平伏せよ
「うーん…ハッキリ言って微妙ね。あんまり美味しくないわ。」
食事が振舞われた一行だが、その質素な味付けにセイナが文句を垂れる。
「ちょっと、セイナ…ハッキリ言い過ぎだよ…」
「全くだ。これだから温室育ちのお嬢様は…」
「はぁ?何ですって?」
「この村では肉はおろか、香辛料すら貴重なんだ。貴族の豚どもが私たちに贅沢は必要ないと、最低限の量しか渡さないからな。だから黙って食べろ。次に文句を言ったら殺すぞ。」
「はぁ?誰を殺すって?やれるもんならやってみなさいよ。」
「いいだろう、今日こそは泣かせてやる!」
そうして2人は掴み合いの喧嘩を始めた。パーナにマジ喧嘩は禁止とされたので互いに魔法は使わない。なので互いの髪の毛を引っ張ったり、腕に噛み付いたり、首を絞めたりとまるで子供のような喧嘩だった。
またいつものように喧嘩を始めた2人を見てパーナが溜息を吐く。
「はぁ…どうしてセイナとフィンセはこんなに仲が悪いのかなぁ…似た者同士だと思うんだけど…」
「まぁ…喧嘩するほど仲が良いって言いますからね。」
「セイナはツンデレだからねぇ。」
他のメンバーは醜い取っ組み合いの喧嘩をする2人を呆れながら観戦していた。
「あ、あの……す、すみません…す、少しお話しよろしいでしょうか…」
その時、9人がいた部屋の中に1人の女が入ってきた。その女は身長と身体つきから年齢は30代前後、長い前髪で顔の半分を覆っており目がほとんど隠れていて見えない。そして今もずっと扉の向こうで少しだけ顔を出して怯えている。
「あん?今、取り込み中なんですけど!?見てわからない?」
フィンセに馬乗りにされ、両手を押さえつけられているセイナは怒りを露わにしながらそう言い放つ。
「ひっ!?す、すみません…で、ではまた後で…」
セイナの声で怯えた女が帰ろうとしたところでフィンセが口を開く。
「ルナーさん!待ってください!」
ボコッ!
「痛っ!」
フィンセはセイナを1発殴ってからルナーと呼んだ女の元へ駆け寄る。
「フィ、フィンセちゃん…ひ、久しぶりです…」
その様子から2人は顔馴染みのようだった。
「はい、ルナーさんもお変わりなく。先ほどはあのバカ女が失礼しました。」
「誰がバカよ!」
頬を抑えながら立ち上がるセイナのツッコミを無視してフィンセは続ける。
「皆んな、紹介するよ。この人はルナーさんだ。私が昔世話になった人の1人で、この村では母さまに次ぐ古株だ。」
「ル、ルナーです。よ、よろしくお願いします。」
ルナーは皆に頭を下げた。
「よろしくね、ルナーさん!」
「は、はい。」
「ところでルナーさん、急に来られて何かありましたか?」
フィンセの問いにルナーの表情が固くなる。
「そ、それが…さ、先ほど貴族の使いの方々がいらっしゃって…」
それを聞いた全員の表情に緊張が走る。
「な、なので…み、皆さんは見つからないように隠れるように、ホ、ホラン姉さんから言われて来ました。」
「もうですか…了解しました。態々すみません、ルナーさん。…と言う事だ。私が今から見つからない場所まで案内する。ついてきてくれ。」
「分かった(わ)(りました)(わ)。」
8人も了解の意を示し、フィンセの後に続いて家を出た。
早歩きで進むフィンセの後を8人はついていく。そんな中、パーナが心配そうに呟く。
「大丈夫かなぁ…もし私たちが馬車を奪った人たちだったら…」
「……多分大丈夫ね。今来てるヤツらはアイツらとは違うわ。」
「どうして分かるんですの?」
「私は瞬間移動で飛ばした相手の魔力の特徴が何となく把握出来るの。だからあの時飛ばしたアイツらの魔力と今来てるヤツらの魔力が違うって分かるの。」
「そうだったんですのね。にしてもセイナさんの魔法は汎用性が高いですわね。移動や戦闘だけではなく、索敵や識別にも使えるなんて。」
「そうそう、熱くしたり冷たくしたりする事しか出来ないアタシとは大違いさね。」
「私もただモノを斬ることしか出来ません。やっぱりセイナさんは羨ましいです。」
「エナ、私たちは戦闘に特化しすぎててちょっとね…」
「そうですね、エマ。だからこそ私たちは戦闘でお役に立ちましょう。」
