ネルヴァとノイファ
セイナ視点に戻ります。
前回まで
戦争が始まって約2ヶ月、戦地にいるはずのネルヴァが瀕死の重傷で運ばれてきた。しばらくしてネルヴァが目を覚ますと、セイナたちを治療した医者を殺してしまった。アルティードに洗脳されたネルヴァがセイナとノイファの前に現れる。
次の瞬間、ネルヴァはノイファに向かって突っ込む。
「え?」
しかしノイファは突然の出来事に全く反応出来ない。ネルヴァはあっという間に距離を詰め、その血に染まった凶刃を振り上げる。それを見たセイナは咄嗟に右手を前に出した。
「チッ!」
シュンッ……
その瞬間、ノイファがセイナの前まで瞬間移動した。
「ふぇ?」
ノイファは今起こった出来事に更に混乱している。
そんな中、セイナは冷汗を流しながら考えを巡らせていた。
(ギリギリだった…私が魔法を使わなければノイファは確実に死んでいた。ネルヴァさんの様子は一体…)
ネルヴァの様子は明らかにまともでは無かった。目は虚で、コチラへ殺気を爆発させている。
「今のは一体…セイナ、今のはお前の魔法か?」
ネルヴァは意外にもセイナに話しかけてきた。
「…あら、ネルヴァさん話せたのね。てっきり頭がおかしくなったのかと思ったわ。」
「そうだな、今までの私は頭がおかしかったのかもしれねぇ。だが何でかな、今はスッキリしてるんだわ!!」
興奮した様子でそう叫ぶネルヴァの目は明らかにおかしかった。それを見てセイナも気を引き締める。
そしてネルヴァは思い出したようにギョロっとセイナを睨みつける。
「そういやセイナ、さっきの魔法はまさかとは思うが『魔女』じゃねぇだろうな?」
「へ?……『魔女』?」
それを聞いて腰が抜けて尻餅をつくノイファも驚愕する。
(チッ…やっぱりバレるか…)
しかしセイナは内心で焦るがポーカーフェイスを崩さずに答える。
「何を言ってるのか分からないわね。」
「嘘つくんじゃねぇよ、今のはどう考えても『魔女』の【瞬間移動】だろうが!ああん!?」
ネルヴァは【聖騎士】として『魔女』については詳しい。セイナの魔法を一度見た事でセイナが『魔女』である事を確信していた。
「私を騙してやがったな、このクソガキが!!でもまぁいいや、テメェが『魔女』だって分かったならテメェは『ラバス教徒』じゃねぇのは確定だ。そこをどけ、セイナ。今はお前の相手をしてる暇はねぇんだ。」
そう言ってノイファに詰め寄ろうとするネルヴァを遮るようにセイナは立った。
「ネルヴァさん、騙していたのはごめんなさい。でも、どうしてこんな真似をするのか教えてもらえないかしら?」
セイナはダメ元で対話を試みた。そしてネルヴァが反応する。
「どうしてって?そりゃ決まってんだろ、『ラバス教徒』を殺すためさ。」
それを聞いたセイナは全く意味を理解出来ない。
「は?殺す?アナタ何言ってるの?アナタだって『ラバス教徒』でしょうが。」
「お、お姉ちゃん…」
「私だって知らねぇよ。でも陛下にそう言われちまったんだからしょうがねぇだろ。」
[陛下]という言葉を聞いてセイナの背筋に寒気が走った。
「陛下…まさかアルティードの事?」
「テメェ!!陛下を呼び捨てにすんじゃねぇ!!ちゃんと[様]を付けろ!!」
その様子は前に会ったネルヴァとは全くの別人だった。
(前まであれだけ嫌ってたのにどんな風の吹き回しなの…いや、まさか洗脳!?)
それに気付いたセイナは内心でブチギレる。
(あんのクソ男ぉ!!アンタはいつもいつも、私の邪魔を!!ふざけんじゃないわよ!!)
