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勝利の咆哮

状況まとめ


セイナとパーナ

放送システムのある部屋で2人の女暗殺者と対峙中


シピーレ

セイナたちと同様の建物に侵入


ケルタンとニューズ

商工会のメンバーが集まる会議室に入り、何者かと対峙する直前


アンリーザ

敵の大将と対峙中


ララメルク

追っ手から絶賛逃亡中

「冷(コッチ)を使ったらこんなもんさね…」


 そう言って平原の石の上に座るアンリーザの手には先ほどの男の凍った生首が乗せられていた。


「つくづく『魔女』の力ってのは恐ろしいねぇ…アタシみたいなのでも数十人いれば本当に世界征服も出来そうって思っちゃうさね。」


 アンリーザはその生首を適当に上に放り投げると、今度は温度を上げる魔法を発動させる。



ジュウ……



 すると凍った生首は一瞬で解凍され、今度は皮膚からドロドロに溶けて煙を噴きながら地面に落ちた。


「さて、皆んなはどうなったんだろうねぇ。」


 アンリーザは腰を上げてゆっくりと町へ歩き出した。





〜セイナとパーナ〜


「喰らえっ!」

「喰らいなさい!」


 その瞬間、2人の女が同時に拳銃を抜いた。そして目にも止まらぬ早撃ちを見せる。その弾丸の向かう先はそれぞれセイナとパーナの眉間を正確に捉えていた。


「無駄!」


 セイナは瞬時に魔法を発動させ、弾丸を瞬間移動させる。しかもその先は2人の女の眼前だった。


「うっ!」

「はっ!」


 しかし2人はギリギリでその弾丸を避けた。セイナの瞬間移動前の魔力の揺らぎを読んだのだ。


「やるね、でも隙だらけ。」


 回避によって崩れた体勢の隙を突いてセイナは既に2人の目の前にいた。


「っ!?」

「エナ!」


 そしてセイナは片腕のない方の女の残った右腕を掴んだ。


「はい、2本目っと。」


 そうしてセイナが腕を消そうとした瞬間、その女が決死の表情を見せる。


「タダではやられません!」


「っ!?」


 そういって女は握っていた拳銃に付いていたボタンを押した。すると次の瞬間、拳銃がいきなり爆発したのだ。



パァアン!



「ぐうっ!!」


 その女の右手はその爆発で消し飛んだ。その激痛に顔を歪めるが、自爆した成果はあった。


「チッ!」


「セイナ!」


 自身の瞬間移動が間に合わなかったセイナはその爆発の破片を受けてしまった。顔を守ろうと入れた左腕には拳銃の破片が何個も突き刺さり、血が流れる。


「隙あり!」


 その時、既にもう1人の女がセイナの背後にいた。顔を守る為に視界を塞いだ事が仇となりもう1人の女を見失ってしまったのだ。もう1人の女は既にナイフを振り下ろしており、セイナにはそれが全く見えていなかった。


「やぁ!」


「ぐぁっ!」


 女の刃がセイナの背中を穿つ直前、女の背後からパーナが襲いかかった。パーナは両手に何かを持ち、それを女の背中に思い切り押し当てた。それは先ほど割られたガラス片だった。パーナは自身の手を血塗れにしながらも女を背中から刺したのだ。


