身体には気を付けて
拙い文章なのはお許し下さい。
3人は追手を警戒して町の周辺の森に移動した。
シュンッ…
「…また森かぁ…なんか私たち森ばっかにいない?」
「仕方ないでしょ、森は1番安全なのよ。」
「へっ!こ、ここは一体!?今のは何ですか!?」
初めて瞬間移動を経験したニューズは驚愕していた。
「私の能力よ。一定距離を移動出来るわ。」
「瞬間移動…ですか!!やはり貴女は噂に聞く『魔女』なんですね!!」
ニューズはそう言ってセイナから距離を取る。両手を前に出して警戒するが、足は震えている。
「そうよ、私は『魔女』セイナ、よろしくね。」
その言葉を聞いてニューズは地面に座り込む。
「や、やっぱり…ま、魔女だったんだ……た…助けて下さい!!な、なんでもし…しますから…だだだから……」
恐怖でまともに喋れないニューズはそれでも必死に命乞いをした。
「ん?何?もっとハッキリ喋ってくれないと聞こえないんだけど?」
「もう、セイナ!そんな風に言ったらニューズも怖がっちゃうじゃない!!」
パーナはそう言ってセイナの背中を叩いた。
「いたた…そうね、パーナの言う通りだわ。私も少しイライラしててごめんなさいね。私は遠くに行ってるからパーナと話してて。」
シュンッ…
そう言ったセイナの姿が一瞬で掻き消えた。
「あ、セイナ…もう、セイナったら恥ずかしがり屋なんだから…それじゃあニューズ!2人でお話ししよ!!」
「は…はい。分かりました。」
ニューズは少し怖がりながらもパーナの隣に座った。
そしてニューズが落ち着いてからパーナが話し出す。
「ええっと、先ずは私達の事だったね。ニューズの言う通り私達は『魔女』、まぁ私は『魔女』の力は持ってないんだけどね。」
「やはりそうでしたか…」
「うん…黙っててごめんね。それで…ニューズは逃げないの?『魔女』はこの国では危険視されてるはずだけど…」
「あはは…逃げたいですよ、でもさっきから足が笑っちゃって立てないんです。それに人間って恐怖も限界を超えると一周回って冷静になるんですね。でも良かった、私が怯えて逃げ出せていたら、さっきの兵士たちみたいにセイナさんに殺されていたでしょうから。」
そう言ってニューズはビクビク震えている自分の足を指差した。
「そうだね、私たちも生きる為に必死だから…」
「でも遅かれ早かれ、私は口封じで殺さなきゃいけませんよね…」
「それは……」
ニューズは分かっていた、秘密を知った自分の命が長くないと。パーナもそれには答えられない、セイナが殺すと言えばパーナにはそれを止める手段はないからだ。
「やっぱり……うわぁ…怖いなぁ…死ぬってどんな感じなんでしょうか……」
ニューズは死を待つだけの死刑囚の様に恐怖に怯え始めた。そして引き攣った笑みでパーナの顔を見る。
「あの…何とか私が生きる手段って、無いですかね…私、夢があって…まだ死にたくないです。…ダメですか?」
「夢?」
「はい、私は世界を変えたいんです。無能力者、そして女性が冷遇され続けるこの世界のルールを。私1人じゃ無理かもしれないけど、いろんな人と協力していつか必ず…だから……って、あはは…そんなのダメですよね…」
「ダメね、貴女には死んでもらうわ。」
その瞬間、ニューズの背後にセイナが現れる。それを見たニューズの表情が沈む。
「ですよね…『魔女』である貴女たちは生きるのに必死、私なんかを生かしてる余裕なんかあるはずないですよね…ううっ。」
涙を流し始めたニューズを見てパーナが慰める。
「ねぇセイナ、この子なら生かしてあげてもいいんじゃない?これだけ怯えてたら私達のことを話す事は多分ないよ。それに下手に私達の話なんかしたらこの子自身が『魔女狩り』に捕まっちゃう。だからこのまま…」
それを聞いたセイナは笑い始めた。
「ん?…ああ、そういうことね。うふふ…何勘違いしてるのよパーナ。殺すって言ったけど、それは口封じの為じゃないわよ。パーナの能力を使う為に決まってるじゃない!」
「あへ?そうなの?」
「そりゃそうでしょ、私だって誰これ構わず口封じで殺すワケないじゃない。さっきの肉屋の店主だって生かしたでしょ?正直、最初は私もビクビクしてたけど、私のこの力があれば多少バレたところでどうにでもなるしね。だからそんなに怖がらなくていいわよ、ニューズ。」
それを聞いたニューズは少し安堵するが、先ほどの言葉を思い出した。
「で、でも!!私には死んでもらうって言ってましたよね!!」
