オバさん
「ねーねー、まだ着かないの?もう5日くらいずっと歩いてるんじゃない?」
「まだ3日目よ、パーナ。それよりどうなのニューズ、あとどれくらいで着きそう?」
「そうですね…私の計算だともうすぐだと思うのですが…」
3人はニューズの故郷の町から脱出して3日、近くの町に向けて広い平原を歩いていたのだ。
「もうすぐっていつー?もう、私歩けないー!!」
「はぁ…パーナはお子ちゃまね。いいわ、私が背負ってあげるからもうちょっと頑張るわよ。」
セイナはそう言ってパーナの前にしゃがんだ。
「わーい!!やったぁ!!久しぶりのセイナのおんぶだ!!……って、あれ?」
パーナがセイナの背中に飛びつこうとした時、パーナの目がとある物を捉えた。
「あ、あれです!!あれが目的の町、『ダブ』です!!」
そう言って遠くに見える町をニューズが指差した。
「やった!!ようやく休めるー!!2人とも、早く行こ!!」
パーナは2人の手を握って引っ張った。セイナは少し残念そうに立ち上がってそれに着いていく。
「……都合の良い足ね、さっきまで歩けないって言ってたのに。」
「ちょ、パーナさん!!走ると危ないですよ!!」
「いいから早く早く!!」
急に元気になったパーナに手を引かれ3人は町の中に入ったのだ。
「…こ、これが『ダブ』ですか…」
ニューズは町の外に出るのが初めてである。故に自分の故郷と違う町の光景に少し戸惑っていたのだ。
「何?ニューズもこの町初めてなの?」
「はい、外に出たのが初めてなので…それにしても、私の故郷の町よりも賑わいが少ないですね。何か理由があるんでしょうか…」
「そうね…外を歩いてる人が流石に少な過ぎるわね。少し気になるわ。」
セイナとニューズがそう思うのも無理はない。3人がいる場所は人通りが多そうな大通りであるにも関わらず、歩いている人は数人で、皆何かに怯えたように早歩きで去っていく。比較的都会に住んでいたこの2人にとっては異様な光景であった。
「おやおや、可愛いお嬢さん方さね…この町は初めてかい?」
その時、3人の横から話しかけられる。するとそこにはかなり際どい赤色の派手なドレスを着た、気だるそうな女が座っていた。
「誰ですか、貴女は。」
「おっと、いきなりで警戒させちゃったね。アタシの名前はアンリーザ。この町のピンク街で風俗嬢をやってるオバさんさね。よろしく。」
アンリーザと名乗った女はそう言って右手を軽く振った。
「オバさんねぇ…そこそこ若そうに見えるけど、お姉さん何歳?」
「27歳さ。若そうなんて言ってくれてありがとうね。一応アタシもこの顔と身体を売る商売だからね。アンチエイジングには気を遣ってるってワケ。それよりもアンタたち、何か困ってるんじゃないのかい?」
「別に困ってなんかいないわ。ただ、初めて来た町だから宿とかを探さないとって…」
「アンリーザさん!何でこんなに大きな町で、外に人が全然いないの?」
セイナの後ろからパーナが割り込んだ。
「そうさね…一言で言えば皆んなビビっちまってるってとこさね…」
その言葉にセイナとニューズに緊張が走る。
(もしかして私たちの…)
しかしセイナは平然を装って聞く。
「それってまさか、『魔女』の事?」
「『魔女』?ははは!!そりゃ『魔女』も怖いけど、一々『魔女』にビビって外に出なかったら何も出来やしないよ。皆んながビビってるのはこの町の【マフィア】さね。」
「【マフィア】?」
「そうさね、この町に本拠地を置くマフィア『メフィスト』、最近奴らの動きが活発になってて、外を出歩くのは危険ってことさね。」
「アンリーザさんは大丈夫なんですか?」
「アタシは失うモンなんか無いさね。それに店は夜からだから昼は暇さね、こうやって案内人の真似事しながら適当な男捕まえて小銭を稼いでるってワケさね。」
アンリーザは自虐するようにそう告げた。
「夜職は大変なのね、情報ありがとう。」
「良いって事さね…それよりもアンタたち、宿とか食事場所とかに困ってないかい?アタシが案内してあげようか?」
「そうね…2人ともどうする?」
「私は賛成です。」
「はいはーい!私もさんせー!!早く宿で休憩したーい!!それにお風呂も入りたーい!!」
「だそうよ、しばらく案内をお願いするわ。」
「あいよ、それとコッチの方は…」
アンリーザは右手で金のマークを作った。
「はいはい。ニューズ、1枚出して。」
「は、はい。」
そう言ってセイナはニューズから1枚の大金貨を受け取った。
「これでいい?」
セイナはアンリーザに金貨を投げた。アンリーザはそれを見て、顔が真っ青になる。
「こ、これは!!大金貨!?いくら何でもこれは多すぎさね!!アタシの約2ヶ月分の給料さね!!こんなに受け取れないよ!!」
「いいから貰っときなさい。辛くても頑張って生きてる貴女に少しだけ同情しただけよ。それにこれだけ渡すんだから、変な場所を紹介したら許さないわよ。」
それを聞いてアンリーザは土下座した。
「あ、ありがとうございます!!アタシの知る限り全力でやらせてもらうさね!!」
「当然よ、それじゃあ早速行きましょうか。」
「はい!!では先ずはコッチさね。」
勢いよく立ち上がったアンリーザは大通りを真っ直ぐ進み始めた。
「あのお金、私のなんですけど…」
