キラナとオカネ:不思議を超えて 1
それでは、お話を始めましょう。
2019年12月30日(月)の夜。
冬の冷たい空気が、桜森の街を包み込んでいた。
キラナが暮らす住宅街は、外に出るとひっそりと静まり返っていた。家々の窓からは暖かな黄色い光が漏れ、通り沿いの木々の間を冷たい風が吹き抜けていく。
一方、キラナの家の中は、外とは違ってとても暖かかった。
キラナは父、母、そしてオカネと一緒に食卓を囲んでいた。テーブルの上には、母が用意した夕食が並んでいる。オカネはいつもの場所に座り、ときどき興味深そうにキラナの食べ物をちらりと見ていた。
キラナがちょうど一口食べたとき、隣に置いてあったスマートフォンが震えた。
ブブッ!
キラナは箸を置き、スマートフォンを手に取って画面を確認した。
グループチャット:ずっと友達 — アイカ、ハルト、レン、カイト、キラナ
アイカからメッセージが届いていた。
アイカ: みんな、今夜って暇かな?うちに泊まりに来ない?
キラナはすぐに目を大きく見開いた。
キラナ: 「ええっ?!」
オカネが顔を上げた。
オカネ: 「どうした?まるで何かものすごく驚くようなものでも見たみたいだな。」
キラナ: 「アイカがうちに泊まりに来ないかって誘ってくれたの!」
オカネ: 「なんだ。もっと深刻なことかと思った。」
キラナ: 「私にとっては大事件だよ!みんなでお泊まりするんだよ!」
オカネ: 「まるで、どこか遠い場所へ出かけるみたいな言い方だな。」
キラナ: 「オカネー!」
オカネは尻尾の一本を軽く振った。キラナは笑いをこらえながら、再びグループチャットに目を向けた。
アイカは続けてメッセージを送ってきた。
アイカ: 実は、今お父さんとお母さんが旅行で家を空けてるんだ。学校が始まる少し前に帰ってくる予定なの。だから今夜は家に誰もいないんだよね。それで、年が明ける前にみんなで一緒に過ごせたら楽しそうだなって思って!
しばらくして、レンが返信した。
レン: 両親が家を空けている間に、俺たちが泊まりに行っても本当に大丈夫なのか?
アイカ: うん、大丈夫だよ!両親も私が家にいることは知ってるし、友達を呼ぶ許可もちゃんともらってるよ。部屋も必要なものも準備してあるからね。
レン: それなら、ちゃんと許可をもらっていて、みんなが気をつけるなら問題ないと思う。
カイト: 俺も行けるよ。どうせ今夜は特に予定もないし。
ハルト: 俺も行く!!でも、一つ大事なことを聞きたい。
アイカ: なに?
ハルト: お菓子はあるよな?
カイト: どうせ食べ物のことだろうと思ったよ。
ハルト: これは重要な準備の確認だ!お泊まりを乗り切るためには、食料の確保が必要なんだ!
レン: 一泊するだけだぞ、ハルト。
ハルト: 一泊だって、十分な準備が必要なんだよ。
アイカ: あはは!大丈夫だよ。お菓子はいくつか用意してあるから。足りなかったら、そのとき考えよう!
キラナは急いでメッセージを打ち始めた。
キラナ: 私も行きたい!!オカネも一緒に行っていい?
アイカ: もちろん!!私もオカネに来てほしいな!
カイト: オカネはハルトよりずっと落ち着いてそうだな。
ハルト: おい!俺だって落ち着いてるぞ!
レン: それは後で確かめよう。
キラナはみんなのやり取りを読みながら、小さく笑った。
キラナ: 「ねえ、お母さん、お父さん!」
父と母がキラナのほうを向いた。
母: 「どうしたの、キラナ?」
キラナ: 「今夜、アイカの家に泊まりに行くことになったの!ハルトとレンとカイトも一緒だよ。オカネも来ていいって!」
母は箸を置いた。
母: 「今夜泊まりに行くの?急な話ね。」
キラナ: 「うん!アイカのお父さんとお母さんは旅行で出かけていて、学校が始まる少し前に帰ってくるんだって。友達を呼ぶ許可もちゃんともらってるみたい。」
父は落ち着いた様子でキラナを見た。
父: 「住所は確認したのか?それから、向こうでどんなふうに過ごす予定なんだ?」
キラナ: 「うん、確認したよ。アイカの家はここからそんなに遠くないの。みんなでおしゃべりしたり、遊んだり、何か映画を見たりする予定だよ。着いたらちゃんと連絡するね。」
母: 「それなら、お母さんはいいと思うわ。でも、みんな気をつけるのよ。外は寒いし、夜遅くに出歩かないようにね。」
キラナ: 「本当にいいの?!」
母: 「いいわよ。ただし、必要なものをきちんと準備して、アイカに迷惑をかけないようにね。」
キラナの顔に、ぱっと満面の笑みが広がった。
キラナ: 「やったー!!ありがとう、お母さん!!」
あまりの嬉しさに立ち上がりそうになったが、夕食がまだ残っていることに気づき、すぐに席へ座り直した。
オカネはキラナを見つめた。
オカネ: 「その喜びようだと、家中に聞こえていそうだな。」
キラナ: 「だって、すっごく嬉しいんだもん!」
オカネ: 「私も嬉しいよ。ただ、一泊するだけなのに部屋中のものを全部持っていくようなことはしないでくれよ。」
キラナ: 「そんなことしないよ!」
オカネ: 「さて、どうだろうな。」
二人のやり取りを見て、父は微笑んだ。
父: 「キラナ、人の家にお邪魔するときは、きちんと礼儀を守るんだぞ。アイカの家のルールに従って、自分の持ち物も大切にすること。それから、家の人に迷惑をかけないようにな。」
キラナ: 「うん、お父さん!ちゃんとするよ!」
母: 「アイカにも、招待してくれてありがとうって伝えるのよ。分からないことがあったら、きちんと聞くのよ。」
キラナ: 「はーい!」
すると、オカネも口を挟んだ。
オカネ: 「それから、本当に必要なものを忘れないようにな。」
キラナ: 「そんなの分かってるよ、オカネ!」
オカネ: 「それならいい。歯ブラシを忘れたせいで、わざわざ家に戻ることになる人がいなければいいが。」
キラナは一瞬、黙り込んだ。
キラナ: 「……私、そんなことしたことあったっけ?」
オカネ: 「私は誰のこととも言っていないぞ。」
キラナ: 「オカネー!!」
父と母は二人のやり取りを聞いて笑った。
その後、キラナは再び夕食を食べ始めた。ときどきグループチャットを確認してアイカに返信したり、持っていく荷物について話したりしていた。
その夜は、キラナにとって特別なものに感じられた。
学校生活やお祭り、旅行、そして友達とのさまざまな経験を重ねてきた数か月。そんな日々を過ごした彼女にとって、翌日の授業を気にせず、友達と一緒に夜を過ごせる機会はとても楽しみだった。
しかし、この何気ない夜が、やがてもっと大きな出来事の始まりになるとは、彼女はまだ思いもしなかった。
夕食を終えると、キラナは食器を片付けるために所定の場所へ運んだ。母と一緒にテーブルを整え、食事をした場所をきれいにするのも手伝った。
母: 「手伝ってくれてありがとう、キラナ。」
キラナ: 「どういたしまして!」
オカネは食堂の入り口の近くで待っていた。
オカネ: 「終わったのなら、そろそろ準備を始めよう。あまり遅くならないうちに出発したいと言っていただろう?」
