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真贋戦隊コクインジャー ~一番になれなくていい。一点物になれ~  作者: 智珠
第四巻 鍍金

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第046話 もう一つの鍛冶場

> 【鑑定 第四十六号】

> 押印累計 ── 二百十五。

> 依頼者 ── 火村燈。

> 物件 ── 鍛冶場、一。および刀身、一。

> 所見 ── 当該火床 ── 使用中であります。

>     最後の使用 ── 本日未明であります。

>     使用者 ── 記録がございません。

> ……判定を、開始します。


 ── 火村燈は、次の日の朝、まだ暗いうちに炉へ火を入れた。


 鎌を一本、頼まれている。水木という家からで、去年の秋に柄が折れたまま納屋に置いてあったものになる。刃はまだ使える。首を打ち直して、新しい柄を仕込めばいい。三日で終わる仕事である。


 水木の家は市の北の縁で桑を切っている。年に二度、決まって鎌を持ってくる。持ってくるのは折れてからで、折れる前には来ない。燈はそれで構わないと思っている。折れるまで使う客のほうが、直しがいがある。


 燈は火床の前に膝を折って、炭を寄せた。羽口から風が入って、赤が寄せた側から起き上がる。床土の窪みは右へ寄っている。同じ場所に何年も座っていると、風の正面ではなく、座った側から先に減る。


 鉄を挟んで鉄床へ乗せた。打った。音は、あとから鳴る。三年、その順に慣れている。


 二つ目までは合っていた。三つ目で早く振った。鉄がまだ橙で、白が抜けきる前に鎚を落としている。首の曲がりが甘くなって、線が内側へ寄った。燈は舌を打って、鉄を火へ戻した。


 沸かし直せば済む。済むが、同じ鉄を二度沸かすと、そのぶん減る。減った鉄は戻らない。


「せっかちだね」


 上がり框から声がした。颯太が座っている。膝に手を置いていて、足はまだ床に届かない。


「うるせぇ」

「うちのとうさんも、せっかちなひとは、いそいでるんじゃなくて、はやくおわりたいだけだっていってた」

「それは合ってる」


 戸が鳴った。佐久間が桶を提げて入ってきて、上がり框の端に一丁置いた。


「余ったからな。置いてくぞ」

「毎朝余ってんのか」

「余ってる」


 佐久間は火床を見て、それから奥を見た。見て、何も言わずに出ていった。


 火村鍛冶は奥行きが長い。手前が燈の場所で、奥が父の場所になる。同じ形の火床が二つ並んでいて、鉄床も二つある。奥の側は三年、火が入っていない。


 灰は冷えたまま固まっている。鞴の革は乾いて、端が反っていた。前掛けは釘に掛かったままで、肩の紐のところに埃が乗っている。鎚は鉄床の縁に置いてあって、頭が向こうを向いていた。置いた者の手つきのまま、三年そこにある。


 燈は奥を掃除しない。箒も入れず、位置も動かさず、そのままにしてある。棚の上に桐箱が一つあって、それも下ろさない。


「あっちのてつは、どこからくるの」と颯太が奥を指した。

「玉鋼は出雲から買う。うちで作ってんじゃねぇ」

「かうんだ」

「買う。作れる家は、もう数えるほどしかねぇ」


 焼き入れは陽が高くなってからにした。水の温度が上がっている方が、割れが出にくい。燈は刃を火から出して色を見て、二つ数えて、桶へ落とした。音が高く鳴って、湯気が真上へ上がる。颯太が上がり框から身を乗り出して、湯気の消えるところを目で追っていた。