「ああ…そうね、一度死んではもらうわ。そうしなきゃ、話が始まらないもの。」
そう言ってセイナは懐から銃を取り出した。
「ひぃ!!…い…いや!いやぁ!!」
急に銃を突きつけられたニューズは本能から逃げ出そうとするが、足が動かずに這いつくばった。
「それじゃあ、良い旅を〜。」
ドォオオオン!!!…バタっ…
逃げるニューズの背後からセイナは無慈悲にニューズの脳天を撃ち抜いた。ニューズは即死で、その場に血を流して倒れた。
「パーナ、お願いね。」
「セイナならそう言うと思ってたよ!!任せて!」
パーナがニューズの死体に手を当てると、2人が光に包まれる。
少しすると2人から光が消え、ニューズが立ち上がった。
「あれ?私は一体何を…」
「ニューズ!!おはよう!!これで私たち、本当の友達だね!!これからよろしく!!」
パーナは困惑するニューズに抱きついた。それによりニューズは更に困惑する。そんなニューズにセイナが話しかける。
「気分はどうかしら、ニューズ?」
「セイナさん…これは一体…」
ニューズは痛みを感じる間もなく即死した為、状況を全く把握出来ていなかった。しかし目の前のセイナから殺気が消えており、戦闘の意思がない事は分かっていた。
「まぁ、座りなよ。これからの話をしましょう、私たち3人のね。」
そうしてセイナは自身が『魔女』になった経緯から、パーナの能力についてまでの話をした。
「ぐすっ…お二人とも大変だったんですね…すみません、私も『魔女』だなんて差別してしまって…」
「いいのよ、それに貴女もこれからその『魔女』として生きていくしかないんだからね。」
「はい、そうですね……って、私の事殺したのはセイナさんですよね?仲間にする為とはいえ、何の説明もなくいきなり私を殺した挙句、勝手に『魔女』にするなんて酷いです。人の心とかないんですか?」
「あはは…それはごめん。貴女も魔女にならなきゃ話は聞いてくれないと思ってね。…でも、それを言うなら私だって勝手に『魔女』にされた側なんですけど…」
2人はパーナの方を見た。
「ご、ごめんね…全部私のせいだよ…セイナとニューズが『魔女』になったのも全部私が……ううっ!ごめん!!本当にごめん!!」
パーナは泣きながら2人に抱き付いた。そのあまりの泣きように、2人の表情が緩む。
「パーナさん、私は大丈夫ですよ。元々、親に捨てられて詰んでいる人生です。だから、そんなに気に病まないでください!」
「そうよ、どんな形であれ私も生き返れたしね。パーナには感謝してるわ。これからもよろし……って!!鼻水ついたじゃない!!ほら、涙も!!」
「うわぁああん!!2人とも優しいよぉ!!ありがとぉおお!!私も2人のために頑張るからぁ!!」
「いいから離しなさーい!!服が汚れちゃうでしょ!!」
パーナは小一時間泣き続けた。その間、2人はパーナから離れられず、パーナが泣き疲れて眠るまでパーナを慰め続けたという。
〜数時間後〜
「ねぇ、2人とも。どうしてそんなに怒っているの?」
「別に…パーナがお子様なのはいつもの事だし…」
「そうですねぇ…子供を寝かし付ける母親の気分を味わさましたね…チッ。」
そう言って不快な顔をする2人を見て、パーナも申し訳なさそうにする。
「うぅ…ごめんよぉ〜!!」
「待った、次に泣き出したら本当に許さないから。」
「はい!すみませんでした!もう泣きません!!」
「うむ、よろしい。では早速次の町に…」
その瞬間、セイナは背後に振り返る。すると、数人の兵士たちが現れたのだ。
「君たち、こんなところで何をやって…って、お嬢様!!ニューズお嬢様ではありませんか!!」
ニューズの顔を見た兵士たちはセイナとパーナに武器を構える。
「流石に見つかっちゃったかぁ…誰かさんが何時間も泣いてたせいね。」
「うぅ…ごめんよぉ…」
「くっ…私もここまでですか…」
「貴様ら、何者だ!!お嬢様から離れろ!!」
「まさか、お前たちが『魔女』なのか!?」
「何が目的だ!!お嬢様を返せ!!」
「あぁ…ピーピーうるさいわね、そんなに大声出さなくても聞こえてるって。」
「黙れ!!貴様はやはり邪悪な『魔女』で」
シュンッ……
「え…」
ドガァアン!!……
少し遠くで何かが落下した音が聞こえた。その場にいた全員がその正体を察するのは難しくなかった。
「ひぃい!!『魔女』だ!!」
「死ねぇ!!この薄汚い血族がぁ!!」
ドオン!ドオン!!ドオンドオン!!