「ぎぃいい!!」


 女はその激痛で動きが止まった。そして口から血が流れだす。女が怯んだのを見たパーナはガラス片を手放し、後ろから女の首を絞める。


「やぁああ!!」


「ぐぅうう!!ま、負けない!!」


 意識が途絶え始めた女だったが、最後のチカラを振り絞って持っていたナイフを自身の首に巻かれたパーナの腕に突き刺した。


「パーナ!!」


「いっ!!…でもこんな痛みなんかニューズに比べればぁ!!」


 パーナは腕を刺されながらも全力で力を振り絞って女の首を絞める。


「うぁああ!!はぁああ!」


 女は叫びながらパーナの腕からナイフを抜いた。そしてそのままナイフを空中で逆手に持ち替える。


「道連れだぁあ!!」


 目を血走らせた女は必殺の決意を込めてパーナの心臓目掛けてナイフを振り下ろした。


「そんなのやらせるわけないでしょ。」


「はっ」


 女の目の前には既にセイナが立っており、女がナイフを振り下ろすよりも速くセイナがその腕を掴んでいた。



シュンッ…



「ぎぃああ!!」


 女の右腕はセイナの魔法で消滅した。絶叫する女だったが、セイナはその隙に女の頭に手を触れていた。


「はい、1人目…っ!?」


 セイナが女の首を捩じ切ろうとしたその瞬間、背後から強烈な殺気を感じ取った。


「エ(・)マ(・)を殺させません!」


 両腕を失ったエナはいつの間にかセイナに背後から抱きついていた。それをみてセイナは先ほどの自爆が頭をよぎる。


「やるわね、いい覚悟だわ!」


 しかしエナのやる事を知ってなお、セイナは笑みを浮かべた。しかしエマはそれを見て焦る。


「エナ!!」


「エマ…あとはお願い。」


 エナは涙を流しながらも奥歯に仕込んだスイッチを起動させた。

 その次の瞬間、エナの身体から強烈な光が発せられ…



ドォオオオン!!!



 先ほどの爆発よりも更に大きな音が周囲に鳴り響いた。


「危ない危ないっと…」


 それでもセイナは無傷だった。起爆する直前、セイナはエナを爆弾ごと外へ瞬間移動させていた。しかし今度はかなり遠くの上空まで飛ばした事で衝撃波も来る事は無かった。


「エナぁ!!くぅっ!」


「きゃっ!」


 エナを失ったエマは悲しむ間もなく次の一手を打つ。爆発によりパーナの締め付けが一瞬緩んだ隙にエマはパーナの腕から逃れた。そして刹那にも満たない一瞬で懐から何かを取り出した。


「これで終わり!」


 そう言ってそれをセイナの足元に転がしながら自信は全速力で逃げ出した。しかしセイナの表情は揺るがない。


「だから、無駄だって。」


 セイナはその足元の物体を再び外に瞬間移動させた。


「はい、おつかれ」


 セイナは背を向けて逃げるエマを捉えようと右手を前に出すが、逃げるはずのエマの違和感に気付いた。


「な、なにを…」


 エマは逃げながらも残った片手で片方の耳を塞いでいたのだ。そしてもう片方の耳にも何か布の様なモノが詰めてあった。それをみてセイナの顔色が一気に悪くなる。


「まさか、おと」



ギィイイィイイン!!!!!!



 次の瞬間、セイナとパーナは頭を思い切り殴られたような頭痛を感じる。そして2人は膝をつき地面に倒れた。

 その攻撃の正体は先ほどエマが爆弾と偽装してセイナの足元に仕掛けた音響弾だった。音での攻撃に特化したそれは、少し離れた建物内まで響き渡り、セイナとパーナの三半規管に直接ダメージを与えた。


「ぐぅっ!?」


(やられた!何も聞こえない!視界もぼやけて…魔法も!集中できない!)


 反撃を警戒して構えようとしたセイナだが、先ほどの音の攻撃によって内部的なダメージが大きく、上手く身体を動かさず魔法も使えない。


「今度こそ!」


 そんな隙を見逃すはずもなく、既にエマはセイナの背後を取っていた。エマは耳を塞ぐ事で音の攻撃から逃れていた。そしてこの結果を予測して既に反転していたのだ。

 しかし満身創痍のセイナはそれに対応できない。


(クソッ!やられる!!)


「はぁあ!!」


 エマのナイフがセイナの背中に迫る。


「セイナ!」


 パーナも叫ぶがエマのナイフは止まらない。思い切り振り下ろされたエマのナイフがセイナの背中を穿つ……



スンッ……



「え…」


 死を覚悟したセイナの背中をナイフが穿つ事はなかった。それどころか逆にエマの口から血が吹き出す。そしてエマの身体に腹から横一文字に血線が走る。


「なに…が…」



バタッ!