そんな中、状況を理解したノイファがゆっくりとネルヴァに近寄る。
「ねぇ…お姉ちゃん…嘘だよね…先生が…どうして…ねぇ…お姉ちゃん!!ねぇ!!」
ノイファは恩人でもある医者の死体を見て、泣きながらネルヴァにそう詰め寄る。しかしネルヴァの表情は動かない。
「はぁ…何回言わせんだ。『ラバス教徒』を殺すのが私の仕事だって言ってんだろ?それにお前も『ラバス教徒』だろ、なぁノイファ!!」
そうしてネルヴァが再びノイファを殺そうとするが、セイナが再び瞬間移動で引き寄せる。
「チッ…厄介な力だ…やっぱりテメェは正真正銘の『魔女』だよ、セイナ。」
そう言ってネルヴァは再び剣を構えてノイファをじっと睨みつける。しかしセイナが間に入る。
「ネルヴァさん!目を覚まして!!貴女は今、妹を殺そうとしたのよ!!貴女の大切な妹を!!」
「だーかーらー、それが何だってんだよ。大切な妹だろうが『ラバス教徒』には変わりねぇだろ?だから殺すっつってんだ。陛下の命令は絶対なんだよ。」
そう宣言するネルヴァの表情は邪悪そのものだった。最早説得でどうにかする事は出来ないのだと、その表情が物語っている。
それを見てノイファは更に絶望の表情を浮かべる。
「お…お姉ちゃん…どうして…『ラバス教』は…【聖騎士】は…お母さんとお父さんの…私たちの誇りだって………ぅ…うわぁああん!!」
ノイファはそう言って大声で泣き始めた。しかしその瞬間、
ガラガラガラ!!
3人のいる病室の扉が勢いよく開く。
「セイナ、ノイファ!大丈夫!?何があったの!?」
「遅くなってすみません!」
その時、パーナとニューズが部屋に入ってきた。
「パーナ!ニューズ!!私は大丈夫よ!!それよりもノイファを!」
そう言ってセイナはノイファを2人の元まで瞬間移動させる。
「えっ!セイナ!魔法を!」
「今はそんな事言ってる場合じゃないの!!とにかくネルヴァさんを抑えないと!!」
次の瞬間、再びネルヴァがノイファに向かって突っ込んでくる。
「『ラバス教徒』じゃねぇお前らに用はねぇ。私が殺してぇのはノイファだけだ!」
「やらせるわけないでしょ!」
セイナは迫り来るネルヴァを瞬間移動で元の位置まで戻した。
「チッ…埒があかねぇな…」
そんなネルヴァの変わった様子を見てパーナとニューズは混乱する。
「ねぇセイナ、これは一体どういう…」
「そうです、あのネルヴァさんは!」
「私もよく分からないわ。でも、おそらくネルヴァさんは皇帝に洗脳されている。自我も記憶もあるけど、『ラバス教徒』を殺すって言って妹を殺そうとしているわ。先生は既に殺された、2人とも気を付けて。」
それを聞いた2人はネルヴァへ警戒姿勢を取る。
「そんな…2人はあんなに仲良しだったのに…こんなのあんまりだよ!!」
「全くです…どうにかして正気に戻すしか…」
ウゥ〜ウゥ〜ウゥ〜
その瞬間、街全体に響き渡るような警報音が鳴り響いた。
「今度は何よ!?」
混乱するセイナとパーナとニューズだが、この街に住むノイファとネルヴァには何の音かすぐに分かった。
「これは…敵襲を知らせる警報!」
「ふん…もうこんな辺境まで侵攻してるのか…流石は陛下だ。」
「何ですって!?」
直後、外から激しい爆発音が聞こえた。そして銃声や人々の悲鳴が激しくこだまする。
「チッ!こんな時に!!」
次々と襲い来る難題にセイナは頭を悩ませる。
(どうする!このまま睨み合ってたら敵が来てしまう!かと言って皆んなを連れて逃げようにもアンリがまだ帰って来てない!!アンリが自力で逃げ切る事に賭ける?いやそれよりもネルヴァさんをどうにかしないと逃げ切るもクソもないわ!って、どうにかするってどうすれば元に戻るのよ!!)
