絶望の再会
〜次の日の朝〜
「ふぁああ…おはよう、セイナ。」
「ええ、おはようパーナ。今朝はよく眠れたかしら?」
「…うん。久しぶりに熟睡出来た。やっぱり布団って偉大なんだね。」
「最近は野宿ばかりだったからね…これからは簡易的な布団も携帯しましょうか。」
「うん!そうしよ!」
「ならこれから買いに行きましょうか。その後に皆んなと合流ね。とりあえず髪を梳かしてあげるからここ座って。」
「はーい!」
パーナは鏡の前の椅子に元気よく座った。そしてセイナが櫛を使ってパーナの髪を梳いていく。
「いつ見てもパーナの髪は綺麗ね…正直羨ましいわ。」
セイナはパーナの髪を見ながらそう呟いた。
「私はセイナの髪も好きだよ!!」
「そう…ありがと。…はい、終わり。」
そう言ってセイナは櫛を机の上に置いた。
「わーい!ありがとー!!」
「それじゃあ、朝食に行きましょうか。この宿は朝食付きらしいからね。」
「はーい!」
2人はそのまま部屋を出て朝食に向かった。
「お待たせしました。」
席に着いた2人の前に朝食が置かれる。それを見たパーナが笑顔を見せる。
「うわぁ、美味しそう!!」
「最近はまともな朝食なんて食べてなかったものね。」
「うんうん!早く食べよ!!」
「そんなに焦らなくても朝食は逃げないわよ。」
「いっただっきまーす!!」
そう言ってパーナがフォークを手に取ろうとした時、
コトッ……
パーナはフォークを地面に落としてしまったのだ。
「うわっ!やっちゃった!」
それを見てセイナは呆れながら、朝食を食べ始める。
「だから言ったのに………もぐもぐ…」
「うわぁあ…どうしよう、どうしよう…」
「…ちょっと待ってて、今店員さんを呼んで……うっ!!!」
その瞬間、セイナは自身の身体の違和感に気付いた。
「ぐぅぁああ!!!」
「セイナ!?」
セイナの視界が凄まじいスピードで揺れる。更に頭を貫くような激しい頭痛、吐き気、そして徐々に広がる全身への痛みに似た感覚。
(これは!?…油断した!!まさか毒!?力が入らない!!魔法も!)
「ぐぅう!!ぁあぁぁああ!!!」
全身を襲う不快感に、セイナは発狂しながら地面に倒れ、悶絶する。そして目の前は赤く染まり、全身に力が入らなくなっていく。
「セイナ!!大丈夫!?セイナぁ!!」
パーナはセイナに駆け寄り、身体を揺さぶる。しかし、全く効果はない。
(このままで終わるはずない!追撃が来る!!)
「パ…パーナ……に…逃げ…」
薄れゆく意識の中、セイナはパーナにそう告げた。
「ダメだよ、セイナ!!2人で一緒じゃなきゃ!!早く魔法使って!!2人で遠くまで!!」
「…はぁはぁ…うぅ……」
既にセイナは魔法を使えないほどに衰弱していた。しかし最後の力を振り絞る。
(もう、2人分を飛ばす力は残ってない。なら、パーナだけでも!!)
「ぱ…ぱーな……大好き…」
シュンッ……
その瞬間、パーナの姿が掻き消えた。
「はぁはぁ……ぱー…な…」
そしてセイナは力無く地面を這いずる。最後の力を振り絞って出口へ手を伸ばす。
ドカッ!
「うっ!」
しかし伸ばしたセイナの右手は何者かに踏み付けられた。
「よっと……あれ?おかしいな…2人いると聞いてたんだが…」
その男はセイナの手を踏み付けながら周りを見渡す。すると、入口から複数の人が入ってくる。
「ガネール様!!店の周りを捜索しましたが、怪しき女は確認出来ませんでした!!」
「店の中も隅々まで探しとけ。見つけたらとっ捕まえろ。それより早くアレ。」
「はっ!」
「はぁはぁ…薬なんて…随分と手の込んだ事してくれるじゃない…」
「おっ?喋れるのか、流石の精神力だな。どうだ?今、気分最悪だろ?テメェが飲んだ薬には魔法の根源である心臓の働きを抑制する作用がある。本来は魔法を封じる薬だが、その副作用でこの有様だ。」
「…ご丁寧にどうも…貴方たちは…」
「俺たちはテメェら『魔女』を殺す『魔女狩り』だ。」
そう言ってガネールは部下からとある物を受け取った。そして今度はセイナの背中を踏みつける。全身が痺れて力が入らないセイナにはなす術がない。
「ううっ!」
「『魔女』、テメェには良いもんをやるよ。大人しくしとけよなぁ!」
ガン!!
