魔女狩り
セイナの過去編(1話の少し前)です。
ーー数ヶ月前ーー
「はぁ…今月もこれだけかぁ…」
セイナは片手に持った硬貨を眺めながら路地裏を歩いていた。
セイナの家は王国にあるごく普通の家だ。父親と母親、弟が1人の4人家族であり少し前までは何不自由ない生活をしていた。しかし、商人だった父親が行方不明になった事で家計は一気に崩壊。母親も働きに出るしかなく、小さな弟を養う為にはセイナも一日中働かざるを得なかった。
しかしここで問題がある。この世界では、【魔法】によってあらゆる事が解決される。力を強化する魔法を持つ者は工事作業に従事し、炎を出す魔法を持つ者は船などの燃料係などに従事する。しかしこの世界には能力を持たない人間が一定数存在する。セイナとセイナの母親も無能力であり、まともな職が非常に少ないのだ。無能力者はあらゆる事で差別され、結婚も無能力者同士でしか基本的には出来ない。何故なら魔法の有無は遺伝するからだ。
セイナの父親は無能力者ながらに非常に頭の良い男で、商人として非常に優秀な男だった。セイナもそれをある程度受け継いでおり、頭も良く器量も良い女なのだが、この世界では女というだけでも差別される。女は働かずに子供を産む事を至高とされ、同じ仕事内容でも男に比べて賃金は半分以下なのだ。人権もかなり差があり、犯罪を犯した時の罪の重さについても、男であれば1人殺しても数年の懲役で済むが、女が男を殺した場合は殆どの場合で死刑になる。
そんな国において無能力な女2人の稼ぎなど高々しれている。3人の生活はどんどんと困窮していったが、男である弟を同じように困窮させる事は出来ない。弟には可能な限りの食事と衣服を与えた。それがこの国のルールだから。
そんな無理をすれば女の2人に皺寄せが行くのは当然であり、2人はみるみる痩せ細っていった。それでもバイタリティの高いセイナは明るく気丈に振る舞い、母親と弟の為にと、毎日真剣に働いているのだ。
「2人の食費をこれだけとすると…私のはこれだけかぁ…こんなんじゃいつか餓死しちゃうよ。」
セイナの手元にあるセイナの使える一月の食費は日本円に換算すると、1000円ほどであり、こんな生活が続けば身体が持たないことは明白だった。
「やっぱりこの身体を売るしか無いのかなぁ…でも、それはパパにダメだって言われてたし…でもでも、死ぬよりはマシかなぁ…………ん?」
「はぁ…はぁ…はぁ…」
誰もいない路地裏を歩いていたセイナの前に現れた女がいた。その女は裸足に黒いローブを被り、全身が汚れていた。そして何かから逃げているかのように後ろをチラチラと気にしており、相当走ったのか肩で息をしている。
(うわぁ…何か訳アリっぽい人だ…こういうときは関わらないのが1番よ。)
セイナは少し横にズレて目の前の女と目を合わせないように下を向いた。
「すみません!!助けてください!!私、殺されちゃう!!」
そんなセイナに目の前の女は縋り付いて来た。
(うーわ、何で態々コッチに来るのよ…私は面倒な事には関わりたく無いのに…)
「すみません、他を当たってください。私は急いでますので。」
「そんな!!お願いです!!少しで良いので匿ってください!!お願いします!!」
女はセイナの肩を揺さぶって涙目になりながら訴えた。
「……うーん…何があったのか知りませんが、無理です。私の家は凄く貧乏なので、誰かを匿う余裕なんて…」
「お金ならあげます!!ほら!!これでどうですか!!」
そう言って女が懐から取り出したのは、大金貨だった。大金貨は日本円にすると10万円相当の金貨であり、それを見たセイナの目の色が変わる。
「だ、大金貨!?そんなに大金を私に!?」
「はい、差し上げます!!ですから私を早くこの場から逃がしてください!!」
困窮していたセイナにとってこの誘いは非常に魅力的だった。これだけのお金があれば暫くは食っていけるし、身体を売る必要もなくなる。
(これさえあればママも美味しい物が食べられる!それに元手さえあれば他にも色々……で、でも!この子は明らかに訳アリ!!関わらない方がいいのは分かってる!それでも…)
「なら5枚でどうですか!?ほら、これで!」
ギリギリで悩んでいたセイナの理性を5枚の大金貨という強大な欲望が破壊した。
「5、5枚!?……そ、そう…仕方ないわね。特別に貴女を匿ってあげるわ。…その代わり、そのお金は前払いね。」
(まぁ、これも人助けの為ですしね…困ってる子は助けろって言うのがウチの家訓ですから。…うんうん、決して欲に目が眩んだわけでは無いですからね。)
そしてセイナは女から5枚の大金貨を受け取った。
(うふふ…やったわ!!これだけあればしばらく食に困る事も無いし、弟にも良い服と本と剣を買ってあげられる!!ママも喜ぶわ!!)
