魚を冷凍する時
「なんでこんな家事って疲れるんだろ……」
井上恭香はため息をつく。買い物に行って、料理して、掃除をするだけなのに、仕事の要領と全然違う。
仕事は在宅で動画編集、秘書、イラストレーターなどをやっていた。在宅ワーカーだ。将来、子供が生まれたら在宅の方がいいt考え、コツコツとスキルを磨く、安定して稼げていたが、なぜか家事は疲れる。失敗も少なく、そこそこ見た目はできているから、夫に心配されることもない。手伝ってくれることも稀。とはいっても、別にモラハラとかもないし、不満も言えない感じ。
「家事代行でも頼もっかな。でも値段がなぁ」
友達の在宅ワーカーは家事代行を頼んでいるらしい。特に仕事の締め切り前は重宝しているらしいが、値段を見ると決して安くない。それに他人が家に来るのも抵抗がある。ソファの上の洗濯ものをチラリと見る。まだたたまれていない。正直なところ、見て見ぬふりをしたいモノだが。
ぞの時だった。チャイムがなった。
「こんな昼間に誰?」
どうせ宅配便かと思ったが、義母だった。家事でぐったりしている時には会いたくない相手だ。
「あら、家が散らかってるわねぇ。在宅の仕事ってそんなに大変なのー?」
単なる感想か。それとも嫌味なのか判断がつかなかったが、義母はテキパキと洗濯物を畳み、ゴミを片付け、キッチンに立つ。同線に無駄がなく、さすがベテラン主婦という貫禄だが、まさか家事を手伝ってくれているのだろうか。
「そうね。恭香さんの手際が著しく悪そうだから」
ぐうの音も出ない。これはもう素直にアドバイスとして受け止める方が良さそう。
「夕飯はどの予定?」
「鮭を焼こうかと。スーパーで安かったですし、いっぱい買いすぎちゃったかも」
「あら、だったら使わない鮭はクッキングペーパーに包んで冷凍保存しておくといいわ」
そう言って義母はドヤ顔。
「どうしてですか?」
「まあまあ、試して見なさいよ」
その後、義母は料理の時短方法や洗い物を減らす方法なども語り、いろいろとアドバイスして帰っていった。正直、おせっかいというか口うるさくはあるが、家事に行き詰まっている中、肩の荷がちょっとおりたのも事実。
そして数日後。お弁当用に例の鮭を使うことにした。義母に言われた通り、クッキングペーパーのくるんで冷凍保存していたが、その時、初めて気づく。
「あ、クッキングシートのままフライパンに乗せて焼けば楽!」
おかげでフライパンも汚れず、すぐに鮭を焼くことができた。他の魚でも良さそう。そうか、魚を冷凍保存する時はクッキングペーパーに包むと一石二鳥なんだ。
「ちょっとチート?」
とはいえ、ほんの小さな工夫で家事が楽になったのも事実。それに義母はあの時、家事はできるだけ手抜きして、毎日続けることが大切とも言っていた。完璧な家事を数日続けて燃え尽きるより良い、と。
「よし、家事も適当にやるかー」
そう呟くと、肩の荷は全部なくなった気がする。