 昼前に鎌が出来た。燈は荷札に名を書いて、紐を通した。颯太が覗き込んだ。


「みつき?」

「みずきだ」

「ちがうよ。みつきってかいてある」

「書いてねぇ」

「じゃあ、なんてかいてあるの」


 燈は札を裏返した。裏は白い。書き直しても同じになるので、裏返したままにした。


「よめないの?」

「俺のだ」


*


 次の朝、戸を開けたところで足が止まった。


 奥が温かい。


 燈は敷居を跨いで、奥の火床へ掌をかざした。炭が赤く残っている。灰は白くて、細かい。三年ぶんに固まった層が無くなっていて、新しい灰が浅く敷いてあった。


 鞴を押した。革の乾きが取れている。しなって、風が真っ直ぐ出た。押し戻す時の重さが、手前の鞴と同じになっている。


 床も違った。土間の踏み固めが平らになっていて、三年ぶん誰も歩いていない場所の、あの浮いた感じが無い。燈は踵で二度突いた。鳴り方が手前と同じである。


 前掛けは釘に掛かっているが、洗ってあった。裾の焦げが繕ってある。当て布の糸目が細かい。母の縫い方ではないし、燈の縫い方でもない。


 鎚を取った。柄がすげ替えてある。楔が新しい。握ると掌に馴染んだ。父の握りで艶の出ていたところが消えていて、代わりに別の使い込みが乗っている。


 鉄床の面も見た。父の鉄床は真ん中が浅く凹んでいて、その凹みが手前より深かった。三十年ぶん打った跡になる。今日の面は平らで、角も立っている。据え直したというより、初めから減っていない面が置いてある。


 棚の上を見た。桐箱が無い。


 箱は鉄床の上にあった。蓋が外してある。中の刀は油紙が解いてあって、茎が出ていた。


 茎に二字ある。


 「火村」と切ってあった。鏨の入りが深い。払いのところで手が止まっていない。三年前の刀に、昨日入れたような切り口になる。


 上手い。少なくとも燈の字ではない。父の切った銘を燈は一本も見たことがないが、これでないことだけは分かる。


 燈は箱の縁を握った。握って、それから手を離した。離した跡が、蓋の埃に付いている。


*


 昼に五人が集まった。四人とも仕事の途中で来ていて、紬だけが糸を持ったまま入ってきた。


> 当該火床 ── 使用中であります。

> 最後の使用 ── 本日未明。

> 使用者 ── 記録がございません。


「誰か入ったのか」

> 出入りの記録は、ございません。


「じゃあ何が起きた」

> 三年ぶんの不在が、消えております。


「不在って、物か」

> いいえ。


「物じゃねぇもんが、取られんのか」

> 取られました。


 燈は識の方を見た。識は火床の縁に腰を掛けている。足元が灰に埋もれていて、埋もれた形が動かない。


> 本機にも、書式がございません。物件の欄へ、留守と記入いたしました。


 蒼が火床の前にしゃがんで、床土を指で押した。押して、匂いを嗅いだ。


「叩き方が違います」

「どう違う」

「三秒」


 蒼は掌に土を少し取って、練りはじめた。練りながら、口の中で低く歌っている。


「嘘が澄んでく 手のひらで」


 一行で止めた。土を握って、開いた。


「うちの土と締まり方が同じです。ただ、練った人の順がありません」

「順?」

「土は、練った人の手が入った順に残ります。これは、どこから入ったか分かりません」


 玲は曲尺を平たくして、火床の縁へ当てた。目盛りが光るのは、差のあるところだけになる。


 光らない。


「左右、同じです」

「同じで何が悪ぃんだよ」

「窪みが、羽口の真正面にあります。円いです」


 玲は鎚も測った。柄の長さ、頭の重心、握りの位置。目盛りは一つも光らない。柄をすげ替えた者は、すげ替える前の握りの位置を、寸分違わず写している。


「持ち主が測ったみたいです」と玲が言った。

「本人が替えたってことか」

「本人でも、ここまでは揃いません。手が覚えてる位置は、少しずれます」


 巌が入ってきて、火床の底へ掌を置いた。見る前に触る。


「ん」

「何だよ」

「誰も立っとらん」


 巌は手前の火床を指した。指の先が燈の座る場所へ落ちて、そこで止まっている。


「窪みは人の側へ寄る。風の正面じゃなくて、座っとる側が減る。燈のは右だ」

「親父のは」

「左だった」


 燈は答えなかった。紬が袖のほつれを撫でて、糸の端を指に巻いた。


> 照会が、一件ございます。


「どこからだ」

> 市外であります。北。林道の終わり。

> 本機は、当該地点に工房を記録しておりません。


 バスが北へ四十分走って、そこから林道を歩いた。雪が轍の底に残っていて、踏むと下で氷が鳴る。一時間登ったところで木が切れて、平らな場所が出た。


 鍛冶場がある。


 小さい。屋根は半分落ちていて、落ちた側から光が入っている。鞴が一つ、鉄床が一つ。壁は板を継ぎ足してあって、継ぎ目の高さが揃っていない。継ぎ足した板の色が三通りあって、下の一段が一番黒い。