「まぁいいじゃん!それよりも私たちも行こ!!セイナに置いてかれちゃうよ!」
先に行ったセイナとアンリーザの後を追って2人も歩き始めた。
「アンリーザさん、家族はいるの?」
「ええ、息子が1人。今年で10歳になるはずさね。」
「貴女、子供がいたのね。」
「10年前に客との間に出来た子だよ、アタシはその父親の顔すら覚えてないけどね…だから、アタシが1人で育ててきてたんだけど……借金のカタに連れて行かれちゃってね…」
「えっ…」
「アタシは親の借金を肩代わりして16歳の頃から働いてきたんだけど、何せアタシは無能力者だからね、こうやって身体で稼ぐしかないさね。それでも日々の給金は高々知れてるさね、毎月の利息すら払えないのさ。だからある日、借金のカタで息子を連れて行かれてしまったさね…利息を払わなければ殺すって脅されて…こうやって毎日働いてるってワケさね。」
「借金、ですか…それはいくらぐらいなんですか?」
「大体。金貨200枚さね…今のアタシの稼ぎじゃあ、1月に利息と金貨1枚を返すのがやっとさね。だからあと何年かかるのか…それにアタシも歳を取って客がいなくなったらいよいよ終わりさね。きっと、奴隷としてどこかの貴族に売られる運命さね。」
「そんな…」
「ニューズ、貴族だった貴女は知らないかもしれないけどこの世界での無能力の女なんかそんなモノよ。私だって借金があったら今頃、この人のように身体を売るしかなかったわ。」
「その子のいう通りさね、アタシが特別不幸な事なんて何もない。アタシより不幸な女は世界にごまんといるさね、だからこの年齢まで生きて来れただけでアタシは幸せなのさ。」
「アンリーザさん…」
「ねぇアンリーザさん、私たちと一緒にここから逃げない?私たち世界中を旅してるの、だから…」
パーナがそう誘ったが、アンリーザは笑顔で断る。
「それは嬉しい誘いさね…でもアタシが逃げ出したらあの子が殺されてしまうさね…だから、その誘いには乗れないね。」
「でも…」
「いい加減にしなさい、パーナ。」
「…はい…」
「それはそうと…着いたさね!ここがアタシのオススメの宿さね!値段は安いし、近くに商店街もあって温泉も近くにある。知る人ぞ知るこの町の」
「おい、女!こんな所で何してやがる!」
その時、4人の背後から声をかける男がいた。その男たちは明らかに柄が悪く、コチラに向けて敵意を剥き出しにしている。
「これはこれはザルド様、いかがなさいましたか?」
その男に対してアンリーザは可憐な立ち振る舞いで近寄る。
「とぼけんな!テメェ、今月の支払いがまだだろうが!さっさと払いやがれ!」
「あら、アタシは今月は月初に利息分も含めてお支払いしたはずですが…」
「何だテメェ…俺が嘘ついてるって言いてえのか?」
「…いいえ、滅相もございませんわ。ですが私は今仕事の最中でして…」
ドガッ!!
その瞬間、ザルドと呼ばれた男がアンリーザを殴り飛ばした。
「女の分際で口答えすんな…良いからとっとと着いて来い。仲間たちが我慢出来ねぇって待ってんだ。」
「…大変失礼致しました。…御三方、アタシは諸事情によりここまででございます。大変申し訳ありません。お金は全額お返しいたしますので、どうかこの町をお楽しみください。では…」
アンリーザはセイナの手に貰っていた大金貨を握らせ、そのまま立ち去ろうとした。
「待って…貴女が望むならアイツをぶっ殺してあげてもいいわよ。何なら【メフィスト】とかいう組織ごとね、どうする?」
セイナは男に聞こえないようにアンリーザに耳打ちした。
その言葉にアンリーザの足が止まる。しかしすぐに振り返って答える。
「……冗談はおやめくださいな。関係の無いアナタ方にそこまでしてもらう覚えはございません。では、失礼いたします。」
「おい!クソ女!!早く来い!!」
その怒号の元にアンリーザは走って行った。3人はその様子をただ眺めている事しか出来なかった。
紹介された宿の一室の中で3人はそれぞれのベッドに座っていた。しかし先ほどの生々しいやり取りを見たせいか、空気は重い。
「私知りませんでした…あんなに大変な人が世の中には沢山いるなんて…」
「そうね。『魔女』だけじゃない、この世界のこのふざけた差別の仕組みもぶち壊さなきゃね。」
「ねぇセイナ、あの人何とか助けられないかな…」
「無理ね、組織を潰すだけならまだしも息子さんを助け出さなきゃいけないからね。流石にリスクが高過ぎるわ。」
「そうですね…それにこの町を牛耳るマフィアと事を構えるのは危険です。コチラも慎重に動かないといけません。」
「そう…だよね…ワガママ言ってごめん…」
そう言って落ち込むパーナを見てセイナは外を眺める。
「……まぁ、でもパーナの言うことも一理あるわね。あの人には多少世話になった事だし、恩返しと思えばね…」
「セイナ!!やっぱりセイナは優しいね!!大好きー!!」
パーナは後ろからセイナに抱きついた。
「そんなんじゃ無いから…私は借りっぱなしは性に合わないってだけ。それに最優先は私たちの命、勝てないと思ったらすぐに逃げる、いい?」
「はーい!」
「分かりました。セイナさんがそう言うなら行きましょう。」
「さて…それじゃあ行きましょうか。この町を蝕む害虫を駆除しに。」
そうして3人は宿を出てとある場所へ向かったのだ。




