タッパーの黄ばみが気になる時
中学生の時にたてた人生計画では、結婚して子供も産まれて、三十歳になった頃はマイホームも建て、ペットの犬にも囲まれた生活を送っているはずだった。
「でも、村林さんは子供がいなくても、夫婦仲が良さそうで羨ましいわ。ペットのワンちゃんも可愛いし、食生活アドバイザーで起業もしてるんでしょ? 羨ましいわぁ」
友達に誘われてやってきたランチ会というもの。実は友達のママ友の集まりだったらしく、村林征子は居心地が悪い。場所はオシャレなオーガニックカフェだったが、ランチもなぜか美味しく感じない。
それでも征子が笑顔だ。いわゆる大人の対応ってものだ。子供ないない夫婦として、こんな言葉は日常茶飯事。誘ってきた友達にもよく言われていたし、夫の親戚にも陰でもっと酷いことを言われてるのは知ってる。
そんな感じで、何度かこのママ友のランチ会に参加していた。本心では行きたくない。愚痴ばっかりだったし、時々マウント合戦にも発展する。この会でも比較的マシだった樋口風香や鶴岡シズクも来なくなり、もう行くのも辞めようかと思っていたところ。
「あぁ、やっぱりランチ会とか疲れるー。行くんじゃなかった。仕事も溜まってるのに……」
家に帰ってくると疲労感がすごい。リビングのソファに座ると、飼い犬のパン太の背中を撫でてもなかなか癒されない。食パンの耳みたいな色の芝犬で、征子にもよく懐いているが。
「パン太、もうあのランチ会でなくていいかな? っていうか私、ママじゃないし、ママ友の集まりに出るのっておかしくない?」
パン太から返事はない。くぅんと小さく鳴いたら、ソファの上で眠ってしまったじゃないの。
「思えば中学の時にたてた人生計画、半分ぐらいしか叶ってないなぁ」
マイホームも中古だったし、子供もいない。その件で夫と不仲になったこともあった。今は普通だったが、決して仲良し夫婦とも言えない。
今日はやたらとリビングの壁の汚れが目につく。大きくはないが、長年しみついた汚れだ。見るたびに気になる箇所。
「まあ、こんな時は掃除でもするか。パン太もそう思う?」
また返事などなかったが、キッチンに向かい、まずは流しに溜まった食器類を洗うことにした。
「タッパー黄ばんでるわ……」
確か数年前に買った安物のタッパーだ。長年使っていくもにつれて劣化したらしい。細かな傷もついてる。
捨てようかと一瞬悩んだが、確か水と氷、砂糖を入れ、シャカシャカとふると黄ばみが落ちるんだ。さっそく試してみた。
「うーん、全部汚れが落ちてはいないか……」
長年の黄ばみはなかなか取れないらしい。ちょっとため息は出るが、綺麗に落ちている箇所もある。
「そうか……」
全部が全部失敗でもないし、許容範囲だ。別にいいか。完璧じゃなくても、わかりやすく幸せそうに見せられなくても、できているところがあればいいんだ。
人生計画も思い通りにいかなくても、それはそれで悪くはないはずだ。
「ワン!」
いつの間にかパン太がやってきて、足元で吠えていた。




