タッパーの匂いが気になる時
主婦になって思う。タッパーがこんなに便利なものだとは知らなかった。おかずを保存する時ももちろん、これでパスタやチャーハンも調理できるし、ちょっと玉子をかき混ぜる時とかも便利。
「本当にタッパーって便利だわ」
樋口風香はそう呟き、タッパーに折ったパスタと水をつっこみ、レンチンする。あとは湯ぎりしてパスタソースをかけて完成だが、主婦の昼ごはんなんてそんなものだ。これから買い物や学校から帰ってきた息子を迎えてサッカーの教室へ連れていく予定もあるし、夕飯の準備、掃除、猫の世話とやることは盛りだくさんだ。
つい、出来上がったパスタも早く食べてしまう。風香は独身時代、看護師として多忙だったし、その癖が抜けないというのもあったが。
「うん? なんかタッパー、匂うな?」
食後、タッパーの匂いが気になったが、忙しさに負けてつい放置。そのまま洗い、洗いかごの中へ入れておく。
そのまま数日が経過した。相変わらず多忙だったが、ママ友に誘われてしまった。近所のカフェで「ママたちで息抜きしよう!」と言われた。正直、行きたくない。ママ友たち、愚痴っぽいし、旦那の悪口ばっかり。「離婚したい」とまで言うママ友がいて、夫婦仲円満の風香は居心地が悪い。
かといって断ると、色々言われる。息子の交友関係にも影響出そうだし、一応顔を出した。
現場のカフェに着いて数分後、さっそく後悔した。フェスはカントリー朝で可愛いお店なのに、ママ友たち、予想以上に愚痴大会を開いていた。旦那の不満だけでなく、株式投資の失敗談も混じる。とあるママ友は株で三百万も損したらしく、堅実に生活している風香は開いた口が塞がらない。
その上、風香もノリが悪い、テンションが低いと文句をつけられ、この場から浮いてしまう。口元をヒクヒクとさせながら、作り笑いをするしかない。
「つ、疲れた……」
帰って来たのはちょうど昼前。お昼ご飯を作る気力も失せる。
「なんなのママ友達って。株で失敗とか意味不明だし」
つい愚痴もこぼれる。ママ友たちの会話の仕方、ちょっとうつってしまったらしいが、短時間でも意外と影響されてしまった。
いつものようにタッパーでパスタを作って食べていたが、何か不満。いつもはこんな料理も特に不満はないどころか、タッパーの素晴らしさまで実感していたのに。
「あれ?」
ふと、気づく。やっぱりママ友たちから影響受けすぎだ。
タッパーの匂いうつりもやたらと気になる。
風香は慌ててタッパーの匂いうつりの対処法を調べた。便利なタッパーだが、匂いうつりしやすいという弱点があるらしい。
「へぇ、タッパーの匂いうつりは塩を大さじ三ぐらいいれて、ふる。しばらく放置して水で流すと消えるんだ」
さっそく調べた通りにタッパーの匂いうつりの対処をした。
ざっと水で洗い流し、さらにスポンジで洗うと、完全に嫌な匂いは消えた。ツルツルでピカピカ。弾く水滴も綺麗なもの。
綺麗になったタッパーを眺めていたら、ママ友たちの記憶も薄れてきた。もう愚痴も出てこない。いつも通りに戻ったが、人間も案外周りの人に影響されると気づく。
「うーん。もうママ友たちに会わなくていっか。どうせ向こうもノリ悪いって思ってるだろうしねぇ……」
そう決めてしまうと、気分もすっきりとしてきた。