 胴体を両断されたエマはそのまま地面に崩れ落ちた。その様子を見てパーナは困惑する。


「一体何が…」


「はぁ…よくわからないけど助かったぁ…」


 そう言って2人は安堵しながら床に座った。しかし戦闘が終わって緊張が解けた事で、パーナは先ほどの腕の怪我で激痛を感じ始める。


「いっったぁあ!!う、腕がぁ!し、死んじゃう!!」


「はいはい、泣かないの。私が止血してあげるから。」


 涙目のパーナを慰めながらセイナはパーナの腕の応急処置をした。その最中、セイナは最後の現象について考え始める。


「人の気配はないし、一体何が起こったんでしょうね…」


「いたぁ!せ、セイナ!もっと優しくぅ!!」


「はぁ…貴女も立派なレディでしょ、少しは我慢なさい。」


「うわぁあ!!痛いよお!セイナが虐めるよぉー!!」


 そんなやり取りをする2人は気付いていなかった。部屋の壁に2メートル程の長さの線状の穴が空いていることに。




〜ニューズとケルタン〜


 2人が扉を開けると中には衝撃の光景が広がっていた。先ほどまで忙しなく動いていた商工会の関係者たちが地面に倒れているのだ。見たところ外傷はなく、気絶させられているだけの様子だったが、この数分の間で起きた事としてはかなりの異常事態だ。


「お前たち!何があった!?」


 すぐさま中に入って状況を確認しようとするケルタンだが、ニューズが咄嗟に引き止める。


「待ってください!あれを…」


 ニューズが指差す先にいたのは、1人の女だった。メイド服を着たその女は商工会メンバーの1人の首根っこを掴み上げ、宙に浮かせていた。

 そして女は2人に気付いて2人の方を見る。そして手に持っていた男を適当に放り投げて2人の元へ歩いてくる。


「失礼、彼らは貴方がたのお仲間でございましょうか?」


 女はそう言って地面に転がる人たちを指差した。


「……あぁ、そうだ。一体何をしやがった?殺したのか?」


「いいえ、殺してはおりません。いきなり襲いかかってきました故、全員気絶させました。」


 そう淡々と告げる女の表情は氷のようだった。2人はその無機質な顔を見てある種の不気味さを感じていた。


(このメイド女、感情がねぇのか?何考えてるのか全く分からねえ。)


(歩く姿、立ち振る舞いに全く無駄がない。かなり洗練された戦闘者です、反乱鎮圧軍の刺客なのは間違いなさそうですね。)


 2人が警戒していると、女はその場で立ち止まった。


「さて、私は放送システムとやらのある部屋の場所を知りたいのですが…教えていただけますか?」


「…放送?何でそんな事が知りたい?何が目的だ?」


「私は主人を探しております。そのためにこの町の放送システムを使わせていただきたいのですが…正直にお伝えしたところ、この方々からいきなり攻撃されてしまいまして、やむなく無力化させた次第でございます。」


「なるほどな、理解した。それで、お前さんは何者なんだ?答え次第では教えてやってもいいぞ。」


 それを受けてメイドの女は隠す事なく自分の事を話す。


「私は王家直属の武力組織『魔女狩り』の【四神】ララメルク様に仕えるメイド、シピーレでございます。以後お見知り置きを。」


 そう言ってシピーレは優雅にスカートをたくし上げた。それを聞いてニューズは内心で冷汗を流す。


(『魔女狩り』…しかも最強の【四神】の部下…あまり関わりたくない相手ですね…)


 そんな事を考えるニューズだが、ケルタンの答えは既に決まっていた。


「やっぱりテメェも王国軍なんだな。なら俺の答えはコイツらと同じくノ(・)ー(・)だ!テメェらに放送システムなんかを使われたら何をされるか分からんからな!」


 次の瞬間、ケルタンは懐から銃を抜いた。そしてシピーレに向かって速射する。それを合図にシピーレとの戦闘の火蓋が切られた。


「シュ…」


 しかしシピーレは完璧にその軌道を読み切って回避した。しかもそれと同時にシピーレから強烈な殺気が放たれる。


「では、失礼いたします。」


 シピーレはその大きな胸元から高速で2本のクナイを抜き、2人に向かって投擲する。


「チィっ!」


「はぁっ!」


 ケルタンは反応が間に合わず、その肩にクナイを受けてしまった。ニューズは手を振ることで魔法を発動させ、飛んでくるクナイを空中で両断した。更にその斬撃はシピーレの元へ向かっていく。