「私にもセイナさんの様な力があれば、もっとメルク様のお役に立てたのですが…申し訳ありません。」
「いいのよピーレ。」
「私からすれば、皆んなの力も十分に魅力的だけどね。特にシピーレなんて、どんな傷だって一瞬で戻っちゃう。凄く羨ましいわ。」
そんな話をしている内に、9人はとある建物の前についた。村の中心部に位置するその建物はかなりボロく、どちらかといえば倉庫のような場所だった。
そしてフィンセが口を開く。
「ここなら安全だ。しかしここはかなり狭い故、5.6人しか入れない。そこでメンバーを2つに分ける。私とカレスティア様はは別の場所へ、メルク殿とシピーレのチームはここで待機とする。他のメンバーは適当に分かれてくれ。」
しかしフィンセのチーム分けにセイナが突っかかる。
「ちょっと、メルクとシピーレは分かるけど、どうしてアンタとパーナが確定なのよ。」
「もし何かあった時は私がカレスティア様をお守りせねばならんからだ。主人の側に常に控えるのが侍の務めでもある。」
「ざけんじゃないわよ。新参者のくせに偉そうにして…今までパーナを守ってきたのは誰だと思ってるのかしら?」
セイナの挑発にフィンセも苛立ちを見せる。
「カレスティア様がもし怪我をしたら治せるのは私しかいない。ヒーラーであり、盾でもある私こそが護衛に相応しいに決まっているだろうが。」
「そもそもパーナに怪我させる可能性を残してる事がダメだって言ってんの。飛び道具にも対抗出来て、いざという時に速攻で逃げられる私の方が適任に決まってるでしょ?お分かり?」
顔を近づけ合って睨み合う。
「貴様のような軟弱で野蛮な女にカレスティア様の護衛が務まるか。貴様はここで大人しくしていろ。」
「アンタみたいなぽっと出のエセ侍なんかを信用出来ないって言ってんの。パーナはここで私たちが守るから適当にどっか行ってなさい。」
怒りを露わにした2人の額がよもや接触する直前、パーナが2人の間に割り込んだ。
「もう!2人ともいい加減にして!」
「カレスティア様、しかし…」
「ねぇパーナ、こんなエセ侍よりも私と一緒の方がいいわよね?ね?」
「もうチーム分けは私が決める!私とセイナとフィンセの3人が別の場所で残りの6人はここで待機!もうこれで決定!いいね?」
「カレスティア様!我々はともかく、セイナと一緒など…」
「そうよ!私だってフィンセと一緒なんて嫌よ!代わりにニューズかアンリをコッチに…」
「いいね?」
「はい…」
「か、かしこまりました…」
パーナの圧力で2人は渋々頷いた。
「ではメルク殿、そちらは任せた。万が一見つかった場合は侯爵令嬢である事を証明すればヤツらも関わりを避けるはずだ。」
「分かりましたわ。そちらもお気を付けて。」
「喧嘩は程々にしてくださいね。」
「パーナをあんまり困らせるんじゃないよ。」
「三人とも、お気を付けてくださいませ。」
「ご主人様、後で。」
「ご主人様、死なないでくださいね。」
「はいはい、皆んな後でね。」
「気を付けてね。」
「ではカレスティア様、参りましょう。」
そうして3人(セイナ、パーナ、フィンセ)は残りの6人を残して別の場所へ向かった。
フィンセの先導の元、3人は目的の潜伏先へ走っていた。
少し進んだ後、フィンセが建物の前で立ち止まる。
「ここだ。」
フィンセが立ち止まった建物は先ほどよりも少し大きい建物だった。
「よし、早く入ろう。」
そう言ってフィンセとパーナが建物の扉に手をかけようとした時、セイナが口を開く。
「ちょっと待って。ここには…」
セイナが言い合える前にフィンセはその建物の扉を開けた。
「きゃああ!!」
「た、助けてぇ!!」
「母さまぁ!!」
扉を開けた時、中から聞こえてきたのは見知らぬ女たちの絶叫であった。
「貴殿たちは…」
「ひぃいい!!」
フィンセが話しかけようとしても女たちは怯え切った様子で会話にならない。その女たちの格好は他の村の女たちと同様に見窄らしく、村の女である事は明らかだった。
「ごめんなさいごめんなさい!大人しく言うことを聞くから許してください!」
