父親
俺の名前はケルタン・サンクルス、つい先日家族を失って失意に沈んでいる商人だ。今は仕事もせずに毎日のように飲んだくれているが、この町では有数の大商人であり、この町の代表である『商工会』って集団にも所属してる。
俺の家族は4人、息子と娘が1人ずついる。だが信じがたいことにその娘が『魔女』と取引をしてしまったらしく、民衆の前で公開処刑されてしまったそうだ。妻も見せしめとして同様に処刑されてしまったらしい。息子についても探りはしたが情報がなく、どこにいるかも分からない。要するに、俺はもう2度と愛する家族に会えないって事だ。
こうなったのも全ては俺の責任だ。娘が『魔女』と取引してしまったのは十中八九、金が無かったからだ。そうじゃなきゃ優秀なあの子が禁忌を犯すとは到底思えない。そして金がないのは俺が数年前から家に帰れなかったせいだ。ここ数年、俺は【メフィスト】とかいうヤバいマフィアの関係者に付け回されていた。原因は俺が昔した取引で、詳しくは知らんがそれがマフィアの逆鱗に触れたらしい。そんな訳で俺はヤツらの目に触れないように隠れながら生きるしかなかった。もし家族の事を知られたら、家族にまで被害が行きかねない。だから失踪したと嘘の情報を流し、家族との一切の関わりを絶った。いつかこの問題が解決したら会いに行けると思っていたが、その考えが裏目に出てしまった。俺が金を工面してやれないせいで家族は困窮し、娘が禁忌に手を出してしまった。娘は何も悪くない、魔法が使えないあの子は最終的に身体でも売らなければ稼ぐ事は出来ない。苦渋の選択だっただろう、娘の気持ちを思うと心が張り裂けそうだ。俺は本当にダメな父親だな………
さて、そんなわけで仕事もほっといて毎日酒に溺れていたんだが、とある日にうるさい女の客が来た。酔ったソイツは周りのヤツらに絡みながら大声で喚き散らかしていた。虫の居所が悪かった俺は、1発くらいぶん殴ってやろうかと思ったが、そんな気力も湧かないほどに傷心していた。しばらくしてソイツがいなくなり、漸く静かに飲めると思ったら、近くの席に俺と同じように意気消沈してるヤツがいたんだ。その女は娘と同じくらいの年齢の少女で、俺と同じく机に突っ伏している。ここ数日、誰とも会話していなかったせいか、俺はソイツに話しかけた。片腕しかないその少女に話を聞くと、ソイツもかなりの不幸を経験してきたようだった。涙を流しながら話すその少女を俺は放ってはおけなかった。いや、少しでも誰かの役に立つ事で自分の中にある罪悪感を少しでも打ち消そうとしたんだろう。酷い話だ、娘にも妻にも何もしてやれなかった俺が目の前の知らない少女を助けようとしてるんだから。だが今はそれでいい、目の前の不幸な少女の力になる事が俺の役目なんだから。
「なぁニューズちゃん、アンタ今何やってんだ?」
「…親に捨てられた私を拾ってくれた仲間たちと旅をしてます。」
「そうか…大変だな……ところで、親にはどうして捨てられたんだ?口減しか?」
「………私が無能力だからって…跡継ぎに相応しくないって…家の恥だとも言われました。私の家、貴族なので。」
「貴族の中には能力至上主義が過激な連中もいるからな…それは残念だったな。…実は俺の娘も無能力でな…結婚相手どころか、まともな働き口すら無いんだ。だからそんな娘が身体を売ったりしなくてもいいように俺が頑張って稼ぐつもりだったんだがなぁ…その結果がこのザマだ。」
「……何が言いたいんですか?」
「娘から見れば俺は家族を捨てた最低の親だろう。だが、俺は家族を今でも心の底から愛しているし、最も大切な存在だ。だからアンタを捨てた親たちも本当は心の底ではアンタを大切に思っているかもしれない。親っていうのはそういうもんだ、心当たりは無いか?」
それを聞いてニューズは家族の事を思い出した。確かに何度も酷い目にあったが、それらは全て自分の将来に繋がる事だった。勉強の覚えが悪い時には泣くまで勉強をさせられた。立ち振る舞いが上手く出来ない時は何度も鞭で叩かれた。しかしよくよく考えてみれば、食事は毎日しっかりと与えられたし、風呂にも入れた。使用人たちに悪口を言われる事はあっても、直接的な嫌がらせ(怪我されられたり、モノを壊されたり)を受ける事は無かった。親からの度を越した厳しさも今振り返るとニューズの成長に繋がるような事ばかりだった。
「…確かに…そう言われればそんな気がしてこなくもありません。あのしっかり者の父が、金庫の扉を開けっぱなしにしておくとも思えませんし……本当にまさか…」
「子供以上に大切なモノがこの世にあるかよ。きっと、ニューズちゃんの両親もアンタのことを愛していたと思うぜ。」
「………そうかもしれませんね…ですが、私が捨てられたのは事実。両親には頼らず、私は私の人生を生きていきます。」
「ああ、そうだな。」
バタンッ!