「っ!!」
ガネールはそのままセイナの後頭部を踏み付けた。セイナの頭は地面に叩き付けられ、額から出血する。そしてセイナの髪の毛を掴んで首を少し持ち上げ、手に持っていた首輪を付けた。
カチャッ…
「これでよしっと…じゃあお前ら、コイツをアレで運ぶぞ。」
「はっ!」
「はぁはぁ…」
そうしてその場に来ていた『魔女狩り』たちがセイナを取り囲んだ。
(あはは…身体が動かないわ…もうダメね…これからどうなるんでしょうね……)
全てを諦めたセイナは彼らに連れて行かれた。
「うわっ!!」
瞬間移動させられたパーナはとある店の中にいた。
「ここは…はっ!セイナ!!」
パーナは急いでその店を出た。
「ううっ…ここどこ…分かんないけど探すしかない!!このままじゃセイナが!!」
初めての場所で混乱するパーナだったが、セイナを助けるべく走り出したのだ。
「はぁはぁ…セイナ…セイナ…」
パーナが先ほどの宿屋を探していた時、少し遠くから大きな歓声が聞こえた。
「今のは何だろう……もしかしたら!!」
パーナは最後の希望を持ってその方へ走り出した。
「っ!!!!」
歓声の上がる場所に到着したパーナはその光景を見て戦慄する。
「セ…セイナ……セイナ!!」
何故ならその場は民衆たちの人だかりが出来ており、その中心には十字架に高く吊り上げられたセイナが運ばれていたからだ。
「『ヌル』の住民たちよ!!この女は邪悪なる『魔女』!!今しがた、我々『魔女狩り』最強の【四神】ガネール様がこの『魔女』を捕獲した!!これより王都まで護送し、正当なる裁きを下す!!」
「……」
セイナはぐったりとして何も言わない。両手足は十字架にキツく縛り付けられ、服も下着に剥かれている。それでも意識はあるようで、目を開いて周りを見ながらたまに手足をガタガタと動かしている。
「あんなに若い子が『魔女』だなんて!」
「この『魔女』が!!」
「死ね!!死んでしまえ!!」
「『魔女』にはお似合いの格好だ!!さっさと死ねぇ!」
「流石は【青龍】のガネール様だ!!『魔女狩り』万歳!!王国万歳!!」
「万歳!!万歳!!」
観衆たちのボルテージが上がる。しかしその大半は捕まったセイナに対する暴言だった。
「あ…あぁ……」
パーナは少し離れた場所でそれを見ている事しか出来なかった。しかしその瞬間、
ゴンッ!