キラナ: 「分かってる、分かってる!」
キラナは片付けを終えると、オカネと一緒に二階へ上がった。
自分の部屋に着くと、勉強机の上にスマートフォンを置き、クローゼットを開けた。
キラナ: 「よーし!着替えに、お風呂セット、歯ブラシ、それから……」
彼女はクローゼットを見つめた後、オカネのほうを振り向いた。
キラナ: 「ねえ、オカネ。パジャマは厚手のものを持っていったほうがいいかな?それとも普通のでいいと思う?」
オカネ: 「家の中で寝るんだろう?外で寝るわけじゃないんだぞ。」
キラナ: 「それは分かってるよ!でも、外は寒いじゃん!」
オカネ: 「着心地のいいものを持っていけばいい。寒ければ毛布を使えばいいだろう。」
キラナ: 「うーん……確かにそうだね。」
キラナはお泊まり中に着る服を選んだ。翌日の着替えや洗面用具、歯ブラシ、くし、スマートフォン、充電器、その他の身の回りのものも準備した。
それらをバッグに入れ、一つずつ中身を確認する。
キラナ: 「着替え、洗面用具、歯ブラシ、スマホ、充電器……」
オカネはベッドの上から彼女の様子を見ていた。
オカネ: 「必要になるかもしれない薬や、個人的に使うものも忘れるなよ。」
キラナ: 「大丈夫。全部入ってるよ!」
オカネ: 「それなら準備完了だな。」
キラナはバッグを閉じ、冬用のジャケットを羽織った。ファスナーがきちんと閉まることを確認し、寒い日にいつも使っているマフラーも手に取った。
オカネも出かける準備を済ませ、家を出る前にキラナのそばにいることを確認した。
キラナはもう一度、鏡の前に立った。
キラナ: 「よし!準備完了!」
オカネ: 「今夜が楽しい時間になるといいな。」
キラナ: 「絶対楽しいよ!」
二人は部屋を出て、一階のリビングへ向かった。
父はスマートフォンで何かを読んでおり、母はテーブルの近くにあるものを片付けていた。
キラナは二人のところへ歩いていった。
キラナ: 「お父さん、お母さん、行ってくるね!」
父はスマートフォンを置いた。
父: 「気をつけて行くんだぞ。道が滑りやすくなっていたら、急いで歩かないようにな。」
キラナ: 「うん!」
母: 「キラナ、着いたらお母さんに連絡してね。もし予定が変わったり、どこか別の場所へ行くことになったりしたら、必要な人にちゃんと知らせるのよ。周りの状況も考えて行動すること。」
キラナ: 「分かった!ちゃんと連絡するね!」
母はキラナのそばに来て、ジャケットの襟元を少し整えた。
母: 「友達との時間を楽しんでおいで。ここ数か月、いろいろなことを経験して、たくさん頑張ってきたものね。キラナが一緒にいて安心できる友達に出会えて、お母さんも嬉しいわ。」
キラナは優しく微笑んだ。
キラナ: 「私も嬉しいよ、お母さん。いっぱい楽しんでくるね!」
父はオカネに目を向けた。
父: 「オカネ、キラナのそばにいてやってくれ。」
オカネ: 「もちろん。できる限り、そばで見守っているよ。」
キラナ: 「もう!私だって自分のことくらい自分でできるよ!」
オカネ: 「それは分かっている。でも、気をつけるように言うくらいはいいだろう?」
キラナ: 「あはは!分かったよ!」
もう一度、父と母に挨拶をすると、キラナは玄関のドアを開けた。
冷たい空気が、すぐに彼女の顔に触れた。
キラナは一度息を吸い込み、オカネのほうを振り向いた。
キラナ: 「さあ、オカネ!アイカの家が待ってるよ!」
オカネ: 「その道中で、話す元気がなくならないといいがな。」
キラナ: 「まだまだ元気いっぱいだよ!」
二人は家を出て、アイカの家へ向かって歩き始めた。
その夜の桜森の街は、とても静かだった。
街灯が歩道を照らし、ときどき車が大通りを通り過ぎていく。冷たい空気に、キラナはジャケットのポケットへ両手を入れた。
オカネは彼女のすぐそばを歩いていた。
キラナ: 「今夜、何をするのかなあ。」
オカネ: 「アイカは、お前たちを誘って、おしゃべりしたり一緒に過ごしたりしたいと言っていたんじゃないのか?」
キラナ: 「そうだけど、みんなが集まると、いつも話すことがいっぱい出てくるんだよ!」
オカネ: 「特にハルトがいるときはな。」
キラナ: 「あはは!確かに!」
いくつかの交差点を通り過ぎると、ようやくアイカの住む住宅街に着いた。
遠くにアイカの家が見えてきた。二階と一階の窓には明かりがついていて、冬の夜の中で暖かそうに輝いていた。
キラナは少し足を速め、玄関の前で立ち止まった。
キラナ: 「やっと着いた!」
彼女はドアをノックした。
コンコンコン!
二階からアイカの声が聞こえた。
アイカ: 「はーい!今、下に行くね!」
階段を下りてくる足音が聞こえた。数秒後、ドアが開いた。
アイカ: 「キラナ!オカネ!来てくれたんだね!」
キラナ: 「アイカー!こんばんは!」
アイカは満面の笑みを浮かべ、二人が入れるように道を空けた。
アイカ: 「さあ、入って!外、すごく寒かったでしょ?」
キラナ: 「うん!手が凍っちゃいそうだったよ!」
アイカ: 「あはは!もっと寒くなる前に早く入って!」
キラナは玄関で靴を脱ぎ、きちんと揃えて置いた。その後、オカネも家の中に入った。
アイカはドアを閉めた。
アイカ: 「ほかのみんなは、もう何分か前に着いてるよ。私の部屋で待ってるから。」
キラナ: 「そうなんだ!ちょっと遅くなっちゃってごめんね。」
アイカ: 「ううん!全然遅くないよ。」
アイカはキラナのバッグに目を向けた。
アイカ: 「わあ、結構大きなバッグだね。」
キラナ: 「うん。お泊まりに必要なものを持ってきたんだ。大事なものを忘れたくなかったからね。」
アイカ: 「えらいね!荷物はあとで私の部屋に置いていいよ。」
二人は二階へ上がっていった。
階段を上っている途中、アイカの部屋からハルトの元気な声が聞こえてきた。
ハルト: 「だから、甘いお菓子としょっぱいお菓子は、バランスよく用意するべきなんだって!」
レン: 「まだお泊まりを始めて一時間も経っていないのに、もうお菓子のバランスについて話しているのか。」
カイト: 「それがハルトの人生の基本方針なんじゃない?」
キラナは小さく笑いながら、アイカの部屋に入った。
部屋の中では、ハルト、レン、カイトが床に座っていた。低いテーブルの上には、いくつかのお菓子とコップ、飲み物が並んでいる。
ハルトがすぐに振り向いた。
ハルト: 「キラナ!やっと来たー!」
キラナ: 「みんなより数分遅れただけじゃん!」
ハルト: 「待っている側にとっては、その数分が結構長いんだよ!大事なイベントを始める仲間を待ってるんだから!」
カイト: 「つまり、お菓子を食べること?」
ハルト: 「カイト、俺の秘密を全部ばらさないでくれよ。」
レン: 「秘密も何も、さっきからずっと自分で話していただろ。」
キラナは笑いながら、アイカに案内された場所へバッグを置いた。