打開策を必死に模索するセイナだが、対処すべき事が多すぎて頭が混乱していた。
しかしその時、ニューズが一つの提案をする。
「セイナさん!ネルヴァさんが皇帝に洗脳されているのならば、皇帝に解除させれば良いんです!!例えば無理だとしても皇帝を殺せば、ネルヴァさんの洗脳は解けるはずです!!」
「…確かにニューズの言う通りかもしれないわ、でも今アイツがどこにいるのかなんて……はっ!」
セイナは先ほどの警報を思い出し、一つの可能性を探し出す。
「そうです!もしかしたら今攻め込んで来ている軍の中にいるかもしれません!!」
「ふんっ!」
それを聞いた瞬間、セイナは魔法の範囲を拡大し、自信が長距離移動する準備に入った。
「ニューズ、ここは任せるわ。2人2人…いや、3人をお願いね。」
セイナは目を瞑って集中しながらニューズにそう告げた。
「ええ、任されました。そっちも早めにお願いしますね!」
ニューズはネルヴァから目線を切らさずにそのまま返事をした。そしてセイナはそのまま瞬間移動で病院の外へ出た。
〜セイナ視点〜
セイナが瞬間移動してきた場所では住人たちが荷物を持って逃げ出していた。そんな逃げ惑う住人たちの流れに逆らってセイナは敵が迫って来ている方へ走る。
「さて…あの変態がいてくれるとありがたいんだけど…ふん…アイツに会いたいなんて本当に屈辱ね。でも、背に腹は変えられないわ。」
セイナは大通りのど真ん中で立ち止まった。すると奥から敵軍と思われる軍隊が少しずつ迫って来ていた。パッと見でその数は100以上、その先頭には1人の男がおり、ゆっくりとコチラに歩み寄って来る。そしてその一団はセイナの目の前で止まった。
「あら、止まってくれるなんて随分と親切なのね。」
それに対し、先頭の男が話し始める。
「貴様…何者だ。ただ者では無いな?」
「そうね、でも今はアンタたちに興味はないの。皇帝とやらと話がしたいわ。今ここにいるのなら出てきてもらえないかしら?」
「…陛下と話がしたいだと?はっ!陛下は貴様如きと話す事はない。諦めろ。」
「おーい!アルティード!!いるのー!!いるなら早く出てきなさい!!この私、セイナがわざわざ会いに来てやったわよ!!すごく不本意だけどね。」
目の前の男を無視してセイナは大声で呼びかける。しかし敵軍からは何の反応もない。
「返事がないって事はここにはいないのね…残念。」
「貴様!俺を無視するなよ!!」
その瞬間、その男が右手を前に突き出した。すると男の右手から何かがセイナの顔面に向かって射出された。
「ふんっ。」
セイナは首を軽く捻ってそれを楽々回避する。しかし、避けたはずのセイナの左頬に僅かな痛みが走る。
「水…いや、酸か。」
セイナの左頬の一部が酸によって紅く染まった。
「ふんっ!よく回避したものだ。やはり貴様はただ者では無いな。」
「そりゃどうも。おっさんも相当強いわね。何者?」
「俺は『魔女狩り』の……いや、今は陛下の忠実な僕の1人、オムリスだ!!アルティード陛下のため、貴様にはここで死んでもらうぞ!!」
「へぇ…貴方たちもアイツに洗脳されてるのね。元『魔女狩り』さんたち、私怨で悪いけどアンタたちには散々な目に遭わされてきたからね。アイツの居場所を聞くついでに今までの恨みも晴らさせてもらうわね。」
「かかれ!!」
そしてセイナとオムリスを含めた元『魔女狩り』たちの激しい戦闘が始まった。
〜ニューズ達視点〜
「コッチです!!」
「逃すか!」
病院を出た3人はネルヴァから逃げ続けていた。ニューズの魔法は【空間の切断】、出力を誤ってネルヴァに当たればネルヴァを殺しかねない。故に3人はノイファを殺さんと追いかけて来るネルヴァから逃げ続けていたのだ。
「はぁはぁ…どこまで追いかけて来るんでしょうか…」
「はぁはぁ…ニューズ、ちょっと休憩!…はぁはぁ…私死んじゃう…」
息が上がったパーナはその場で膝をつく。
「もうパーナさん、体力無さすぎです。生きて帰ったら、これから毎朝ランニングしてもらいますからね。」
「うへぇ…それはご勘弁を…」
へばってしまったパーナの手を無理やり引いて3人は逃げ続ける。
(うーん…さっきからネルヴァさんの足が明らかに遅い。やっぱり傷だらけのあの身体で動くのはかなり無理をしているはずです。このままネルヴァさんが倒れるまで逃げ続ければかなり時間は稼げるはずです。)
パーナの手を引いて走るニューズがそんな事を考えていると、さっきから一言も発しなかったノイファが急に立ち止まった。
「ノイファ!?」
「…やっぱりおかしいよ…どうしてお姉ちゃんから逃げなきゃ行けないのよ!!」
ノイファは涙目になりながらそう叫んだ。
「ネルヴァさんは洗脳されているんです!!セイナさんが彼女を元に戻すまで、私たちが時間を稼ぐんです!」