「わ、私は体調が悪くて!!ここで休んでいただけなんです!」
「嫌だよぉ!母さまぁ!!」
どうやら彼女たちはフィンセたちのことを貴族の使いだと勘違いしているようで、見つかってしまったと必死になっている。
それを見てセイナはため息を吐く。
「はぁ…んで、どうするのよ、この娘たち?」
「……」
セイナからの問いにフィンセは沈黙した。
(売られるのが怖くて逃げ出したのだろう。それはそうだ、私のように心が壊れていた者でなければ怖いに決まっている。だが…)
しばしの沈黙の後、フィンセが口を開いた。
「お前たち、こんなところに隠れていて良いと思っているのか。貴族様の使いがいらっしゃっているのだぞ。」
そう言ってフィンセは腰の刀を抜いた。
「ひぃいい!!」
それを見て女たちは恐怖で萎縮する。
そんな中、パーナも口を開く。
「フィンセ、それは…」
「カレスティア様、ここは私にお任せを。これはこの村の問題ですので。」
主人であるパーナの静止すらも遮ってフィンセは女たちに刀を向ける。
「私の命令に従えないのなら、今この場で斬り捨てる。この刀の錆になりたく無い者から中央の広場へ行け。」
それと同時にフィンセは少量の殺気で女たちを威嚇した。
「す、すみませんでした!今すぐ向かいます!」
「行きますから!だから殺さないで!」
フィンセに恐怖した女たちは一斉に建物から出て、中央へ走り出した。しかしそれでも1人だけ、最も若い少女はあまりの恐怖で腰を抜かしたようで、その場から動けなかった。
「か、母さま…」
「………」
泣きながら縮こまって[母さま]と呟き続ける少女にフィンセは無言で近づいて行く。そして少女の前まで来ると、刀を床に突き刺し、膝をついた。
「…えっ…」
「さぁ、立つんだ。自分の力で。」
フィンセはそう言って少女の目を真っ直ぐに見つめる。
「な、なんで…私…立てなくて…」
「ゆっくりでいい。だから自分の力で立つんだ。落ち着いて。」
フィンセは少女を前に何もしない。ただ真っ直ぐにその目を見つめる。
「……ううっ………うん…」
しばらくして少女はゆっくりと自力で立ち上がった。それを見てフィンセは笑みを浮かべる。
「よく出来たな。さぁ、行くんだ。母さまや皆んなのところへ。」
「…で、でも…」
「甘えてはダメだ。いいから行きなさい。大丈夫、自分の力で立てた君なら1人でも行ける。」
「……でも…」
「この村の女としての役目を果たすんだ。それが母さまへの最大の恩返しだから。」
「…母さま……うん、分かった。」
そう言って少女は怯えながらもゆっくりと歩き出して行った。
少女が去った後、セイナは壁にもたれながら話す。
「随分と薄情なのね、あの娘たちを死にに行かせるようなモノでしょ?」
「セイナ、言い過ぎだよ…」
「薄情などではない。これがこの村の掟だ。村人たちは全て貴族の売り物、逃げ出す事など許されないのだ。」
そう告げるフィンセの顔は覚悟に満ちていた。
「ふーん…掟ねぇ…」
「掟を破り、貴族の不況を買えばこの村は終わりだ。村人全員が奴隷へと落ち、一切の自由のない牢獄暮らしに落ちてしまう。だから彼女たちには悪いが、今後のこの村と…母さまのためだ。」
「ホランさんの?」
「……」
パーナの問いにフィンセの目から一筋の涙が流れ落ちる。
「……ああ、あの人もあと少しなんだ。あと少しで……だからあの人には最期まで悲しい思いをして欲しくない。その為なら私は鬼になる。だが、私も最低限の責任は果たすつもりだ。」
「えっ…それってどういう…」
「…カレスティア様、お目汚し失礼します。」
パーナの問いに答える前にフィンセは何故かいきなり懐から小刀を取り出していた。
「アンタ、いきなり何を」
ズプッ……
「えっ…フィンセ!?」
その時、フィンセは何も言わずにその小刀を自身の左目に突き刺していた。
「ぐうっ!!……ふんっ!」
痛みに悶絶しながらもフィンセは自身の手に力を入れ、左目を抉り出した。
「はぁはぁ……」
フィンセの足元に抉り出した左目が転がる。そしてそれを容赦なく踏み潰した。当のフィンセはあまりの激痛で汗だくになり、息も荒くなっている。