オカネはアイカのベッドに飛び乗り、そこで座った。前足を揃え、集まり始めた五人の人間たちを静かに眺めている。
アイカ: 「よーし!これで全員そろったね!」
キラナ: 「招待してくれてありがとう、アイカ。」
アイカ: 「どういたしまして!みんなが来てくれて嬉しいよ。」
それから、みんなは床に輪になって座った。アイカがお菓子を配り、オカネはベッドの上から、落ち着いた様子でみんなの会話を聞いていた。
### 第2部 — 冬の散歩と森の中の光
カイト: 「ところで、みんなは冬休みをどう過ごしてる?」
アイカ: 「私は両親が出かける前に、家の手伝いをしてたよ。そのあとは、のんびり過ごしてるかな。」
レン: 「俺は休み中に終わらせておきたい課題を整理し始めたところだ。」
ハルトはすぐに振り向いた。
ハルト: 「レン、今は冬休みの話をしてるんだぞ。勉強の予定じゃないって!」
レン: 「だからこそだよ。休みの間なら、時間に余裕を持って予定を立てられるだろ。」
カイト: 「俺は特に予定を決めずに、のんびり過ごしてるよ。毎朝、学校に行くために急がなくていいのは気楽だね。」
キラナも頷いた。
キラナ: 「私も!でも、なんだかちょっと不思議な感じ。いつも学校の準備をするのが当たり前になってたから。」
アイカ: 「キラナも桜森に来てから、もう結構経つもんね。時間が過ぎるのって早いよね。」
キラナは微笑んだ。
キラナ: 「うん。1年2組に初めて入った日のことが、つい昨日のことみたい。」
レン: 「考えてみれば、この数か月でいろんなことを一緒に経験してきたな。」
カイト: 「学校行事に、お祭り、それからみんなで出かけた旅行もあったね。」
ハルト: 「そして、その全部に共通していることが一つある!」
アイカ: 「なに?」
ハルト: 「いつだって食事が必要だったってことだ!」
カイトは軽く額に手を当てた。
カイト: 「やっぱりそう来たか。」
キラナ: 「あはは!ハルトって本当に食べ物のことばっかりだね!」
ハルト: 「人生において、食べることは大切なことなんだ!」
オカネもベッドの上から口を開いた。
オカネ: 「少なくとも、ハルトの考え方は一貫しているな。」
ハルトはオカネのほうを向いた。
ハルト: 「ありがとう、オカネ!やっと俺の考えを理解してくれる人がいた!」
オカネ: 「別に賛成しているわけじゃないぞ。」
カイト: 「あはは!」
部屋の中に笑い声が広がった。
その後、みんなは体育祭の思い出について話し始めた。グループ競技で協力したことや、ハルトが競技に夢中になりすぎていたことなど、さまざまな話題が飛び交った。
ハルト: 「あのときのことなら、もうちゃんと反省したって!」
キラナ: 「そういえば、あのときハルトは、グループで活動するときはもっと周りのことを考えたいって、メッセージボードに書いてたよね。」
ハルト: 「そうだよ!俺はもっと思いやりのあるハルトになるんだ!」
レン: 「それが本当にできるか、これから見せてもらおう。」
ハルト: 「なんでみんな俺を疑うんだよ?!」
アイカ: 「だって、ハルトが文句を言ってると面白いんだもん!」
ハルトはわざとらしくため息をついた。
みんなは再び笑い合った。
しばらくすると、話題は年末年始の予定へと移っていった。
アイカは両親が帰ってきたら、一緒に過ごすつもりだと話した。レンは学校が再開する前にいくつかの課題を終わらせる予定で、カイトはあまり予定を詰め込まずにゆっくり休みたいと言っていた。
もちろん、ハルトの予定は少し違っていた。
ハルト: 「冬休みが終わる前に、冬ならではの食べ物をできるだけたくさん食べておきたい!」
カイト: 「もう、まったく。」
キラナ: 「私は、みんなともっと一緒に過ごしたいな。何か特別なことをしなくてもいいんだ。こうやっておしゃべりするだけでも楽しいから。」
アイカは微笑んだ。
アイカ: 「私もそう思う!」
レンも静かに頷いた。
レン: 「何気ない時間だからこそ、普段よりゆっくり話せることもあるしな。」
オカネは横になったまま、みんなを見つめた。
オカネ: 「それなら、今夜を思いきり楽しむといい。毎日を特別なものにするために、いつも何か特別なことを探す必要はないんだから。」
キラナはオカネのほうを向いた。
キラナ: 「オカネも一緒に楽しんでね!」
オカネ: 「今、こうして楽しんでいるところだよ。」
キラナ: 「あっ、そっか!それならよかった!」
その後も、みんなの会話はのんびりと続いた。
見たい映画や好きな食べ物、前の学期にあった面白い出来事など、さまざまな話をした。
謎もなければ、不思議な出来事もない。
解決しなければならない問題もない。
今だけは、冬休みの夜を一緒に楽しんでいる、六人の友達にすぎなかった。
しかし、アイカの家の外では、誰も気づかないうちに雲が集まり始めていた。
時間は静かに過ぎていった。
アイカの部屋でしばらくおしゃべりを楽しんだ後、キラナは壁に掛けられた時計に目を向けた。
キラナ: 「ねえ、みんな!」
アイカ: 「どうしたの、キラナ?」
キラナ: 「ずっと部屋にいたし、ちょっと外を散歩しない?」
ハルトはお菓子を取ろうとしていた手を止めた。
ハルト: 「散歩?今から?」
キラナ: 「うん!まだそんなに遅くないし、冬休みの夜の桜森を楽しめると思うんだ。」
カイトは部屋の窓に目を向けた。
カイト: 「でも、外はかなり寒いよ。」
キラナ: 「厚いジャケットを着れば大丈夫だよ!」
アイカ: 「うーん、いいね!私もずっと家の中にいたから、ちょっと外に出たいな。」
レンは少し考えてから答えた。
レン: 「反対はしないけど、あまり遠くまで行かないほうがいい。天気にも気をつけよう。」
ハルト: 「俺も賛成!歩いたらお腹が空くしな!」
カイト: 「ハルトは何でも食べ物につなげるんだね。」
ハルト: 「それが俺の才能だから!」
キラナは笑い、オカネのほうを振り向いた。
キラナ: 「オカネも一緒に行くよね?」
オカネは顔を上げた。
オカネ: 「もちろん。アイカの家に一人で残されるのはごめんだからな。」
アイカ: 「じゃあ、みんなで行こう!」
レンはもう一度、みんなに念を押した。
レン: 「ただし、天気が悪くなったり雷の音が聞こえたりしたら、すぐに戻ること。散歩したいからって無理はするなよ。」
キラナ: 「賛成!」
カイト: 「それから、みんな一緒に行動しよう。誰かがグループから離れないようにね。」
アイカ: 「うん!それじゃあ、準備しよう!」
みんなはそれぞれジャケットを取りに行き始めた。
アイカは明るい色の厚手のジャケットを羽織り、キラナもジャケットがきちんと閉まっているか確認した。レンはスマートフォンで天気予報を調べ、カイトは上着を整えた。
ハルトは小さなお菓子をいくつかポケットに入れていた。
それを見たレンが声をかけた。
レン: 「ハルト、何をしているんだ?」
ハルト: 「準備だよ。」
カイト: 「何のための?」
