ターニングポイント
「ケルタンさん!」
ニューズは倒れたケルタンに駆け寄る。しかしケルタンの意識は既になく、顔色は非常に悪い。出血は止まりつつあるが、このままでは確実に死亡してしまうほどの重体だった。
「ううっ!どうすれば…私の力じゃ病院まで運ぶなんて到底間に合わない…このままじゃケルタンさんが!」
ニューズが困り果てていたとき、部屋の中で倒れていた男の1人が目を覚ました。それは先ほどケルタンを迎えに来た男であり、ニューズが唯一知っている顔だった。
「イッテテ…油断した……って、ケルタンさん!?」
目を覚ましたのはセルムだった。セルムは血塗れのケルタンに気付き、駆け寄ってきた。
「お嬢ちゃん、何があったんだ!?ケルタンさんは!?」
「敵にやられました、まだ息はあります!でもこのままじゃ!」
それを聞いたセルムの顔にも焦りが見える。
「とにかく早く医者へ連れて行かなければ!!…おらよっと!」
セルムは血塗れのケルタンを背負い上げた。そして部屋の扉に向かって歩き始める。
「嬢ちゃんの怪我も酷いな、だが外は危険だからここで待っててくれ、すぐに戻って医者を…」
「私も行きます!」
そう言ってニューズは部屋の扉を開けた。
「何言ってんだ、嬢ちゃん!」
「外にはまだ敵がいます。私が病院まで2人を護衛します。」
「バカ言うな!そんな怪我でどうやって俺たちを守るって」
スンッ……
「えっ…」
その瞬間、ニューズの触れていた部屋の扉がバラバラに崩れ落ちた。セルムは何が起きたのか全く理解できていない。そしてニューズは堂々と言い放つ。
「私は『魔女』です。そこにいる敵の刺客は私が殺しました。反乱鎮圧軍なんかに遅れは取りません。これでもまだ不十分ですか?」
「ま…魔女…」
それを聞いた男はあまりに衝撃の告白に一歩後退りする。しかしすぐに覚悟を決めたように前に出る。
「…いや、今は君が何者であろうと問題ない。何よりもケルタンさんを助けるのが優先だ、協力してくれ。」
「はい、もちろんです!」
「よし、急ぐぞ!」
そうして2人は部屋を出て走り出した。
建物を出た2人は敵がいる可能性の高い正面の門は避けて、裏門から抜け出した。幸い誰にもに出くわす事はなく、近くの病院まで辿り着くことが出来たのだった。
〜セイナとパーナ〜
「これでよしっと…」
戦闘を終えた2人は互いに簡単な応急処置を済ませた。
「うわぁああん!痛いよぉ!セイナー!よしよししてぇ!」
腕の傷が酷かったパーナはその痛みで子供のように泣きじゃくる。それを見てセイナは望み通りパーナの頭を撫でる。
「はいはい、パーナももう大人なんだからこれぐらい我慢しなさい。」
「ううっ…ごめんなさい…」
「さて…それじゃあここに来た目的を果たすとしましょうか。」
そう言ってセイナは目の前にある放送システムに目をやる。しかし次の瞬間、セイナは驚愕した。
「は!?ちょ、待って!!もしかして壊れてる!?」
セイナが見たのは、放送システムの装置の一部に一直線の切れ込みが入っているところだった。
「まさか、さっきの斬撃のせい!?」
セイナは焦りながら装置に近づく。そしてその装置の様子を確認するが、もうそれは機能しないということが分かった。
「嘘でしょ…せっかくここまで来たのに…」
セイナは地面にへたり込んだ。
「セイナ…よしよし。」
それを見たパーナが今度はセイナの頭を撫でる。
「…ありがとね、パーナ…」
そうしてセイナはパーナに抱きついた。
2人はしばらくの間抱き合っていたが、セイナは不意に視界に映ったモノを見て怒りの表情を見せる。セイナの視線の先にあったのは、上半身しかないエマの死体だった。
「そもそもコイツらのせいでパーナの綺麗な腕が、私の背中が、それとこの装置まで…許せないわ。」
そう言って死体に右手を向ける。
「予告通りバラバラに…」
怒りのままに死体を切り刻もうとしたセイナだが、そのあまりにも無惨な死体を見てその気を収めた。
「はぁ…まぁ1人は爆散して粉々、コイツも上下に両断されてこの有様、もう十分……いや、何なら少し可哀想に思えてきたわね。」
「そうだね、流石にコレはね…」
「…まぁ、後で試してみるか…」
セイナはエマの死体に触れ、手首だけを切断してどこかに飛ばした。
不意に思い出したかのようにセイナが語り出す。
「ところでパーナ、私思ったんだけどさ、さっきの斬撃って多分ニューズよね?」
最後の最後にエマを両断した攻撃がニューズによる斬撃と酷似していた事にセイナは気付いていた。
「あ、確かにそうかも!」
「でしょ?そう思って索敵範囲を広げて探してみたんだけど、この建物にはいないっぽいのよね。」
セイナの索敵能力は知っている魔力の人間なら探知出来る。しかしニューズの気配は既にこの建物になかった。
「でもその代わりにこんなのを見つけたわ。」
シュンッ…ボトッ!