「なんで…どうしてなのよ…どうしてお姉ちゃんが…あんなに優しくてカッコいいお姉ちゃんがどうしてこんな目に遭わなきゃいけないの!!ねぇ!どうしてよ!!こんなのひど過ぎるよ!!」
ノイファは未だに現実を受け入れられていなかった。そうこうしている内にネルヴァが3人の前にたどり着く。
「はぁはぁ…手間かけさせやがって…こっちも全身痛くてしんどいんだよ。テメェ1人に時間かけてちゃ、他のやつを殺せねぇだろうが。」
そう言って息を切らしたネルヴァは剣を構える。それを見てニューズとパーナは構える。
「くぅ…ここでやるしか無いんですか…」
「ダメだよニューズ!ニューズの魔法じゃネルヴァさんを殺しちゃう!!」
「ですがこうなってはもうどうしようも…」
その時、ノイファはゆっくりと立ち上がりネルヴァに向かって歩き出した。
「ノイファ!?」
「何してるの!!早く戻って!!」
2人の言葉を無視してノイファはネルヴァに近付いていく。
「お姉ちゃん…もう大丈夫だよ…」
ノイファは両手を前に出しながらネルヴァに語りかける。しかしネルヴァの表情は変わらない。
「ようやく観念したか、ノイファ。いい子だ、一撃で楽にしてやるから動くなよ。」
ネルヴァの殺気はさらに濃くなる。しかしノイファはそのまま歩き続ける。
「ねぇお姉ちゃん…私、お姉ちゃんが帰ってきてくれてとっても嬉しかったんだよ。約束守ってくれたんだって…でもこんなのって無いよ…そうでしょ!お姉ちゃん!」
「知るか!『ラバス教徒』は全員殺すんだよ!!」
ノイファの叫びも虚しく、ネルヴァはスタートを切った。そしてあっという間に距離を詰め、剣を振り上げる。
「悪いな、陛下の為に死んでくれ。」
ネルヴァが剣を振り下ろすその直前、ノイファはネルヴァに咄嗟に抱きついた。
「な!?」
「戻ってきてよ!!お姉ちゃん!!!!!」
ノイファの魂の叫びによってネルヴァの動きが止まった。振り下ろすはずだった剣は空中で止まり、全身の動きを止めた。
そして死を覚悟していたノイファは震えながら、しがみついたネルヴァの顔を見上げる。
「お姉ちゃん…?」
「わ…私は………はっ!!ノイファ!!」
その時、ネルヴァはノイファに気付いたように強く抱きしめた。それを見てノイファは笑顔を見せる。
「お姉ちゃん!!元に戻ったのね!!良かった!!」
ネルヴァが解放された事に喜ぶノイファを見て、ネルヴァは更にノイファを強く抱きしめる。
「すまなかった!!私は一体何を考えていたのか!?…すまない!!本当にすまない!!」
「ううん、いいの!お姉ちゃんが無事に帰ってきてくれたのなら!!」
「ああ…約束したからな。」
ネルヴァも涙を流しながらノイファを抱きしめる。
「ふぅ…何とか洗脳は解除されたみたいだね。」
「そうですね、ギリギリでした。きっとセイナさんが何とかしてくれたんでしょうね。」
「うん!やっぱりセイナに任せてよかった!!」
元に戻ったネルヴァとノイファの様子を見て、パーナとニューズは安堵の表情を浮かべていた。
〜同刻、セイナ視点〜
「チッ!コイツもダメね。コイツらどんな忠誠心なのよ。」
そう言ってセイナは1人の男の生首を投げ捨てる。セイナの周りにはセイナに殺された元『魔女狩り』の死体が大量に散乱していた。セイナは100人近い敵を相手にほぼ無傷で蹂躙して見せたのだ。
そんな時、横の道から1人の女が現れた。
「やっぱりセイナさね、相変わらずね。」
そう言って現れたのは一枚のバスタオルを身に纏ったアンリーザだった。それを見たセイナは顔についた返り血を拭って話しかける。
「アンリ…こんな時でも男と遊んでたのね?でも、ちょうどよかったわ。協力して欲しいの。」
セイナは死体の中でも比較的綺麗な服を適当に剥ぎ取ってアンリーザに投げつける。アンリーザもそれを受け取って、大通りのど真ん中で着替え始める。
「勿論さね、それでアタシは何をすればいいんだい?」
「オムリスとか言うリーダー含め、数人に拷問したけど、アルティードの情報を誰も吐かなかった。私が何をしても洗脳は解けなかったし、ここにいても時間の無駄みたい。だから、他にも皇帝の情報を知ってるヤツを探したいの。」
「洗脳…なるほど、そういうことさね。セイナがどうして皇帝を探しているのか気になるけど、時間がないことだけは分かったさね。とにかく皇帝とセイナを引き合わせればいいんだね?」
「そうよ!見つけたら上空に魔法でも放って教えて!すぐに飛んでいくから!」
そうしてセイナは敵兵が来た方へ走って行った。
「了解さねー!」
セイナは走りながらも冷汗を流す。
(クソっ!とんだ無駄足だったわ!!早くアイツを見つけ出さないと皆んなが!!)
