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選別

選別開始です。

「これより選別を開始する!」


 デールズ侯爵と名乗った男は伴を連れ、女たちの元へ歩き出した。



 ようやく始まった選別に女たちは恐怖していたが、セイナは呑気に伸びをしていた。


(へぇ…アレが村を作ったクソ貴族の1人ねぇ…思ったより普通の感じね。もっと醜悪な見た目だと思ってたけど…人は見かけによらないものね。)


「君、見ない顔だね。新入りかい?」


 その時、セイナの隣にいた女が急に話しかけてきた。


(誰よ、この女…)


「は、はい。そうです。」


 その女はセイナよりも年上で二十代後半と言ったところだろうか。怯える他の若い女と違ってかなり落ち着いている様子だった。


「やっぱりね。君みたいな可愛い子が残ってるなんて変だと思ったもの。あっ、自己紹介がまだだったね。私はエアル、よろしくね。」


「私はセイ…です。」


「敬語なんていいよ。私、堅いのは苦手だし。」


 そう言ってエアルは笑みを浮かべた。それを見て毒気を抜かれたセイナも笑みを返す。


「分かったわ。よろしく、エアル。」


「よろしく、後輩ちゃん!…って言っても、君は今日いなくなっちゃうかもしれないけどね。顔だけならかなり美人だし。」


 そう言ってエアルはニヤニヤしながらセイナの身体を観察する。


「顔だけって何よ。」


「ちょーっと身体に色気が足りないかなぁ。ほら、奥のあの子とかに比べてさ…」


 エアルはフィンセの方を指差した。


(コイツ…)


 フィンセと比べられて下に見られた事にセイナはムカついた。


「ふん、別にあんな男受けするだけの無駄な身体なんて要らないのよ。私、男嫌いだから。」


「あっはっは!そりゃそうだ。この村の女で男が好きなヤツはいない。それにあの子はスタイルは良いけど…顔があかんわ。隻眼っていうのはねぇ…」


「そうね、可哀想だわ。」


「何言ってるのさ、私たちからしたら羨ましい限りだよ。だってアレなら選ばれる可能性が低いだろう?」


(ここの価値基準はやっぱりおかしいのね。)


「セイも指とか無いからちょっと評価下がるけど…顔は凄く男を唆る感じね。そのツンツンしてる感じも男に好かれそう。結構モテるでしょ?」


 それを聞いてセイナはとある男を思い出した。


(嫌なヤツの顔が浮かんできたわ。本当に腹立たしい…)