観衆の1人からセイナへ石が投げ込まれたのだ。それはセイナの額付近に命中した。
「うっ…」
セイナは痛みで顔を歪ませ、その額からは血が流れ出る。
「セ、セイナぁ!!」
その光景を見たパーナは走り出していた。セイナを助け出す為、考えも無しにただガムシャラに…
「あっ…」
しかしパーナはその途中で転んでしまった。誰かの足が引っかかってしまったのだろうか、パーナは地面に倒れた。
「だ、大丈夫か嬢ちゃん!?」
「貴女、大丈夫?」
それを見た観衆の何人かがパーナに手を差し伸べてくる。
「うぅっ……セイナ…今行くからね…セイナ!!」
しかしパーナはそれらを無視して自分で立ち上がろうとするが、膝と肘を擦りむいてしまったせいで上手く立てない。そしてそのまま、セイナを吊り上げた十字架は道路を進んで行った。
「ま…待って…このままじゃセイナが……」
そう言ってパーナが手を伸ばすが、セイナは無慈悲に運ばれて行った。
「あぁ……ああ!!…セイナ…行かないで…セイナを連れて行かないで!!うわぁああ!!!!」
顔を涙でぐちゃぐちゃにしたパーナは地面に這いつくばってセイナを見送る事しか出来なかった。
〜薄暗い部屋〜
バシャッ!!……
「……ぁ…」
頭から冷水をぶっかけられ、目を覚ましたセイナがいたのはとある薄暗い部屋だった。先ほどよりもかなり気分が良く、視界もハッキリしていた。おそらく薬の効果が切れているのだろう。
「ふんっ……やっぱり…魔法が使えない…」
セイナは試しに魔法で逃走を図るが、魔法が何故か発動しない。それは先ほどセイナの首につけられた首輪による影響だった。その首輪は特殊な魔法で出来ており、触れている『魔女』の力を封じる力があった。
そしてセイナは十字架の様なものに両手足を拘束され、全く身動きが取れない状態だった。
「起きたか、『魔女』。」
そんなセイナの前にいたのは『魔女狩り』と思われる複数人の男たちだった。
「ええ、最悪の気分だわ。それより服ぐらい着せてよ、変態。」
セイナは煽るように軽口を叩く。しかし目の前の男たちは全く動じない。
「思ったよりも落ち着いているのだな、大したモノだ。だがその威勢もいつまで続くかな。」
そしてセイナはその男たちが手に持ったモノを見て、己の運命を悟った。
「あはは…また拷問かぁ…」
過去の記憶が蘇り、思わず顔が引き攣る。
「ほう、経験者だったか。ならば手加減はいらないな。」
そう言って目の前の男は数本の複数の針を取り出した。
プス…プス…
「うぅっ…」
男はその針を一本ずつセイナの全身に刺していく。出来るだけゆっくりと、痛みを感じやすいように。針が刺さる度にセイナの顔に苦悶が滲む。しかし最後のプライドか、大声は出さなかった。
「やるな、では次だ。」
〜30分後〜
「はぁはぁ…ぐうっ!!」
「これで両手両足の爪全部だ。そろそろ情報を話す気になったか?」
セイナの肉体は既にボロボロだった。全身に数十本の針と切り傷、爪は全て剥がされ、左手の小指と薬指は切断され、右手の親指は折れ、奥歯も数本抜かれている。右耳の鼓膜は破れ、左頬から耳にかけて酷い火傷痕、右足首は折られ、左足の脛は何度も殴打され青紫色に染まっていた。
「…ふふ…バーカ。全員くだばりなさい。」
「これだけやっても心が折れないとは…やはり『魔女』は危険だ。ではそろそろ目を…」
そう言って男が針をセイナの右目に近付けようとした時、部屋の外から声が聞こえた。
「おい、テメェ!!何しやがる!?」
ガタッ!!
そして部屋の扉が勢いよく開かれた。
「こ、これは…」
そこに入って来た男は現状を見て困惑している。しかしセイナはその男の顔に見覚えがあった。
「…アル…ティード…」
セイナの消え入るような声を聞いてアルティードもセイナに気付いた。
「…セ、セイナさん!!」
〜20分前、都市庁舎〜