ハルト: 「予定より長く歩くことになったときのための備えだ!」
アイカ: 「あはは!ちょっと散歩するだけだよ?」
ハルト: 「でも、何が起こるかなんて誰にも分からないだろ!」
キラナ: 「じゃあ、写真を撮りたくなるような素敵な場所が見つかるといいね!」
オカネはベッドから飛び降り、キラナのところへやって来た。
オカネ: 「準備はできたよ。」
キラナは小さなバッグの中身を確認し、スマートフォンや必要なものが入っていることを確かめた。
全員の準備が整うと、六人はアイカの部屋を出て、一階へ向かった。
玄関の近くで、アイカは忘れ物がないか確認した。
アイカ: 「みんな、準備できた?」
キラナ: 「できたよ!」
ハルト: 「準備万端!」
レン: 「問題ない。」
カイト: 「行こうか。」
アイカが玄関のドアを開けると、冷たい風が一気に吹き込んできた。
アイカ: 「わあ、寒い!」
キラナ: 「ジャケットを着てきてよかったね!」
みんなは一人ずつ外へ出た。
全員が外に出たことを確認すると、アイカはドアを閉め、鍵をかけた。両親が家を空けているため、もう一度鍵がかかっていることを確認する。
アイカ: 「よし、ちゃんと鍵もかかったね。出発しよう!」
キラナは街灯に照らされた街並みを見渡した。
キラナ: 「それで、どこに行く?」
カイト: 「桜森中央の商店街まで歩いてみない?年末の飾りつけが見られると思うよ。」
アイカ: 「賛成!この時期は、お正月を迎えるための飾りをつけているお店もあるからね。」
レン: 「大通りを通って、同じ道を戻ってくればいい。知らない道に入る必要もないしな。」
ハルト: 「それで、まだ開いてるお店があったら食べ物を買おう!」
カイト: 「ハルトは本当にいつもお腹が空いてるね。」
ハルト: 「今お腹が空いてるとは言ってないぞ。ただ、そういう可能性に備えてるだけだ!」
キラナ: 「はいはい、準備担当さん!」
みんなは笑いながら、商店街へ向かって歩き始めた。
### しばらくして——
ついに、桜森中央に到着した。
年末を迎えようとしている桜森中央は、夜になるといつもとは少し違った雰囲気を見せていた。
すでに閉店した店も多かったが、いくつかの店にはまだ明かりがついていた。建物の前には、新年を迎えるためのシンプルな飾りつけが施されている。遠くに見える店の看板の光が、少し湿った道路の表面に映り込んでいた。
外を歩いている人はあまり多くなかった。住民のほとんどは、寒い夜を家族と一緒に過ごすため、自宅にいるのかもしれない。
キラナはアイカの隣を歩き、少し後ろにはハルト、レン、カイトがいた。オカネもキラナのそばを歩いている。
キラナ: 「こういう街の雰囲気、好きだな。すごく落ち着くね。」
アイカ: 「うん。普段は昼間に来ることのほうが多いもんね。」
キラナ: 「昼間は人がたくさん歩いてるけど、今なら飾りもゆっくり見られるね。」
アイカはスマートフォンを取り出した。
アイカ: 「ねえ、みんなで写真を撮らない?」
キラナ: 「いいね!」
二人はお店の前に飾られた年末の装飾の近くで立ち止まった。アイカはスマートフォンを構え、ほかのみんなを呼んだ。
アイカ: 「ハルト、レン、カイト!こっちに来て!」
ハルト: 「待って!今行く!」
カイト: 「そんなに走らなくてもいいのに。」
ハルト: 「写真に遅れたくないんだよ!」
みんなが集まり、キラナはアイカの隣に立った。レンとカイトはその後ろに並び、ハルトは自分が一番よく見える場所を探していた。
オカネはいつものようにキラナの肩に乗った。
アイカ: 「よし、みんなこっちを見てね!」
カシャッ!
一枚の写真がアイカのスマートフォンに保存された。
みんなは一緒に写真を確認した。
キラナ: 「わあ、いい感じ!」
アイカ: 「あとでグループチャットに送るね!」
ハルト: 「ちょっと待って!なんで俺、目を閉じかけてるんだ?!」
カイト: 「ハルトが瞬きしたからだよ。」
ハルト: 「それは分かってる!そうじゃなくて、なんでちょうどその瞬間に撮ったんだよ?!」
レン: 「カメラは、お前がいつ瞬きするか分からないからな。」
ハルト: 「それくらい分かってるって!」
キラナとアイカは、写真について文句を言っているハルトを見て笑った。
何枚か写真を撮り終えると、みんなは再び歩き始めた。
道を歩きながら、それぞれ年末年始の予定について話した。アイカは家族の伝統的な過ごし方について話し、レンは年が明ける前に課題を終わらせて、残りの日を慌てずに過ごしたいと説明した。
キラナ: 「私もお父さんとお母さんと一緒に過ごしたいな。でも、まだ特に予定は決めてないんだ。」
アイカ: 「シンプルな予定でも、きっと楽しいと思うよ。」
キラナ: 「そうだね!お母さんの料理を手伝うのもいいかも!」
ハルトは、まるで大事な意見を発表するかのように手を挙げた。
ハルト: 「俺は、年越しはみんなで食事をするのが一番だと思う!」
カイト: 「はいはい。」
ハルト: 「カイト、俺が何か言うたびに反応するのはやめてくれよ!」
カイト: 「五分おきに食べ物の話をするのをやめてくれたら、俺もやめるよ。」
ハルト: 「それは無理な挑戦だ!」
オカネはみんなの話を聞きながら歩いていた。
オカネ: 「君たちが集まるたびに新しい話題が生まれる理由が、少し分かってきた気がするよ。」
キラナ: 「だって、いつも話したいことがいっぱいあるんだもん!」
オカネ: 「それとも、ハルトがいつも何か食べるものを持っているからかな。」
ハルト: 「オカネ?!」
みんなの笑い声が、夜の道に響いた。
その夜、誰も特別なことをしているとは思っていなかった。
ただ、年が変わる前のひとときを、一緒に楽しんでいただけだった。
しかし、商店街から離れ始めたころ、空に小さな変化が起きていた。
先ほどまでは薄く広がっていた雲が、少しずつ厚くなっていく。
風も次第に強くなった。
道の端に残っていた枯れ葉が、互いに擦れ合いながら動き始めた。
レンが空を見上げた。
レン: 「ちょっと待って。」
アイカが振り向く。
アイカ: 「どうしたの、レン?」
レンは空を見つめていた。
レン: 「天気が変わってきたみたいだ。」
キラナも空を見上げた。暗い雲が空の大部分を覆い、月明かりもほとんど見えなくなっていた。
キラナ: 「本当だ。さっきまでは、こんなに曇ってなかったのに。」
カイト: 「雨が降るかもしれないね。」
ハルトはジャケットの前を引き寄せ、寒さをしのいだ。
ハルト: 「あまりひどい雨にならないといいな。濡れたまま帰りたくないよ。」
オカネは顔を上げて空を見つめた。耳がわずかに動き、ほかのみんなには気づかない何かを感じ取っているようだった。
周囲の空気が、さらに冷たくなった。
そのとき、遠くから低い音が聞こえてきた。
ゴロゴロゴロ……
みんなは一瞬、黙り込んだ。
アイカ: 「今の音、なに?」
レンは再び空を見上げた。
レン: 「雷だ。」
数秒後——
ゴロゴロ……バリバリッ!!