「ふっ…」


 しかしシピーレはバック転する要領でその斬撃を回避した。


「チッ!大丈夫ですか、ケルタンさん!」


「お、おう。俺の事は気にすんな!」


 ケルタンはクナイを抜き、それを持って構える。肩からは血がしとどに流れるが、目の前の女は一瞬の隙も許さない程の強敵だ。


「壁すらも貫く見えない斬撃…そうでしたか、貴女様は『魔女』でございますね?」


「……」


 その問いにニューズは答えない。次のシピーレの攻撃に備えて集中力を上げている。


「『魔女』なのであれば『魔女狩り』として、私はその務めを果たすといたしましょう。」


 次の瞬間、シピーレが凄まじい勢いで突っ込んでくる。


「おらぁ!」


「はぁっ!」


 迎撃すべくケルタンは銃を撃ち、ニューズは斬撃を放つ。しかしシピーレは驚異的な身のこなしでそれらを全て回避しながら距離を詰める。


「このぉ!」


 ケルタンは持っていたクナイを投げる。それを見てシピーレは即座に腰から小刀を抜いた。


「シュッ!」


 そして小刀の側面でクナイを弾き返した。しかもその方向はケルタンではなくニューズだった。

 不意をつかれたニューズは咄嗟に左腕(手首がない)でガードする。


「ぐうっ!」


 ニューズの左手にクナイが突き刺さり、ニューズは苦悶の表情を浮かべる。それによってできた一瞬の隙をシピーレは見逃さない。


「終わりでございます。」


 懐を取ったシピーレの小刀がニューズの心臓目掛けて放たれる。体勢の悪いニューズは迎撃が間に合わない。


(まずい!やられる!!)





ドスッ!





「えっ」


 シピーレの刃はニューズに刺さる事なく、何かで止まった。しかしニューズは目の前で起きた出来事に驚愕する。


「ケルタンさん!!」


 何故ならニューズを庇うようにしてケルタンが立っていたからだ。


「ゴフッ!」


 ケルタンの腹には深々とシピーレの小刀が突き刺さり、ケルタンは思わず血を吐き出す。しかしシピーレの無機質な顔は変わらない。


「貴方を殺すつもりはありませんでしたのに…」


 そう言ってシピーレは小刀を引き抜いて優雅に下がった。



「ガハッ…」


 ケルタンは身体から力が抜けていき、その場に倒れる。それを見てニューズが側に駆け寄る。


「ケルタンさん!大丈夫ですか!」


 ニューズはケルタンの様子を確認する。刺された腹からは血が流れ続け、顔は真っ白になっている。まだ生きてはいるが、明らかに危険な怪我だった。


「はぁはぁ…ニューズちゃん…俺は…いい…それよりもアイツを…」


「よくありません!しっかりしてください!今すぐに止血しますから!」


 そう言ってニューズは躊躇なく自身の服を破り、患部に強く押し当てる。ケルタンは痛みで苦悶の表情を浮かべる。


「ぐうっ!!」


「すみません!でも我慢してください!絶対助けますから!」


 そう言いながらニューズはシピーレを一瞥する。しかしシピーレは真っ直ぐに立っているだけで襲いかかってくる様子はない。それを確認してケルタンの止血に集中する。しかし刺された場所が悪かったのか、中々血が止まらない。やがてケルタンの目が虚になっていく。


