付き従え
「あんな狂犬みたいな2人を躾けられるなんて…パーナって、もしかしなくても凄い子なんだねぇ。」
「そうですね、普通の女の子かと思っていましたが、実は私たちの中で一番凄いのかもしれません。」
「よし、アタシは決めた。アタシたちが普通の『魔女』なら、アタシたちを生み出したパーナは『大魔女』さね。これからは『大魔女』パーナと愉快な『魔女』たちでやっていくことにするさね。」
「いい名前ですね。……ですが、それって誰に呼ばせるんですか?」
「知らないさね。」
「2人とも、私に変な名前付けないでよ!」
話を聞いていたパーナが文句を言いながら歩いてきた。
「フィンセ…アンタ、覚えときなさいよ。」
「すぐに治療してやったというのにいつまでもネチネチとうるさいヤツだ。」
パーナの後ろからは険悪なムードのセイナとフィンセがついてきていた。
「ああん?何か言ったかしら?」
「図星を突かれるとそうやってすぐに怒るのは悪い癖だな。いや、生まれつきかな?」
「よし、殺す。コッチ来なさい。」
「上等だ、小娘。カレスティア様、この女を殺す許可を。」
そう言って2人は臨戦態勢を取った。2人は殺気丸出しでやる気満々だった。
「2人ともいい加減にして。これ以上喧嘩したら、2人ともしばらく口聞かないから。」
その瞬間、2人の顔が真っ青になる。
「ちょ!冗談よパーナ!本気にしないで!」
「そ、その通りですカレスティア様!小娘…いや、セイナ殿とは戯れ合っているだけです!」
2人はその場で肩を組んで仲良しアピールをした。それを見てパーナも嬉しそうに頷く。
「うん、分かった。2人とも仲良くね。」
パーナが笑顔になったのを見て2人はため息を吐く。
「はぁ……続きはパーナがいない時よ。分かった?」
「……無論だ。貴様は一度、私の手で分からせてやらねばならんからな。」
2人は肩を組みながらパーナに聞こえないように小さな声で話したが、少し聞こえていたのかパーナが2人に振り返る。
「仲良くね。」
「も、もちろんよ!」
「はい!もちろんでございます!」
そう言って2人は歪な笑顔で頷いた。
「それじゃあ、気を取り直して『ドライ』高原のこの集落にお邪魔するとしましょうか!」
「そうだね!早速行こう!」
「やっと男にありつけるさね…」
「揉め事になるのは勘弁してくださいね。」
「私は早くお風呂に入りたいですわ!自慢の髪の毛がゴワゴワで…」
「この集落で最高の温泉を探して参ります。」
「エナ、次こそは役に立とうね。」
「エマ、もちろんでございます。」
「僭越ながら私が案内させてもらおう。訳あってこの集落には詳しい。責任者とも面識がある。」
「へぇ、それは頼もしいわね。」
「…ていうかメルク、さっきの女の子はどこ行ったさね?」
アンリーザは先ほどまで馬車で囚われていた少女の事を思い出した。
実はセイナとフィンセの戦いが終わった後、少女の事はララメルクとシピーレに託されていた。
「えっ…ああ…あの子ですわね…ええっと…何と言うか…」
ララメルクは目を泳がせながら何かを誤魔化そうとしている。それを見て、シピーレが庇うように前に出る。
「大変申し訳ありません。逃げられました。」
「あら、シピーレがそんなヘマするなんて珍しいわね。」
「あっ…あの…実は…」
「全ては私の責任でございます。如何なる罰もお受けいたします。」
ララメルクが何か話そうとするのをシピーレが遮って話す。
「あぁ…もう何でもいいわ。別にあの子に何かしようとしたわけじゃないしね。…でも一応ケジメだけは取っておきましょうかね。」
その時、セイナはシピーレの左手を掴んだ。するとその手首から下が切断される。
ボトッ……
「大変申し訳ありませんでした。」