そう言ったセイナが右手を空中に翳すと、何かが地面に落ちる。
「こ、これは…腕!?」
セイナが瞬間移動させたのは誰かの腕だった。肘付近で切断されたと思われるその腕はまだ血が乾き切っておらず、先ほどまで生きていたモノと思われる。
「まぁ誰の腕かは何となく想像つくけどね、パーナお願い。」
「う、うん分かった。」
理解が追いつかず動揺するパーナだったが、セイナに言われた通りにその腕に能力を行使した。
「これでよしっと…」
「……!!」
生き返ったその女は目を覚ますやいなや、凄まじい勢いで立ち上がり、2人から距離を取った上で武器を構えて臨戦態勢を取った。
しかしその姿を見たパーナはその姿を思い出す。
「あ!シピーレさん!」
「おや、セイナ様とパーナ様でしたか…これは失礼致しました。」
何と生き返った女はシピーレだった。セイナとパーナに気付いたシピーレは武器をしまい、臨戦態勢を解いた。
「何でシピーレさんが…まさか!殺されちゃったの!?」
驚愕するパーナを他所にセイナはシピーレに問いを投げかける。
「さっきぶりね、早速だけど貴方の今知ってる情報を教えてくれる?ここで何が起きたのか。」
それを聞いたシピーレは顎に手を当てて考え始める。
「…確か…この建物に入った私は放送システムの場所を聞いて回っていたのですが…その際に現れた『魔女』と思しき隻腕の少女と戦闘になり、私は腕と足を切断され…おや、どうして私の腕と足が元に戻っているのでございましょうか。不思議でございます。」
死ぬ直前までの記憶があるシピーレは失ったはずの手足があることに疑問を抱く。それどころか真っ二つに切られたはずの胴体までも全く無傷になっていた事にも気付いた。
「まぁそれは企業秘密って事で。それよりどうする?私たちのお目当ての放送システムは壊れちゃったわ。」
セイナは既に壊れた放送システムを指差した。
「そうでございますか…ではやはり正攻法でお嬢様を…」
ううぉおおお!!!!!
その瞬間、窓の外から大きな歓声が聞こえてきた。
「な、なに!?敵!?」
「さぁ何かしらね…」
警戒心を強めるセイナとパーナだったが、シピーレだけはその歓声に耳を澄ましていた。
「………っ!!!」
何かに気付いたシピーレは急に走り出した。
「シピーレさん!?」
「いきなりどうしたのよ!…って、そっちは外よ!」
なんとシピーレは窓の方へ走り出していた。
「ふっ!」
そしてシピーレは躊躇なく割れた窓から外へ飛び降りた。
「シピーレさん!ここ7階…あ…」
ドォオオン!!