「ありがとな…ニューズ…ちゃん。もう…十分だ…」


「何言ってるんですか!しっかりしてください!」


「約束…通り…今度は守った…ぜ…無事でよかった…」


「貴方が無事じゃないなら意味ないじゃないですか!!」


「なぁ…ニューズちゃん…ありがとな…俺は…アンタに救われた…娘と…近い年齢の…アンタを守れて…俺は…」


 最期まで言い終える前にケルタンは意識を失った。それをみてニューズは絶望する。


「ケルタンさん!!ケルタンさん!!」


 必死に肩を揺すって呼びかけるが、ケルタンは目を覚さない。そんな様子を見てニューズは涙を流す。


「ケルタンさん……私もです…私の方こそ貴方に救われました。本当に感謝しています。」


 そう言ってニューズはケルタンの胸に額を当てて感謝の意を示した。


 そしてしばらくした後、顔を上げる。


「ですから少し待っていてください…すぐに終わらせますから。」


 そう言って涙を拭うニューズの顔は覚悟に満ちていた。少女であるニューズが何か一つ殻を破ったようなその表情は対峙するシピーレにも危機感を感じさせた。


(明らかに顔が変わりました…これは警戒しなければなりません。)


 シピーレは臨戦体制を取る。そしてニューズの一挙手一投足に注目する。


「…お待たせしました。では再開しましょうか。」


「シュッ!」


 その瞬間、シピーレはクナイを投げる。今度は両手を使って一気に4本を投擲する。しかもそれは一直線で撃ち落とせないような軌道で、正確にニューズの急所目掛けて飛んでくる。しかしニューズは全く動揺する事なくその軌道を見極めている。


「ふぅ…」


 ニューズは一つ息を吐くと、右腕を振る。



スンッ……



 次の瞬間、4つのクナイが全て真っ二つになって地面に落ちた。


「!?」


 そしてシピーレは横に思い切り跳んだ。



スンッ…



 するとシピーレの回避した場所の背後にある壁に切れ目(穴)が入る。しかもその切れ目は前までの一直線ではなく、円形に近いような切れ目だった。その形はニューズの動かした手の形そのものであり、4つのクナイを一筆書きで撃ち落とせる形だった。


「……」


 回避したと思われたシピーレだったが、その脇腹から血が流れている。ほんの少し掠ってしまっただけ脇腹の肉は抉り取られ、筋肉ごと両断されていた。

 それでもシピーレは表情も変えずに今度は距離を詰めてくる。


(遠距離は圧倒的に不利でございます。近距離で一気に仕留めさせていただきます。)


「ふっ…」


 凄まじいスピードで距離を詰めてくるシピーレに対してニューズは右腕を横一文字に振る。しかしシピーレはそれに合わせて急激に体勢を下げ、斬撃を回避しながら地面を滑るように距離を詰めた。

 そしてニューズの目の前まで迫ったシピーレはニューズに向かって小刀を振り上げる。

 しかしそれをみてもニューズは微動だにしない。ただじっとシピーレを見つめている。

 ただならぬ気配を感じたシピーレだが、完璧なこのタイミングを逃す理由は無かった。


(今度こそ終わりでございます。)


 シピーレが右手を振り下ろそうとしたその瞬間、



スンッ……ボトッ…



「っ!?」


 小刀を振り下ろそうと右腕に力を込めたシピーレのその右腕が肘辺りから切断され地面に落ちたのだ。シピーレの右腕の断面からは血が大量に流れ、地面を赤に染める。しかしシピーレの顔は冷静さを保っていた。


(先ほどの斬撃は回避したはずでございます。それにニューズ(この方)の腕は動いていない…一体どうして…)


「さようなら。」


 右腕を失って混乱するシピーレに対して、ニューズは再び右腕を振る。


「シュゥ…」


 それでもシピーレはその袈裟の斬撃を回避した。



スンッ…ボトッ…



「!?」


 しかし回避した数秒後、今度はシピーレの左足が脹脛の中心から切断される。右腕に続いて左足も失ったシピーレだが、その表情は逆に冷静だった。


(なるほど、斬撃を飛ばすだけではなくブーメランのように戻す事も出来るのですか。)


 そんな分析をするシピーレだが、片足で立とうとするが腕も失っているためバランスが取れず、残った左手を地面について身体を支える。


「今度こそ終わりです。」


 既に満身創痍のシピーレを見て、ニューズがトドメを刺しにかかる。ニューズが右腕を構えて振り抜こうとしたその瞬間、



ギィイイィイイン!!!!!!



