とりあえず遠慮とかはしない
木に登ってはいけません。
人はモモンガのようには飛べません。
正座で膝を突き合わせてそんな注意から始まった今日。
ふんふんと素直に聞き入れる態度は、高校生と言うより小学生みたいで不安がよぎって仕方ない。実際、かなり小さい身長はデカめな自分の半分位しかないんじゃないか?と見下ろしていれば、パチクリと瞬きした目がじっと見つめてくる。吸い込まれそうだなと見つめ合っていれば、轟く重低音。
「何の音だ」
「お腹がすきました」
グルァゴルァと鳴く腹を抑えながら、シュンとして訴える空腹。
こんな音させる腹初めてだしまだ入寮初日なんだが。
しかもまだ勤務時間外だし何も用意してないんだが。
言いたい事を堪えて仕方ないと立ち上がれば、
一緒にヒヨコのように後を着いてくる。
キッチンで冷蔵庫を開ければピョンピョンと飛びながら覗いてくるし、オムレツでも作ってやろうと卵を取り出せば身の回りをウロウロそわそわと徘徊する。しっぽのように揺れる髪が視界の端にチラチラ見え隠れしていれば、当然邪魔になるし気が散る訳で。
「座ってろ」
「はい」
「ここじゃなくてあっちのソファにだ」
素早くしゃかんだけど、そこでじゃない。
これはまさかの素直過ぎでドストレートの天然なのか。
言い方に気をつけないと、またあいきゃんふらいする奴なのか。
どうにもこの先苦労しそうな気配しかしないと眉間を寄せながら、綺麗な半月オムレツをリズム良く仕上げる。レタスにトマト、特製のデミグラスソースを掛けて振り返れば、ナイフとフォークを両手に構える男子が2人。
「いつ増えた。名を名乗れ!」
「つい5秒前。樹咲千春と申す!」
「とりあえず手を洗え!」
コイツも名簿に居たなぁ。
よし、もぅ良いや。
いいトコのボンボンだろうが遠慮はしねぇ。
そう決めた木内だが、割と最初から素である。
バタバタと走る足音に地獄の怨嗟の様な腹の音。溜息を吐きながら追加の卵を取り出し、まだ熱いフライパンを振りながら、始まったばかりの今日。せめて残りの1人は普通であれという願いは多分きっと、叶わないのである。