次の瞬間、何かが地面に強烈に叩きつけられる音が響き渡った。
「ま、まさか!?」
「い…今のはヤバいんじゃないの!ねぇ!セイナ!」
2人は急いで窓枠に駆け寄って下を見た。するとやはり予想通りシピーレと思われる物体は血を撒き散らし、地面で動かなくなっていた。細かいところまでは見えなかったが、確実に無事ではない事が理解できた。
「はぁ…あんのバカ…せっかく生き返らせてあげたのに…」
「ヤバいよヤバいよ!早く助けに行かなきゃ!」
「あの様子じゃ絶対即死よ、行っても無駄でしょ?」
「でもでも!!」
呆れるセイナの腕をパーナが掴んで揺する。
「はぁ…はいはい。」
シュンッ…
周りの目を気にして建物内の一階に転移した2人は、急いでシピーレの元へ向かう。
「シピーレさん、大丈夫!?……って、あれ?シピーレさんは?」
「変ね、あそこにいたはずなのに…」
建物を出た2人は先ほどの場所に目をやったが、何故かシピーレの姿は無かった。
「おーい!セイナ!パーナ!」
次の瞬間、どこからか2人に声をかけたのはアンリーザだった。2人がその声の方向を向くと、そこにはアンリーザの他にも2人の女がいた。
「あら、アンリさんのお知り合いですの?」
「メルク様、あの2人は私を手伝ってくださった恩人でございます。」
アンリーザと共にいたのは先ほどの怪我など無かったかのようにピンピンしているシピーレと2人が知らない女、ララメルクだった。
〜少し前、ララメルク〜
「やりましたわぁ!」
ララメルクは令嬢らしからぬガッツポーズを決めた。そして少し落ち着いたララメルクは状況を分析する。
「どうやら反乱鎮圧軍の皆様は気絶しているようですわね。何が何だか分かりませんが、まさに僥倖ですわ。」
建物の前の広場に立つのはララメルクただ1人。他の人間たちはエマの放った強力な音響弾によって気絶してしまった。偶々耳を塞いでいたララメルクだけが助かった。
「よいしょっと…ですわ。」
ララメルクは倒れた王国兵たちを踏まないように慎重に包囲から抜け出した。そして辺りを見渡す。
「さて…私はこれからどこへ……ん?」
その時、ララメルクは少し遠くの路地から歩いてくる人物と目が合った。
「おっ、やっぱり生きてたさね!おーい、メルクぅ!!」
それは酒瓶を片手に歩いてくるアンリーザだった。
「あ、アンリさん!会いたかったですわぁ!」
気付くやいなやララメルクはアンリーザの元まで駆け出した。
「速っ!?」
ララメルクの速さに驚くアンリーザだが、そんな事は無視してララメルクがアンリーザの手を握る。
「アンリさん、私とっても怖かったですわぁ!凄い数の人たちに追われて…何度も何度も死ぬかと思いましたわ!」
ララメルクは涙目を浮かべながら安心したようにアンリーザの手を握って振り回す。
「へぇ、それは大変だったねぇ……ところで、この惨状はメルクがやったさね?」
アンリーザの目線の先には、建物の前に倒れた大量の反乱鎮圧軍だった。
「いや、それは…」
(私がやったわけではないけれど、状況的に信じてもらえそうにないですわね…ならここはいっその事、)
「コホンっ!わ、私がやりましたわ!この程度の敵など私にかかれば造作もありませんことよ!おっほっほ!」
ララメルクは冷汗ダラダラでそう言い放った。
(まぁ目撃者もいませんし、バレるわけありませんわよね!うんうん!そうですわ!)
「さっきの大きな音もメルクがやったのかい!?そいつは凄いさね…やっぱり強いって言うのは本当だったんだねぇ。」
「ふ、ふふーんですわ。」
「な、何だこれは!?」
その時、2人のいる広場に人が集まってきた。
「敵…ではないさね…アタシみたいにさっきの爆音に釣られて来たみたいだね。」
広場に来た人々は王国兵ではなく『ツヴァイ』の住人や雇われた傭兵たちだった。
「王国のヤツらが倒れている…これをやったのは…」
そう言って彼らはこの混沌とした現場で唯一無事であるララメルクとアンリーザに視線がいく。
「わ、わたくし!?私は何も…」
「ん?メルクがやったんじゃないのかい?」
大事になるのを避けるために嘘を言おうとしたララメルクだったが、ここにきて先ほどアンリーザについた嘘が邪魔をする。
(さっきアンリさんに私がやったと言ったばかりでしたわぁ!!どどど、どうすればいいのですわぁ!)
「そ、それは…」
その時、アンリーザがララメルクの右手を握って天に掲げた。
「皆んな!よく聞くさね!!この町を襲撃したこの愚かな王国兵たちは、1人残らずこの【ララメルク】が倒したんだ!!覚えておくさね!」
アンリーザは遠くにまで聞こえるようにそう言い放った。
「あ、アンリさん!それは!」
咄嗟の出来事で訂正しようとしたララメルクだったがもう手遅れだった。
うぉおおお!!!