「都市長、報告が!」
「どうした?」
「中央区の宿屋で『魔女』と思しき女1名が捕えられました。現在はその女を護送中との事です。」
それを聞いてアルティードの表情が固くなる。
「『魔女狩り』の連中が捕まえたのか。勝手な真似を…」
「いかがいたしましょうか?」
「…その女が本当に『魔女』ならばヤツらの領分だ、好きにさせても問題ない。しかしヤツらの捜査は杜撰で冤罪も多く、罪のない人々が犠牲になる事も多々あると聞く。何よりこの都市の無辜の民が犠牲になる事だけは許さん。僕が直接、その女が『魔女』かどうかを判断しに行くとしよう。ついて来てくれ。」
「はい。」
そう言ってアルティードは部下を連れて都市庁舎を出た。
〜数分後〜
アルティードとその部下はとある施設の中にいた。
「都市長のアルティードだ。『魔女狩り』の拠点はここだな?ガネールとやらと話させてくれ。先ほど捕まえたという『魔女』について話がしたい。」
アルティードはその施設の受付に立つ女へそう告げた。しかしその女はバツが悪そうに目を逸らす。
「都市長様…ですが、事が終わるまでは誰も通すなと…」
「ならば力ずくがお望みか?それとも僕の魔法で無理やり喋らせる方がいいかな?」
それを聞いて受付の女の顔が引き攣る。
「わ、分かりました。では案内させていただきます。」
そう言った女は奥へ案内を始める。それを見てアルティードは部下の方を向く。
「…君は下で待っていてくれ、何かあったら連絡を。」
「かしこまりました、お気を付けて。」
そう言って部下はその場で頭を下げた。
「よし、行くぞ。」
アルティードは受付の女の案内でとある場所まで案内された。
しばらく歩いた後、目的の場所に到着した。
「コチラです。」
「ありがとう、君はもう戻っていい。後は僕1人でやる。」
そう言ってアルティードは部屋の扉を開けた。
「…貴方は…」
扉を開けて中に入ったアルティードが目にしたのはとある男の姿だった。
「おん?テメェは……それで?ここに何しに来やがった。」
部屋の中にはガネールが1人でソファに座ってくつろいでいた。
「お久しぶりですね、ガネール殿。」
「前置きはいい。何しに来たと聞いてんだ、都市長。」
ガネールは少し機嫌が悪そうにそう質問する。しかしアルティードは表情一つ変えずに淡々と質問する。
「君たちが今朝捕らえたという『魔女』について話がしたいのです。その女は今どこに?」
「はっ!知らねぇな。知ってたとしても言うかよ。」
「はぁ…そうですか。」
それを聞いてアルティードはガネールの前のソファに腰掛ける。そして今までのように丁寧な態度ではなく、足を組んでドカッと座った。
「この都市の長は僕だ。今すぐに君たちを追い出す事も、謀反者として処刑する事だって出来る。言葉は慎重に選ぶ事だ、教会の犬が。」
アルティードはそう言って殺気を放つ。しかしガネールも怯える様子は全くない。
「何だと?やれるモンならやってみろ、クソガキ。今度は手加減しねぇぞ!」
ガネールも殺気を放ち、部屋の中が殺伐とした空気になった。しかしその時、ガネールの背後の扉から小さく声が聞こえた。
「……ぅぅ…」
それを聞いてアルティードは状況を理解した。
「なるほど、『魔女』はそこにいたのですね。」
「まぁ、そう言うことだわな。」
「拷問…ですか…何故貴方は参加しないので?」
「は?舐めんなよ、俺は『魔女狩り』だが拷問なんてくだらねぇ真似はしねぇ。別に『魔女』に深い恨みがあるわけでもねぇしな。だから恨みの強い部下の好きにさせてるってわけだ。」
「そうですか。ですがここは私の都市です。私の能力を使って本当に『魔女』かどうかの確認を…」
「…ううっ!!」
その時、扉の奥から先ほどよりも大きい声が聞こえてきた。先ほどと違ってその声は誰のものかを認識するのに十分すぎる大きさだった。
ガタッ!