ものすごく大きな雷鳴が、桜森の空に響き渡った。
アイカはびくっとして、反射的にキラナの近くへ寄った。ハルトは驚いて、危うくスマートフォンを落としそうになった。カイトはすぐに空を見上げ、キラナも一瞬その場で固まってから、小さなバッグを抱えた。
キラナ: 「きゃあっ!すっごい音!!」
ハルト: 「今の雷、なんだよ?!」
カイト: 「雷に決まってるだろ、ハルト!」
ハルト: 「分かってるよ!ただびっくりしたんだって!」
レンは冗談を言わず、厚くなっていく雲を見つめていた。
レン: 「すぐにアイカの家へ戻ろう。雨が本降りになったら、外にいるのは危ない。」
アイカ: 「うん、賛成。ほかの場所を探すより、うちに戻るほうが近いしね。」
キラナ: 「分かった!戻ろう!」
みんなは向きを変え、アイカの家へ戻り始めた。
風は先ほどよりも強く吹いていた。道沿いの木々が大きく揺れ、枯れ葉が歩道の上でくるくると舞っている。
雨が降り出す前に家へ着こうと、みんなは少し歩く速度を上げた。
しかし、誰一人として気づいていなかった。
彼らが通り過ぎようとしている木々の向こう、街の端にある小さな森の奥で、本来そこにあるはずのない光が輝いていたことに。
やがて、帰り道の途中で、彼らが歩いていた道は森に近づいていった。
その森は、大きな観光地というわけではなかった。木々が密集し、茂みや草が生い茂り、昼間には散歩道として使われる小道もあった。
しかし夜になると、街灯に照らされた大通りとは比べものにならないほど暗く見えた。
キラナはアイカと並んで歩き、少し後ろにはレン、ハルト、カイトがいた。
オカネはキラナのそばを歩いていたが、突然、歩く速度を落とした。
耳がぴんと立つ。
そして、木々のほうへ顔を向けた。
暗い木々の間に、小さな光がきらめいていた。
街灯のような白い光ではない。
その光は、いくつもの色を帯びていた。ピンク、黄色、青、緑、そしてほかのさまざまな色が、交互に輝いている。
光は一瞬現れては弱まり、またゆっくりと輝き始めた。
オカネは完全に足を止めた。
その目は、森の奥の光に釘付けになっていた。
キラナ: 「オカネ?」
オカネは答えなかった。
キラナ: 「オカネ、どうして止まったの?」
それでも、オカネは木々の向こうを見つめ続けていた。
呼吸が少しずつ速くなる。
オカネ: 「……そんなはずはない。」
キラナ: 「えっ?何がそんなはずないの?」
オカネは一歩、前へ進んだ。
色とりどりの光が、再び木々の間に現れた。
その瞬間、オカネにはキラナの声も、友達の声も聞こえていないようだった。
ただ、その光だけを見つめていた。
どこか懐かしい光。
決して忘れることのできない、あの日の出来事を思い出させる光だった。
オカネ: 「あの光は……」
突然、オカネは森の中へ走り出した。
キラナ: 「オカネ?!」
キラナは驚き、考える間もなくオカネを追いかけて走り始めた。
レン: 「キラナ、待て!」
レンは一瞬立ち止まり、キラナが呼びかけを無視して走っていくのを見て驚いた。
レン: 「キラナ!森の中は暗いんだ!一人で入るな!」
しかし、キラナはすでに遠くへ行ってしまっていた。
アイカは心配そうにレンを見た。
アイカ: 「追いかけなきゃ!オカネも森の中にいるんだよ!」
レン: 「分かってる。でも、周りを確認せずに走るわけにはいかない。誰もはぐれないようにしないと。」
レンはすぐにハルトとカイトのほうを向いた。
レン: 「二人とも、追いかけよう。誰も迷子にならないように、ちゃんと確認しながら進むぞ。」
カイト: 「分かった。」
ハルトも頷き、すぐに二人の後を追った。
アイカも何かを言おうとした。
アイカ: 「待って!でも、この森は——」
振り返ったときには、レン、ハルト、カイトはすでにキラナを追いかけ始めていた。
アイカ: 「ええっ?!ちょっと、私を置いていかないでよー!」
アイカもジャケットが枝に引っかからないように押さえながら、急いでみんなの後を追った。
アイカ: 「キラナ!オカネ!待ってー!」
彼女たちの声が、木々の間に響き渡った。
頭上では空がさらに暗くなっていた。
ときおり稲光が木々の梢を照らし、次の瞬間には再び森が暗闇に包まれる。
そして森のずっと奥では、オカネが色とりどりの光を追いかけて走り続けていた。
### 第3部 — 森の奥に咲く不思議な花
森の中に入ってから、キラナはようやく前を走るオカネの姿が見えなくなっていることに気づき、足を止めた。
彼女は左右を見回した。
キラナ: 「オカネ?!」
返事はなかった。
聞こえるのは、風に揺れる木の葉の音と、遠くから響く雷鳴だけだった。
キラナはスマートフォンを取り出し、ライトをつけた。
白い光が足元を照らし、道の上に伸びた木の根や、乾いた落ち葉、小さな石が見えた。
森が完全に真っ暗というわけではなかった。しかし、厚い雲が空を覆っているため、自然の光はほとんど届かない。密集した木々が、大通りからの明かりも遮っていた。
キラナはごくりと唾を飲み込んだ。
キラナ: 「オカネ、どこにいるの……?」
そのとき、後ろから足音が聞こえてきた。
アイカ: 「キラナ!」
キラナが振り向くと、アイカ、ハルト、レン、カイトの四人が追いついてきた。
アイカは少し息を切らしながら、キラナのところへ駆け寄った。
アイカ: 「キラナ!大丈夫?」
キラナ: 「うん、大丈夫。でも、オカネがまだ見つからないの。」
レンもすぐに近づいてきた。
レン: 「さっき、あまりにも遠くまで走っていっただろ。何度も呼んだのに。」
キラナは少しうつむいた。
キラナ: 「ごめん……。オカネがいなくなったらどうしようって、心配で……。」
レンは少し黙った。
キラナが心配する気持ちは分かっていた。しかし、これ以上危険な行動を取らないようにしてほしかった。
レン: 「気持ちは分かるよ。でも、また同じようなことがあったら、ちゃんとお互いに声をかけて、みんなで行動しよう。前に何があるか分からないんだから。」
キラナ: 「うん……ごめんね、レン。」
カイトはスマートフォンのライトを周囲に向けた。
カイト: 「とりあえず、こうして全員集まれたね。」
ハルトは木々のほうを見た。
ハルト: 「まさか、ちょっとした散歩が森の中で猫を探すことになるとは思わなかったな。」
アイカ: 「ハルト、今は冗談を言ってる場合じゃないよ。」
ハルト: 「分かってるよ。ただ、あまり緊張しすぎないようにしたかったんだ。」
キラナはみんなを一人ずつ見つめた。
キラナ: 「追いかけてきてくれてありがとう。」
アイカは心配そうな表情を少し和らげ、微笑んだ。
アイカ: 「もちろんだよ。キラナを一人で探させるわけにはいかないもん。」
キラナは頷いた。
レンは前方の小道を見つめた。
レン: 「よし。みんなでオカネを探そう。ただし、いくつか約束してほしい。」
ハルト: 「約束?」
レン: 「お互いの姿が見える距離を保つこと。スマートフォンのライトを使うこと。それから、見通しの悪い道には入らない。何か危険だと感じたら、すぐに立ち止まること。」
カイト: 「賛成。」
アイカ: 「私も賛成!」
キラナ: 「分かった。みんなの言うことをちゃんと聞くね。」
ハルトはスマートフォンを取り出してライトをつけた。
ハルト: 「それじゃあ、オカネを探しに行こう!」
みんなはゆっくりと小道を進み始めた。
五つのライトが木々の間を動き、前方の地面を照らしていく。
ときどき、みんなはオカネの名前を呼んだ。
キラナ: 「オカネ!」
アイカ: 「オカネ、どこにいるのー?」
ハルト: 「オカネー!迎えに来たぞー!」