アンリーザの言い放った勝鬨によって周囲の熱気は最高潮になった。
「凄え!あの数をたった1人で!?」
「うぉおお!ヤベェ!ヤバすぎるぜ!!」
「『英雄』の誕生だ!!『英雄ララメルク様』の誕生だぁ!!」
「『英雄』万歳!!」
『ツヴァイ』の人間たちは歓喜の声を上げた。そして救国の英雄であるララメルクを『英雄』として讃え始めたのだ。
周りの人間たちの顔は喜びに染まっていく中、当の本人だけは顔が真っ白になっていた。
(どうしてこうなるんですのぉ!私はただ逃げ回っていただけですのにぃ!)
「あっはっは!『英雄』だって、良かったさね!メルクも頑張った甲斐があるってもんさね!」
そんな事などお構い無しに元凶であるアンリーザは笑顔でララメルクの肩を叩いた。
「あ…あははは…そ、そうですわね…」
(あぁ…今度こそ終わりですわ。王国から町を救った『英雄』なんて噂が広まれば、私の家は取り潰しどころか一族まとめて処刑ですわ…ごめんなさい、お父様お母様お兄様、私は最低の親不孝者です…)
絶望で涙を流すララメルクだったが、次の瞬間衝撃の光景が視界に入る。
「え…」
それは目の前の大きな建物のかなり上の階から何かが落ちていく様子を見たからだ。よく見るとそれは人間であり、凄まじい勢いで自由落下していく。
「ひ、人!?」
ドォオオン!!!
人間と思われたソレはそのまま地面に強烈に叩きつけられ、けたたましい衝突音を周囲に響かせた。
「なんだい!?自殺さね!?」
同時に気付いたアンリーザや周りの者たちもその様子を見て混乱する。そして全員の目線はソレが落ちた現場に集中する。
「…おーい、大丈夫……なワケないさね…」
興味本位でアンリーザが見に行ったところ、そこには全身がグチャグチャになった人間の死体があった。腕も足も首もあらぬ方向へ曲がり、頭からは大量の血が吹き出している。飛び散った肉片や血液も周囲に離散しており、それはあまりにも衝撃的な死体だった。
「こんな時に自殺なんて、中で何か……って、メルクどうしたさね?」
アンリーザは隣で見ていたララメルクの表情が変わった事に気付いた。それはアンリーザや周りの者たちのような心配と憐れみの感情ではなく、大切な者を失った絶望の表情だった。
「……ピーレ?」
メイド服を着たその死体はシピーレ本人だ。全身がグチャグチャなその死体でも、幼い時から一緒にいたララメルクには一目でシピーレだと分かった。
「ピーレ!何やってるんですの!どうしてこんなところに!!」
ララメルクは汚れることも恐れずにシピーレの死体を抱き上げる。しかしそのあまりの惨状から、生きている可能性など皆無であると直観させられた。
「ピーレ!返事をしてくださいまし!!目を開けるんですの!!」
そう言って身体を揺さぶるが、グチャグチャに潰れた死体は微動だにしない。誰がどう見ても完全に死んでいるのだ。しかしララメルクは諦めない。
「命令ですのよ!早く起きないと怒りますわ!…ご飯も抜きにしますわ!……お父様に言いつけてやりますわ………お母様にも…言いつけて……」
ララメルクの表情は混乱から泣き顔に変わっていった。
「…メルク、その子はもう…」
「……ううっ…ピーレ…ピーレ……何で…何でこんなことに……うう…ごめんなさいですわ…私が逃げ出したりするからこんな事に……うううっ………」
ララメルクにとってシピーレは妹のような存在だった。シピーレはララメルクが幼い時に気まぐれで拾った平民であり、今までずっと一緒に生きてきたのだ。そんなシピーレの唐突な死をララメルクは受け入れられるはずもなかった。
「…メルク………ん?」
その時、近くで見ていたアンリーザは奇妙なモノを見た。明後日の方向へ曲がり動かないはずのシピーレの左腕が動いたのだ。
「へっ?」
次の瞬間、シピーレの死体から魔力が噴出する。そのドス黒い真っ黒な魔力はシピーレの全身を包み込んだ。
「一体何が…」
「へぇ…こりゃあアタシと同じ…」
そしてすぐにその魔力はシピーレの中に吸い込まれていった。
「…お嬢様、お怪我はありませんか?」
黒い魔力から姿を現したのは目を覚ましたシピーレだった。しかも驚くべき事に先ほどまでグチャグチャだった肉体は服まで完全に無傷の状態まで戻っていたのだ。
