット・シーになる前は十三歳だった。そんな彼女が今、見知らぬ世界で、自分とあまり年の変わらない二人の少女に出会ったのだ。
それに、レイチェルとアピカの性格は、どこか自分自身を思い出させるものだった。
レイチェルは失敗するとすぐに申し訳なく感じてしまう。一方、アピカは友達を落ち着かせようとし、一人で問題を抱え込ませないようにしていた。
キラナは、自分も困っている人を見過ごせないことが多いと思い出した。
キラナ(心の中):「私って、どこの世界に行っても、誰かを助けることになるのかな?」
ソラトはキラナを横目で見た。
どうやら、彼女が何を考えているのか、何となく分かったようだった。
そのとき、キラナの頭の中に突然声が響いた。
ソラト(テレパシー):「また変なことを考えているんじゃない?」
キラナはびくっとした。
左右を見回し、誰が話しかけてきたのかを探す。しかし、誰も彼女に向かって話している様子はなかった。
やがて、彼女の視線はソラトのところで止まった。
キラナ:「えっ?!」
ソラトは何事もなかったかのように彼女を見つめていた。
キラナ:「オ、オカネ?!」
ソラト:「どうしたの?」
キラナは目を見開いて彼を見つめた。
キラナ:「今の……あなたが話したの?!」
ソラト:「そうだけど。それがどうかした?」
キラナ:「でも、口を動かしてなかったよ!」
ソラトは瞬きをした。
ソラト:「ああ、さっきのことか。」
キラナはさらに近づいた。まだ混乱している様子だった。
キラナ:「ちょっと待って! どうして声を出さずに話せるの?! はっきり聞こえたのに、あなたは全然しゃべってなかったよ!」
ソラトはようやく、キラナが何に驚いているのか理解した。
ソラト:「ああ、そうか。まだテレパシーのことを知らなかったんだね。」
キラナ:「テレパシー?」
ソラトはうなずいた。
ソラト:「そう。さっきは君の心に直接話しかけたんだ。だから、声に出さなくても言葉を伝えられるんだよ。」
キラナはしばらく黙り込んだ。
キラナ:「じゃあ……さっき聞こえた声は、本当にあなたの声だったの?」
ソラト:「もちろん。ほかに誰がいると思ったの?」
キラナ:「そんなの分かるわけないよ! 突然、頭の中から声が聞こえてきたんだから!」
ソラトは尻尾を軽く揺らした。キラナの反応が少し面白かったらしい。
ソラト:「落ち着いて。あれはただのテレパシーだよ。君に何か変なことをしたわけじゃない。」
キラナ:「そんなことを平然と言わないでよ! 頭の中で誰かが突然話し始めたのかと思ったんだから!」
ソラト:「じゃあ、今は誰が話しているのか分かったね。」
キラナは信じられないという表情で彼を見た。
キラナ:「でも、どういう仕組みなの? 私が考えていることも全部聞こえちゃうの?」
ソラト:「正確には違うよ。テレパシーは、言葉や考えを相手に伝えるために使える能力なんだ。でも、それだけで僕が君の頭の中にあることを全部知るわけじゃない。」
キラナは少し安心したようだった。
キラナ:「よかった……。」
ソラト:「どうして? 僕に知られたくないことでも考えていたの?」
キラナ:「そ、そんなことないよ!」
ソラト:「それなら慌てなくてもいいのに。」
キラナは息を吐き、それからますます興味深そうにソラトを見つめた。
キラナ:「じゃあ、私にもテレパシーが使えるの?」
ソラト:「使える可能性はあるね。今の君はキャット・シーの体だから、覚えられるかもしれない。でも、君がどんな能力を持っているのか、まだ分からないんだ。」
キラナの表情が一気に明るくなった。
キラナ:「本当?! じゃあ、どうすればいいの?」
ソラト:「集中して、僕に伝えたい言葉を頭の中で思い浮かべてみて。口には出さずに、言葉だけを考えるんだ。そして、僕に意識を向けてみて。」
キラナは真剣な表情でうなずいた。
少し目を閉じ、ソラトの説明どおりに試してみる。
キラナ(心の中):「よし……伝えたい言葉を考えて、オカネに向ければいいんだよね?」
数秒が過ぎた。
何も起こらなかった。
キラナは片目を開け、ソラトを見た。
キラナ:「できなかった……。」
ソラト:「まだ一回しか試していないでしょ。もう一度やってみて。」
キラナは息を吸い込み、再び集中した。
キラナ(心の中):「オカネ、私の声が聞こえる?」
すると、ソラトが突然顔を上げた。
ソラト(テレパシー):「聞こえるよ。ちゃんと届いている。」
キラナはすぐに目を開いた。
キラナ:「できたの?!」
アピカとレイチェルは突然の大声に反応し、キラナのほうを向いた。
アピカ:「どうしたの?」
キラナは慌てて首を横に振った。