「別に。それよりアンタはどうなのよ?何でそんなに落ち着いてるの?」


「私?そりゃそうさ、だって私はもうかなり歳だからどうせ選ばれることもないしね。選別だってもう何回も抜けてきてるから怖くなんかないよ。」


「そうかしら?アラサーにしては結構美人だと思うけど?」


「あっはっは!ありがとね、お世辞でも嬉しいよ。でも結局、選ばれるのはいつも若い子ばかりさ。ほら見なよ、今ちょうど1人選ばれたところだ。」


 エアルが指差したところでは先ほどの貴族がとある若い女の前で話していた。




「….この女だ。」


「かしこまりました。」


「い、嫌…いやぁ!!!」


 選ばれたその若い女は自分の運命を悟って絶叫する。その叫びは広場全体に響き渡り、周りの女たちはさらに恐怖を駆り立てられた。


「うるさいぞ。いいから黙って…」


「いや!来ないで!」


 発狂したその女は自分に向けられた手を振り払ってしまった。

 それを受けて侯爵の部下の怒りが爆発する。


「貴様!侯爵様に逆らう気か!」


「そ…そう言うわけじゃ…」


 女が恐怖に怯えながら縮こまっていると、それを見た侯爵が冷酷に部下に命令する。


「…やれ。」


「はっ!」


 命令を受けた侯爵の部下はその女に向かって取り出した剣を振り上げた。



 しかしその時、どこからか大声が響く。



「お待ちください!」


 何とそこに現れたのはホランだった。



「アレは…」


 遠くから様子を見ていたセイナもそれに気づいた。


「……ホラン母さま……また…」


 それを見てエアルは唇を噛みしみていた。




 割って入ったホランは松葉杖で貴族の元まで近付いて行き、そこで地面に膝をついた。


「この子が大変失礼しました。この罰は村の代表であるこの私がお受けします。何卒、お許しを。」


「母さま!」


 周りの女たちが狼狽する中、侯爵は冷徹な視線を向ける。


「…私を不快にした罪は重い。2人とも鞭打ち10回ずつだ。」


 侯爵はそう言って部下に鞭を握らせた。するとホランが頭を下げたまま口を開く。


「いいえ!この子はこれから侯爵様に献上される身、傷物にするわけにはいきません。この子の代わりに私が全て受けます!20…いや、30回でも構いません!ですからどうかお願いいたします!」


 ホランの強い訴えを聞いて侯爵は興味が冷めたように冷酷に言い渡す。


「…ババアが…もういい。そのババアに鞭打ち40回だ。さっさとやれ。」


「はっ!」


 その指示で鞭を持った兵士が他に伏したホランを鞭で打つ。



 パァアン!!パァアアン!!



「母さま!!」


 そんな様子を見て、周りの女たちは心配そうに手を伸ばそうとする。しかしその時、鞭に打たれながらホランが叫ぶ。


「動くんじゃないよ!!」


 その気迫によって周りの女たちは動けなくなる。


   パァアアン!!パァアン!!


 叩かれ続けるホランの背中はやがて赤く腫れ始める。そして鞭打ちが10回に達した頃、ホランの背中から鮮血が舞い始める。


「……」


 しかしホランはその激痛でも声一つ出さない。凄まじい精神力で己を律し、その場から微動だにしなかった。


「母さま…」


 周りの女たちはその様子を見つめる事しか出来なかった。恐怖で動けないのもそうだが、何よりこれ以上ホランの覚悟を無駄にするわけにはいかなかったのだ。



  パァァアン!!パァアアン!!パァアン!



「ゴフッ…」


 鞭打ちの数が20回を超えた頃、ホランの口からも鮮血がこぼれ落ちる。しかしホランはその姿勢のまま耐え続ける。



  パァァアン!!パァアアン!!パァアン!



「はぁはぁ…」


 30回…血を流しすぎたのか、ホランの意識が混濁し始める。地面についた両手が力を失い始め、倒れそうになるが何とか踏ん張る。


「ホラン母さまぁ!!」

「もう辞めてください!!母さまが死んでしまいます!!」

「どうかご慈悲を!!」


 女たちはそう訴えるが侯爵の表情は一切変わらない。


「後10回だ。続けろ。」


「はぁはぁ…はい。」


 鞭打ちをする部下の息も上がりかけていたが、命令に従いそのまま思い切り鞭を打ち込んだ。



  パァアアン!!パァアン!………



「ふぅ…終了だ。」


「…はぁ…はぁ……ゴフッ……ありが…とう…ございまし……た………」


 男がそう告げた途端、ホランは力を失ってその場に倒れた。


「母さまぁ!!」


 それを見た女たちが一斉にホランに駆け寄る。


 倒れた場所はホランの血で小さな水たまりのようになっており、その凄惨さを物語っている。女たちは応急処置をしようと自身の着ている少ない布地を破る。そしてホランを助けるべく動き出そうとした時、侯爵が口を開く。


