再会
8人(セイナ、パーナ、ニューズ、アンリーザ、ララメルク、シピーレ、エマ、エナ)が進み始めてから3日が経過した。どこまでも続いているような平原をずっと進み続けているのだ。
「はぁ〜…セイナ、水ぅ…」
疲れ切った様子のアンリーザがセイナの肩にもたれかかる。
「はいはい。」
そう言ってセイナが右手を虚空に翳すとその手の中に水の入った容器が出現した。
「皆んなもね。」
セイナはそれらを全員に渡し、残った1つを自分で飲み干した。
「やっぱり便利ですね、セイナさんの魔法は。」
「ホントにそうさね、羨ましい限りだよ。」
「ですが、ニューズさんやアンリさんの魔法だってお役に立ってますわ。とても素晴らしい能力だと思いますわよ。」
ニューズの魔法は丈の高い草原の草を一掃したり食材を切ったりする時に使われている。アンリーザの魔法は周辺の気温を調整したり火を付けたりするのに使われている。
「……申し訳ございません、お嬢様。私は何のお役にも立てず…」
そう言ってシピーレはララメルクに頭を下げる。自分の魔法(自身の肉体を巻き戻す魔法)が主人であるララメルクの役に立てない事を悔やんでいたのだ。
「そんなことはありませんわ。いつか貴女のチカラが必要になる時が必ず来ますわ。その時は貴女の魔法で全員を守ってみせなさい、ピーレ。」
「メルク様…かしこまりました。」
その言葉に感動したシピーレは再び頭を下げた。
そうして談笑しながら歩いていると、先頭を歩くセイナが立ち止まった。
「ようやく見えたわよ、『ドライ』高原!」
セイナが指差す先には巨大な山の一部が見えていた。
「やっと着いたね!」
「今回は長かったですね…」
「ようやくさね!」
「私はまだまだ余裕ですわ!」
「流石はメルク様でございます。」
「エナ、気を引き締めて。」
「エマ、分かっています。」
「にしても大きい山ね…歩くのはすごく大変そう…どうしましょうか………ん?」
……ガタガタ…ガタ…ガタ……
その時、8人の視界の端に黒い何かが写った。それは音を立てながら徐々に近づいてくる。
「……馬車?」
その馬車は先頭の2頭の馬が後ろの車輪の付いた黒い箱状のモノを引っ張っている形状だった。
「…どうしますか、セイナさん。」
「そうねぇ…」
そう聞かれたセイナは邪悪な笑みを浮かべる。
「ふふ…そうだわ、あの馬車を奪っちゃいましょう。そうすればこれからはもっと楽に移動できるようになるわ。」
「それはいい考えさね、早速行こうかね。」
アンリーザはセイナの考えに同調した。
「で、でも…流石にちょっと可哀想な気が…」
「そうですわ!いきなり強奪するなんて野蛮すぎます!」
まだまともな感性を持っているパーナとララメルクは2人に反対する。それを受けてセイナは少し残念そうにため息を吐いた。
「…まぁ、パーナが言うなら仕方ないわね。それじゃあメルク、貴女が交渉してきて。」
「わ、私ですの!?」
「ええ、私は馬車を貰えれば何でもいいから。殺したくないなら金でも払って降りてもらいなさい。」
「えぇ…ですの…」
「いいえ、メルク様。ここは従者であるこの私が交渉役になります。皆様はここでお待ちください。」
「そ、そうでしたわ!任せますわ、ピーレ。」
シピーレからの思いがけない申し出にホッとしたララメルクはシピーレの肩を叩いた。
「かしこまりました。」
そうしてシピーレは優雅な足取りで馬車の元まで歩いて行く。
……ガタガタガタガタ……
馬車はスピードそのままに近づいて来る。シピーレはそれを敢えて遮るように馬車の進路に立った。そして右手を高く上げ、御者に合図を送る。
「失礼致します、少しだけお話を聞いてくださいませんか?」
走り続ける馬車の御者にも聞こえるように大声を出すシピーレだったが、馬車はまるで気付いていないかのように進行してくる。
ガタガタガタガタガタガタ!!!