その瞬間、店の扉が勢いよく開いた。息を切らした1人の男が店の中を見渡す。そしてケルタンの姿を見るなり、2人の元へ歩いてくる。
「ケルタンさん、大変です!商工会の皆様からご報告が…」
しかしケルタンはその男に鋭い視線を向ける。
「セルムか…見て分からないのか?俺は今この子と話してるんだ。仕事の話なら今はしないと…」
「いえ、緊急事態です!至急、お耳に入れて欲しい事が!」
ジリジリジリジリジリリリンン!!!!
その瞬間、店の外からけたたましい鐘の音が鳴り響いた。それを聞いた店にいた人たちは全員が驚く。
「こ、これは!?」
「なんだ!?」
ニューズも同じく不安に煽られる。
「ケルタンさん、一体何が?」
この中でセルムだけがこの鐘の正体に気付いていた。
「い、いくら何でも早すぎでは!」
その様子を見てケルタンはセルムに掴み掛かる。
「おい!これは一体どういう事だ!?どこだ!?どこが攻めてきた!?」
その鐘は敵の襲撃を知らせる音だった。それだけは知っていたケルタンがセルムに問い詰める。
「お、『王国』です!おそらく王国の首脳部に商工会の作戦が気付かれたと思われます!」
ケルタンはその意味がわからなかった。王国は本来『ツヴァイ』が属する国であり、対立する事などあり得ない。商工会の会合を無断で休んでいたケルタンには詳しい情報が一切入っていなかったのだ。
「何故王国が攻めてくるんだ!ここも王国の一部だろうが!」
「じ、実は…」
セルムは現在起きている事の概要をケルタンに話した。
話を聞き終えたケルタンは落ち着いた様子で思考を巡らせる。
「なるほど、状況は理解した。それで『帝国』との同盟はどうなった?」
「はい、今しがた『帝国』との同盟は締結されたと報告がありました。しかし王国の動きが思ったよりも早く、援軍にはまだ時間がかかるかと。なのでこの町に現存する戦力で迎撃するしかありません。」
「この町の戦力はどれぐらいだ?」
「はい、商工会の方々が中心となり各地から有力な兵たちを集めている最中でしたので、ある程度は持ち堪えられるかと思います。しかし我らには防衛戦のノウハウがありません。それに兵力で劣るため、町でのゲリラ戦を行う他ありません。」
「クソッ…俺のいない間にそんな大事になっていたとはな…」
「商工会の方々からケルタンさんにも報告だけはしておけと言われました。では、私はこれで…」
その時、ケルタンが去って行こうとするセルムの腕を掴んだ。
「待て…俺も行くぞ。癖の強い商工会の連中をまとめられるのは俺だけだ。他にも住民の避難や、戦力の配置、いくら手があっても足りないはずだ。」
「…ですが、貴方は…」
「ここにいてもどうせ死ぬだけだ。それなら少しでもいい事をしてから死にてぇ。そうすればあの世で家族にも会えるかもしれないからな。」
「分かりました、よろしくお願いします!」
そう言って2人は店から出て行こうとした。しかしその時、ニューズが立ち上がる。
「待ってください、私もついて行っていいですか?」
そう告げるニューズの目は覚悟に満ちていた。しかしケルタンは首を横に振る。
「…ダメだ。これは子供の遊びじゃない。アンタは今すぐこの町から逃げて…」
スンッ……ガシャッ!