「貴様ら、まだ選別は終わっておらん。早く定位置に戻れ。」


「お待ちください!せめて母さまの止血を!」



   ザシュッ!……ボトッ…



「えっ…」

「い、いやぁぁああ!!」


 侯爵は無言でその女の首を刎ねたのだ。女の首が地面に転がり、それを見た女たちは更に恐怖していた。


「私に逆らう者は斬首だ。分かったらそのババアを置いて列に戻れ。2度は言わんぞ。」


 侯爵の鋭い視線を受けて、女たちは倒れたホランを置いて列に戻った。


「よろしい。では再開だ。」


 そうして再び恐怖の選別が始まったのだ。




「ぐうぅううぅ!!…母さまぁ!!…」


 遠くでその様子を見ていたフィンセはあまりの怒りで顔を歪めていた。今にも襲いかかりそうな雰囲気のフィンセにパーナが話しかける。


「フィンセ、大丈夫?」


 そう言いながらパーナはフィンセの手を握る。


「ふぅふぅ……いいえ、全く大丈夫ではありません。ですのでそのまま手を握っていてください。その手が離れたのなら、私は自分を抑えきれる自信がありませんから。」


 下唇を血が出る程に噛み締め、目を迸らせているフィンセの様子を見て、パーナは決断する。


「フィンセ、助けたいなら助けよう。ホラン(あの人)はフィンセの大切な人なんでしょ?」


 そう言ってパーナは敢えて手を離した。その瞬間、フィンセは言葉通りに走り出し



「待ちなさい。」


 フィンセが一歩踏み出したその瞬間、セイナがフィンセの肩を掴んでいた。


「どけ!私は母さまを助けに!」


「落ち着きなさいって。」


 そう言ってセイナは容赦なく魔法を使い、フィンセの左手首を切り落とした。


「ぐうっ!!貴様!一体何を!」


「いつものお返しよ。それよりも少し落ち着きなさい。冷静になって考えて。」


「……」


 左手を切られた痛みとセイナの言葉で怒りが分散し、フィンセは少しだけ冷静さを取り戻した。


「ふぅ…確かに…少し冷静さを欠いていた。すまない。」


 そう言ってフィンセは自身の魔法で切られた左手を治した。


「そう…良かったわ。…えい。」


 そう言ってセイナはパーナの頭に軽くチョップした。


「痛っ!」


「パーナ、貴女のそう言う優しいところは大好きだけど、状況を考えて。優しさだけが人を幸せにするわけじゃないのよ。」


「うん…ごめん。」


「うんうん。分かってくれればいいのよ。」


 反省した様子のパーナの頭を優しく撫でてセイナは満足そうに頷く。そして再びフィンセの方を向く。


「さて…冷静になった今でも、行くべきだと思うのなら止めないわよ。もし今ここで私たちが暴れてもこの程度の敵の数なら私と貴女で余裕で対処出来る。どうする?」


 セイナは真剣な表情でそう質問した。それに対し、フィンセも真剣に答える。


「いや、今私が飛び出す事はホラン母さまの覚悟を無駄にする事になる。それに生きてさえいてくれれば、私が治せる。今はこの場を耐え凌ぐとしよう。」


「もし死んじゃっても、私が生き返らせればいいからね!」


「了解、それじゃあ私は戻るわね。」


 そう言ってセイナは元の場所に戻った。



「終わった?」


 元の場所に戻るとエアルが話しかけてきた。


「ええ、何とかね。」


「良かった。こんなところで動き出したら皆んな殺されるかもしれないからね。」


「……貴女は何も思わないの?あの人の世話になってるんでしょ?」


「…そうだねぇ…私は両親と会った事なくてさ…初めて親になってくれたのがホラン母さま(あの人)なんだよね…あの人には一生かけても恩を返せないぐらい世話になったよ。…だからこそ、何もしないんだ。それが母さまにとって1番嬉しいはずだからさ。」


「そう…」


 そう寂しそうに告げるエアルの手をよく見ると、あまりに強く拳を握ったせいで血が出ていた。


(この人も本当は悔しいんだろうな…でも力がないから何もしない…力が…)



「おっと…セイ、もうすぐ来るよ。準備しな。」


 そう言ってエアルは真顔で直立不動になった。セイナがそちらを見ると、侯爵の選別隊が近くまで来ていたのだ。


(ようやくね。さて、ちょっと気合い入れなきゃ。)


 そうしてセイナもエアルを真似て真顔で直立になった。




「…次。」


 侯爵は順番に女たちを吟味していく。そしてとうとう、3人の順番になった。最初に順番が来たのはフィンセだ。


「ほう…いい身体をしているな。珍しい。」


 侯爵は先ずフィンセの引き締まった肉体を見て感嘆の声を上げる。常に貧困しているこの村では食料が少なく、基本的に皆が痩せ細っている。そんな中ではフィンセの身体はあまりにも魅力的だった。