周囲に4発の銃声が鳴り響く。それは恐怖した兵士たちがセイナに向けて撃った物だ。しかしそれを受けたセイナ本人は棒立ちしている。
「カァ……」
バタッ!!……
その瞬間、銃を撃ったはずの4人が地面に倒れる。その全員が胸から血を流し、地面を赤く染めた。それを見下すセイナの周りには白いオーラが展開されていた。
「ざーんねん。私に銃は効かないの。」
それを聞いて残った兵士たちは恐怖に怯える。
「ひぃ!!ば、バケモノ!!」
「お、お助けを!!」
「た、隊長!!」
「…邪悪な『魔女』め!隙ありだ!」
「何!?」
その瞬間、1人の男が茂みから飛び出す。そしてその男が向かう先はセイナではなくパーナの方だった。
「チッ!速い!!」
セイナは咄嗟に瞬間移動でその男を飛ばそうとするが、その男の速い動きで存在を捉えられない。男は凄まじい速度で剣を抜き、パーナの前に立った。
「先ずは貴様からだ!!」
「ぅ、うわぁあ!!セイナぁ!!」
パーナはどうする事も出来ない。セイナに助けを呼ぶが、タイミング的にもう間に合わない。
「パーナぁ!!」
「とった!」
男の白刃がパーナに迫る直前、
「…えい!!」
ガギィインン!!
「え…」
男の剣が根本から真っ二つに折れた。それにより剣はパーナを捉える事なく空を切る。
「で、出た…私にも魔法が使えました!!」
そう言ったのはニューズだ。ニューズは新たに得た『魔女』の力でパーナを救ったのだ。
「お嬢様!!一体何を!!」
「何がお嬢様ですか!!私を捨てたのはお父様とお母様でしょう!!それを今更、お金くらいが何よ!!そもそも金庫を開けっぱなしにしとくのが悪いでしょう!!私を、私の友達を傷付けないでください!!」
そう言ってニューズが右手をその場で一閃した。
「え………」
スンっ……
その瞬間、男の身体が横一文字に切断された。男は何も発する事なくその場に崩れ落ち、即死した。それと同時に、周りの木々も同じ一閃上で綺麗に切断され、その場に倒れたのだ。
「へぇ…やるわね、空間を切るなんて。私の出る幕でも無かったわ。」
「ふぅ…私はもう迷いません。この町とも、お父様ともお母様とも決別します!!」
「ニューズぅ!!怖かったよぉ!!」
パーナはそう言ってニューズに抱き付いた。
「ちょ、抱き付くのはやめて下さい!!敵がまだいるかもしれません!!」
「あ、それは大丈夫よ。ほい。」
シュンッ……
セイナは近くに残っていた兵士たちを全員遠くへ飛ばした。その後再びいくつかの断末魔が聞こえ、すぐに森は静かになった。
「はい、ゴミ掃除完了っと。それよりも早くこの町から逃げましょう。…パーナそろそろその子から離れなさい。よしよしなら私がしてあげるから。」
「セイナも柔らかくて好きだけど、ニューズもプニプニで気持ちいい…ずっとこうしていたい…」
「ちょ、パーナさん!!どこ触ってるんですか!!そこはダメですぅ!!」
「良いでしょ?私、すごく怖かったんだから。あと少しだけこうしてても…グヘッ!」
ニューズに掴まるパーナをセイナが無理矢理引き剥がし、自分にくっつけた。
「ほら、私のなら堪能させてあげるから。」
「わーい、セイナだーいすきー!」
無邪気に喜ぶパーナと、満更でもない顔のセイナだった。そしてパーナをくったけたままセイナは真剣な表情に戻り、ニューズに問いかける。
「ニューズ、貴女はこれからどうするの?私たちと一緒に来てくれる?」
「…セイナさん、私の居場所はもうどこにもありません。貴女たち2人と一緒に連れて行ってください!!」
「本当に覚悟は出来てる?これからもっと辛い事ばかりだろうし、先ずまともには死なないわよ?それでも来るって言うの?」
「はは…私をこんな風にしたのはセイナさんとパーナさんですよ?それを今更、水臭いじゃないですか。覚悟なんて、その人を殺した時点でしてますよ。3人で地獄に落ちる覚悟もです。ですからどうか、私も一緒に。」
「良い返事ね、確かに私は貴女の人生を狂わせたわ。貴女から普通の日常を奪った。でも元に戻る手段が一つだけある、それはこの世界を滅ぼす事。『魔女』を迫害するこの世界をリセットし、『魔女』が頂点に立つ世界を創り上げるの!それを実現しましょう、貴女にも後悔はさせないわ。最期まで私についてきて。」
「はい!よろしくお願いします!!」
「ええ、よろしく。」
「よろしくね、ニューズ!!」
そう言ってニューズはセイナの手を握り、パーナもその手を握った。ニューズは自分の育った町の方を眺めながら想いを馳せる。