セイナはあの場を離れた時からずっと嫌な予感が消えなかった。そんなセイナの勘は最悪な形で現実となる。
グサッ!……
「えっ……ゴフッ…」
その瞬間、ノイファの口から血が溢れ出す。
「ノ…ノイファ!!」
それに気づいたパーナが叫び声を上げた。血を垂れ流すノイファの脇腹付近には剣が貫通していた。パーナはそれを見て一瞬で気付いた、誰がそれをやったのかを。
「手間かけさせやがって…おらよっ!」
そう言ってネルヴァはノイファの腹に突き刺した剣を引き抜いた。
「ゴフッ!!…お、お姉…ちゃん……どう…して……」
「はっはっは、演技だよ演技。お前らを油断させるためのな。」
剣が抜かれた事で更に血を吐き出し、ノイファはそのまま地面に倒れた。
「ノイファ!!クソっ!!アレが演技だったなんて!!」
「油断しました!!これはマズいです!!」
その瞬間、2人はノイファの元へ駆け出していた。
「ふん、良い反応だがもう遅い。死ね!」
そう言ってネルヴァは倒れたノイファに向かって剣を振り上げた。
その光景をパーナとニューズは走りながら見ていた。
(ダメよ!間に合わない!!)
パーナは必死に手を伸ばすが、その手は空を切る。
(このままではノイファさんが!!)
ニューズも唯一の左手を伸ばすがその距離は遠い。
「あばよ、愛しの妹!!」
ネルヴァは倒れたノイファに向かって剣を振り下ろした。
「ダメぇええ!!」
ネルヴァが剣を振り下ろしているまさにその時、ニューズの視界はまるで走馬灯のように時間が圧縮される。
そしてニューズの脳内にはこの2ヶ月間のノイファとの濃厚な日々の記憶が溢れ出した。
初めて会った時の事、友達になろうと言った時の事、初めて3人で遊びに行った事、一緒に食事に行った事、一緒にお風呂に入った事、公園で語らった事、互いの境遇を慰め合った事、一緒に仕事をした事、先生に2人して怒られた事、それをパーナが側から笑っていた事、それもバレて3人で怒られた事、夜中に寝ているセイナにイタズラして怒られた事、パーナとノイファの喧嘩を仲裁した事、森へ冒険に行ってノイファが蜂に刺されて大変だった事、毎日一緒に寝た事…………
ノイファさんが…死ぬ!?
「そ、そんなの…だ…ダメぇ!!!」
その時、ニューズは心の底から叫びながら無我夢中で左手を……………………振り抜いた。
スンッ………
「……な…ぐぉ…ゴフッ……………」
ニューズの空間を切断する魔法は剣を振り下ろすネルヴァの身体を横一文字に捉えた。
ドッ、ドン!!