 巌が壁へ掌を当てて、上から下へ撫でた。継ぎ足した順を、色ではなく釘の錆で読んでいる。


「三度、直しとる」

「上手いか」

「下手だ。だが、雨は入っとらん」


 鉄床は据わりが悪かった。台の木が痩せていて、片側に薄い板が咬ませてある。咬ませた板の端が丸くなっているのは、何度も出し入れした手の跡になる。


 燈は火床の前に立った。膝を折る前に、立ったまま底を覗いている。


 窪みが左へ寄っている。


 巌が屈んで、灰を指で崩した。崩れ方を見て、もう一度崩した。


「ん」

「何だ」

「ひと月だな」


 三年ではない。燈は火床を見たまま動かなかった。誰も次の言葉を出さない。紬が燈の袖に手を伸ばして、ほつれを直した。


 奥で布の音がした。乾いた布を畳む時の音で、一度きりではなく、間を置いて続いている。


 型取が立っている。道具を一本ずつ拭いていた。鏨を拭いて、置いて、次を取る。並べ方が寸法の順になっている。


「親父を取ったのか」

「取っておりません」

「写したのか」

「写しておりません」

「じゃあ何を写した」

「留守を、写しました」


 燈が前へ出た。


「留守は物じゃねぇ」

「物件になります。跡がございましたので」

「跡って何だ」

「冷えた灰。乾いた革。掛けたままの前掛け。置いたままの鎚。三年ぶん、揃っておりました」

「それを、どうした」

「使い続けた跡に、置き換えました。留守は、不便であります」

「不便でいい」


 燈の声が大きくなった。型取は手を止めなかった。


「原型はどこだ」

「存じません」

「知らねぇのか」

「存じません」


 型取は最後の一本を拭いて、布を畳んだ。畳んで、袂へ入れた。


「本日は、写しではございません。足しただけになります」

「銘のことか」

「はい。入っておりませんでしたので」


 木立の際に、影が立っている。


 左の袖が長い。手が見えない。背丈は燈より少し高くて、肩の落ち方が片側だけ寄っている。何も持っていないのに、右手が腰の高さで止まっていた。


 燈が一歩出た。


 影が退がった。退がって、林の暗い側へ入って、見えなくなった。


*


 地面が鳴った。


 鍛冶場の脇の土が盛り上がって、そこから一体が起きた。雪を持ち上げたまま立ったので、肩の左右に同じ量が乗っている。


 鍛冶の形をしている。胸に火床があって、羽口が左右に一つずつ付いていた。腕が二本。両手とも鎚を握っている。


「両手が鎚だ」と燈が言った。

「片手は火箸だろ」

「そういう鍛冶はいねぇ」


 五人が印を出した。出す速さが揃っていない。燈が一番早く、蒼が一番遅い。


> 銘 ── 確認。〈火村燈〉。

> 銘 ── 確認。〈陶山蒼〉。

> 銘 ── 確認。〈綾織紬〉。

> 銘 ── 確認。〈楠木巌〉。

> 銘 ── 確認。〈硝子井玲〉。


 五つの印が、一枚の紙に並んだ。六枚目のところは白いままになる。


> 銘量 ── 火村燈 六百二十五。陶山蒼 六百六十六。綾織紬 五百十四。

> 楠木巌 七百三十。硝子井玲 六百八。

> 六つ、減っております。


 音が先に来た。鞴を強く押した時の、風が壁に当たる音である。それが二つ、左右から同じ大きさで鳴った。


 贋作体が両腕を振った。左右が同時に来る。燈が曲尺を立てて受けて、肘から先が痺れた。受けた腕の内側が熱い。鎚の面が触れた場所だけ、籠手の色が変わっている。


「焔鎚」


 打ち返した。当たったところが凹んで、すぐ戻る。左を打つと、右も同じだけ戻った。


「揃ってます」と玲が言った。

「何がだ」

「左右の火の色が同じです。温度が同じです」