その瞬間、アルティードは席を立ち上がってその扉を見つめる。そして大量の冷汗を流しながら過呼吸を始めた。
「はっ……はっ…はっ…は…」
アルティードは一瞬で気付いてしまった。その声が誰のものかを。
「…まさか……まさか!!」
絶望の表情に変わったアルティードはガネールを無視して扉の元へ走った。
「おい、待てよ。俺を無視すんな。」
「黙れ!邪魔をするな!」
扉の先へ行かせまいとアルティードの腕を掴んだガネールへ、アルティードは強烈な右ストレートを放った。
「ぐはっ!…おい、テメェ!!何しやがる!?」
倒れたガネールを無視してアルティードはその扉を勢いよく開けた。
「…アル…ティード…」
「セ、セイナさん!!」
アルティードの目の前に広がっていたのは衝撃の光景だった。薄暗いその部屋の奥にはセイナが下着姿で十字架に張り付けられており、その顔は青白く生気が失われていた。その周りに立つ男たちの手と手に持った拷問器具は真っ赤に染まっている。更にセイナの身体からは大量の鮮血が流れ落ち地面はセイナの血で赤く染まっている。
あまりに凄惨な光景にアルティードは過呼吸を通り越し、言葉を失った。
「…ぁ……ぁぁ……」
「なっ!?おい!誰だ貴様!!」
部屋にいた『魔女狩り』たちはアルティードの方を向く。その声でアルティードは正気に戻り、ゆっくりと歩き出した。
「………」
ゆっくりと向かってくるアルティードの表情はまるで修羅の様だった。しかし非常に静かな雰囲気を纏っている。
「止まれ!!そこを動くな!!」
そう言って1人の男がアルティードの前に立ちはだかり、剣を構えた。
「邪魔だ…」
シュッ…
「えっ…」
ゴトっ………
その瞬間、男の首が地面に落ちた。周りの『魔女狩り』含めて誰1人、何が起きたか分からなかった。それほどにアルティードの剣技は研ぎ澄まされてた。
「な、何!?」
「コイツ、やりやがったぞ!!」
そう言って周りの男たちは武器を構えた。しかしアルティードのあまりの力に臆した彼らは一歩下がり、アルティードの様子を見ていた。
そんな彼らを無視して、アルティードはセイナの目の前に立つ。そしてその変わり果てた姿を見て表情を失った。そんなアルティードにセイナも気付き、2人の目が合う。
「ひ…久しぶりね…アルティード。」
こんな状況でもセイナは引き攣った笑みを浮かべながらそう告げる。
「セイナさん……何でこんな…どうして…」
泣きそうな声でアルティードはセイナに優しく話しかける。
「あはは…捕まっちゃったから仕方ないでしょ…それよりも、早く私を殺してくれるとありがたいんだけど…全身が痛くて痛くてしょうがないの…」
「何言ってるんだ、セイナさん。もう大丈夫だ、僕が来たからには…」
「おいおい、待てよ。勝手なことしてもらっちゃ困るぜ、都市長さんよぉ。」
その時、扉からガネールが入って来た。
「…今すぐに彼女を解放しろ…さもなくば、貴様ら全員殺す!!」
その時、アルティードから強烈な殺気が放たれる。その殺気は先ほどの比ではなく、ガネールでさえ少し冷汗を流すほどだった。
「何言ってんだ、ソイツは『魔女』だ。テメェ、『魔女』を庇うのか?」
「セイナさんが『魔女』?そんな訳があるか。出鱈目なことを言うんじゃない。何か証拠でもあるのか?」
「証拠なんているかよ。疑わしきは罰するのが俺たち『魔女狩り』だ。例え99人の一般人を殺してでも1人の『魔女』を殺せれば、人類全体への被害は格段に減るだろうが。」
「ふざけるな…貴様らのくだらん理屈を僕に押し付けるな。さっさと証拠を持って来い、さもなくばこの場で暴れるぞ?」
そう言ってアルティードは全員へ強烈な殺気を放つ。流石に少し焦ったガネールはため息をつきながら考える。
「…うーん、そうだなぁ…何かから逃げ回ってたコイツが怪しいのは前提として……おい、お前ら。コイツ、何か吐いたか?」
「…すみません、まだ何も。」
「そうか…だがまぁここまでやられて何も吐かないってのは逆におかしいよな?何か隠してるのは明白だ。これだけされても正気を保っていられる精神力、明らかに普通じゃねぇ。それに俺の勘が言ってる、コイツは【黒】だって。」
それを聞いてアルティードはため息をついた。