カイト: 「ハルト、あまり大声を出しすぎないで。お互いの声が聞こえるようにしておこう。」
ハルト: 「でも、オカネに聞こえないと意味がないだろ!」
レンは周囲を注意深く観察していた。
レン: 「この小道なら、まだ道筋がはっきりしている。ここから離れないようにしよう。」
キラナは木々の間を探し続けた。
一人で走ってしまったことを後悔していた。
それでも、オカネのことが心配でたまらなかった。
8月3日にオカネが家にやって来てから、オカネはキラナの日常の一部になっていた。
ただ一緒に暮らしているだけの存在ではない。
話を聞いてくれたり、困ったときにそばにいてくれたり、いつも慎重に考えるように言ってくれたりする、大切な友達だった。
キラナは、オカネに何かあってほしくなかった。
そのとき、前方の木々の向こうから、聞き覚えのある声がした。
オカネ: 「光は……どこへ行った?」
キラナはすぐに顔を上げた。
キラナ: 「今の、オカネの声だよ!」
みんなは歩く速度を少し上げた。ただし、小道を確認しながら慎重に進んでいく。
数秒後、カイトのスマートフォンの光が、大きな木の近くに立つ白い姿を照らした。
キラナ: 「オカネ!」
オカネはすぐに振り向いた。
オカネ: 「キラナ?」
キラナは駆け寄り、オカネの目の前で立ち止まった。
キラナ: 「どうして急に走っていっちゃったの?!すっごく心配したんだから!」
オカネは少し黙った。
オカネ: 「……すまない。」
キラナは、オカネがすぐに謝ったことに少し驚いた。
キラナ: 「どこも怪我してない?大丈夫?」
オカネ: 「ああ、大丈夫だ。」
アイカたちもすぐに追いついた。
アイカ: 「よかった!本当に心配したんだから。」
ハルト: 「オカネ、俺たちをかなり走らせてくれたな。」
カイト: 「とにかく、見つかってよかったよ。」
レンはオカネを見つめた。
レン: 「どうして突然、こんな森の中へ走っていったんだ?」
オカネは木々がさらに密集している方向へ顔を向けた。
オカネ: 「あるものを見たんだ。」
キラナは眉をひそめた。
キラナ: 「あるものって?」
オカネは顔を上げた。
オカネ: 「色とりどりの光だ。さっき、道から見えたんだ。」
みんなは黙り込んだ。
アイカ: 「色とりどりの光?」
オカネ: 「ああ。木々の間に現れたんだ。あの光を見たとき……以前にも見たことがあるような気がした。」
キラナはオカネをじっと見つめた。
そして、あることを思い出した。
何か月も前に、オカネが話してくれたこと。
オカネを自分の世界から人間の世界へ連れてきた、不思議な花のことだった。
キラナ: 「もしかして……。」
オカネがキラナを見た。
キラナ: 「あの花のことを考えてるの?」
オカネはすぐには答えなかった。
オカネ: 「あれと本当に関係があるのかは分からない。でも、さっきの光を見たとき、とても懐かしい感じがしたんだ。」
レンは腕を組み、考え込んだ。
レン: 「光が似ているというだけでは、まだ何も断定できない。まずは、その光の正体を確かめる必要がある。」
カイト: 「そうだね。もし何か見つけても、安全な距離から確認しよう。」
アイカもゆっくりと頷いた。
アイカ: 「それなら、みんなで探そう。でも、ちゃんと近くにいること。いい?」
キラナはオカネを見た。
キラナ: 「今度は一人で走っていかないでね。」
オカネは静かに頷いた。
オカネ: 「約束する。」
ハルトはスマートフォンを持ち上げた。
ハルト: 「よし。ライトが五つと、何かを見つけた猫が一匹。これなら調査もすぐ終わるといいな。」
カイト: 「ハルト、なんだか調査報告みたいな言い方だね。」
ハルト: 「だって、実際そうじゃないか?」
レンは小さく息をついた。
レン: 「行こう。まずはオカネが光を見た場所から調べてみよう。」
こうして、みんなは一緒に探索を続けることにした。
今度はキラナがオカネの隣を歩いていた。アイカもその近くにいて、レン、ハルト、カイトはそれぞれのスマートフォンのライトで小道の周囲を照らしていた。
みんなはゆっくりと進みながら、地面や木々を注意深く確認した。
数分が過ぎた。
しかし、色とりどりの光は見つからなかった。
そこにあるのは、木々と茂み、そして風に揺れる暗い影だけだった。
アイカ: 「もう光は消えちゃったのかな?」
オカネ: 「分からない。でも、確かにさっき見たんだ。」
レン: 「もしかすると、光の発生源が木々に隠れていて、今は見えないだけかもしれない。」
カイト: 「小道の端から確認してみてもいいかもしれないね。ただし、奥まで入りすぎないようにしよう。」
キラナはスマートフォンのライトを木の幹の周辺に向けた。
キラナ: 「何か見つけたら、みんなで一緒に確認しようね。」
彼女はまだ照らしていない場所を確認するため、少し横へ移動した。
そのとき、スマートフォンの光が、何枚かの葉の向こうにある何かを照らした。
色のついた何かだった。
キラナは足を止めた。
しかし、彼女が何かを言うより先に、アイカのライトも同じ方向へ動いた。
アイカは、その物体をはっきりと確認した。
目を大きく見開く。
アイカ: 「みんな……ちょっと待って!」
全員が立ち止まった。
ハルト: 「どうした、アイカ?」
アイカはすぐには答えなかった。スマートフォンのライトを、木の根元にあるものへ向けた。
アイカ: 「これを見て。」
キラナはアイカのほうを振り向いた。
キラナ: 「何を見つけたの?」
アイカはそれを指さした。
アイカ: 「もしかして……これがオカネの見た光の正体じゃない?」
五人とオカネは慎重に近づき、それぞれのライトをその物体へ向けた。
そして、そのとき初めて全員が目にした。
大きな木の根元と低い茂みの間に、周囲の植物とは明らかに違う花が咲いていた。
短い茎の上に、奇妙な花がついている。
周囲の葉は普通の植物と変わらないように見えたが、その花の上部には、色とりどりの花びらのようなものがぎっしりと重なっていた。
その隙間から、十二の色の部分が確認できた。
赤、オレンジ、黄色、緑、青、紫、ピンク、そしてほかのさまざまな色が組み合わさり、暗い森の中でひときわ目立っていた。
しかし、最も奇妙なのは、その色ではなかった。
花そのものが光を放っていたのだ。
ずっと同じ強さで光っているわけではない。柔らかな光がゆっくりと明滅し、まるで花のそれぞれの部分が独自の光を持っているかのように、色が次々と変化していた。
キラナはスマートフォンのライトを少し近づけた。
キラナ: 「これ……花なの?」
アイカは口を少し開けたまま、その花を見つめていた。
アイカ: 「こんな花、今まで見たことないよ。」
ハルト: 「俺もだ。これって、何かの観賞用植物なのかな?」
カイトはゆっくりと首を横に振った。
カイト: 「もしそうなら、どうしてこんな森の中に一輪だけ咲いているんだろう?」
レンは少し近づいたが、距離を保ったままだった。
レン: 「まだ触らないほうがいい。安全かどうか分からないからな。」
オカネは何も答えなかった。
キラナの隣に立ち、その花をじっと見つめていた。
瞬きもせずに。
花を見つめる時間が長くなるほど、オカネの記憶の中に、ある光景がはっきりと浮かび上がってきた。
中央を覆う花びらの形。
周囲を取り囲む十二色。
花の表面から放たれる光。
そして、記憶の奥深くに触れるような、不思議な感覚。
オカネ: 「……そんなはずはない。」
キラナはオカネを振り向いた。
キラナ: 「オカネ?」
オカネは一歩、花に近づこうとした。