 胸の火床が開いた。熱が来る。雪が音を立てて消えて、地面が黒く出る。


 燈は下がらなかった。


 熱の中へ入った。眉の毛が縮んで、匂いが上がってくる。それでも下がらない。胸の火床の底へ顔を寄せて、窪みを見た。


 真ん中である。円い。何処にも寄っていない。


「巌さんの言った通りだ」


 贋作体の鎚が落ちてきた。燈は肩で受けて、膝が落ちて、戻った。肩から下が痺れて、指の閉じ方が半分になる。


 紬が鞭を横に張って、燈の前を塞いだ。塞いだだけで、引かない。倒れた燈は自分で立った。


「見えたか」と蒼が訊いた。

「真ん中だ」

「では、誰も座っておりません」


 蒼が下がって、三秒黙った。黙っている間に、贋作体の足元を二度見ている。


「立つ場所がありません」

「何だと」

「窪みが真ん中なのは、誰も立ってないからです。立つ場所を作れば、そこだけ減ります」

「作れんのか」

「巌さん」


 巌が大鋸を出した。刃を寝かせる角度を決めるのに、自分の踵を一度見ている。


「ツギテノコ」


 歯を寝かせて、贋作体の左の踵へ当てた。切らない。継ぐ。板と板を継ぐ時と同じ角度で入れて、そこに線を残した。


 紬が鞭を投げた。投げる前に、糸の余りを掌へ二巻きしている。


「タテヌキムチ」


 継ぎ目に巻いて、引いた。倒さない。引き寄せもしない。横へ寄せるだけになる。


「陶山蒼、行きます」

「窯変輪、片袖」


 輪が左の腕の付け根へ入って、そこで止まった。回り続けている。回りながら、少しずつ関節の隙間を埋めていく。左腕が肩の高さより上がらなくなった。


 贋作体の体重が右へ移った。移った側の羽口が、自分の腕の付け根で塞がる。


 右の火が暗くなった。


「右、六百切りました」と玲が言った。

「左は」

「八百です」


「火村燈、行きます」

「焔鎚、片打ち」


 燈が暗い側だけを打った。右、右、右。左を一度も打たない。二打目が一打目より早く、三打目はもっと早い。打ち急ぐ癖が、この一度だけ噛み合っている。


 贋作体が左右を戻そうとした。戻す動きは正確で、そのぶん遅い。戻る前にまた右を打たれる。


 右の面が縮んだ。縮んで、そこだけ薄くなる。


「硝子井玲、行きます」

「透かし刃、片減り」


 玲が入った。薄くなった側へ、一本。


 斬った跡だけが残った。跡を光へ透かすと、細かい格子が見える。切子の文様になっていた。


 贋作体が崩れた。崩れた面は左右とも同じ形をしていて、落ちてから右の側だけ遅れて割れた。


 林の中からノッペリ兵が出てきた。数は十ほどになる。


 巌が継ぎ目を作って、紬が結んで、蒼が輪を投げた。玲が透かして、燈が打った。


 消える時、全員が一斉に言った。


「……ありがとうございました」


*


「── 量産」


 低い声が林の上から降りてきた。


 斜面の雪が動いた。土の下を何かが通って、同じ間隔で並んでいく。生えた。同じ形が、数えられない数だけ並んだ。


> 連結を確認。


「火入れッ!」


 五つの炉が鳴った。赤が上がって、継ぎ目を通って渡っていく。


> 真、通りました。


「組み継ぎ、合体!」


 継手が噛んだ。木を組む時と同じ音が、四十メートルの高さで鳴る。


 林道の入口にバスが一台止まっていた。運転手が窓から首を出して、上を見ている。


 見えたのは脚だけになる。杉の梢が上を切っていて、その向こうは白い。


 梢の隙間に、緑の線が動くのが見えた。動いて、消えて、また出た。枝の雪が落ちて、フロントガラスに当たる。運転手は窓を閉めない。首を出したまま、片手をハンドルに乗せている。