「ぴ、ピーレ?無事ですの?」
「無事…とはどう言う事でしょうか?私はこの通りですが…」
シピーレは何のことか分からないと言った表情だった。
「ピーレ!!」
無事を確認したララメルクは泣きながらシピーレを抱きしめた。
「お嬢様…もうお一人で外出するのはお控えください。お嬢様であれば大丈夫である事は承知の上ですが、この私の命、貴方様のために使わせてください。」
「そうですわね!ごめんなさい!もうしませんわぁ!」
そうして2人は数時間ぶりの再会を果たしたのだった。
そんな感動のシーンを見てアンリーザも少しだけ泣いていた。
「何はともあれ再会できてよかったさね…にしても今のは『魔女』の………おっ!噂をすればさね!おーい!セイナ!パーナ!!」
アンリーザの手を振る方向にはセイナとパーナがいた。
「あら、アンリさんのお知り合いですの?」
「メルク様、あの2人は私を手伝ってくださった恩人でございます。」
「あら、そうだったんですの!」
そんな事を話していると2人が駆け寄って来た。
「ねぇ、シピーレさっき窓から落ちて血塗れで倒れてなかった?どうしてそんなにピンピンしてるのよ。」
「そうそう!何で?」
2人が窓の上から見たシピーレの無惨な姿とは裏腹に今のシピーレは無傷だ。それを聞いてシピーレは再び考え込む。
「ふむ……申し訳ありませんが分かりかねます。地面に叩きつけられ、全身を強打したところまでは覚えているのですが、気づいた時にはこの通り無傷になっておりました。」
シピーレにもそのからくりは分からないようだった。しかし唯一、アンリーザだけはその答えを知っていた。
「多分魔法さね。シピーレが生き返る時に感じた魔力はアタシの魔力に酷似していたさね。多分だけど、パーナがこの人を蘇生させただろう?その力だと思うよ。」
シピーレの先ほどの魔力は『魔女』のモノだった。パーナによって蘇生されたシピーレは既に『魔女』となっていたのだ。
「なるほど、それなら納得ね。シピーレの魔法は【肉体の時間を巻き戻す魔法】ってことね。はぁ…羨ましいわ…」
セイナは既に失われた自身の指を眺めながらそう呟いた。
「すごいすごーい!つまりシピーレさんはもう不死身って事!?」
その時、全てを聞いていたララメルクが割り込む。
「ちょっと、貴女たち何言ってるんですの!?シピーレは魔法が使えないはずですわ!しかも【時間を巻き戻す】なんて…まるで『魔女』のようじゃないですの!!」
それを聞いた3人はララメルクの存在を忘れていた事に気付いた。
「あ、やべ…」
「すっかり忘れてたさね、あはは…」
「私も…」
苦笑いする3人だが、聞かれてしまっては仕方ないとセイナがララメルクの前に立つ。
「ララメルクとか言ったかしら、さっき言った通りそこのシピーレは『魔女』になったわ。そして私たちも同様…」
シュンッ……
「えっ…」
「…なるほど…これも『魔女』の…」
その瞬間、セイナの魔法で5人は建物の中に飛ばされた。
それに驚いたララメルクは咄嗟にシピーレに抱きつく。
「ひぃい!!」
「お嬢様…」
ララメルク同様に話を聞いていたシピーレも己の肉体の変化に気付いているようだった。
「まさか、ピーレも本当に『魔女』になってしまったんですの!?ねぇ!ピーレ!」
『魔女狩り』として現実を受け入れられないララメルクはシピーレに縋る。しかし状況を理解したシピーレは抱きついてくるララメルクの方を悲しそうな目で一瞥した後、その肩を掴んで優しく引き離す。
「ピーレ?」
「お嬢様、この方の仰っている事はおそらく真実でございます。」
「ピーレまで何言ってるんですの!後天的に魔法が使えるようになる事なんてありえませんわ!そんなのこの世の常識でしょう!!」
「私は先ほどとある『魔女』と闘い、敗れました。記憶は曖昧ですが、私は四肢を切断され最後には身体を真っ二つに両断されたはずでございます。しかし5体満足なこの身体…私が昔に闘った『不滅の魔女』という『魔女』と酷似した力でございます。」
『不滅の魔女』はシピーレが過去に闘った『魔女』の1人だ。戦闘能力はそこまでだったが、その圧倒的な再生能力にかなりの苦戦を強いられた相手だ。ララメルクもその戦闘を近くで見ていたため、その時のことを思い出した。