しかし、キラナはすぐに手を伸ばし、彼を止めた。
キラナ: 「ちょっと待って。さっき、一人で行動しないって約束したでしょ?」
オカネは立ち止まった。
オカネ: 「分かっている。でも、この花は……。」
彼は再び花を見つめた。
オカネ: 「とてもよく似ているんだ。」
キラナの心臓が少し速く鼓動した。
キラナ: 「私たちの世界に来るきっかけになった、あの花に?」
オカネはゆっくりと頷いた。
オカネ: 「ああ。」
キラナ: 「でも、あの花と同じものなのかは、まだ分からないよね?」
オカネ: 「そうだな。でも、色も花びらの並び方も、とてもよく似ている。」
アイカは二人を交互に見た。
アイカ: 「ちょっと待って。それって、前にオカネがキラナに話してくれた花と同じものかもしれないってこと?」
オカネ: 「まだ同じものだとは断言できない。でも、色や花びらの形がよく似ているんだ。」
レンがすぐに口を開いた。
レン: 「それなら、実際に見えていることと、まだ推測にすぎないことを分けて考えよう。」
キラナは頷いた。
キラナ: 「そうだね。まだ何も決めつけられない。でも、似ていることも無視できないよ。」
彼女は再び花にライトを向けた。
その形は、キラナが以前スマートフォンで見た、笑顔の花を描いた芸術作品を思い出させた。
少し前、キラナは色鮮やかな花の作品が好きで、村上隆のアート作品の画像をオカネに見せたことがあった。
そのときのオカネの反応はとても強く、笑顔の花を見ると、彼のいた世界での出来事を思い出すのだと、キラナは少しずつ理解するようになっていた。
しかし、今目の前にある花には、何か違うところがあった。
キラナ: 「この形、村上隆のアート作品を思い出すね。」
ハルトが振り向いた。
ハルト: 「村上隆?あのカラフルな花を作ってるアーティストだよな?」
キラナ: 「うん!でも、この花はちょっと違うよ。色とりどりの部分が、真ん中を覆っているみたい。」
アイカは花びらを注意深く観察した。
アイカ: 「中央にも何かあるみたいだね。」
カイト: 「まだ本当の形がよく見えていないのかもしれない。」
レンはスマートフォンを少し高く持ち上げ、違う角度から花を照らした。
レン: 「近づきすぎないようにして、ここから観察してみよう。」
みんなのライトが、花の中央部分を照らした。
色とりどりの花びらは互いに重なり合い、何かを隠すように中央を覆っていた。
キラナは、その色の並び方をじっと観察した。
キラナ: 「十二色の部分がある。オカネが前に話してくれた花と同じだね。」
オカネ: 「ああ、見えているよ。」
キラナ: 「でも、真ん中の形はまだはっきりしないね。もし本当にオカネの記憶にある花と関係があるなら、もっと確かな手がかりが見つかるかもしれない。」
オカネは頷いた。
オカネ: 「私も、それを確かめたい。」
しばらくの間、みんなはその花を観察していた。
風が木々の間を吹き抜ける。
遠くから、先ほどより低い雷鳴が聞こえてきた。
そのとき、何かが動いた。
カサ……カサ……
キラナはすぐに動きを止めた。
キラナ: 「今の、聞こえた?」
アイカ: 「何が?」
カサ……カサ……
今度は、もっとはっきりと聞こえた。
木々からでもない。
みんなの足音でもない。
目の前にある花から聞こえてきたのだ。
全員が一斉に花へライトを向けた。
ハルト: 「えっ……今、花が動いた?」
花びらが、ゆっくりとずれ始めた。
ピンク色の部分が横へ動く。
黄色い部分が少し持ち上がる。
青や緑の部分も動き、それに続いてほかの部分も少しずつ開いていった。
まるで、閉じていたカーテンがゆっくりと開いていくようだった。
キラナは半歩後ろへ下がった。
キラナ: 「待って……何が起きてるの?」
レン: 「近づくな!」
カイト: 「みんな、その場から動かないで!」
花びらは動き続けた。
十二色の部分が、一つずつ中央に向かって開いていく。
そしてついに、その奥に隠されていたものが姿を現し始めた。
花の中央は、みんなが想像していたような単純な円形ではなかった。
それは、小さな顔のような形をしていた。
上部には二本の細長い部分があり、まるでウサギの耳のように見える。
その形が色とりどりの円の中央に位置しているため、まるで芸術作品に登場するキャラクターのようだった。
アイカは手で口を覆った。
アイカ: 「うそ……。」
ハルト: 「あれ……顔なのか?」
カイト: 「そう見えるね。」
レンはさらに慎重にライトを向けた。
レン: 「普通の植物とは、明らかに構造が違うな。」
キラナは目の前のものから視線を離せなかった。
それは、以前見た村上隆のアート作品にある、笑顔の花を思い出させる形だった。
十二色の部分が中央の小さなキャラクターのような形を取り囲んでいる。
そして今、その形が目の前にあった。
スマートフォンの画面の中でもない。
ただの絵でもない。
桜森の森の中に、本当に咲いていたのだ。
キラナ: 「この花……。」
彼女はオカネのほうを向いた。
キラナ: 「オカネ、やっぱりそうだよ。あなたをこの世界に連れてきた花と、すごく似ている。」
オカネは、言葉にできないような表情で花を見つめていた。
オカネ: 「ああ。色の並びも、花びらも……全部、あの花を思い出させる。」
キラナは再び中央部分を見た。
キラナ: 「でも、違うところもあるね。」
オカネ: 「私も気づいている。」
キラナ: 「前に話してくれた花の中央は、丸い形だったよね。私が見せた村上隆の花みたいに。でも、この花は違う。耳のようなものがついた、キャラクターみたいな形をしてる。」
オカネは頷いた。
オカネ: 「そうだ。形は違う。でも、この花を見ていると、まるであのときの出来事をもう一度見ているような気持ちになる。」
レンが静かな声で口を挟んだ。
レン: 「懐かしく感じるからといって、関係があるとは限らない。そのことは覚えておこう。」
キラナ: 「分かってるよ、レン。まだ何も断定できない。」
彼女は再び花に目を向けた。
キラナ: 「でも、どうしてこの花が人間の世界の森に咲いているのか、どうしてこんなふうに光っているのかは、調べる必要があると思う。」
アイカもゆっくりと頷いた。
アイカ: 「うん。これは見過ごせないよ。」
いつもなら冗談を言うことの多いハルトも、今は真剣な表情をしていた。
ハルト: 「魔法の花について詳しいわけじゃないけど、普通の花がこんなふうに勝手に開くはずないよな。」
カイトも花から目を離さなかった。
カイト: 「触らないほうがいいね。」
レン: 「そうだな。普通ではない何かがあることは、もう十分分かった。」
しかし、次の行動を決める前に、花が再び動いた。
カサ……
中央部分が、少し持ち上がった。
それまで何の変化もなかった表面が、ゆっくりと変わり始めた。
そして、顔のような部分に二つの小さな点が現れた。
最初はかすかな光だった。
それが少しずつ明るくなっていく。
やがて、二つの点は大きくなり、きらきらと輝く一対の目のような形になった。
その光にはピンク、青、そして金色が混ざっていた。
まるで、長い眠りから目を覚ましたかのように、その目は生き生きと輝いていた。
キラナは息をのんだ。
キラナ: 「……目?」
アイカはキラナのジャケットの袖をぎゅっとつかんだ。
アイカ: 「キラナ……この花、目があるよ!」
ハルトは一歩後ろへ下がった。
ハルト: 「もともと変な花だとは思ってたけど、まさか目まで開くなんて思わなかったぞ!」
カイト: 「ハルト、落ち着いて!」
ハルト: 「落ち着こうとしてるよ!」