明らかに目の前に人がいるにも関わらず、馬車は減速する事なくシピーレの元に走ってくる。
馬車との距離は20メートル程まで近付いた時、シピーレは再び大声を出す。
「申し訳ございません、一度お話しを」
そう言って頭を下げるシピーレにようやく気付いた御者は少しイラついたような表情を見せる。
「…チッ!」
…ガタガタ…ガタ…ガタ…………
そうして馬車は少しずつ減速していきシピーレの隣で止まった。
シピーレは先頭に乗っている御者に話しかける。
「失礼致します。私は」
「一体何のようですか?我々は急いでいるのですが。」
シピーレの言葉を遮り、御者はイライラしながら答える。
「失礼しました。では手短にお伝えさせていただきます。この馬車を譲っていただけないでしょうか?」
「はぁ!?何を仰っているのですか?いいわけがないでしょう。」
シピーレの提案に男は更に怒りを増す。
「そこを何とかお願いいたします。」
そう言ってシピーレは頭を下げた。
「無理です、話はそれだけですか?では失礼します。」
しつこいシピーレに呆れた御者はそう言って馬車を走らせようとする。
「お待ちください、私は何としてもメルク様にこの馬車を」
そう言ってシピーレが馬車の前に立ち塞がるように立った時、
ドォオオン!!
1発の銃声が響き渡った。
「しつこいですよ。」
それを撃った御者はそう言って銃を胸ポケットにしまった。
「…ゴフッ…」
撃たれたシピーレの腹から大量の血が流れる。そして口からも吐血し、その場に倒れた。
「ピ、ピーレ!」
少し遠くで見ていた7人はその光景に驚愕する。特にララメルクは大声で叫んだ。
「いきなり撃つなんて、やってくれるわね。」
「おそらくまともな人たちではありませんね。」
「マフィアとかかねぇ…」
「シピーレさん、大丈夫かな…」
4人はシピーレの能力を知ってか、意外にも落ち着いていた。
シピーレを撃ち殺した御者はため息を吐く。
「…はぁ…とんだ邪魔が入りましたね。早く商品を伯爵様にお届けしなければ……ん?」
その時、馬を走らせようとした御者は目の前の光景に驚愕する。
「…………なるほど…コレが私の力でございますか。」
腹を撃たれて死んだはずのシピーレがムクっと起き上がったのだ。しかも腹の傷など一切なく、まるで何事もなかったかのように立ち上がる。
「き、キサマ!一体何者だ!」
そんな不気味なシピーレを見て御者はそう叫ぶ。
「私の名はシピーレ。偉大なるララメルク様に仕えるメイドでございます。」
シピーレはメイド服のスカートをたくし上げ優雅にそう告げた。
「ひ、ひぃ!!」
混乱した御者は再び拳銃を取り出し、シピーレに向けた。
シュンッ……
「はーい、そこまでよー。」
「へ?」
いきなり御者の隣から気の抜けた声が聞こえてくる。それに驚いた御者が隣を見るとそこにはセイナが足を組んで座っていた。
「最初からこうすればよかったのよ。」
シュンッ……
そう言ってセイナは御者をどこかへ飛ばした。それを見たシピーレが近寄ってくる。
「セイナ様、彼は一体どこへ…」
「さぁね、適当に遠くに飛ばしたから知らないわ。でも安心して、かなり低い高度に飛ばしたから死んではないと思うわ。」
そう言ってセイナは背後にある箱状の部屋(馬車の人が乗る場所)に手を翳す。
シュンッ…シュンッ……
セイナは魔法で中の状況を把握していた為、中にいた2人の男を御者と同様に遠くへ飛ばした。
「さて…邪魔者は消したし、話を聞きましょうか。」
馬車を降りたセイナは箱状の部屋の扉を開けた。
「……」
部屋の中にいたのは1人の女だった。
華奢な身体のその女は綺麗な青の薄いワンピースを着ていた。しかし両手両足を縛られ、口を塞がれて寝かされていた。
「ふーん…」
それを見たセイナは何食わぬ顔でその女に近付く。そして寝ている女の顔を覗き込んだ。
(化粧もしていて綺麗な顔ね…貴族…いいえ、この痩せ細った身体と慣れていない様子の服装と化粧…もしかしたら………人身売買。)
「……ううっ!!」
その時、女が目を覚ました。しかし身動きが取れずに声も出せない。それでも何とか脱出せんと、身体を捩って暴れる。
それを見たセイナは暴れる女を軽く抑えつけて声をかける。
「はいはい暴れないの。」
「……んんっ!!」