次の瞬間、ネルヴァの身体は完全に上下に分断され、力無く地面に崩れ落ちた。
胸から下が無くなったネルヴァの視界は一気に暗くなり、身体から温度が消えてゆく。そして消えゆく意識の中、最期の時を待つ。
(…全てを思い出した…私はノイファを……あぁ…始祖様…こんな…のあんまり……です…………最期に……もう一度………だけ…妹…と…話を……したかっ……た………フ…レイ…ゼ………)
瞳孔が開き、色が既に失われたネルヴァの瞳から大粒の涙が零れ落ちる。しかしそれは地面の血溜まりに落ち、その姿を消す。
やがてネルヴァの意識は完全に消失した。
ネルヴァ・イーリストは永遠にその目を閉じたのだった。
「ネルヴァさん!!ニューズ、貴女どうし……て…」
パーナがニューズを問い詰めようとした時、ニューズの表情を見てパーナも止まる。
「はぁはぁ……」
ニューズの顔は汗びっしょりで、見たこともないほどに引き攣っていた。それはまるで間違って人を轢いたドライバーのように。
「ニュ…ニューズ………っ!!」
ニューズにかける言葉が見つからなかったパーナは即座にネルヴァの元へ駆け寄る。
「っ!!!…ネルヴァさん!」
しかしパーナが到着した時には既にネルヴァは事切れており、自身の血の海に沈んでいた。
「ううっ!!どうして!!どうしてよぉ!!ネルヴァさん!!」
パーナはその場で崩れ落ち、涙を流した。血が付くことも気にせずに地面に膝をつき、溢れ出した涙が血の海に混じる。
「…あぁぁ!!お姉ちゃん!!お姉ちゃん!!うわぁああ!!!!!!」
その時、地面に倒れていたノイファが大声で泣き叫んだ。そして震える身体を引き摺って、ネルヴァの死体の元へ向かう。そして血塗れになったネルヴァの頭を抱きしめる。
「お姉ちゃん!!!お姉ちゃん!!!お姉ちゃん!!!お姉ちゃん!!!」
何度も何度も何度も呼びかけるがネルヴァは微動だにしない。それでもノイファは何度も何度も呼びかける。
「お姉ちゃん!!お姉ちゃん!!うわぁああ!!なんでよぉ!!!どうしてよぉ!!お姉ちゃんを返して!!返してよ!!!」
ノイファの悲痛の叫びは街に響き渡る。しかしその願いが届く事は決してなかった。
「うわぁああん!!」
「ノイファ!!」
泣き続けるノイファにパーナが背中から抱きついた。
「ノイファ、ごめんね!…ごめんね!!」
パーナは2人を守りきれなかったことを悔やみ、謝罪を口にした。しかし目の前で姉を失ったノイファの激情は収まらない。
「わぁああ!!何でよ!!何でお姉ちゃんを殺したの!!何で!!」
そう言ってノイファは憤怒の表情を2人に向ける。それに対してニューズは申し訳なさそうに答える。
「……すみません……ノイファさんが危ないと思って咄嗟に…」
「何でよ!!それで何でお姉ちゃんを殺すの!!それもこんなに!!酷いよ!!お姉ちゃんが可哀想じゃない!!!」
ノイファは上下に分断されたネルヴァの遺体を見て、ニューズを再び睨みつける。
「はぁはぁ…ニューズ、貴女一体何をしたの!!貴女は魔法が使えないんじゃ無かったの!!ねぇ!!」
「そ、それは…」
ニューズが言葉に詰まる。それを見てノイファは更に怒りの表情を見せる。
「それに2人とも無能力って言ってた!!私に嘘をついてたのね!!」
「そ、それは!!」
パーナが事情を話そうとするがノイファはそれを遮る。
「うるさいうるさい!!2人してずっと私を騙してたのね!!最低!!最低よ!!もうアンタ達なんか友達でも何でも無いわ!!ただの人殺しよ!!絶対に許さないんだから!!お姉ちゃんを、お姉ちゃんを返してよ!!この裏切り者!!アンタ達なんか…アンタ…たち…なん…か……あ…」
その時、ノイファは糸が切れたかのように力無く倒れた。
