3話 王城と王女
エルさんの話によると、俺の前にこの世界に来たマサタカというやつは既に勇者として魔王を倒しこの世界を守ったらしい。
「それだけじゃありません! 魔王退治後に発生したバーバラ地方の石化現象の解決や、伝説と謳われた最果ての島『ラフテス』の発見をしたのもマサタカさまなんです!!」
マサタカは大分この世界を攻略したらしいな。
それにしてもマサタカのこととなるとエルさんは興奮気味に語る。やけに饒舌に。
「エルさんはマサタカのことが好きなんだな」
「はい! 大好きです!」
悩む素振りも見せず、即答するエルさん。
くっ……つけいる隙もない。ヒロインまで攻略済みとは。
「実は……マサタカさまがこの世界で初めて人助けをしたのは、私のためなんです」
エルさんは少し照れたように語る。
「へぇ、その話詳しく聞きたいな!」
こうあれこれ語られるとマサタカなる人物がどういうやつか、興味も出てくる。
それに、すぐ元の世界に戻って不良と出くわしたら嫌だし。ほとぼりが冷めるまでエルさんとこうして話していよう。
「あ、それよりも!」
エルさんは急に何かを思い出した様子で手を合わせて立ち上がる。
「セントラル王城に報告に行きましょう! 異世界の人がゲートから訪れるのはこれまで無かったことですので!」
◇ ◇
そうして、ひとりだったら一生迷って出られなそうな広い森をエルさんの案内で進むこと1時間。
巨大な石造りの城壁で囲われた立派な城下町にたどり着いた。
町の入口には立派な偉丈夫の銅像が聳え立っていた。
「セントラル王城はこのセントラル王国の首都で、マサタカさまが最初に訪れた城です。そしてマサタカさまはこの国の国王に成り代わって民に悪政を敷いていた魔王の手下『アクダイカン』を見事討伐したのです」
「はぇ~」
デッカイ銅像を見上げる。
これがマサタカか。名前に似合わず流し髪のイケメンで体格もがっちりしている。
しかしこうして他人の銅像がしっかり建てられていると。
「まるで中古のゲームソフトみたいだな~」
中古のゲームを買って、残っていた前の持ち主のセーブデータで遊んでいるような。さっきからそんな気分だ。
ちょっと他人のプライバシーを覗いているような感覚でいると、前から高い声が響いた。
「あら~エルじゃない。お久しぶりね」
見ると、サラリとした銀髪の少女が優雅に歩いていた。またしても凄い美人である。
水色のドレスに大きなエメラルドのブローチをつけ、背後には複数の騎士を携えている。
これはあれだ、所謂――。
「お久しぶりですね。セーニュ姫」
お姫様ポジね。はいはい、わかります。
「貴方ったら森に籠もったきり出てこないんだもの。何をしていたのやら。それとも……まだマサタカを待っているの?」
「……わたしはいつまでも待ち続けますから」
「ふーん、あの男のどこがいいのやら。思い直せば顔は好みじゃないし、エクスカリバーが無きゃ何にも出来ないし、勇者だと思ってちょっとおだててみたら、急に好きだだの婚約だの言い出すからホント迷惑したわ」
「……羨ましいです」
「勇者の血が欲しいのは事実だから付合ってやったけどね。マサタカは随分ワタクシに熱を上げてるみたいだったから、困っちゃうわね〜?」
「……セーニュ姫はお綺麗ですから、マサタカさまが好きになるのも当然です」
「あらそう~ハーフエルフにおだてて貰っても嬉しくないわね~。あとマサタカが消えた今、仲間面なんてしないでよね。貴方は元パーティーメンバーだけど、今は部外者なんだから。平民よ、ただの平民!」
エルさんに対してやたら高圧的な王女。
俺の庶民的直観が言うにはあんまり性格がよく無さそうだな。
「で、その男は何? 珍しいじゃない、貴方が人間とつるむなんて」
「あ……この方は……」
エルさんの説明が一通り終わると、王女はまじまじと俺を見つめた。
途端に頬を緩めると、
「あら、そうでしたの。貴方が新しい勇者、カイト様と言いますのね!」
さっきとは打って変わって(わざとらしい)笑顔でスカートの端をあげて丁寧にお辞儀する王女。
「セントラル王城へご案内いたしますわ」
あれやこれやで馬車に詰め込まれて、城の中を案内された。
城の中には、額縁に飾られた武器やら、勇敢に戦う男とその仲間の絵画やらが飾られている。
「前任の勇者の備品で溢れてて申し訳ないですわ~」
「ふふ、懐かしい品がいっぱいですね」
「あの、この武器はいったい?」
俺が指さす先に、トゲトゲがついたハンマーが丁重に飾られている。
「それはグッドモーニングスターですわ。マサタカが妖精域で魔王幹部『大樹鬼のサテナ』を倒したときにサブで使ってた武器でしてよ。早朝に使うと攻撃力が2倍になる効果がありますわ」
「へぇーじゃあこれは?」
「お目が高いですわね! それは神造剣エクスタシスブレードですわ! マサタカが魔王を倒した後、神々の住む天空界に招かれて、そこで巨竜『根源龍ラストバハムート』と戦ったときに使っていた武器ですわ! マサタカの最終装備の一つでしてよ!」
「懐かしいですね! また行ってみたいです!」
「空気が薄くて苦しかったですわ~」
マサタカのやろう、クリア後コンテンツみたいなのまでしっかり終わらせてるじゃねーか!