「……」


 全身を視姦されてもフィンセは表情一つ変えない。たかが、身体を見られることに何の抵抗もないのだ。


「…ふむ…しかしなぁ…」


 侯爵はフィンセの顔を見る。そしてその重大な欠点に気付く。


「外せ。」


 侯爵はフィンセの左目に巻かれた布を外すように部下に命令した。


「はっ!」


 そうして部下はフィンセの布を取った。そこからは先ほど傷付けたばかりで生々しい傷痕が残っていた。それを見て侯爵は顔を顰める。


「もうよい、不快だ。次。」


 そうしてフィンセは作戦通り、指名を避ける事に成功した。



 次はパーナだ。侯爵は再びパーナの全身を観察する。


「……」


(だ、大丈夫かなぁ…)


 パーナは少し緊張していた。男にここまでまじまじと見られるのは初めてであり、格好も相まって恥ずかしさが込み上げる。


(うぅっ…ちょっと恥ずかしい…)



「ふむ…顔は悪くない。だが…胸がなぁ……それに…」


 そう言って侯爵はパーナの着ていたシャツを軽く捲った。するとパーナの痛々しい傷痕を目にする。


「ふん、すでに使用済みか…次。」


(ふぅ…良かった。)


 作戦通りパーナも選別を乗り越えた。



 そして侯爵は最後にセイナの前に立つ。


(次は私ね。さっさと終わらせましょうか。)


 侯爵は2人と同様にセイナの全身を観察する。

 

(この舐め回すような視線…気持ち悪…)


 セイナは不快感を覚えながらも無表情で耐えぬく。


「ふむ…悪くない…だがコイツも…」


 侯爵はセイナの服を捲り、その身体の傷跡を確認する。


(うんうん、これで私もパーナと一緒で終わりかしらね。)


 しかし侯爵はパーナの時とは違って身体の傷を確認した後、再びセイナの顔を見つめる。


(はぁ?何?私の顔に何か‥)