キラナ:「な、何でもないよ! ちょっと驚いただけ!」
レイチェルは不思議そうにキラナを見たが、やがてまた微笑んだ。
キラナは再びソラトを見て、テレパシーで話しかけてみた。
キラナ(テレパシー):「オカネ! 本当にできたよ!」
ソラト(テレパシー):「うん。でも、僕の頭の中でも大声を出さないでね。」
キラナ(テレパシー):「大声なんて出してないよ!」
ソラト(テレパシー):「いや、出しているよ。」
キラナは不満そうに頬を膨らませた。
キラナ(テレパシー):「もう、意地悪!」
ソラト(テレパシー):「ありがとう。」
キラナは言い返そうとしたが、結局やめた。
それよりも、今まで想像もしなかった能力を覚えられたことに、まだ驚いていたのだ。
キラナ(テレパシー):「じゃあ、こうやって話せば、アピカとレイチェルには聞こえないの?」
ソラト(テレパシー):「そうだよ。お互いに相手を意識してテレパシーを使えば、二人には僕たちの会話は聞こえない。」
キラナ(テレパシー):「わあ……この能力、意外と便利だね!」
ソラト(テレパシー):「ほかの人には話せないことを伝えたいときには、特に便利だよ。」
キラナは小さくうなずいた。
ソラトが最初にテレパシーを使った理由も、少し分かってきた。
しかし、まだ見つかっていない友達のことを思い出すと、キラナの表情は少しずつ真剣になっていった。
キラナ(テレパシー):「オカネ……私、やっぱりアイカたちのことが心配。」
ソラト(テレパシー):「分かっているよ。必ずみんなを見つける方法を探そう。」
キラナ(テレパシー):「みんなが無事だといいな。」
ソラトは少し黙ってから答えた。
ソラト(テレパシー):「僕もそう願っているよ。」
キラナは少しうつむき、静かに息を吐いた。
まだ元の世界へ帰る方法は分からない。
それでも、旅の途中で役に立つかもしれない新しい能力を、一つ覚えることができた。
ソラトは小さく微笑みながらキラナを見つめた。
ソラト(テレパシー):「君は本当に変わらないね、キラナ。」
キラナ(テレパシー):「どういう意味?」
ソラト(テレパシー):「この世界に来たばかりで、キャット・シーの姿になって、友達までいなくなって、帰る方法も分からない。それなのに、ほかの人を助ける時間はちゃんと作るんだから。」
キラナは少しうつむいた。
キラナ(テレパシー):「自分たちに問題がたくさんあるのは分かってるよ。でも、誰かを助けられるなら、助けたっていいでしょ?」
ソラトはしばらく返事をしなかった。
それから、微笑んだ。
ソラト(テレパシー):「僕もそう思うよ。」
キラナは小さく鼻を鳴らし、それから再び二人の少女のほうを向いた。
アピカ:「そういえば、あなたの名前を聞いていなかったね。」
キラナは少し黙った。
この世界では、まだ本当の自分について説明することができない。
そのため、ガレスに自己紹介したときと同じ名前を使うことにした。
キラナ:「私の名前はヒツキだよ。」
アピカは大きく微笑んだ。
アピカ:「ヒツキ! いい名前だね!」
レイチェルも微笑んだ。
レイチェル:「ヒツキに会えて嬉しいよ。」
キラナは少し安心した。
キラナ:「私も二人に会えて嬉しいよ。」
するとアピカはソラトを見た。
アピカ:「ところで、この猫の名前は何ていうの?」
ソラトはきちんと姿勢を整えた。
ソラト:「僕の名前はソラト。よろしくね。」
レイチェルはうなずいた。
レイチェル:「こちらこそ、よろしくね、ソラト!」
キラナは二人の様子を見てから、道に描かれた花の絵へ目を向けた。
キラナ:「ところで、レイチェル。さっき壊しちゃった飾りのこと、まだ気にしてる?」
レイチェルはその飾りを見つめた。
まだ少し心配そうではあったが、先ほどほど暗い表情ではなかった。
レイチェル:「まだ申し訳ない気持ちはあるよ。でも、もう一度直せるか試してみたい。それから、持ち主の人にも謝ろうと思う。」
キラナは微笑んだ。
キラナ:「それがいいと思うよ。失敗を完全になくすことはできないけど、その後で責任を持って行動することはできるからね。」
アピカもうなずいた。
アピカ:「私も一緒に持ち主のところへ行くよ。」
レイチェルは友達に感謝するように目を向けた。
レイチェル:「ありがとう、アピカ。」
キラナは二人を見て、ほっとした。
壊れた飾りの問題がすぐに解決したわけではない。それでも、レイチェルが少し落ち着いて、問題に向き合おうとしてくれたことが嬉しかった。
そのとき、アピカが突然、興味深そうにキラナを見た。
アピカ:「ねえ、ヒツキはどこに住んでいるの?」
キラナはぴたりと固まった。