その時、ニューズは目の前の机に向かって軽く手を振った。次の瞬間、その机は真っ二つに分裂して地面に崩れ落ちた。
「嘘ついててごめんなさい。実は私もそこそこ戦えます。ですから行かせてください、お願いします。」
そう言ってニューズは真っ直ぐな瞳でケルタンを見つめた。
(……)
ニューズがこうまでしてケルタンについて行きたいのか本人ですら分からなかった。それでもニューズは気付いたら口が動いていた。
「ニューズちゃん…」
「い、今のは…ま、まさか『魔」
セルムがニューズの正体に気付きかけた時、ケルタンがその口を塞いだ。そしてゆっくりと近づいて来る。
「…ニューズちゃん、死ぬ覚悟はあるんだな?どうなっても知らねえぞ。」
「死ぬ覚悟なんて毎日してます。」
そう言ってニューズは再び真っ直ぐな目でケルタンを見つめる。その目を見てケルタンは内心驚く。
(どう見ても子供なのに、こんな目をするとはな…一体どれだけの修羅場を潜ってきたんだ…『魔女』はもっと邪悪なヤツらだと思ってたが、コイツのこの目は…)
「分かった、それなら俺について来い。」
そう言ってケルタンは手を差し出す。それを見てニューズは笑みを浮かべる。
「はい!」
ケルタンの手を取ったニューズはケルタンに付き従って行く。
(『魔女』かどうかなんてどうでもいい。娘と同じくらいの年齢の子だ。死んでも俺が守らなきゃならない。もう二度とあんな思いをしないために。)
そう覚悟したケルタンはニューズの小さな手を優しく強く握り、店を出ていった。
〜セイナとパーナとシピーレ〜
「何よ、この音は!?」
「セイナ、凄く嫌な予感がするんだけど…」
警報を聞いた2人も混乱していた。しかし恐怖という概念がないシピーレは落ち着き払った様子で、近くの人に今の状況を聞いていた。
「なるほど…お2人、どうやら王国がこの町に攻めてくるとの事でございます。」
「はぁ?」
それを聞いたセイナは益々意味が分からなくなった。
「攻めてくるって、どういう事なの?」
「実はこの町の実権を握る『商工会』という組織を中心に王国への謀反を企てており、今回はその反乱鎮圧というのが大義名分なのだそうです。」
「反乱?どうしてそんな事を…」
「そこまでは分かりかねます。ですが、これで最早一刻の猶予もありません。早くお嬢様をお探しせねば、戦乱に巻き込まれかねません。」
そう言ってシピーレが走り出そうとしたところ、セイナが手を握って引き止める。
「バカ、こんなに広い町を闇雲に探したって見つかるわけないでしょ。」
「では、いかがいたしましょうか…」
それを聞いてセイナは顎に手を当てる。しばらく1人で考えていると、近くにあった警報を鳴らす街灯のような装置が目に入る。
「そうねぇ…ならこういうのはどう?この混乱に乗じて、この町の放送をジャックしちゃうの。そこでお嬢様の名前でも叫びまくれば流石に見つかるでしょ?」
そう提案するセイナには裏の思惑があった。
(私もそれを使ってニューズとアンリを回収したいしね。)
「なんと、それは素晴らしい提案でございます。では早速、放送システムがある場所を探しましょう!」
「急ごう、敵が来る前に!」
そうして3人は駆け足で中央区に向かって走って行った。
〜アンリーザとララメルク〜
「早く早く!急いでくださいまし!」
「ちょ、タイムタイム!で、出ちゃうさね…」
警報を聞いた2人は町から逃げ出そうと必死になっていた。特にビビりまくったララメルクが酔い過ぎて吐きそうなアンリーザの手を無理やり引っ張っていた。
(王国が攻めてくるなんて、本当に不味いですわ!敵だと勘違いされて攻撃されたら本当に終わりですもの!一刻も早く安全な場所へ逃げませんと!)
