ゼリーのフタを開ける時
友達がスピリチュアルにハマってしまったらしい。
「ねえ、和泉、このパワーストーンをつけて願いが叶った場面を想像していると波動が上がって、幸せになるらしい。どう? 和泉もパワーストーン買う? 私からの紹介だったら、なんと半額になるの」
と言われても。久々に友達のリサに会えたと思ったら、まさかのスピリチュアル。どう反応していいかわからない。
「私たち、もうアラサーじゃん? でも非正規で独身じゃん? ここらで一発逆転できるかもしれないし、一緒に幸せになろうよ」
と言われても、本当にどう言っていいのかわからない。口元を引き攣らせ、作り笑いをするのが精一杯だった。
そんな友達との再開から数ヶ月。またリサから連絡がsった。カフェで会おうと言う。今度こそ友達として会えるのかと思ったら……。
「この無添加で無農薬のお茶を飲むと、健康になれるわ。知ってる? 今時の農薬は頭を馬鹿にする成分が含まれているらしくてね……」
今のリサ、自然派界隈にすっかりハマっているらしい。スピリチュアル仲間の勧めで陰謀論にもハマり、その結果、今は怪しいお茶のビジネスにまで手を出しているとのこと。
「和泉、このお茶を飲めば幸せになれるわ、きっと」
その後、リサは怪しい企業セミナー、どう見ても効果が薄そうな自己啓発、自給自足生活の田舎暮らしコミュニティを勧めてくるようになった。本人には悪意はなく、単に幸せになる人が増えて欲しい一心からとのことだったが。
「あぁ、リサと会って疲れた……」
家に帰ると、どっと疲れてしまう。リサから幸せを押し売りされていたが、そんなに必要なものだろうか。
一人、部屋で考える。そもそもリサのいう幸せって何だろう。何があったら幸せなのか。何がなかったら不幸なのか。グルグルと考えこんでしまったが、少なくとも今は不幸でもない。幸せそうに見えるかといったら、限りなく微妙だが。
「あ、そうだ。冷蔵庫にまだ食べていないゼリーがあったわ」
ふと、そのことも思い出し、冷蔵庫の扉を開ける。ギリギリ賞味期限より前だ。良かった、食べられる。
「そういや、ゼリーのフタって手前から開けるよりも反対方向から開けるとキレイに開けられるんだよな……」
今から数年前、リサが教えてくれた豆知識だ。こうやって開けると、ゼリーの汁が飛び散らなくて良いんだそう。
「あ、キレイに開けられたわ。ラッキー」
スプーンでゼリーをすくって食べると、プルプルだ。よく冷えているし、さっぱりと美味しい。甘すぎないのも良い。
「うん、私にはこんぐらいで十分だわ……」
例え幸せそうに見えなくても、十分だ。