左手から大量の血が吹き出すシピーレだったが、顔色ひとつ変えずにセイナに頭を下げる。
「もういいからさっさと治しなさい。別に全然怒ってないから。」
「はい。かしこまりました。」
そう言ったシピーレの左手は一瞬で元に戻った。
「お前たち、何の話をしている?その少女とは、何の事だ?」
その時、近くで聞いていたフィンセが事情を聞こうと話しかけてくる。
「道中で拾ったのよ、あの馬車を奪い取ったオマケでね。」
そう言ってセイナは馬車を指差した。しかしそれを聞いたフィンセは表情を険しくする。
「…奪い取った…乗っていた者たちは殺したのか?」
「いいえ、適当に放り出してきたわ。」
「……そうか…それはマズイかもしれないな…」
フィンセの顔から一筋の汗が流れ落ちる。
「何がマズイのよ?殺した方がよかった?」
「……そうだな…まぁ、この村に入れば分かる。急ごう。」
そう言ったフィンセが先陣を切って入口の門を開いた。
「こ、これは!」
目の前に広がっていた集落の光景は、原始的な村そのものだった。木で作られた簡易的な家屋がいくつか並んでいて、大半は畑と空き地が占める場所だった。
「田舎の村とはいえ、随分と何も無い場所さね。」
「そうですね、ここは何というか…何年も文化発展が進んでいないような…」
村の光景に8人は驚いていた。王都などの発展した街を見てきた8人にとってここはあまりに田舎すぎたのだ。
「仕方がない…ここはそう言う場所なんだ。」
ただ1人、事情を知るフィンセは悔しそうに奥歯を噛み締めていた。
その時、村を歩いていた少女がコチラに気付いた。
「きゃああ!!」
その瞬間、少女は叫びながら逃げ出した。
「ちょ、ちょっと…」
いきなり逃げられたセイナは呆気に取られるが、その少女の悲鳴を聞いて、近くにいた女たちも蜘蛛の子を散らしたかのように叫びながら逃げ出した。
「いやぁああ!!」
「た、助けてぇ!!」
「行きたくないよぉ!!」
「母さまぁ!!」
外で遊んでいた少女たちはとある大きな建物に全員で入って行ってしまった。
「…セイナさんの顔が怖すぎたのではなくて?」
「メルク、それどう言う意味よ。」
「いえ、おそらくはメルク様の覇者のオーラに畏怖したのでしょう。彼女たちは見どころがあります。」
「3人ともふざけるのは後にしてくださいよ。それより気付きましたか?この村の違和感に。」
ニューズは真剣な顔で問いかける。
「ニューズ、何のこと?」
「村の規模にしては若い子が多すぎるって事かい?お年寄りが全くいないさね。」
アンリーザの言葉で、気付いていなかった者達はその違和感に気付く。
「確かに…こういう辺境にはお年寄りが多いはずなのに、1人もいなかったわね。」
「私は気付いていましたわよ!」
「流石はメルク様でございます。」
「エナ、多分そうだよね…」
「エマ、間違いありません。」
「ん?2人とも他にも何か気付いたの?」
「…はい、パーナ様。この村、お年寄りがいないのは勿論だけど……男がいなかった。女ばっかり。」
「エナもそう思います、パーナ様。」
そう、2人が言うようにこの村には老人がいないだけでなく男が1人もいなかったのだ。こんな辺境の村で老人どころか男がいないと言うのは明らかにおかしい。そんな事実に皆が違和感を感じていたのだ。
それを受けてフィンセが重々しく口を開く。
「…当然だ…男などいるはずがない…何故ならここは……おっと、来たぞ。あれがこの村の責任者だ。」
そう言ってフィンセが指を差す方向から40代くらいの女が歩いてきていた。しかしよく見るとその女は左足が無く、松葉杖の様なものをついている。さらに、右目も無いのか、右目には眼帯をしており、両手の指も数本失われていた。その女の背後には1人の少女が隠れながらついてきており、女が出てきた大きな建物からは数人の女がコチラを覗き込んでいる。