 少しだけ嫌な予感がしたセイナだったがその予感が的中する。


「この女もだ。」


「はい、かしこまりました。」


 何とセイナは侯爵から選ばれてしまったのだ。


「ええっ!?」


 セイナは突然の出来事に混乱する。その時、侯爵の後ろに控えていた男がとある物を取り出す。


「では印を…」


 そしてセイナが混乱している間に背後に回っていた2人の男にセイナは取り押さえられる。


「えっ、ちょちょっと!」



   ジュウゥウウ!!……



「ぎぃゃああ!!あづぃい!!」


 セイナの有無を言わさず、その男はセイナの胸に焼(・)印(・)を押し付けたのだ。セイナは激痛で暴れようとするが取り押さえられていた為、動けなかった。

 少しして焼印を押されたセイナはその場に倒れる。


「ぁあああ…」


 いきなりの激痛で半分気を失ってしまったセイナは身体をピクピクさせていた。その胸にはたった今刻まれたばかりのデールズ侯爵家の家紋が光輝いていた。



「次。」


 侯爵はそんなセイナを放って次に行った。




「セイナ!!」


 侯爵が離れたタイミングで、倒れたセイナにパーナが駆け寄ってくる。そして自身の服を破いて、焼け焦げたセイナの胸元に被せる。


「ぱ…パーナ…ありがと…」


「セイナ、大丈夫?」


「全然大丈夫じゃないわよ…こんなに痛いのは久しぶりだわ。」


「ううっ…セイナ、ごめんよぉ…私のせいで…」


 あまりに痛々しいセイナの傷を見てパーナは泣き出してしまった。それを見てセイナはパーナの頭を撫でる。


「いいのよ…パーナは何も悪くないわ。だから泣かないで。」



「まさか本当に選ばれるとはな…やはり耳の一つでも切り落としておくべきだったか。」


 フィンセは不思議そうな顔をしながら2人に近付いてくる。


「…それじゃあどっちにしろ痛いじゃない。いいから早く治して。まだ痛いの。」


「治すのはヤツらが帰ってからだ。それまでは我慢しろ。」


 そう言ってフィンセは自身の失った左目を指差した。


「チッ…仕方ないわね…それで?私は今からあのクソ貴族を殺しに行っていいって事よね?」


 そう告げるセイナの顔は落ち着いているように見えて、隠しきれない怒りを孕んでいた。


「ふん、立場が逆転したな。やりたいのなら好きにしろ。だが私は全力で阻止させてもらうぞ。」


 フィンセは左目を瞬時に治し、バレないように再び布を巻いた。


「……」


(ここで暴れたいのは山々だけど…この傷で万全のフィンセ(コイツ)とやるのは流石に無謀か…ホランさんやここの村人たちを人質にすれば何とか…いや、そこまでしてコイツと敵対する方がデメリットが大きいわね。…そう、私は大人な女性なのよ。こんな程度の事で腹を立てない、クールな女だからね。)


「分かったわ。でも、いつか必ず私の手で殺すわ。バラバラにするだけじゃ生温い、全身にゆっくりと火で炙って、グチャグチャになった皮膚をゆっくりと剥がすの。そして指先から少しずつ切り刻んで最期は豚の餌にするわ。それでその豚ごと海に沈めて…」


「分かった分かった。それで構わんから今は大人しくしていてくれ。」


 全くクールではないセイナに呆れながらフィンセは元の場所に戻った。



「酷い目に遭ったね、セイ。大丈夫か?」


 選別の終わったエアルが陽気に話しかけてきた。その声を聞いてセイナは苛立ちを覚える。


「大丈夫なわけないでしょ。何で私が選ばれるのよ…」


「まぁセイは可愛い顔してるからね。多少の身体の傷は気にならなかったんじゃない?」


「もしそうならパーナだって…」


「でも一番の要因はセイのその目(・)だと思うよ。」


「目?」


「そう、その綺麗な空のような青色の中から覗き込むドス黒い感情。ドSな変態から見れば垂涎物だろうね。心当たりあるでしょ?」


 内心を少し言い当てられたセイナは動揺する。しかしそれと同時にまた嫌な男の顔を思い出した。


(つまりクソ貴族(アイツ)とアルティード(あの変態)は同種って事ね。少し納得したわ。)


「ここの村人でその感情を持ってない人がいるわけ?特段珍しいとは思えないけど…」


「はっはっは!セイの言う通りだ。私も含め、この村の住人は大なり小なり黒い感情を心に持っている。でも、そんな私から見てもセイの目は特別だよ。この世界の全てに対する怒りや憎しみを孕んでいる。それでいてどこか空虚で空っぽ。そんな感じかな。」


「……知らないわね。考えすぎよ。」


「そうかもね。でもセイならもしかしたら生き残れるかもね。奴隷って言うのは生きる意思を失った者から捨てられる。他人事みたいに言うけど、頑張ってね。」


「ふん…少しは励ましなさいよね。」


 そんなこんなで選別は終わりを迎えたのだ。




「では数日後に迎えを寄越す。選ばれた者はその時までに身を清め、覚悟を決めておくように。」


 そう言って侯爵とその一行は豪華な馬車に乗って帰って行った。






「母さま!!」


 その瞬間、村の女たち全員が倒れたホランの元へ駆け寄った。


「……」


 しばらく放置されていた事で、ホランは既に虫の息となっており、いつ死んでもおかしく無いほどに衰弱していた。

 女たちは何とかしてホランを助けようと、必死に動こうとするが、まともな医者もいないこの村ではどうしようもない。若い女たちは大声を出しながら泣きじゃくっている。


 そんな様子を見ていたフィンセは大きく息を吸い込んだ。


「皆んな!落ち着いてくれ!!」


 その大声で女たちは静まった。そして全員がフィンセの方を見る。


「誰…あの人…」

「旅人?」

「旅人がどうして…」

「それよりも母さまを!」


 フィンセを知らぬ者達がそう訝しむ中、数人の女はフィンセの事を思い出す。


「アンタ、まさかフィンセちゃんかい!?」

「何ですって!あのフィンセちゃんが!?」

「確かに、あれはフィンセだわ!」


「皆さん、お久しぶりです。ですが挨拶は後で…今は母さまを。」


 フィンセは知り合いの女たちに軽く頭を下げた後、彼女たちをかき分けるようにしてホランの前まで到着した。


「…母さまはもう通常の手段では助からぬ。故に、私に任せてくれないか?」


 そう言ってフィンセは意識のないホランを大切に抱き上げた。


「それは一体どう言う…」

「貴女なら何とか出来るんですか!?」

「母さま!」

「何でもいい!とにかく母さまを助けて!」


「分かった。だが今から私がやる事を皆に見られるわけにはいかない。あの建物を貸してくれ、そこで母さまを助ける!」


 そう言ってフィンセは小走りで近くの建物までホランを運んで行った。皆がその動きに注目する中、フィンセは建物の扉に手をかける。そして建物の中に入ろうとした時、1人の女が現れる。