「…確かに…彼女はどんな傷でも一瞬で元に戻りましたわ…でもでも!だからと言って貴女は『魔女』なんかじゃないはずですわ!」
どうしても現実を受け入れられないララメルクにセイナが声をかける。
「パーナの能力は【死者を『魔女』として蘇らせる力】、バラバラにされて死んでいたシピーレを『魔女』として蘇らせたわ。因みに私とアンリもパーナに蘇らせてもらったの。」
そう言ってセイナはパーナの頭を撫でる。
「そうさね、黙ってて悪かったねメルク。」
「そんな…」
ララメルクはその場に膝から崩れ落ちる。それは目の前に現れた恐怖と絶望、そして受け入れがたい現実からだった。
そんな様子を見たシピーレはララメルクの前に立ちはだかるように立った。
「セイナ様、そんなお話をされると言うことは私たちをこのまま帰すつもりはないという事でしょうか?」
「そうね、貴女たち2人をただで帰すわけにはいかないわね。」
淡々とそう告げるセイナからは少量の殺気が漏れ出ている。それに合わせてシピーレもララメルクを護るべく臨戦態勢を取った。しかしセイナから発せられる魔力を見て、数多の猛者と戦ってきたシピーレは冷汗を流す。
(何と言う強大で邪悪な力…新たな力を得たとはいえ私1人でお嬢様をお守りするのは…)
勝機が薄いと判断したシピーレは武器を収め、ゆっくりと口を開く。
「…どうすればお嬢様を助けていただけるのでしょうか?」
それを聞いて待ってましたと言わんばかりにセイナが答える。
「話が早くて助かるわ。簡単な話よ、シピーレが人質兼仲間として私たちと一緒に来ること。貴女が私たちに協力してくれればララメルクに危害は加えないと約束するわ。私たちは大いなる目的の為に旅をしているの、戦力は少しでも欲しいってわけ。」
それを聞いたララメルクが口を開く。
「ちょっと!何言ってるんですの!ピーレは私の大切な部下…メイド…いいえ、友達ですの!!そんな提案はお断りですわ!」
恐怖で足が震えながらもララメルクは堂々とそう言い放った。しかしシピーレがララメルクに向き直った。
「申し訳ありません、お嬢様。大変身勝手な申し出ですが暇をいただく存じます。」
「ピーレまで何言ってるんですの!私は許しませんわ!勝手にいなくなるなんて!」
「私は一度敵に敗れ、命を落とした身にございます。メルク様との約束も守れない無能なこの私にメルク様に仕える価値などごさいません。本当に申し訳ありませんでした。」
そう言ってシピーレは深々と頭を下げた。
「ぴ、ピーレ…」
ララメルクはそんなシピーレを再び強く抱きしめた。シピーレも目から一筋の涙を流しながらララメルクの事を抱きしめた。
「どうかご無事でいてください。今まで本当にありが」
「どうして別れる必要があるさね?メルクも一緒に来ればいいのに。」
感動の別れの言葉を遮ってアンリーザがそう聞いた。
「アナタねぇ…とってもいいシーンだったのに…」
「アンリーザさん空気読めないね…」
近くで聞いていたセイナとパーナは呆れた顔をしていた。
「だって、アタシたちは戦力が欲しい、2人は別れたくない。2人がアタシたちについて来れば全て解決さね。それにメルクは見た目によらず超強いさね。今その辺に転がってる王国兵は全部メルクが倒したんだからねぇ。」
「はっ?この数を1人で!?」
「すごーい!メルクさん強いんだね!」
事情を全く知らない2人はすんなりアンリーザの言葉を受け取る。
「いや、それは私じゃなくて…」
「お嬢様は偉大なお方でございます。ご同行してくださればこれ以上心強い事はありません。」
「ちょ、ピーレ!勝手に決めないでくださいまし!私はまだ行くとは…」
しかしその時、ララメルクは思考を巡らせた。
(いや、案外悪くない案かもしれませんわ。『英雄』なんて呼ばれてしまった私はどうせもう『魔女狩り』としては終わり、王都に戻っても処罰されるに決まってますわ。ならいっそ、この人たちについていけばピーレとも一緒にいられますし、追っ手の刺客からも守ってもらえますわ!まさに一石二鳥のアイデアではありませんこと!私ってやっぱり天才ですわ!)