 バスには客が一人だけ乗っていた。終点まで行く老人で、こちらは窓を開けずに座っている。開いた窓から入る音を、座席の位置で聞いていた。地面が二度揺れて、三度目は揺れなかった。


「刻印!」


 右の拳が前へ出た。左の掌が、その甲を上から押す。


「銘刻斬ッ!」


 声が五つ揃った。


 拳が並びの真ん中へ入った。入ったところで止まって、そこに朱が走る。線が字の形になっていって、銘が刻まれた。


 崩れた。落ちた欠片が雪に当たって、そこで灰になった。


 灰が斜面を流れて、林道の轍で止まった。轍の氷の上だけ、灰が沈まずに乗っている。


*


 山の鍛冶場は残った。


 屋根は半分落ちたままになる。鞴の革は乾いていて、押しても風が痩せている。壁の板は継ぎ目の高さが揃っていない。火床の窪みは左へ寄っていて、灰は冷えていた。


 燈はもう一度、灰へ指を入れた。冷たい。指の腹に付いた灰が、粉ではなく粒になっている。


「ひと月」

「ひと月だ」と巌が言った。

「三年じゃねぇ」

「三年じゃない」


 燈は何も言わない。帰りの林道で、一度だけ振り返った。木の間から屋根の落ちた側が見えて、そこだけ雪が積もっている。


 日が落ちてから、火村鍛冶へ戻った。


 奥は冷えている。灰は三年ぶんに固まって、鞴の革は端が反っていた。前掛けは焦げたままで、繕いは無い。鎚は鉄床の縁にあって、頭が向こうを向いている。柄が古い。


 棚の上に桐箱が戻っていた。


 燈が下ろした。


 蓋を外して、油紙を解いた。茎を親指で撫でる。


 何もない。平らである。鑢の跡が斜めに走っているだけになる。


 燈は油紙を巻き直して、蓋を閉めた。巻き方が父の巻き方と違うので、紙の合わせ目が上へ来る。


 棚へは上げなかった。作業台の端に置いて、その上へ手拭いを掛けた。


 誰も何も言わない。蒼が三秒黙って、それから土を練りはじめた。奥の火床の床土を継ぐつもりでいる。燈は止めなかったし、頼みもしなかった。


 紬が前掛けを釘から外して、裾を裏返した。焦げの縁がほつれている。糸を通して、当て布をせずに縁だけを止めた。止めてから、また釘へ掛け直す。


「直したのか」と燈が訊いた。

「ほつれだけです」

「焦げは」

「焦げは、そのままにしました」


> 銘量 ── 火村燈 六百二十五。


「減ってねぇな」

> 本日ぶんは、既に引いております。


「六百二十五で、何が出来る」

> 本機には、換算する欄がございません。


「じゃあ、いつまで持つ」

> 照会をいただければ、計算いたします。


「してくれ」

> 承知いたしました。


 識は答えを言わなかった。燈も、二度は訊かなかった。


> 【鑑定 第四十六号 追記】

> 押印累計 ── 二百十五。

> 物件 ── 鍛冶場、一。および刀身、一。

> 追記 ── 本日、押印五。搭乗五、刻印一。銘量の減少を確認。

> 所見 ── 代替物(火床、一)、消失。

>     贋作体一体、消失。片減りによる。

>     継ぎ目の作成は楠木巌。左の踵、一箇所。

>     結束は綾織紬。寄せた向きは右であります。

>     温度の判読は硝子井玲。左八百、右五百八十であります。

>     止めたのは硝子井玲であります。

>     原物(火床、一)── 復しております。

>     窪み、左へ寄っております。

>     当該刀身の銘 ── 消失。茎、平らであります。

>     市外の工房 ── 一件。本機は記録しておりません。

>     当該工房の灰 ── 三年ぶんではございません。

>     市の被害 ── 林道の標柱、一本。同日中に楠木巌が継ぎました。

>     依頼者の照会 ── 一件。回答は、ございません。

> 本件、真贋判定 ── 〈贋〉。

> ただし、

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