やがてその女は杖をつきながらゆっくりと9人の前までやってきた。そしてその女は笑みを見せながら話し始める。
「アンタら、新しく入ってきた子たちかい?初めまして、私の名はホラン、短い間だと思うけどよろしくたのむよ。」
ホランと名乗った女の笑顔はまるで母親のような慈愛の心がこもっていた。
「初めまして、私はセイナよ。」
「私はパーナ!」
「ニューズです。」
「アンリーザさね。」
「エマ。」
「エナでございます。」
「うんうん、皆んな元気そうで何より。それで、そちらの綺麗な格好のお方は…」
ホランはそう言ってララメルクの方を見る。
「ええ。私はエンゲージ侯爵家の次女、ララメルク・ナイア・エンゲージですわ。」
「メイドのシピーレと申します。」
「やはり貴族様でございましたか…これはとんだ無礼を…」
それを聞いてホランは松葉杖を使ってゆっくりと膝を地面につき、頭を下げた。後ろにくっついている少女はホランの背中から警戒するようにコチラを見ている。
「侯爵令嬢様がこんなところまでいらっしゃるとは…本日のご用件は【お預け】でしょうか。それとも【お引き取り】もされていきますか?」
ホランから伝えられる言葉に8人は全く意味が分からない。
「お預け?お引き取り?どう言うことよ…」
「どうやらララメルクさんを何かと勘違いしているようですね。」
「ていうかそもそもメルクが貴族だって、どうして分かったんだろうね。」
その時、後ろで黙っていたフィンセが前に出る。
「すまない…先に私に話させてくれ。」
フィンセは膝をついて下を向いたままのホランの前に立った。
「……母さま…私を覚えていますか?」
そう言ってフィンセも膝をつき、ホランと目線を合わせた。
それを聞いてホランは顔を上げる。そして目の前のフィンセと目が合った。
「……アンタは…まさか、フィンセかい!!」
その時、ホランは目の前のフィンセにいきなり抱きついた。
「久しぶりだねぇ…まさかまた会えるなんて。」
「はい、お久しぶりです母さま。お変わりありませんか?」
「もちろんだよ!この通り元気さ!アンタこそ、元気そうで何よりだ!」
ホランは久しぶりにフィンセと会えたようで、とても嬉しそうだった。しかしフィンセは逆に少し悲しそうな目をしている。
「そうですか…それは頼もしい限りです。…ところで、あとどれぐらいなんですか?確か今年が…」
「……そうだね…あと十日ってとこかね。」
「…もうそんなに…寂しくなります。」
「なんだい?私の最期に態々会いに来てくれたのかい!ありがとうよ、フィンセ。」
「…はい…母さまは私の恩人ですから。…ですが…」
「はっはっは!しみったれた顔するんじゃないよ!アンタはいつもネガティブなんだから!」
ホランはそう言って笑いながらフィンセの背中をバンバンと叩く。フィンセもそれを受けて少しだけ嬉しそうに笑った。
2人の話している内容は他の8人には分からない。8人は黙って2人の会話を聞いていた。
「ところで…あの子はまだここにいますか?」
「……すまないねぇ…あの子は数ヶ月前に………何せ赤子は人気だからねぇ。」
「そうですか。分かりました。」
「そう気を落とすんじゃないよ、いつかまたどこかで会えるかもしれない。アンタみたいにね。」
「はい、ありがとうございます。…それで、今日ここに来た理由なのですが、少しだけ私たちを匿っていただきたいのです。」
「匿う?アンタたち、捨てられてきたわけじゃないのかい?」
「ええ、彼女らは旅人です。少し訳アリですが…」