「仕方ありませんわね!この私もピーレと共に同行させてもらいますわ!感謝してくださいまし!」
急に元気になったララメルクは胸を張ってそう告げた。
「決まりね、強い人は誰でも大歓迎よ。2人とも、これからよろしく。」
セイナは2人に手を差し出した。
「ええ!よろしくお願いしますわ!」
「よろしくお願いいたします。」
2人も手を差し出して握手を交わした。それを見てアンリーザとパーナも近寄ってくる。
「2人ともよろしくさね!」
「よろしくね!」
そうして全員で握手をしていると、セイナが何かに気付いたように明後日の方向を向いた。
「なーんだ、やっぱり戻ってきたのね。探す手間が省けたわ。」
「私だけ仲間外れにしないでくださいよ。寂しいじゃないですか。」
そんな事を言いながら現れたのはニューズだった。
「…変わったわね、いい顔だわ。」
現れたニューズの表情は以前のようにどこか不安げな表情ではなく、覚悟を決め、自信に満ちた表情だった。
「あっ!ニューズ!良かった、やっぱりここにいたんだね!」
「そう言えばすっかり忘れてさね、にしても相当元気になったようだね、安心したよ。」
そう言って安心する3人だが、シピーレだけは違った。
「…お嬢様!」
「貴女はさっきの…」
シピーレは武器を構えて臨戦態勢になった。ニューズも一瞬身構えるが、先ほどバラバラにしたはずのシピーレが生きている事からある程度の状況を理解した。
「なるほど、そう言う事ですか。ならもう戦う気はないですよ。それに貴女はもう私たちの仲間なんですよね?なら過去の事は忘れましょう。」
そう言ってニューズはシピーレに手を差し出した。しかしシピーレは動かない。
「……私は貴女の大切な人を傷付けました。そんな私がこの手を取るわけには…」
「ケル……あの人は無事だから大丈夫ですよ。それに私だって貴女の事をバラバラにしちゃいましたし。まぁ結果として誰も死ななかったんですから、よしとしましょう。」
ニューズは無理やりシピーレの手を握って握手を交わした。
「…感謝申し上げます。」
シピーレは再び深々と頭を下げた。
そして、ある程度の事情を察していたセイナが口を開く。
「さて、これで皆んな揃ったし、ここからおさらばするとしましょうか。」
「頼もしい仲間も加わったしね!」
「酒を酌み交わせる仲間が出来たのは大きいさね。皆んなまだまだお子ちゃまだからアタシはいつも1人だったからね。」
「何をするのかはよく分かりませんが、私も頑張りますわ!ね、ピーレ。」
「はい、必ずや皆さんのお役に立ってみせます。」
「それじゃあ行くわよ…ほいっと!」
シュンッ……
新たな仲間が加わった『魔女』一行は次の町へと進むのだった。
〜数分前、ニューズとケルタン〜
「こ、ここは…」
目を覚ましたケルタンが周囲を見渡すとそこは病院だった。
「ケルタンさん!」
ケルタンが目覚めるのを待っていたニューズは嬉しそうにケルタンに近寄ってくる。
「ニューズちゃん…アイツは…」
「私が倒しました。他の皆さんも無事だそうです。」
「そうか…ソイツは良かった…」
未だに顔色が悪いケルタンは安堵した。
「足引っ張っちまってすまなかったな…」
「いいえ、そんな事はありません。それよりも、今は安静にしていてください。私、変えの包帯を持ってきますから。」
そう言ってニューズは席を立って部屋を出ていった。
しばらくして戻ってきたニューズは手際良くケルタンの包帯を巻き直していく。
「やけに慣れてるな、誰に教わったんだ?」
「…私の…友達…だった人です。」
「…そっか…悪かった。」
ニューズの悲しそうな顔を見てケルタンは同情する。
そうしてケルタンの包帯を取り替え終えた時、ケルタンは改まったように口を開く。