それでも抵抗する女にセイナはため息を吐く。
「はぁ…めんどくさ………あんまり言う事聞かないと……【殺すわよ】」
セイナは軽く殺気を放ちながら女の首に手をかける。
「…んっ!?」
その瞬間、女は恐怖で動けなくなった。
「別に私は敵じゃないの、大人しくしてれば悪いようにはしないわ。」
セイナは今度は優しい声でそう告げる。それによって女はセイナに恐怖しながらも少し安心したように頷く。
「…でもね、今度私の手を煩わせたら…【どうなるか、分かるわね?】」
「!!!……」
セイナの強烈な殺気を受けた女はあまりの恐怖に再び気絶してしまった。更に女の足元には生温かい液体がこぼれ出す。
「おっと…やり過ぎちゃったわね。ごめん。」
「全くさね、セイナはいつも過激過ぎるんだよ。」
すると残りの7人が集まってきた。
「ただの女の子が私たちの魔力に耐えられるハズがないじゃないですか。」
「セイナぁ…やり過ぎだよぉ…」
「遠くにいた私も戦慄する程でしたわ、全く…『魔女』の皆さんはとことん規格外ですわね。」
「セイナ様の魔力は我々の中でも随一でございます。」
「怖かったね、エナ。」
「そうですね、エマ。」
「ごめんって…私なりに暴力を使わずに解決しようとしたんだけど…」
少し反省したセイナは申し訳なさそうにそう呟いた。
「だけど、無事に馬車を手に入れられたわね。早速行きましょうか。」
「この子はどうしますか?」
そう言ってニューズは足元に転がっている女を指差した。
「その辺に適当に捨てとけばいいんじゃない?それか一度殺して、ガチャ(『魔女』として生き返るか試す)する?」
「あっはっは!ガチャって…面白い事考えるねぇ。セイナのそう言う性格は嫌いじゃないよ。でも流石にガチャはやり過ぎさね。」
「じゃあ、この辺に捨ててく?」
「ここに置いていくのも可哀想だよ!きっとさっきの奴らにまた捕まっちゃう!」
「でもこの馬車のサイズ的に御者を入れて7人くらいが限界よ?連れて行くのはちょっと…」
「それならば私が走りましょうか?こう見えて足の速さだけは自信があるんですのよ。」
「それはなりません!主人を置いてメイドが楽する事など断じて許されません。メルク様の代わりに私が走ります。」
「ですがピーレ…」
「何かいい方法が無いかしらね……あっ、そうだわ。」
その時、何かを思いついたセイナの視線はエマとエナに向けられた。
「え…セイナ様…まさか…」
「わ、私たち…でございますか…」
〜数十分後〜
「はぁはぁ…エナ、大丈夫?」
「はぁはぁ…大丈夫でございます。エマこそ、息が上がっていますよ。」
エマとエナは互いに励まし合いながら走っていた。その後ろを走る馬車の御者をしているシピーレはその様子を見ていた。
「エマ様、エナ様、ファイトでございます。」
そんな中、馬車の中では5人が優雅に談笑していた。
「エマちゃんとエナちゃん、大丈夫かなぁ…結構スピード出てるけど…」
「まぁ大丈夫でしょ。まだ3.4kmぐらいしか走ってないし。」
「相変わらずセイナは鬼畜さね。頼もしい限りだよ。」
「ううっ…気持ち悪い…酔いましたわ…」
「ララメルクさん、大丈夫ですか?お水を。」
「……」
先ほどの女は縛ったまま席に座らせた。しかしまだ目を覚まさない。
「にしてもこの子はガリガリだねぇ。まともな物食ってないのかねぇ。」
女を舐め回すように見ていたアンリーザがそう呟く。
「そうだね、何か事情がありそう。」
「…あっ…」
そんな会話を聞いていたララメルクは何かを思い出したかのような反応をした。
「どうしたの、メルク?」
「…うーん…もしかしたら……この子の事は存じ上げませんけど、あの悪者たちには心当たりがありますわ。噂程度ですけど…」
ララメルクは真剣な表情でそう告げる。
「それは一体…」
!!!!!
「っ!?」
その瞬間、セイナがその場で立ち上がった。
「うぉっ!びっくりした…どうしたさね?」
「セイナさん、どうしましたか?」
「…厄介ね…」
そう呟くセイナの頬からは一筋の汗が流れ落ちる。
「セイナ、何があったの!?」
全員の視線がセイナに向けられる中、セイナが真剣な表情で答える。
「…敵よ、それもかなり強いわね。多分だけど…私と同等の魔力の持ち主よ。皆んな警戒して。」
!!!!!