「ノ、ノイファ!!」
パーナが咄嗟に抱き上げるが、ノイファの顔は既に真っ白で血の気を全く感じない。
「ノイファ!!ねぇ!ノイファってばぁ!!」
パーナが必死に呼びかけるがノイファから返事はない。そう、ノイファは先ほどネルヴァに刺された腹の傷が既に致命傷となっていたのだ。ネルヴァを失った悲しみで痛みを忘れて動けていたが遂に出血に限界が来たのだ。
「……」
パーナの腕の中でノイファの命の音がだんだんと小さくなっていくことが分かる。
「ダメ!!逝かないで!!ノイファ!!」
パーナは必死に呼びかけるが、ノイファの目は既に虚になっていた。
「………」
既に死を待つばかりの身体となっているノイファは何も聴こえていなかった。ただ、耳鳴りのような音だけが頭にこだまする。薄れ行く意識の中、ノイファも最期の時を待っていた。
(あぁ…パーナ、もう貴女の声も聞こえないわ。でも近くにいる事だけは感じる。だから寂しくなんか無いんだからね…………ねぇパーナ、ニューズ、最期に酷いこと言ってごめんね。2人に事情がある事は知ってたし、魔法があるか無いかなんてどうでもいいことだわ、そんな事で私たちの絆が切れるわけないんだから。それに私だって…………本当にごめんね。もうこの言葉を伝える事は出来なそうだけど、また天国で会えたら伝える事にするわ。……こんな私と友達になってくれてありがとう。天国でもずっと一緒……ずっと友達でいようね………)
パーナの腕の中でノイファも一滴の涙を流す。それと同時に、開いていた瞼がゆっくりと閉じていく。そしてパーナの腕に感じていた弱々しい心臓の鼓動が完全に停止した。
ノイファ・イーリストは永遠にその目を閉じた。
「うわぁああん!!ノイファああ!!!」
パーナはその腕の中からノイファの命の炎が消えたことを実感した。
「うぅ!!今まで騙しててごめん!!ごめんね!!私たち謝るから!!ノイファが許してくれるまで謝るから!!だから目を覚まして!!お願い!!」
パーナの叫びも虚しくノイファの身体は微動だにしない。
「ノイファぁ!!!」
「いいえ!まだです!!」
その時、遠くで見ていたニューズが急いで近寄って来る。その目からは大粒の涙が溢れていたが、まだ希望を捨てていない目だった。
「ニューズ!何言ってるの!!ノイファはもう!!」
「ええ!ノイファさんは既に死んでしまいました!!ですが、パーナさんの能力を使えば!!復活出来るのではないですか!?」
それを聞いたパーナの顔に希望が戻る。
「そうだ!!確かノイファは無能力って言ってたもんね!!よーし!!」
パーナはノイファの死体に手を翳し、両目を瞑って集中力を上げる。するとノイファの死体から光が溢れ出す。そして
「えっ…」
パーナはその場でフリーズした。
「……」
光が晴れたノイファの死体はいつまで経っても動き出す気配がない。それどころか腹の傷からは未だに血が垂れ流されている。
「あ…あ……」
「どうしたんですか!パーナさん!!ふざけてる場合ではありません!!早く蘇生を………ま、まさ…か…」
その時、2人は気付いてしまった。目の前のノイファの死体が永遠に目を覚ます事は無いのだと。
全てを理解したパーナは絶望したようにノイファの死体を地面に置く。そして力無く膝をついて下を向く。
「ノイファは無能力なんかじゃなかった…本当は能力を持ってたんだ………」
一度生まれた希望からの絶望の落差に、パーナの情緒はおかしくなっていた。どこか遠くを見つめ、ただただ涙を流す。
「そんな……そんな事って……うぅっ!!」
ニューズは地面に手を突き、ボロボロと泣いた。
「うぅっ!!うわぁあああ!!」
ニューズは人生で初めて大声で泣いた。
(私のせいだ!!私が2人を!!うぅぅぅ!!)