「うっ!?」


「!?」


 建物の外から凄まじい轟音が鳴り響いた。2人は同時に頭を殴られたような衝撃に襲われる。それによりニューズの振った斬撃の軌道がズレて天井の方に行ってしまったため、シピーレには当たらなかった。


(今のは一体!?)


 音の衝撃でニューズは頭を抑えて膝をつく。しかしシピーレは違った。煙玉を始めとした手榴弾などの爆弾も使いこなすシピーレは、音響兵器も何度も経験がありニューズに比べてダメージが少なかったのだ。

 地面に落ちた小刀を拾ったシピーレは残った右足に力を込め、ニューズへ飛び付いた。そして全体重を乗せて左手に握った小刀を振り下ろした。



スンッ……



「ああ…やはり…」


 シピーレの小刀がニューズに届く事は無かった。空中でシピーレの身体は腰辺りから上下に両断された。力を失ったシピーレの上半身が地面に崩れ落ちる。


「は……おみ…ごとで…す…」



 そうしてシピーレの目から光が失われた。





 ニューズは既に動かぬ骸となったシピーレを見る。


「さっきの斬撃を残して空中に留めておきました。保険として罠を貼っておいてよかったです。」


 そう言ってニューズはシピーレの遺体に一礼した。





〜少し前、ララメルク〜



「ぎぃやぁああ!!お助けくださいまし!!」


 町中を逃げ回っていたララメルクは絶望していた。町中を走り回るという事は敵に出くわすと言う事、それは即ち追っ手が増えるという事だ。最初は数十人だったララメルクの追っ手だが、ここ数十分で数百人に増えていた。


「どうしてこんなに追っ手が増えてるんですのぉ!もう嫌ですわぁ!わたくしが悪かったですから!助けてピーレぇ!アンリさぁん!」


 そんな事を叫んでいるせいで、周りの王国兵に更に注目されてしまう。それによってまた更に王国兵が追っ手となって迫ってくる。


「ひぃいいいい! !」


 ララメルクは生きるために全力で逃げまくった。




「はっ!こ、ここは!!」


 ララメルクが逃亡の末に辿り着いた場所は中央区にある大きな建物だった。その建物の周りは広場のような広い空間になっており、見晴らしがいい。しかしそこは既に反乱鎮圧軍によって占拠されており、護衛らしき人たちは地面に倒れていたり、既に拘束されていた。


「だれだ貴様は!」


「いや!アッチに…」


 ララメルクがそこから逃げようと周りを見渡すが、そこは反乱鎮圧軍に固められていた。複数ある逃げ道にも回り込んだ追っ手が既に数十人規模で配置されており、完全に袋のネズミ状態になってしまった。


(逃げ道がないですわ!か、壁をよじ登って…いや、もうそんな体力はないですわ!人が少ないところをすり抜けて…いいえ!これだけ包囲されているのにそんなの無理に決まってますわ!)


 必死に思考を巡らせるララメルクだが、解決策が浮かんでこない。その間に追っ手たちが続々と到着し、最終的にこの場にいる王国兵は500人以上だった。その全員が異質な存在であるララメルクに注目している。


「全員で取り囲め!ヤツはもうヘトヘトだ!」


 その言葉通り、ララメルクも既に限界だった。息は上がり、着ていた服もボロボロで靴は既にどこかにいってしまった。無理をした足はガクガクと震えて言うことを聞かない。


「ほ、本当にまずいですわ…」


 ララメルクが後退りをすると、王国兵たちは万全を期すためにララメルクを取り囲む。数百人規模でララメルクを円形に取り囲み、絶対に逃さない構えだ。


「女、大人しく投降しろ。もう逃げ場はない。」


 そう言いながら王国兵たちはゆっくりと距離を詰めてくる。


(私1人のためにここまでやらなくてもいいのではなくて!?ああ〜!もう終わりですわぁ!!)


 もう逃げ場がないララメルクは絶望して地面に膝をついて倒れた。


「こ、降参ですわ…ですからどうか許してくださいまし…」


 ララメルクは最後の悪足掻きで土下座した。


「ダメだ、栄誉ある『魔女狩り』を騙った貴様は万死に値する。王国で然るべき裁きを」



ドォオオン!!!