もうこの世界に敵残ってないんじゃね?
マサタカに完クリされた世界を見せられて、俺にどうしろというんだ。
「この絵に描かれているのはマサタカさまのパーティーの1人、格闘家のゴンザレスさんですよ」
「戦いの後ゴンザレスは故郷のグレートタウンで闘技場の主をしていますわ」
「闘技場で飼育されている魔物を倒すと、マサタカさまの横顔が彫られた黄金メダルが貰えるんです!」
「いるか? そんなの」
城の中で、マサタカの偉業について姫とエルさんに色々と語られた後、俺たちは城の最奥に来ていた。
「これを見て欲しかったのですわ」
セーニュ姫が厳重に鍵がかかった扉を開けると、そこは真っ白な神殿で、中央に古ぼけた白い箱が鎮座されていた。
手のひらサイズの箱を姫は丁重にすくい上げた。
「聖剣エクスカリバーですわ。マサタカの愛剣にして、あまたの魔王軍を屠った伝説の武器。そしてこの剣はマサタカにしか起動できなかったのですわ」
「これが剣なのか?」
「起動すれば剣になりますわ」
「……エルフの森の湖に封印されていたアーティファクトです。森の主に追われる中、マサタカさまと逃げ込んだ先で発見したんですよ。ほんとうに懐かしいですね」
エルさんは恍惚とした表情でその箱を見る。
姫は俺の眼前にエクスカリバーを差し出した。
「触れてくださる?」
「俺が?」
「ええ、ぜひ」
姫に言われるがまま、触れる。
「そのまま『エクスカリバー起動』とおっしゃって」
なるほど、俺にエクスカリバーが起動できるのか試したかったのか。
ものは試しだ。
「エクスカリバー起動!」
俺が叫ぶと。
『――認証完了。エクスカリバー起動シークエンス開始』
ガチャガチャと箱が動き出し、刃と柄の間に大きな赤い宝石が埋め込まれた西洋剣に変形した。
かっ、かっちょいい。
初めて異世界人っぽいこと出来た気がする。
「…………ああ、なんてことなの! 素晴らしいですわ! 貴方、本当にマサタカと同じ勇者ですのね!」
姫が俺の両手を持って、縦に大きく振る。
かなり興奮した様子だ。てれるな、へへへ。
「新しい勇者の誕生ですわ! 今夜は王国民総出でパーティーにしましょう!」
「パーティー! こんなことで!?」
「当たり前じゃない! マサタカがいなくなってもう数年。この国……いいえ、世界は外敵の復活に不安になっていたのだもの。新しい勇者がいればその心配はないわ!」
「いや、でも…………非情に申し訳ないが、俺、長居するつもりはないぜ?」
「……え?」
「だって、この世界はちょっと見学してるだけというか。お試しというか。すぐ帰るつもりだし……。向こうで家族が待ってるし」
姫はニッコリと笑って、頷く。
「……それは仕方ないわね。貴方にも家族がいるのだものね」
「わかってくれるか?」
「ええ、もちろん」
姫は手のひらをあげて、
「——認められるわけないでしょ。否が応でもこの世界に留まって貰います。『アイスホールド』」
姫の手のひらから氷の鎖が飛び出す。
なにそれ、魔法!?
鎖が俺を絡め取ろうとする直前――。
「シルフィードブレスッ!」
力強い呼び声とともに、エルさんが両腕をかざす。
緑の風が吹き荒れて、氷の鎖を吹き飛ばす。
「ッ――! 邪魔しないでよね、ハーフエルフ!」
「姫であっても、乱暴は許されません! 暴力反対です!」
「うるさい! まとめて凍りつかせてあげる!」
杖を構えて臨戦状態の姫。
え!? 俺はどうしたらいい?
「ええと……ひとまず逃げましょうか」
「あっ、はい」
エルさんは俺を掴むと、凄い脚力でステンドガラスを突き破って、城の外に出る。
「待ちなさい!」
姫の声がグンと遠ざかる。
ジェットコースターに乗っているような風を感じて、俺はひぃひぃ言っていた。
「一度、森に帰りましょう」
◇ ◇
風通しのよくなった城内。銀髪の少女は割れたガラスに向かって独り言つ。
「あーあ。まともに戦えば強いくせに貴方は結局最後まで誰にも手出ししなかったわね」
最後までサポート役に徹した心優しいエルフ。
そして、勇者マサタカにとっての最愛の女性を少女は見送った。
「羨ましいのはワタシの方よ。エル……」
久々に再会したパーティーメンバーに向けて少女はぼそりと呟いた。
静かになった神殿の柱に背をよせかける。
と——同時、あるはずのものがないことに気がつく。
「…………あれ? エクスカリバーは?」