その時、セイナ以外の『魔女』(パーナとララメルク以外)も敵の気配に気付いた。
「へぇ…久々の緊張感さね。アルティード以来かねぇ。」
「ええ、気を引き締めましょう。」
「えっ、皆んな何か感じてるんですの?ですの!?」
「あはは…私も全く…」
「エナ、やるよ。」
「エマ、もちろんです。」
「凄まじい死の気配…とても嫌な予感がいたします。」
そしてしばらく山道を登ったところで一本道に入った。そこで御者であるシピーレと外を走るエマとエナは視界にその人物を捉える。
(…セイナ様に匹敵する威圧感……危険でございますね。)
「皆様、到着いたしました。止まります。」
シピーレは馬車を減速させ、程よい距離で停車させた。
そして馬車の中から5人が出てくる。
「はぁ…疲れたわ。早く休みたいわね。」
「そうだねー、早くフカフカのベッドで寝たいよー。」
「アタシは男を…」
「ダメですよアンリさん。それは敵を倒してからです。」
「ううっ…何とか持ち堪えましたわ…」
そうして8人は止められた馬車の前に立った。
奥にに見えるのは2.3メートル程の壁だった。木で作られたその壁は遠目に見てもボロボロで壁としての機能を果たしているのか分からない程だった。その壁で唯一中に入れる門らしきモノが一本道の先にある。しかしその門の前には1人の人間が仁王立ちしていた。
「アイツね。」
その雰囲気からその人間がセイナの見つけた敵だと分かった。
敵も最初からコチラに気付いていたようで、8人を見て更に警戒心を高める。
「……女…」
敵は8人を見てそう呟いた。
「ええ、女で悪かったわね。それで?私たちに何か用かしら?」
セイナは軽口を叩きながらゆっくりと敵に近づいて行く。敵は真っ黒なローブを着ており、その顔は見えない。
「……どこの家の者だ?」
敵は殺気を纏いながらそう質問した。
「家?何の話?」
「惚けるな、この場所に来るのは一部の貴族だけだ。貴様らは一体何者だ?」
そう告げる敵の声色は怒りを孕んでいた。
「だから何の話か分からないって言ってるでしょ?」
「とぼけるな。その馬車、貴様らも貴族の使いだろうが!」
そう言って敵はローブを脱ぎ捨てた。そして露わになった顔を見てセイナは笑みを浮かべる。
「はんっ!やっぱりアンタも女だったのね。」
姿を現したその敵は女だった。真っ黒なその長い髪を後ろで結ったポニーテールで服装は上が白で下が黒の袴のような服で腰には刀が納められていた。
「どうやら会話にならんようだ。本日はお引き取り願おう。」
そう言って女は腰の刀に手をかけた。しかしその脅しとも言える行動でセイナの戦闘狂の部分に火がついた。
「力ずくかしら!いいわね!やれるものならやってみなさいよ!」
次の瞬間、セイナは右手を敵に向けた。
そしてそのまま敵を上空へ瞬間移動させようとした。しかし…
「…あれ?動かない…」
敵がビクともしない事にセイナは困惑する。しかしその感覚からすぐに原因が分かった。
(なるほどね、魔力で打ち消されたか…流石に一筋縄じゃいかないようね。)
魔法とは魔力が形を変えたモノだ。そして魔力には心臓の鼓動によるそれぞれ独特の波長がある。その波長によって能力が分類されるのだが、同じ分類(波長)の魔力同士がぶつかると互いに打ち消される事がある。
これらはセイナも知らない事だが、その感覚で何となく理解していた。そしてこの結果から導き出される結論は
「つまり、アンタも私と同じ『魔女』だってことね。」
正体を当てられた女だったが、驚いた様子は無い。
「やはりそうだったか…貴様らも私と同じ…」
敵の女もセイナが『魔女』である事に気付いた。
「それで?何で野良の『魔女』がこんなところにいるのかしら?もしかしてここ『ドライ』高原には『魔女』がたくさんいるとか?」
「…それは違うな。私はここに……ん?」
その時、女の視界にセイナ以外の7人が映った。そして女はとある1人と目が合った。
「あっ!!フィンセさんですわ!!」
女と顔見知りだったララメルクがそう叫んだ。
「確かに…あのお方は『魔女狩り』最高幹部【四神】の1人フィンセ様でございます。」
ララメルク同様に面識のあるシピーレもそれに気付いた。
「はぁ?『魔女狩り』!?本気さね!?」
「どうして『魔女』が『魔女狩り』を…」
「『魔女狩り』の【四神】…かなり手強いよ、エナ。」
「分かっています、エマ。」
敵の正体を聞いて4人は警戒心を高める。しかし敵は落ち着き払っている。
「…ララメルク…様…どうして貴女が『魔女』と……いや、それよりも…」
敵はララメルクではなく何故かパーナと目を合わせる。そして目が合ったパーナはその顔を見て驚愕する。
「…フィ…フィンセ……ど、どうして…」
それに対してフィンセは悲哀の表情を見せる。
「…久しいな…カレスティア殿……」
パーナの本名は『リパーナル・カレスティア』です。