 その瞬間、ララメルク達の上空で何かが爆発した。


「な、何だ!?」

「爆弾か!!」


 それは王国兵たちも知らない事だったようで、彼らも上を見て困惑している。


「チャンス!」


 その瞬間、ララメルクは彼らの隙をついて逃げ出そうとした。


「あっ…イデッ!」


 しかし走り出そうとしたその時、ララメルクは盛大に転んでしまった。



「………ええっと…あははは…転んでしまいましたわあ…」


「……ぷぷ…」

「ふふっ…」

「んん……」


 顔面から盛大に転んだララメルクを見て取り囲む王国兵たちが密かに笑いだす。任務中だと笑わないように取り繕ってはいるが、その笑い声を隠しきれていなかった。それをみてララメルクの顔が真っ赤に染まる。


「ーー!!もうー!!笑わないでくださいましー!!わ、わたくしだって偶にはこんな事もあるんですのよぉ!」


 そんなララメルクの反応を見て、王国兵たちが一気に笑い出す。


「はっはっは!!」

「面白れぇ!もっとやれ、嬢ちゃん!」

「いいぞいいぞ!最高だね、めんこい嬢ちゃん!」

「ぷはぁあ!はっは!」


 全員から一斉に笑われたララメルクは更に顔を赤くして怒りを露わにする。


「いい加減にしてくださいな!!それ以上笑うと怒りますわよぉ!!」


「はっは!もう怒ってるじゃねぇか嬢ちゃん!」

「そうそう!これ以上笑わせないでくれ!」


「くぅうーー!!もう怒りましたわ!わたくしの本当の力を見せて」



ドォオオオン!!



 その瞬間、上空で2度目の爆発が起きた。それは先ほどよりも大きな爆発音だった。


「キャア!」


 怒りで頭がいっぱいだったララメルクはその音に驚く。そして耳を抑えて地面にうずくまった。そんな様子を見て周りの王国兵たちは更に大声で笑い出した。それを受けてララメルクは更に涙目になる。



「うぅ…もう嫌ですわ…」


 もう笑い声も聞きたく無いとララメルクはそのまま耳を塞いでうずくまったままだ。

 そんな様子を見て王国兵の中のリーダー格の男が前に出る。


「さて、ひとしきり笑った事だしそろそろ捕えるか。女、そのままうずくまって大人しくしておけよ。」


 そう言ってその男がララメルクに近づいて行く。周りの兵士たちも徐々に包囲を縮めていく。そして男がララメルクに手を伸ばそうと



…ゴンッ!



「ん?」


 その瞬間、うずくまっているララメルク以外の全員が何かに気付いた。空中から降って来た黒くて小さいその何かは男の目の前に落ちた。


「これは」



ギィイイィイイン!!!!!!



 次の瞬間、その何かは強烈な音を発した。衝撃波にも匹敵するその音はその場にいた王国兵たちに直撃した。至近距離で聞いてしまった全員が一瞬で意識を失いその場に倒れた、ただ1人を除いて。


「うおっ、びっくりしましたわ…今のは何ですの?」


 大きな音で驚いたララメルクは起き上がって周りを見る。何も聞くまいと思い切り耳を塞いでいたララメルクでも、この至近距離ではかなりの音が聞こえたようだ。しかし耳を塞いだおかげで気絶するほどのダメージを受ける事はなく、少し耳鳴りがする程度で済んでいた。


「って、あれ?どうしてみなさん、寝ていっしゃるのですわ?」


 先ほどまでララメルクを捕らえるべく包囲していた王国兵は1人残らず倒れて気絶していたのだ。事情がよく分かっていないララメルクは混乱の極みにあった。


「た、助かった…んですの…」


 近くにいた男の顔をつついて気絶していることを確認したララメルクは安堵する。


「よ、よく分かりませんが、やりましたわぁ!!」


 ララメルクの勝利の咆哮が広場に響き渡った。

魔法は【進化】します。それによってニューズの斬撃は簡単な操作が可能となり、空中に残す事も出来るようになりました。

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