(お父様、お母様、私はこれから貴族でもお嬢様でもない1人の『魔女』として、世界を変える旅に出ます。お父様には沢山殴られたし、お母様にも沢山怒られました。私にとってトラウマで、大っ嫌いな2人だけど…それでもここまで育ててくれた事は一応感謝しておきます。もう2度と会う事は無いと思いますが、盗んだお金だけはいつか返しに来ようと思います。それまでは精々くたばらないでくださいね、私も借りたままは嫌なので。では、さようなら。)
そしてセイナが能力を発動させ、3人はその場から離脱したのだ。
〜数年前〜
「何!?あの子が無能力だと!?」
「はい…何度も調べさせましたので間違い無いかと…」
ヨードルム家の執事が、当主であるニューズの父親と母親に検査結果を告げた。
「馬鹿な…何という事だ…」
「そんな…まさかあの子が……ぁぁ…」
あまりのショックにニューズの母親はソファに倒れる。
「大丈夫か!!」
「ぁぁ…私のせいよ…私が…私が…私が…」
「お前だけのせいじゃ無い!私たち2人の責任だ!だから落ち着け、私たちがそんな態度ではあの子も卑屈になってしまうぞ!」
「……ごめんなさい…私どうかしてたわ…うぅ…ごめんね、ニューズ…ごめんね…ごめんね…」
母親は泣きながら目の前にいない娘に謝罪を続ける。それを見て父親も涙を流した。
「ぐぅ…すまない……だが、我々が泣いてばかりではおれん。これからの事を考えねばなるまい。」
「…ええ、そうね。あの子の為にも、そうしましょう。」
涙を拭った2人はソファに腰掛け、真剣な表情に戻る。
「先ずこのままではあの子は確実に不幸な人生を歩む事になるだろう。良くて大貴族の側室、悪ければ一生奴隷という事もあり得る。」
この世界の貴族は能力が重要視される。親の能力は子に遺伝する為、無能力の貴族には価値が無いのだ。侯爵家の一人娘であるニューズが無能力だと知れれば、婿入りしてくる令息どころか嫁入りさせてくれる家すら無いだろう。故に妻を複数人抱える色好きな貴族か、訳ありで結婚出来ていない変人などしか相手がいないのだ。
「そんな…そんなの嫌よ!!そんなんじゃ、あの子が可哀想だわ!!」
「ああ、私も同じ気持ちだ。だが、これは貴族のルールだから仕方が無いのだ。我々が今更どうにかする事は出来ないんだ。」
「なら一体どうするの!?」
「……一つだけ方法がある……それは、あの子を貴族ではなく平民にするという方法だ。貴族のルールの中ではあの子はまともには生きられない。だが平民であれば、ある程度幸せに生きる事は可能なはずだ。」
「そんな!!私たちの宝であるあの子を捨てるって言うの!?」
「そうだ、全てはあの子の幸せの為。親である我々は娘の幸せを叶える義務がある。もうこれしか手段は無いんだ。」
「でも…でも…私はあの子と離れたくないわ!!これからもずっと一緒にいたい!!」
「…それは私も同じだ。だがやるしかないんだ。これから私たちはあの子に嫌われる為に厳しく当たらなければならない。あの子が最後に後腐れなくこの家を出れるように。」
その言葉を聞いて母親はしばらく考えた。様々な葛藤があったのだろう、数分後に涙を拭って結論を出す。
「……分かったわ。全てはあの子のため、私も鬼になりましょう。」
「ああ…これからは1人で生きていける様に、算術、医術、歴史学、経済学、地理学などを全て叩き込む。おい執事、これらの教師を雇ってくれ。とびきり厳しい教師たちをな。」
「はい、かしこまりました。」
「それと屋敷の全員に通達を。これからニューズに優しくする必要は無いと、これを破った者は即座に解雇するとな。」
「かしこまりました。」
「…ニューズ、最低な親である俺を許してくれ…」
「私もよ、ごめんねニューズ…ごめんね…」
そう言って2人は涙を流し、抱き合いながら覚悟を決めた。
〜数年後〜
「これは…」
父親はニューズに最後に与えた抜き打ちテストの結果を見ていた。
(全て正解だ…何という頭の良さ、やはりあの子は私たちの娘だな……もう、いいだろう。これだけ知識があれば1人でも容易に生きていける。名残惜しいがここまでだ。)
父親はニューズの目の前に立った。
「残念ながら満点では無かったな、この出来損ないが!貴様などヨードルム家の恥晒しだ!!約束通り、お前を勘当する。今すぐに荷物をまとめてこの家から出て行け!!」
「待ってくださいお父様!!満点なんてハードルが高過ぎます!!それに、どこを間違えて」
パチン!!
