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日常を彩るライフハック短編小説集  作者: 地野千塩


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タッパーの油汚れが気になる時

「あ、この前の投稿にいいねついてる」


 鶴岡スミレはスマホを睨めっこしていた。SNSのいいねの数、閲覧数、フォロワー数をチェックし、口元がにやける。


 確かに人気インフルエンサーではない。単なる専業主婦のアカウントだったが、旅行や外食、手の込んだ料理の画像をアップし、承認欲求を満たしていた。


 まあ、夫婦仲が悪いことや息子の成績があんまり伸びないことは書かない。いわば美しく編集された架空空間って感じ。


「えー、なんか変なコメントもついてる。働いていない専業主婦が充実した投稿するなって。何これ、嫉妬?」


 そんなコメントでも承認欲求が満たされるから不思議だ。


 そんな昼下がり、ママ友から連絡がきた。数日後、ランチでもどうかっていう誘いだった。


 急にスミレの顔が曇る。リアルの付き合いは美しい部分だけを編集できない。SNSと違う。自分より年収が高い旦那を持つママ友、起業して好きなことやってるママ友、子供の成績も優秀なママ友もいる。あの界隈では別に中心でも上位でもない。


 それでも子供の交友関係に影響があるかもしれない。面倒だと思いつつも一応出席。オシャレでオーガニックニックな雰囲気の店で、インテリアも丁寧な暮らし風。


 行って後悔した。自分より優れているママ友の話なんて聞きたくないし、だからといって旦那の愚痴大会になったのも疲れた。それに元看護師で比較的まともだったママ友・樋口風香もいない。最近ママ友の集まりにも来ないようで、余計に疲れた。


 せっかくのランチの味もしない。残してしまった。


「あぁ、疲れた……。やっぱりあの界隈は疲れる……」


 どんよりしながら帰宅。ランチをあまり食べられなかったせいか、今になってお腹もなっていた。グゥーと気の抜けた音。


「いいや、めんどくさい」


 だからと言ってちゃんと料理する気にもなれず、タッパーに水や折ったパスタを入れてレンジであっためた。お湯を捨てると、作り置きしておいたミートソースもレンチンし、パスタに絡める。


 全く冴えない光景だ。丁寧な暮らしでもなく、つくづくSNS空間の自分と違うと思いながら、パスタを食べる。ミートソースは温めムラがあったが、もう面倒なんで雑に混ぜてそのまま食べてしまった。主婦の一人のランチなんてこんなもんだと言い訳をしながら。


「あ、でもタッパー、けっこう油汚れついてるな」


 ただ、このタッパーを洗っている時、油汚れが気になった。スポンジでだいぶ落ちたが、ミートソースの油がヌメヌメ残っていて気になる。


 こういう時は、タッパーに水と洗剤を少し入れ、そこにちぎったクッキングペーパーを入れて振るとよく落ちる。主婦業も長いものだ。こんな豆知識もすぐに出てきてしまうなと苦笑しつつ、この通りにやってみた。


「あ、落ちた!」


 無事にタッパーの油汚れは綺麗になった。水滴も綺麗にはじき、スッキリとしたものだ。匂いも全然気にならない。


「うーん、映えないな。SNSに載せるほどでも……」


 苦笑してしまったが、たまには映えない投稿も良いかもしれない。綺麗になったタッパーの画像を投稿したら、いいねも反応もなかったけれど、あんまり気にならないから不思議。

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