キラナ:「……え?」
アピカは少し言い直した。
アピカ:「つまり、ソラトと一緒に来たでしょ? 二人はこの街に住んでいるの?」
キラナはすぐには答えられなかった。
ソラトのほうをちらりと見る。
ソラトも、何とも言えない表情で彼女を見返した。
そして、テレパシーで何気なく話しかけてきた。
ソラト(テレパシー):「実は、君はまだこの世界に住む場所がないんだよ。」
キラナは完全に固まった。
キラナ(テレパシー):「オカネ?! なんで今それを言うの?!」
ソラト(テレパシー):「だって、アピカが今聞いてきたからね。」
キラナ(テレパシー):「そんなこと分かってるよ! でも、どうしてそんなに落ち着いていられるの?!」
ソラトはただ微笑んでいた。
その一方で、アピカとレイチェルは、まだ親しげな表情でキラナの返事を待っていた。
アピカ:「ヒツキ?」
レイチェル:「まだ泊まる場所が見つかっていないの?」
キラナは口を開いたが、言葉が出てこなかった。
彼女は今、見知らぬ世界に来たばかりだった。
体はキャット・シーに変わってしまった。
四人の友達はどこかへ消えてしまった。
元の世界へ帰る方法もまだ分からない。
そして今度は、住む場所について答えなければならない。
キラナ(心の中):「本当に、この世界にはまだ泊まる場所がないんだよね……。」
結局、キラナは小さくうなずいた。
キラナ:「う、うん。今のところ、泊まれる場所はまだないんだ。」
アピカとレイチェルは顔を見合わせた。
そして、アピカがにっこりと笑った。
アピカ:「それなら、しばらく私たちと一緒に住まない?」
キラナは勢いよく顔を上げた。
キラナ:「えっ?!」
レイチェルも元気よくうなずいた。
レイチェル:「そうだよ! 私たちの家はここから少し遠いけど、泊まる場所がないなら、一緒に来てもいいよ!」
キラナは言葉を失った。
出会ってからまだ数分しか経っていない二人が、こんなふうに助けを申し出てくれるとは思っていなかった。
キラナ:「で、でも……迷惑じゃない?」
アピカは首を横に振った。
アピカ:「全然迷惑じゃないよ! それぞれの親に許可をもらえば大丈夫だと思う。」
レイチェルは微笑んだ。
レイチェル:「ソラトも一緒に来ていいよ。私たちの家には、二人が休めるくらいの場所はあるから。」
ソラトは顔を上げた。
ソラト:「本当にいいの?」
アピカ:「もちろん! 二人はさっき私たちを助けてくれたでしょ?」
レイチェル:「少しでもお返しがしたいの。ゆっくり休める場所を用意するくらいなら、私たちにもできるから。」
キラナは二人を見つめ、心が温かくなるのを感じた。
まだ、アピカとレイチェルの家に本当に泊まれるかどうかは分からない。
それでも、その申し出はキラナに少しの希望を与えてくれた。
キラナは丁寧に頭を下げた。
キラナ:「それじゃあ……本当にありがとう。助けてもらえるなら、とても嬉しいよ。」
アピカはすぐに立ち上がった。
アピカ:「よかった! それじゃあ、行こう!」
レイチェルも立ち上がり、壊れた飾りを慎重に持ち上げた。
レイチェル:「これも持っていかなきゃ。明日、持ち主の人に話してみるね。」
アピカはうなずいた。
アピカ:「私も一緒に行くよ。」
キラナとソラトもベンチから降りた。
アピカは、建物の間を通る道を指さした。
アピカ:「私たちの家は、街のもっと静かな場所にあるの。歩く距離は少し長いけどね。」
キラナ:「分かった!」
ソラトはキラナの隣を歩いた。
アピカとレイチェルについていく前に、キラナは遠くに見える街の門をもう一度振り返った。
森で目を覚ましたこと。
爆発した不思議な花のこと。
そして、今どこにいるのかも分からない友達のことを思い出す。
キラナ(心の中):「アイカ、ハルト、レン、カイト……みんなも無事でいてね。」
それから、目の前に続く道へ視線を戻した。
今は、初めて会った二人の少女の助けを借りるしかない。
もしかしたら、彼女たちがこの不思議な世界について、キラナとソラトに教えてくれるかもしれない。
ソラト(テレパシー):「行こう、キラナ。二人を待たせちゃいけないよ。」
キラナ(テレパシー):「分かってるってば! 今行くよ!」
キラナは小さく微笑み、アピカとレイチェルの後を追いかけた。
黄金色の月明かりの下、四人は新年祭を間近に控え、まだ賑わいを見せる街の通りを歩いていった。
その一方で、彼らが去った森の奥では、誰一人として、あの笑顔の花が彼らをどこへ連れていったのか知る者はいなかった。
ソラトの世界での彼らの冒険は、まだ始まったばかりだった。
この物語はまだ続きます。