「ぜぇぜぇ…そんなに急がなくてもいいんじゃないかい?ほら、別にアタシたちが襲われるって決まったわけじゃないし…」
「そんな悠長な事言ってられませんわ!この町が包囲される前に脱出しますわよ!」
そうこうしている内に2人は町の外縁部まで来た。
「見えましたわ!このまま平原を抜けて別の町に…」
「アレってまさか…」
外縁部から広がる平原に出た2人が目にしたのは、大量の人影だった。それは横一直線に並んでおり、凄まじい勢いでコチラに迫ってきていた。
「ま、間に合いませんでしたわぁ!」
「や、ヤバいさね!アタシたちも早く逃げるよ!」
アンリーザがそう言って踵を返した時、ララメルクは腰を抜かしていた。
「ちょ、何やってるさね!」
「ひ、ひぃ!…もう、おしまいですわ…私の命もここまでですのね…」
「ふざけてる場合じゃないよ!早く立つさね!」
「そ、そそそんなこと言っても、立てないものは立たないんですわ!」
腰が抜けて地面に座るララメルクは涙目でそう告げた。アンリーザが何とか持ち上げて立たせようとするが、それより先に敵が迫ってきていた。
「チィッ!やるしかないさね!」
役に立たないララメルクを置いたまま、アンリーザは臨戦態勢を取った。
その瞬間、敵が一斉に襲いかかってくる。武器を持った兵士が同時に2人に斬りかかる。
ゴウッ!!
しかし敵の武器が2人に触れる前にその武器がドロドロに溶ける。
「な!何だ!?」
「俺の剣が!」
真っ赤に染まったその刃は地面に溶け落ち、土に落ちた。
「死にな。」
そうアンリーザが告げた瞬間、近くにいた敵兵の身体から炎が立ち昇る。
「ぐぁああ!!」
「なんだこれは!?」
「あ、ぁああつぃいい!!」
数十人の兵士たちが炎に焼かれ、発狂する。どんな能力を持っていようと、全身を業火に焼かれては何もできない。しばらくしてその兵士たちは黒焦げとなり、地面に骸が転がった。
「さぁ、次は誰から焼かれたい?次はもっと熱くするよ?」
そう言ったアンリーザの両手から青色の炎が立ち昂る。
「アンリさん…すごい…」
腰を抜かしたままその様子を見ていたララメルクはアンリーザの強さに驚愕していた。
そして敵兵たちもアンリーザを前にして立ち止まって構える。膠着状態になるかと思いきや、敵兵の中から明らかに雰囲気が違う男が前に出てきた。
「…商工会の子飼いの傭兵ってところか…お前ら、全員10歩後退。」
その指示を受けて他の兵士たちが少し下がる。それによってアンリーザとその男が2人で向かい合う。
「アンタがこの軍の将さね。今引くなら追わないけど?」
「バカが、陛下の勅命を受けた反乱鎮圧軍である我々が1人の女如きに逃げ出したとあれば王国の権威は地に落ちる。貴様らを殺して反乱を鎮める。」
そして次の瞬間、男が凄まじいスピードで踏み込む。
「うっ!」
「はぁ!」
ドカァッ!!
男の強烈な拳がアンリーザに突き刺さった。アンリーザも両腕をクロスして受けたが、そのとんでもない威力に身体ごと弾き飛ばされる。
「くうっ!!」
ドォォオン!
くの字で吹き飛ばされたアンリーザはそのまま背中から木造の家屋に突っ込んだ。壁が破壊される激しい音と共にアンリーザの身体もその家屋の中に吹き飛ばされてしまった。
「えっ…アンリさん…」
目の前からいきなり姿が消えたアンリーザを見て、ララメルクは戦慄した。そしてその男がララメルクの目の前に立つ。
「次は貴様だ。覚悟はいいか?」
そう言って男は拳を強く握った。
それを見てララメルクは信じられない量の冷汗を流す。
(いいわけないですわ!!死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ!!私があんなの食らったら骨も残りませんわ!!どうすればどうすればどうすれば!!)
その時、ララメルクは生き残るために必死に思考を巡らせていた。
(ヤバイヤバイヤバイ!!このままじゃ殺されてしまいますわ!!…あっ!そうですわ!!私が侯爵令嬢である事を教えて差し上げれば、助けてくださるハズですわ!!うん、そう!それしかありませんわ!!)