「フィ、フィンセちゃん…わ、私も行く。」


 そういって近付いてきたのはルナーだった。


「ルナーさん…しかし…」


「わ、私はホラン姐さまが助かるのなら何でもする。そ、それに次の長として最期まで一緒にいたい。お、お願い。」


「……わかりました。では行きましょう。」


「う、うん。あ、ありがとう。」


 そうして2人は建物の中に入っていった。



 建物に入り、扉を閉めたフィンセはホランを優しく布団の上に置いた。そしてルナーに話しかける。


「ルナーさん、私は皆んなに隠している事があります。他言無用でお願いできますか?」


「も、もちろん。」


「信じてもらえないかもしれませんが、私はこの村を出た後に一度死に、再び生き返ったのです。そしてその時、とある力を手に入れました。それがこれです!」


 そう言ってフィンセは両手をホランに翳した。するとホランの身体がフィンセの魔力で満たされ、やがて背中の傷が元に戻った。血の気の引いた真っ白だった顔も血色を取り戻し、ホランは目を覚ました。


「はっ!私は一体……ルナー、フィンセ?」


「姐さま!!」


 元気になったホランにルナーは抱きついた。未だに困惑しているホランにフィンセが話しかける。


「母さま、遅くなって申し訳ありません。貴族はもう帰りました。ですからもう安心してください。」


「帰った…そうかい、今回も何とかなったようで良かったよ。にしても私の背中…全く痛く無いようだけど…」


「……それは…」


 フィンセは口を噤んだ。フィンセの魔法は肉体を元通りにするもの。先ほどまでボロボロだった背中が今では綺麗さっぱりになっている。ここまで綺麗になってしまうと、流石に誤魔化すのは不可能だ。そう思い、フィンセはどこまで打ち明けるべきかを悩んでいた。


「フィンセ…アンタ…魔法が使えたんだね。それもとびきり強力な。」


「母さま、それは…」


 フィンセのその様子を見てホランは確信する。


「そうかい…ずっと私を騙してたって事かい…少し残念だよ。」


「それは違います!信じてもらえないかもしれませんが、あの時は本当に魔法が使えなかったんです!ですがその後色々あって…」


「ふふ…冗談だよ。アンタの嘘を見破れないほど私は落ちぶれちゃいないよ。それにアンタのおかげで私はこうして元気に生きてる。寧ろ感謝しなきゃね。」


「母さま…ありがとうございます。」


「さて…それじゃあ皆んなの元へ行かなくちゃ。買われた子達に最期のお話をしなくちゃいけないからね。」


 そう言ってルナーから松葉杖を手渡されたホランは建物を出た。







『母さま!!』


 元気になったホランの姿を見た村の女たちは一斉に集まった。あまりの勢いにホランは揉みくちゃにされる。


「おいおい!苦しいよ、皆んな!…でも心配かけて悪かったねぇ。」


 その時、ホランが庇った若い女がホランの前に立つ。


「母さま…ごめん…なさい…私のせいで…私がワガママ言ったから母さまが……ううっ…」


 そう言って泣き出した女を見て、ホランはその女を優しく抱きしめる。


「ナ(・)ワ(・)リ(・)…アンタが謝る事なんて何も無いよ…それより、これから連れて行かれるナワリ(アンタ)にあんな事しかしてあげられない母さまを許しておくれ。」


「…うん。私、凄く怖いけど…母さまの事を思い出して頑張る!」


「よし、いい子ね。お前も母さまの自慢の娘だ。」


 そうして本当の意味で選別は幕を閉じたのだ。

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