「口答えするな!!この無能が!!貴様など、どこへでも行ってしまえ!!さっさと私の視界から消えろ!!」
頬をビンタされたニューズは頬を抑え、涙目になりながらも何か言いたげな様子で部屋を出ていった。そしてそれを確認した父親は疲れ切ったようにソファに座る。
「ぷはぁ…はは…最後にビンタまでしてしまった…私は本当に最低の父親だな……あの子は私をさぞ嫌っているだろうな…だが、これで良い。これであの子は後腐れなく我々の事を忘れ、この町を出て外の世界を旅出来るはずだ。……おっと、そう言えば餞別を渡すのを忘れていたな。…そっと、金庫を開けておくか。大金貨が100枚もあれば十分だろう。」
父親はそう言ってニューズの近くの部屋にある金庫をコッソリと開けておいた。
「…ニューズ、幸せにな。そしていつか…一度でいいからその顔を見せに来てくれ…お前が一人前になって帰ってきた時、今までの事を謝るから…だから…」
父親は涙を拭いながら娘にバレないように自室へ戻ったのだった。
父親の目論見通りニューズは金庫の金貨を盗み、自室から服などの荷物を持って外に出ようとする。しかし玄関を開けた先で1人の女に声をかけられる。
「待ちなさい。」
「…何ですかお母様。」
そう告げるニューズの表情は暗い。父親同様に母親にも何も期待していない目だ。
「……貴女みたいな無能がいなくなって清々します。もう2度と…もう2度とここには……」
母親はそれより先を言い淀んだ。そして自身の気持ちとは別に、一筋の涙が頬を伝う。
「どうしましたか、お母様。」
目が良くないニューズはその涙には気付かった。しかし、母親の様子がおかしい事だけは理解していた。
「…うぅ…ぐすっ……ふぅ…いいえ、何でもありません。もう2度とここには戻って来ないように。それと……」
「…まだ何か?」
「……身体には気を付けて。」
「えっ…」
母親はそれだけ告げて家に戻った。ニューズは少し違和感を感じつつも、勘違いだと思い込みそのまま家を出たのだった。
「はぁはぁ…ごめんなさいニューズ…ごめんね…ごめんね…」
母親は玄関のドアを閉めると、ボロボロと泣いた。しかしその声がニューズには届くことはなかった。
〜数日後、王都のとある施設内〜
「はぁ…ただいま戻りましたー。」
「うむ、よく帰った。それで?ヨードルム領はどうだった?」
「『魔女』については全くダメでしたね。ヤツらの痕跡すら全く掴めませんでした。やっぱり最近話題の『天撲の魔女』の仕業ですかね。」
「最近出現した危険度A級の『魔女』である『天撲の魔女』、戦闘力だけでなく圧倒的な機動力を持ち、逃げ足は超一流との事だ。厄介だな…」
「全くです。早急に捕まえないと、被害はドンドン拡大していきます。何か手を打たないとですね……」
「ふむ…やはりここは『魔女狩り』最強の【四神】の4人に動いてもらうしかないな…」
「そうですね。……おっと、ですがもう一つの仕事はキッチリこなしてきましたよ。」
「そうか、ご苦労。一応報告を聞こう。」
「報告する程の事は何もないですよ、ちょー余裕でした。はっはっは!」
「ならば良い。では私の方から上に報告しておこう。
【『天撲の魔女』と関わりのある可能性の高いヨードルム侯爵夫妻の粛清はつつがなく完了した】とな。」
これにてニューズ編は完結です。
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