「ちょっとアンタ!いきなり何してんのよ!バカなの!?」
「そうだよ!意味が分からないよ!」
驚愕する2人を前にフィンセは息を整える。
抑えた左目から垂れ流されていた血が止まり始めた頃、フィンセが口を開く。
「はぁはぁ……ふぅ……大丈夫だ…頭がおかしくなったわけではない。私は今から行かねばならないところがある。」
そう言ってフィンセは痛みを堪えながら、着ている袴を脱ぎ始めた。
「いやいや、益々意味分からないんだけど…どこ行くって言うのよ?」
「……私は村の人間に偽装して、今から行われる奴隷売買の現場に潜入するつもりだ。」
「はぁ!?何言ってんの、アンタ。」
「そうだよ!何でそんな事するの!?」
フィンセが袴を脱ぎ終えるとその美しい裸体が露わになる。晒そのスタイルは抜群で、引き締まった筋肉とスラっと長い脚、そして晒しで隠れた胸の大きさ。
(コイツ…スタイル良すぎでしょ…)
セイナはフィンセの身体に若干嫉妬していた。
フィンセは晒しに使っていた白い布の一部をほどき、失った左目の部分に巻きつけ始める。
「…先ほどの彼女たちへの贖罪だ。送り出したからには最期まで見届けなければな。」
そう言って下着だけになったフィンセは近くに落ちていた薄手の服を一枚羽織った。そして脱いだ袴を綺麗に畳んでパーナに手渡す。
「カレスティア様、すぐに戻ります故、預かっていてもらえますか?」
「……どうしても行くの?」
「はい。私には彼女たちを死地に向かわせた責任があります。ですから彼女たちの行末を見届けなければ。ですが、買われるつもりはありません。その為にこうしたのですから。」
そう言ってフィンセは失った左目を指差した。
フィンセの決意を目の当たりにしたパーナは少し考えた後、口を開く。
「…私も行く。だからセイナ、コレお願い。」
パーナは受け取った袴をセイナに手渡した。
「はぁ!?パーナ!何言ってるのよ!」
驚愕するセイナを無視してパーナも服を脱ぎ始める。
「い、いけません!カレスティア様!貴女様にそのような事をさせるわけには!」
フィンセも必死に止めようとするが、パーナの意志は固い。
「フィンセ、私にだって責任はある。もう見て見ぬふりはしたくないの。」
「し、しかし!主人を危険に晒すわけには!」
「なら主人として命令します。私も連れて行きなさい、フィンセ。」
そう告げたパーナの表情はいつもの優しい顔ではなく、決意に満ちた顔だった。
「むぅ……ご命令とあれば……かしこまりました、カレスティア様。」
「うん!ありがと!フィンセ!」
そう言ってパーナは笑顔でフィンセに抱きついた。
「…ですがカレスティア様、もし貴女様が買われそうになった時は…」
「それなら多分大丈夫だよ。」
そう言ってパーナは着ていたシャツを捲った。そこから姿を現したのは火傷の様な痕が残るパーナの身体だった。それは腹や胸や肩などに所々存在しており、かなり痛々しいモノだった。
「パーナ…それは…」
初めて見るセイナもその凄惨さに驚愕していた。
「あはは…黙っててごめんね、セイナ。」
「……いいのよ。貴女にも大変な過去の一つや二つ、あるに決まってるわよね。」
そう言ってセイナは優しく微笑む。そして覚悟を決めたように口を開く。
「よし!仕方ないから私も付いていこうかしらね。」
セイナもパーナに続いて服を脱ぎ始めた。
「セイナ…」
「貴様…もし売れても私は助けんぞ。その時は大人しく…」
そう言おうとしたフィンセだったが、セイナの身体を見て口を噤んだ。セイナの身体もパーナに負けず劣らない程に凄惨な傷痕が残っていたからだ。
「大人しく、何かしら?」
「…いや、何でもない。私は貴様を少しだけ見くびっていたようだ。」
「あらそう、ありがと。」
そうして3人は薄手の服に着替え終わった。
「いいか、暴れるのは禁止だ。仮に周りの女たちが何人殺されようが、怯えているふりをして無視するんだ。分かったか?」
「今更私が見知らぬ女が死ぬところを見て激昂するほどのお人よしとでも思った?まだ、私を見くびっているようね。」
「一応の確認だ。カレスティア様もよろしいですか?」
「うん、分かった。」