ニューズは自分を責めた。ノイファを助ける為にネルヴァを殺し、そのノイファも結局死なせてしまった。ノイファから最期に恨まれ、友達では無いと言われた。ノイファという人生で初めて出来た友達を、全てを失ったニューズは絶望で泣いた。枯れ果てるまで泣いた。とにかく泣いた。
ニューズの悲鳴は再び街に響き渡り、空へと消えていった。
「……」
ニューズの悲鳴を聞いたセイナはその場へ駆けつけていた。すると同じく悲鳴を聞きつけたアンリーザもそこへ来ていた。
セイナは死亡したネルヴァとノイファ、そしてその近くで泣きじゃくる2人を見て、状況を理解した。
「ネルヴァさん、ノイファ…間に合わなかったわ。ごめんなさい。」
そう言ってセイナは一筋の涙を流した。そしてセイナは2人が泣き止むまで静かに待った。状況を察していたアンリーザもその光景をずっと黙って見守っていた。
しばらくして、泣き止んだニューズが立ち上がる。
「……お待たせしました、セイナさん、アンリーザさん。」
「…もういいの?」
「…はい、私は大丈夫です。…パーナさんは…」
ニューズがパーナへ目を向けると、パーナもゆっくりと立ち上がった。
「…うん、もう大丈夫。」
「…よし…それじゃあ急いでここから逃げるわよ。敵の本軍が迫っているわ。」
セイナは敵から情報を掴んでいた。この街にも『帝国』の本隊が迫っており、ここにいれば非常に危険であることを。しかしニューズは悲しげな顔で待ったをかける。
「待ってください…ネルヴァさんとノイファさんは…このまま置いてはいけません。せめて私の手で埋葬してあげたいんです。」
「私もそう思う。セイナ、お願い。」
ニューズとパーナの真剣な表情に、セイナも納得する。
「分かったわ、ならあの2人の家の庭に埋葬してあげましょう。」
シュンッ………
セイナの魔法で4人と2体の遺体はその場から掻き消えた。
〜1時間後〜
2人の遺体を2人の自宅の庭に埋葬し終わった4人はその墓標に手を合わせていた。
「2人で安らかにね。」
セイナは仲の良かった2人が天国でも共に生きられる事を願った。
「本当にありがとうさね。不本意かもしれないけど、アタシたちの生き様をアッチで見といて欲しいねぇ。」
アンリーザは世話になった2人への感謝と、これからの誓いを立てた。
「ネルヴァさん、ノイファ、本当にありがとう。2人のことは一生忘れないよ。私は天国へは行けないと思うけど、生まれ変わったらまた会おうね。」
パーナは2人との思い出を記憶に刻みつけ、再び再開することを願った。
「ノイファさん…ごめんなさい…本当にごめんなさい。それでも…それでも私は…ずっと貴女の友達でいたい。ノイファさんと過ごした楽しい日々、ずっと忘れません。例え死んでも忘れません。私は貴女の事を思い続けながら生きていきます。ですから、どうか…どうか…」
ニューズはノイファを騙していた事への心からの謝意と、今の本音をぶつけた。そして最期の言葉は口から出ることなく、再び大粒の涙を流した。そんなニューズの背中をさするパーナも顔を赤くして涙を流した。
そんな2人を見守っていたセイナは立ち上がって魔法を発動させる準備をする。
「さあ、敵が来る前に行くわよ。」
それを受けて2人も涙を拭いながら立ち上がった。
「うん……バイバイ…2人とも。」
「…本当にありがとうございました。」
シュンッ…………
4人はセイナの瞬間移動によって、『アインス国』から脱出した。
4人の消えたその場所には姉妹の大切な思い出の詰まった家、その庭には小さな墓標、そしてその墓標の上には2人が大切にしていた『白の輪』が仲良く重なり合う様に置かれていた。
次回から港町『ツヴァイ』編になります。
【補足】
・オムリス含めた『魔女狩り』は全員アルティードに洗脳されています。また教皇や教会の幹部なども全員洗脳済みなので、『アインス国』は実質崩壊しました。
・アルティードの洗脳は段階があり、最も深いモノではあらゆる記憶を封印され、アルティードに従うだけの人形になります。ネルヴァへの洗脳は中程度で、記憶は残っているものの、あらゆる物事への優先順位の1番上を【アルティードからの命令】にされました。故にノイファの事もセイナたちの事も覚えているし嫌いではないけれど、一旦全て横に置いておいて【アルティードからの命令】を優先し、ノイファを殺しました。
・ノイファが[魔法が使えない]と嘘をついていたのは、単純に見栄っ張りでした。[魔法が使えるのに弱い]という事実を隠したかったという事です。
・アンリーザは相変わらず男とヤっていましたが、警報によって男が投げ出してしまったので、タオルだけ持って外に出たところ、セイナを見つけました。
・2人を埋葬する前に医者も一応埋葬しています。名前がないと可哀想なので、ラルマ先生(適当)とでも名付けてあげましょう。
ここまで読んでくれて本当にありがとうございました。あと20話程度で完結の予定です。面白いと思ってくれた方はいいね、高評価、拡散、コメント、そして私の別作品も見ていただけるととても嬉しいです。基本設定と世界線は一緒(時系列が違うだけ)なので、読みやすいかと思います。