「そうかい。…だけどねぇ、この村の掟で得意先の貴族以外はもてなしたり匿ったりしちゃいけない事になってるんだけど…」
「そこを何とかお願い出来ませんか、母さま。絶対に迷惑をかけないようにしますから。」
そう言ってフィンセはホランに向かって深々と頭を下げた。
それを見てホランは笑顔で頷く。
「分かったよ、他ならぬフィンセの頼みだからね。」
「感謝します、ホラン母さま。」
するとホランが8人の元に歩いてくる。
「この村にしばらく滞在したいって事だったね。それじゃあ全員、私についてきな。侯爵のお嬢様もどうぞコチラへ。」
そう言ってホランは村の方へ歩き出した。8人は少し警戒しながらもホランの後をついて行った。
9人が案内されたのは入口から少し離れた建物だった。年期が入っており、かなりボロボロのその建物の中には広いスペースがあるだけで、他には何も無い場所だった。
9人はホランを囲うように扇状に座り、話を聞く事になった。ホランの後ろには先ほどもいた少女が怯えながら隠れて座っていた。ホランは少女の頭を撫でながら話し始める。
「さて…それじゃあ早速、この村のルールについて話そうか。」
「はい。」
「先ずはこの村の女の子たちと基本的に一切喋らないで欲しい。理由は色々あるけど、一番はこの村にアンタたちがいる事がバレないためかな。貴族を含む旅人がいるなんて知ったら皆んな怯えてしまうからね。
次に、この村に時折訪れる貴族様には見つからないようにしてくれ。皆んな美人だから、見つかったら村人と勘違いされて連れて行かれちまうからね。いいかい?」
「連れて行かれる?」
「おや、何だい。アンタたち、この村について知らないのかい?
「ええ、全く。」
「そうかい…それは幸せな事だねぇ…」
そう言ってホランは悲哀に満ちた顔をした。
「それってどう言う意味?」
「この村は…この世界の闇を凝縮した…まさに地獄なのさ。何も知らないのが一番幸せだよ。」
「ふーん…地獄ねぇ…でもせっかくなら詳しく知りたい。教えて欲しいわ。」
それを聞いたホランは真剣な表情になる。
「ふぅ…いいよ、教えてあげる。この村の真実を。」
ホランはゆっくりと村の真実について語り出した。
『ドライ』高原の中腹部にあるこの村に名前は無い。しかし一部の貴族の間では[死の場]という意味も含めて『収納場』と呼ばれている。そう呼ばれる所以はこの村の性質に存在する。
簡単に言えばこの村は【人身売買をする為の牢屋】なのだ。
王国では魔法が使える事が当たり前であり、使えない者は差別の対象となる。さらに国民は男尊女卑の考え方が強いため、魔法が使えない女は捨てられてスラムに落ちるか、身体を売って生計を立てるしかない。
そんな時、とある複数の貴族が彼女たちの有効な活用手段は無いかと考えた結果、彼らは奴隷売買に手をつけ始めたのだ。
最初は身寄りのない女や罪を犯した罪人の女を拾っては奴隷として売って利益を出していた。しかし規模が大きくなるにつれてその女たちの管理が大変になってきた。そこで考案されたのが『収納場』の設立だ。村として彼女たちをそこに住ませることで、管理の手間を減らす事にしたのだ。村を作るメリットはもう一つあり、今までのように牢屋に監禁して管理する場合、奴隷たちは生きる希望を無くし、一定数自殺する者がいた。そうでなくても奴隷として出荷した際には半分廃人のようになっている奴隷が多数おり、買い手からあまり好まれなかったのだ。しかし村で集団生活をさせる事で、奴隷たちに生きる希望を与え、活きの良い女たちを出荷することが出来るのだ。
「この子たちはいつも怯えている。いつ売られるかってね。だからアンタたちを見たとき、必死に逃げてたってわけさ。」
「なるほどね、合点がいったわ。」