「でもパーナが傷付けられた時は別よ。どうなっても恨まないでね。」
「せ、セイナ、そんな事……」
「…その時は私がソイツを八つ裂きにする。だからお前は大人しくしていろ。」
「嫌よ、私がやるわ。」
「私だ。」
「私よ。」
「私だ!」
「私よ!」
互いに譲らない2人はまた喧嘩を始めそうになっていた。
「もう!喧嘩禁止!早く行くよ!」
パーナが再び2人の間に割って入り、2人の手を引いて歩き出す。
「むぅ…かしこまりました。」
「仕方ないわね…」
2人は互いに顔を合わせないように歩き出した。そんな様子を見てパーナはホッとする。
(2人ともちょっと過保護過ぎるよぉ…もし私に何かあったら怒りで村ごと吹き飛ばしちゃいそう…そうならないように私が頑張らなくちゃ。)
二匹の猛獣の手綱を握るパーナは覚悟を決めた。
「おらぁ!早く脱げ!」
「キャァ!…すみません!」
中央の広場に到着した3人が見たのは驚愕の光景だった。広場では数十人の兵士が女たちの周りを取り囲んでいた。女たちはほぼ下着のような薄い服で整列させられ、恐怖に怯えている。抵抗する女たちは容赦なく殴られ、無理やり従わされていた。
「酷い…これがこの村の…」
「まさに品定めってことね。面白いじゃない。」
「面白くなどない。彼女たちはここで選ばれればその大半が玩具同然に扱われて死ぬ。そう言う場所なのだ、ここは。」
そうしていると3人に気付いた兵士の1人が近づいてくる。
「貴様らもここの村人だな!さっさと列に並べ!」
兵士は3人に武器を突きつけながらそう命令する。それを見てセイナは心の中で冷笑する。
(無防備な女だからって偉そうに…可哀想な男ね。まぁでもここは適当に…)
「ええ、分かっ」
「い、嫌ぁああ!や、やめて!殺さないで!」
その瞬間、フィンセが尻餅をついて叫ぶ。その姿はまるで目の前の兵士に本当に恐怖しているかのようだった。
「フィンセ?」
「アンタ、一体何を…」
あのフィンセが、と不思議がる2人を差し置いて目の前の兵士が動く。
「黙れ!さっさと来い!貴様らは所詮、商品なんだからな!」
兵士は倒れたフィンセの顔へ剣を突きつける。
「ひぃいい!すみません!言うことを聞きます!!」
フィンセは恐怖に顔を歪め、言う事に従った。
「よし、ではさっさと行け。」
「は、はい!!行くよ、2人とも!」
「わっ!」
「ちょ!」
フィンセは2人の腕を掴んで走り出した。
怯えながら走っていたフィンセは少しして急に元の顔に戻った。
「ふぅ…あんな感じでいいだろうか。2人とも、この状況で冷静過ぎるぞ。この村の女ならあれぐらいは驚くモノだ。」
「あぁ…そう言う事ね。確かにその通りだったわ。」
「これから気を付けるね。」
そして3人は整列している女たちの元に到着した。
目の前で見ると女たちはほぼ全員が怯えており、泣いている者もいた。それでも反抗すれば懲罰を受けるため、必死に恐怖を押し殺している。
(そりゃ怖いわよね…死ぬのは。)
一度死を経験し、その後何度も死地に立ったセイナはその恐ろしさを誰よりも理解していた。
「それでは私たちも並ぶぞ。カレスティア様、コチラに。」
そうして3人も村の女たちに混じって列に並んだ。
セイナは怯えているような雰囲気を出しながら、周りを見渡していた。
(ちょっと緊張してきたわね…不謹慎かもしれないけど、ちょっと楽しみだわ。)
そんな事を考えていたセイナだったが、しばらく経った時、周りが一気に静かになる。
(雰囲気が変わった…ようやく始まるのね。)
「侯爵様がお見えだ!全員!平伏せよ!!」
その声を聞いた途端、整列した女たちは膝をついて平伏する。セイナたちもそれに合わせて膝をつく。
(やっとおでましかしら。)
セイナが見上げた先にいたのは、豪華な天幕に腰掛ける重厚な装飾を身に付けた男だった。そして男はゆっくりと立ち上がり、一歩前に出て口を開いた。
「顔を上げよ!これよりこの私、デールズ侯爵が直々に選別を行う!選ばれた者は数日後に我が屋敷まで連れて行く!その覚悟をしておけ!以上!」
そうして地獄の選別が始まったのだ。
左目を抉った理由は次回に。