レンは手を上げ、みんなが急に動かないように合図した。
レン: 「近づくな!この花がどう反応するのか、まだ分からない!」
オカネは花をじっと見つめていた。
その目が大きく見開かれる。
オカネ: 「いや……あの形は……。」
キラナはオカネを振り向いた。
キラナ: 「オカネ?」
しかし、オカネは言葉を最後まで続けなかった。
花に、さらに変化が起こったからだ。
顔の下の部分が動いた。
最初は、ただの小さな線のように見えた。
しかし、その線はゆっくりと上向きに曲がり、やがて笑顔の形になった。
花が笑ったのだ。
口はさらに大きく開き、その奥には暗い部分が見えた。
暗い森の中では、その明るく大きな笑顔が、あまりにも目立っていた。
花の目は、さらに強く輝き始めた。
周囲の十二色の部分も、次々と光を放っていく。
ピンク。
黄色。
青。
緑。
紫。
すべての色が交互に輝き、やがて一つの光となって、ますます速く明滅し始めた。
花からは何の声も聞こえなかった。
言葉もなかった。
ただ、大きな笑顔を浮かべたまま、六人のほうを向いていた。
数秒間、誰も言葉を発することができなかった。
キラナは、まるで時間が止まったかのように感じた。
それは、突然目や口、そして意識を持ったかのような、一枚の生きた絵画だった。
しかし、見つめ続けるほど、その笑顔の奥に何か普通ではないものが隠されているような気がしてきた。
キラナ: 「……本当に、村上隆の花みたい。」
アイカは瞬きもせずに花を見つめていた。
アイカ: 「でも……どうしてこんなことが……?」
カイト: 「分からない。」
ハルト: 「頼むから、ただの光の演出だって言ってくれよ……。」
レンは何も答えず、ますます強くなる花の光を観察していた。
レン: 「普通の装置のようには見えない。何か別の変化が起きる前に、すぐに離れたほうがいい。」
オカネがようやく口を開いた。
その声は、いつもよりずっと小さかった。
オカネ: 「私は、以前にもこのような形を見たことがある。」
キラナは素早く振り向いた。
キラナ: 「オカネ……。」
オカネ: 「私をキラナの世界へ連れてきた花にも、笑った顔があった。花びらは十二色で、目も今のように輝いていた。」
オカネは、もう一度花の中央を見つめた。
オカネ: 「ただし、顔の形は違っていた。私をここへ連れてきた花は、中央部分が丸かったんだ。」
キラナは急いで頷き、オカネの話を理解しようとした。
キラナ: 「じゃあ、この花はオカネをここへ連れてきた花と似ているけど、二つがつながっているかどうかはまだ分からないんだね。」
オカネ: 「そうだ。何が起きているのか、私にも分からない。どうしてこんな花が人間の世界に現れたのかもな。」
オカネは少し言葉を止めた。
花の光はさらに強くなっていた。
オカネ: 「だが、一つだけ君たちに伝えておかなければならないことがある——」
その瞬間だった。
カリリリ……。
花が突然、奇妙な音を立てた。
その笑顔が、さらに大きくなった。
キラナ: 「何が起きてるの?!」
レンは一歩後ろへ下がった。
レン: 「全員、離れろ!今すぐだ!」
しかし、みんなが十分に離れるよりも早く、花全体が激しく震え始めた。
十二色の部分が回転する。
光はまばゆい白色へと変わり、スマートフォンのライトさえ見えなくなるほど強くなった。
アイカ: 「キラナー!!」
ハルト: 「なんだよ、これ?!」
カイト: 「離れろ!」
オカネはキラナのほうへ飛び込んだ。
オカネ: 「キラナ!近づくな!!」
しかし、もう遅かった。
花から、目を開けていられないほどの光が放たれた。
そして——
ドォォォン!!
花は、色とりどりの光と煙をまき散らして爆発した。
その爆発音が森全体を震わせた。
白い光が木々の間へ広がり、その後を追うように、色とりどりの煙が渦を巻きながら周囲を包み込んでいく。
キラナは反射的に両手で顔を覆った。
キラナ: 「きゃあああっ!!」
アイカがキラナの名前を叫んだ。
アイカ: 「キラナーー!!」
ハルトはカイトの腕をつかもうとし、レンは煙の向こうにある小道を確認しようとした。
レン: 「みんな、離れないようにしろ!絶対にはぐれるな!」
カイト: 「何も見えない!」
その煙は、ただ空気中に広がっているだけではなかった。
まるで意思を持っているかのように動いていた。
煙は六人の周囲を取り囲み、さらに速い渦を作り始めた。
地面に落ちていた枯れ葉が舞い上がる。小さな枝が空中で回転し、色とりどりの光があらゆる方向から煙を照らしていた。
キラナは、自分の体が渦の中心へ引き寄せられるような感覚を覚えた。
キラナ: 「待って!一体何が起きてるの?!」
彼女はアイカに手を伸ばした。
アイカもすぐに手を伸ばした。
アイカ: 「キラナ!私の手をつかんで!」
二人の指先が触れそうになった。
しかし、煙の渦はさらに強くなっていた。
レンも二人に近づこうとした。
レン: 「お互いに離れるな!」
カイトはハルトをつかもうとした。
カイト: 「ハルト!俺につかまれ!」
ハルト: 「もうつかまってる!ちゃんとつかまってるよ!」
オカネはキラナのほうへ飛び込み、彼女の体に近づくことができた。
オカネ: 「キラナ!」
キラナはすぐにオカネを強く抱きしめた。
キラナ: 「オカネ!絶対に離れないで!」
オカネ: 「離すものか!」
光はさらに強くなった。
足元の地面が、まるで消えてしまったかのように感じられた。
空気は激しく渦巻き、色とりどりの煙が頭から足元まで、みんなの体を包み込んでいく。
キラナには、もう木々が見えなかった。
小道も見えない。
上も下も、どちらがどちらなのか分からなくなっていた。
ただ光と煙が広がり、友達の声だけがかすかに聞こえていた。
アイカ: 「キラナ!」
レン: 「離れるな!」
ハルト: 「一体何なんだよ、これ?!」
カイト: 「俺にも分からない!」
キラナは目を閉じ、オカネをさらに強く抱きしめた。
この渦の中で、彼女の頭に浮かんでいたのは、ただ一つのことだった。
あの花には笑顔があった。
十二色の部分があった。
そして、オカネを自分の世界へ連れてきた花と、とてもよく似ていた。
キラナ: 「オカネ……これって、あなたのいた世界と関係があるの?!」
オカネはすぐには答えられなかった。
彼自身も、何が起きているのか分からなかったからだ。
しかし、光がますます二人を包み込む中、ある考えが頭に浮かんだ。
あの花は、ただ人間の世界にある花と似ているだけではないのかもしれない。
もしかすると、オカネが桜森にやって来てから初めて、故郷へと続く道が開かれたのかもしれない。
あるいは、光の向こう側には、もっと大きな何かが待っているのかもしれない。
オカネはキラナに体を寄せた。
オカネ: 「分からない、キラナ!でも、何が起きても私のそばにいてくれ!」
キラナは、オカネには見えていないかもしれないと思いながらも、頷いた。
キラナ: 「うん!!」
渦巻く光は、ついに最高潮に達した。
次の瞬間、六人は光る煙の中心へと巻き込まれていった。
風の音、雷鳴、そしてみんなの叫び声が一つに混ざり合う。
そして——
キィィィィン!!
真っ白な光が、視界のすべてを覆い尽くした。
すべてが消えていった。
木々も。
地面も。
小道も。
桜森の森も。
そのすべてが、色とりどりの渦に飲み込まれていった。
そして次の瞬間、キラナ、アイカ、ハルト、レン、カイト、そしてオカネは、もう元いた場所にはいなかった。
彼らは、あの不思議な花によって、誰一人として知らない場所へと連れ去られてしまったのだった。
この物語はまだ続きます。