「あ、あの!わ、わたわたわたくしはえ、エンエンゲエンゲージこうしゃこう侯爵の長女、ららラララメルメルク・ななナイア・エンゲージですのよ!!ぜ、全員、ひ、ひかえなさい!」
腰が抜けて立ち上がれないララメルクは座りながら全力の虚勢を張ってそう言い放った。しかし目の前の男は全く動じない。
「何を言っているのかサッパリ分からん。それにその汗、お前は嘘をついているな?」
そう言って男は更に拳を振り上げる。それを見たララメルクは両手を前に出して命乞いをする。
「う、嘘じゃありません!!わ、わたくしは本当に侯爵家の」
「ふん、侯爵家の令嬢がどうしてこんなところにいる?それにさっきの女は俺の部下を何人も殺した。お前はあの女の仲間なのだろう?くだらん嘘はやめろ。」
男は全く聞く耳を持たない。その様子を見てララメルクはさらに焦る。
(ま、マズイですわ!嘘なんかこれっぽっちもついてませんのに、私が怯えすぎて嘘つきだと思われてしまっています!何とかしてこの方(目の前の男)に私が敵ではないと伝えませんと!!)
「お、お待ちくださいませ!!じ、実はわたくし、『魔女狩り』なんですのよ。それもかなり偉い方の。」
「…『魔女狩り』だと?……ふんっ!」
その瞬間、男が一歩踏み出して思い切り拳を振るう。
「ひぃい!!」
ララメルクは生存本能で咄嗟に頭を下げた。それにより男の拳は奇跡的にララメルクの頭のスレスレで外れた。そして男はさらに険しい表情になる。
「今ので確定だ、こんなに弱い者が『魔女狩り』であるはずなどない。やはりお前は嘘つきだ。」
「…そ、それは…」
(ほ、ホントなんです!!)
ララメルクの心の中の叫びは目の前の男に届く事はなかった。
「『魔女狩り』を偽った貴様にはただの死ではなく、苦痛に塗れた死を与えてやる。おい、お前ら今すぐコイツを」
「ひっ!」
男が部下に指示を出して気が緩んだ一瞬の隙をついて、ララメルクは走り出していた。
(し、死にたくないですわぁ!)
恐怖で涙を流しながらも全力で町に向かって走り抜ける。しかしそれを見た男が再び指示を出す。
「お前たち!ヤツを捕えろ!生死は問わん!」
《はっ!》
掛け声と共に近くにいた敵兵たちは走ってララメルクの背中を追った。
そして男は遠くの兵士たちにも指示を飛ばす。
「これより、反乱鎮圧を開始する!目標は反乱を目論んだ商工会の幹部どもだ。奴らと関係者は全員捕えよ!状況次第では殺しても構わん!行け、王国の兵士たちよ!」
《はっ!》
そうして反乱鎮圧軍が『ツヴァイ』になだれ込んだ。将軍と呼ばれたその男はしばらくその様子を眺めたのち、指を鳴らした。
「呼んだか、将軍。」
「お呼びでしょうか、将軍様。」
その瞬間、音もなく2人の女が男の背後に現れた。その2人は黒と白の装束に身を包み、口元を隠した忍びの様な格好の女だった。そして男は振り返る事もなくそのまま話す。
「お前たち2人には商工会幹部の暗殺を命じる。混乱に乗じて、出来る限り多くの大商人を殺せ。そうすればヤツらの指揮と連携は機能しなくなる。」
「任せろ、将軍。」
「お任せください、将軍様。」
シュン……
そうして2人の女は音もなく町に入って行った。
「さて、俺はここで待つとしよう……ん?」
将軍の男がそう言って近くの石に座ろうとした時、先ほどアンリーザが吹き飛ばされた建物から音がした。
「イッテテ……やってくれたねぇ…」
その瓦礫の中から現れたのはアンリーザだった。頭から血を流し、拳を受けた腕にはアザが出来ている。それでも殺気を撒き散らしながら獣のようにゆっくりと歩み寄ってくる。
「まだ生きていたか…面白い。」
男も立ち上がってアンリーザの元へ歩いていく。だんだんと2人の距離が縮まっていき、やがて目の前まで来た。
「さて、第二ラウンドさね。」
「来い!」
そうして2人の激しい闘いが幕を開けたのだ。