「なぁニューズちゃん……もし…もし良かったらだが……俺の娘にならねぇか?」
「えっ…それは…」
いきなりの告白でニューズは困惑する。
「ニューズちゃんは『魔女』なんだろう?皆から忌み嫌われ、見つかったら殺される、この世界じゃかなり生きにくいはずだ。」
「…それはそうですが…」
「だが俺ならニューズちゃんを守ってやれる。この町の商人の大半は知り合いだ、俺の娘だと事情を説明すれば皆受け入れてくれるはずだ。もしそれでもダメなら2人で『帝国』に行こう。あの国は実は裏で『魔女』の受け入れを認めているんだ。魔法さえ使わなければ前科を持つ『魔女』でも生きていけるらしい、どうだ?」
「ええっと…」
ケルタンの話を聞いてニューズは悩む。そして間髪入れずにケルタンは続ける。
「確か仲間がいるんだったな、ならばその子達も全員俺が面倒をみてもいい。ニューズちゃんの仲間たち数人くらいなら食わせられるだけの稼ぎはあるからな。だから、どうだ?俺の娘になってくれないか?」
ケルタンの真剣な眼差しを見てニューズはしばらく無言で考えた。
(すごく魅力的な提案です…ケルタンさんの所に行けばもう周りの目を気にして怯えながら生きなくてもいい…私は元々無理やり仲間にさせられた立場、無理にみんなについていく義理はない…それにきっとみんなもこの人に守ってもらえるなら幸せに……………………………)
数分後、遂にニューズは答えを出した。
(……でも)
「私の答えは…
ごめんなさい。やっぱり私はケルタンさんの娘にはなれません。最期まで皆んなと旅を続けます。それが私の罪と罰、そして使命だから。」
真っ直ぐなその瞳を見たケルタンはやれやれと言った笑顔を見せる。
「そうか、分かった。なら気を付けて行きな、いつかまた会いに来てくれよ。いつでも待ってるからな。」
それを聞いてニューズも満面の笑みを浮かべる。
「はい!ケルタンさんもお元気で!色々とありがとうございました!」
軽く頭を下げたニューズはそのまま部屋を後にした。
「振られちゃいましたね。」
カーテン越しに聞いていたセルムがケルタンに近寄ってきた。
「そうだな、でも分かってたよ。あの子が首を縦に振らない事は。」
「ではどうして?」
「いざとなったら帰る場所があるってのは大事だろ?」
「確かにそうですね。」
力が抜けたケルタンはベッドに横になる。
「はぁ……スミカ、セイナ…俺はまた1からやり直すよ。1人でも多くの人たちを救って、いつかお前たちの元へ…なんてな。もうちょっとだけ待っててくれ…」
ケルタンの声は空に消えていった。
ニューズが最後の申し出を断った理由は3つあります。
一つ目は自身の両親の事、ニューズの事を捨てた両親ですが、ケルタンの話を聞いてまたいつか会いに行きたいと思ったからです。(両親は既に死んでいます)
二つ目はセイナの野望です。【『魔女』が普通に生きられる世界にする】というセイナの野望を叶える手伝いをしたいとニューズも思っています。
三つ目は過去の罪への償いです。ニューズも既に多くの人間を殺しました。特にノイファへの罪悪感を強く感じています。そんな自分が簡単に幸せになることなど許されるはずもないと考えました。
因みに最後のケルタンの提案は4人にとっての最後のターニングポイントでした。本章では親子であるセイナとケルタンはその存在を知らぬまま互いを死んだと思ったまま別れました。もしもニューズが最後の提案に首を縦に振っていたら、セイナとケルタンは出会えたはずです。既に心が壊れてしまっているセイナですが、実の父親となれば話は別です。初めはかなりの大喧嘩となりますが、最終的には野望など全て捨てて父親やパーナたちと普通の女の子として幸せに暮らすことが出来ました。