「はぁ…貴様らに会話が通じない事はよく分かった。つまり貴様らは彼女を解放する気は無いと?僕とこの場で殺し合うという事だな?」
そう言ってアルティードは剣を構える。周りの『魔女狩り』たちはそれに少し怯えるが、ガネールは引かない。
「はぁ…めんどくせぇな。ソイツは『魔女』だって言ってんだろ。それにテメェ、その女を守りながら俺たち全員を相手に出来るとでも?」
そう言ってガネールはセイナに向けて銃を構えた。しかしアルティードの表情は変わらない。
「やってみるか?」
「面白い!!お前ら!!コイツらを殺せ!!」
ガネールの号令で全員が一斉にアルティードへ襲いかかったのだ。
〜数秒後〜
「はっ!バケモンかよ、テメェは…」
その場に立っていたのはアルティードだけだった。周りの『魔女狩り』たちは全員死亡しており、唯一生きているガネールの首筋にはアルティードの剣が突き付けられている。
「僕の力は無力な人々を守る為にある。弱者を痛ぶる貴様ら『魔女狩り』ごときに負ける道理はない。」
「…ぁ…アル……」
「チッ!クソが!だがなぁ、どう見ても怪しいヤツを目の前でむざむざ逃す事は例え死んでも出来ねえ!!どうしてもその女を解放してぇのなら、その女が『魔女』じゃないって証明してみせろ!」
「良いだろう。」
そう言ってアルティードはセイナの前に立つ。そして少し身体を屈めて目線を合わせる。
「セイナさん、一つだけ聞かせてくれ。君は『魔女』ではない、普通の女の子だよね?コイツの言った事は全部妄想で、君は冤罪なんだよね?」
その真っ直ぐな瞳にセイナはほんの一瞬だけ躊躇った。
「……」
しかしこの絶望的な状況下、セイナに残された答えは一つしか無かった。
(ごめんなさい…私は…)
「私は…『魔女』なんかじゃ無いわ。『魔女』の関係者でもない、完全な冤罪よ。だから私を助けて、アルティード。」
セイナの必死の訴えを聞いたアルティードは優しい笑顔を見せる。
「勿論さ、セイナさん。良かった…君が『魔女』じゃなくて。」
そう言ってアルティードは立ち上がり、ガネールへ振り返る。
「彼女の事は僕が身元を保証する。だから、彼女を解放しろ。今すぐにだ。」
「……はぁ…仕方ねぇな。俺はお前に2度も負けた、敗者は大人しく従うぜ。」
ガネールはそう言って近くの椅子に腰掛ける。
「まぁ、コッチも大した証拠も無く動いちまったからな。だがな、『魔女』ってのは人に紛れやがる。そして『魔女』かどうか正確に判別するのは実際に魔法を見る以外には不可能だ。だから俺たちは、疑わしき者は罰してきた。ソイツもハッキリ言って怪しさプンプンだ、だがアンタがそこまで言うのなら仕方ねぇ。だが忘れんな、仮にソイツが『魔女』だったのならその被害は想像もつかねぇ。何人の無実の人間が殺されるか、テメェはそこまで責任取れんのか?」
ガネールはアルティードの目を見つめ、そう問いかける。しかひアルティードは笑みを残したまま、堂々と言い放つ。
「僕は彼女を信じる、彼女は無実だ。だからそんな心配をする必要は無い。分かったらさっさとその辺の死体を片付けてくれ。」
「ふんっ、言われなくてもな。」
そうしてガネールは立ち上がって部下たちの死体を運び始めた。
そしてアルティードは急いでセイナの拘束を解き始める。
「すまない、こんなに長く君を苦しめてしまった。本当にすまない、今すぐ病院に。」
アルティードはセイナの全身に刺さった針を痛みが少ないように一瞬で抜き、首輪を外し、手足の拘束を解いた。
「ぁぁ…」
解放されたセイナは疲労からか、そのまま前のめりに倒れる。しかしそれをアルティードが優しく抱き上げる。
「だ、大丈夫かい、セイナさん?」
「えぇ…それよりも何勝手に触ってんのよ。離して…」
動けないセイナをお姫様抱っこしているアルティードに対して、セイナは顔を背けながら小さな声で話す。
「嫌だよ。君の可愛い顔がこんなに近くで見れる特等席を手放す筈がないじゃないか。」
「……」
セイナは少し顔を赤くしてまた目を背けた。
「ふふ…やっぱり可愛い。それじゃあ冤罪も晴れた事だし、早く病院へ行こう。僕がこのまま…」
そう言って2人が部屋を出ようとしたその時、手前の部屋の外から大声が聞こえた。
「セイナぁ!!」
その声はセイナには聞き覚えがあった。
「…ぁぁ…ぱ…パーナ!」