「ありがとうございます!!では、早くここから
パァアンン!!!
バタッ…
「へ?」
いきなり鳴り響いた銃声に、セイナの目の前にいた女の頭が弾けた。そしてセイナの足元に大量の血を撒き散らしながら倒れたのだ。セイナは目の前の光景に混乱していた。
「ふぅ…忌々しい『魔女』の系譜め…手間をかけさせやがって…」
そう言って現れたのは片手に銃を持った男だった。銃口からは煙が立っており、その男が女を殺したのは明白だった。
「ひ…ひぃ…」
驚いたセイナはその場でへたりこんでしまった。それを見た男は銃を構えながらゆっくりと近づいて来る。
「貴様…『魔女』の仲間か?」
「…わ…わた…わたし…わた…」
いきなりの出来事で腰が抜け、混乱するセイナは何も言えなかった。そして、手に持っていた大金貨をその場で落としてしまった。
「あ…」
「それは…やはり『魔女』の協力者だったのか!」
「ち、違います!!私はただ」
「黙れ、貴様の言い分を聞く気はない。疑わしきは罰するのが、我々『魔女狩り』だ。この場で拘束させてもらう。」
男はセイナの言葉を無視して両手と首に拘束具を取り付けた。セイナはあまりの混乱に何も抵抗できなかった。
「わ、私は…」
「可哀想だが、君の人生はここまでだ。『魔女』の関係者と取引をした事を悔いながら死んでいくといい。」
男はそう言ってセイナの口に布を巻きつけ、首輪を引っ張って連行していった。
「ううっ!」
セイナは無罪を主張しようとしたが、口が塞がれているので何も話せない。
「うるさいぞ!」
「うっ!」
それどころか喋ろうとする度に殴られた。何を訴えようとしても無駄だった。罪人として連行されるセイナには何の人権も存在していなかったのだ。
5度ほど殴られた後、セイナは全てを諦めたかのように大人しくなった。セイナは知っていたのだ、この『魔女狩り』と言う組織は非常に過激で知られる国の機関であり、一度捕まれば真実など関係なく激しい拷問の末に処刑されると言うことを。彼らに少しでも疑われた時点で終わりなのだと。
(もう終わりね…私はこのまま死ぬんだわ……ああ…[始祖様]…何故、私がこんな目に……どうかご慈悲を……ママ、カイル、2人は幸せに…)
そのまま牢獄へ連れて行かれたセイナは、その予想通り毎日取り調べという名の拷問が科され、身も心もボロボロになっていったのだ。
ーー数ヶ月後ーー
断頭台に立ったセイナは空を見上げる。
(この地獄の日々も終わりか…ママとカイルはどうしてるんだろう…もしかしたら一族郎党処刑に……そうなったら天国で謝りましょう。2人とも許してくれないだろうなぁ…アッチでは独りぼっちか…寂しいなぁ…)
「執行!!」
[始祖様]とはこの世界での神の様な存在です。
次回から時系列が戻ります。