「でもその管理してる貴族とやらはずっといるわけじゃないんだろう?なら皆んなで逃げればいいじゃないか。」
アンリーザの問いにフィンセが口を開く。
「…それがこの村のタチの悪いところだ。魔法も使えない女たちが馬車も無しにこの『ドライ』高原を下山出来ると思うか?」
「…無理ですね。」
「貴族たちはそこまで計算してここに村を作ったんだ。」
「それにねぇ…最もタチが悪いのは、この村での暮らしは案外悪くないってところなんだよ。確かに自給自足で贅沢な暮らしは出来ない、側から見たら極貧生活かもしれないけど、スラムや牢獄とかの更なる地獄を知ってる子たちからすればここは天国なんだよ。だから逃げ出そうなんて子は先ずいない。24時間見張りをつけて監視する必要もないってわけさ。」
この村の事情を聞いて、各々の反応を見せる。
「ふん、腐った貴族がやりそうな事だわ。やっぱりこの世界は一度全部を壊さないとダメね。根本から腐りきってるわ。」
「酷い…皆んな可哀想…」
「…父と母はこの事を知っていたのでしょうか…もし知っていたのなら私もここへ…」
「笑えない話さね。」
「ここまで腐った貴族が沢山いるなんて、びっくりですわ!ピーレ、帰ったらお父様に報告よ。その貴族たちは絶対に許しませんわ。」
「かしこまりました。」
「酷いね、エナ。」
「私もそう思います、エマ。」
その時、フィンセが再び口を開く。
「…私もここに一時期住んでいた事がある。カレスティア様と出会う前にな。」
「だからこの村に詳しいさね。納得だよ。」
「フィンセさんも苦労してきたんですね…」
「私からすれば、ここでの暮らしやカレスティア殿との逃避行は両親との暮らしの次に幸せな日々だったがな。だから第二の故郷であるこの村を大切に思っているんだ。」
「ふーんなるほどねぇ……ん?」
その時、セイナの索敵に誰かが引っ掛かる。
「母さまー!!今日の夜ご飯はー?」
その時、建物に入ってきた少女がいた。ホランに会いに来たと思われる少女だったが、セイナたちに気付くやいなや、尻餅をついた。
「…い、いや…いやぁあ!!」
その少女は先ほどセイナたちが助けた末に逃げられた少女だった。少女はセイナたちを見た途端に絶叫し、逃げ出した。
それを見てホランが口を開く。
「キユ!待ちな!この人たちは!」
ホランが言い終わる前にキユと呼ばれた少女は既に走り去っていた。
それを見てホランが軽く頭を下げる。
「あっちゃっちゃ……悪いねぇ、悪者みたいな風にしちゃって。でもあの子を責めないでやってほしいんだ。あの子は先日、貴族に売られたばかりだったんだ。奇跡的に戻ってこれたけど、そのトラウマが抜けないのさ。」
「あの子を買った貴族ってのは?」
「色んな女の子を集めて娼館の真似事をしてる筋金入りのクズさ。でもそんなクズに渡すと分かっていても私たちには何も出来ないのさ。下手に反抗すれば暴力でねじ伏せられ、最悪の場合皆殺しだ。私も皆んなの母さまなんて呼ばれてるが、貴族の暴力が怖くて何も言えないただの偽善者さ。」
そう言ってホランは自虐の笑みを浮かべた。それを見てフィンセが口を開く。
「そんな事はありません、母さまのおかげでどれだけの子たちが救われてきたか。私たちはちゃんと分かっていますから。」
「そんな事ないよ…でもありがとうね、フィンセ。」
そう言ってホランはゆっくりと立ち上がった。
「それじゃあ話は終わりだよ。村の最奥に比較的広い家がある。9人じゃあ狭いかもしれないけど、我慢してくれるとありがたいね。フィンセ、後は任せるよ。」
「分かりました、後はお任せ下さい。」
そう言ってフィンセを含めた9人はホランと別れ、建物の外に出た。
そしてフィンセの案内の元、9人はホランに指定された寝泊まり用の家に向かって歩いていた。その道中、セイナは村で過ごす女たちを眺めながら呟く。
「ここにいる全員が貴族の商品か…全く、とんでもない村に来ちゃったわね。」
「うん、同じ人間なのに商品だなんて…許せないよね。」
「ならいっそ、その貴族とかを全員殺してこの村を救っちゃう?」
とんでもない事をサラッと言ったセイナをフィンセが睨みつける。
「おい貴様、それは一体どう言う意味だ?」
「こんなふざけた事を平気でしてる貴族なんて生きる価値ないでしょ?だから皆殺しにしてこの村を救ってあげようって言ってんの。」
「やめろ…滅多な事を口に出すな。」
「あら?アンタ、『魔女』のくせに貴族如きにビビってるのかしら?」
セイナの挑発を聞いてフィンセは不快感を露わにする。
「…そう言う事ではない。貴族に手を出せば王国そのものを敵に回す事になる。それは流石に自殺行為だ。単に貴族を殺して解決する話なら私がとうにやっている。」
「ふん、やっぱり王国にビビってるのね。勇敢な侍様が聞いて呆れるわ。国如きを敵に回すのも怖いなんてね。」
「何だと?それはどう言う意味だ。」
「アンタには言ってなかったかしらね。私たちの最終目標、それは【この世界そのものをリセットする事】よ。『魔女』が普通に生きられないこの世界を一度ぶち壊して、私たちが頂点に立つの。そして『魔女』だろうが魔法が使えない女だろうが誰もが普通に生きられる世界を創るわ。それが私とパーナの夢、分かった?」
それを聞いてフィンセは驚愕していた。
「まさか…そんな…そんな世界が………いや、それは流石に妄想が過ぎる。本気でそんな事が出来ると思っているのか?」
「さぁね、でもやれるだけやってみるわよ。それが私の二度目の人生だから。」
そう言ってセイナは覚悟を決めた笑みを浮かべる。
「それで?アンタは私たちの仲間になるの?それともここで私たちを止めるの?今、ハッキリさせなさい。」
セイナは右手から魔力を垂れ流しながらフィンセに向けた。その右手からは半端な答えなら殺すという強い意思が込められていた。
その意思を受け取って、フィンセも本気の表情に変わる。
「……」
そして少し考えた後、フィンセはセイナを素通りしてパーナの前に来た。そして恭しく膝をつき、顔を上げる。
「カレスティア様、私はもう間違えません。私は貴女の侍です。主人である貴女が行く道が蛇の道であろうと私はそれにお供致します。ですから私に命令してください。【最期まで付き従え】と。」
そう言って服従の意を示し頭を下げたフィンセの堂々たる姿を見てパーナも決心を決める。
「…そうだね。分かった。私はフィンセの主人だもんね。…フィンセ、私たちに協力して。そしてここにいる皆んなでこの世界を変える。だから最期まで私に付き従いなさい。いいですね?」
「御意!この身朽ち果てるその日まで、私は貴女様に付き従いまする!」
フィンセは改めてパーナへの絶対の忠誠を誓った。
(あぁ…父上、母上、私はたった今理解しました。私はこの方と共に歩む為に生まれてきたのです。2人にいただいたこの命、全てカレスティア様の為に使わせてもらいます。)
フィンセは感動のあまり、頭を下げたまま大粒の涙を流していた。
「あわわわ!フィンセ、どうして泣いてるの?やっぱり私が主人なんて嫌だった?変な事言ってごめんね。私、侍の事とかあんまり分からなくて…」
「いいえ!そんな事はありません!私は嬉しいです!これからも何卒、よろしくお願いいたします!」
そんな様子を少し離れて見ていたセイナは笑みを浮かべながら右手を下ろす。
「愚問だったわね。」
フィンセの魔法(肉体を巻き戻す)に関しては記憶はそのまま残ります。




