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日常を彩るライフハック短編小説集  作者: 地野千塩


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栗の甘露煮が余った時

 季節外れの黒豆、栗の甘露煮、お餅を食べていた。


「はあ、お餅ばっかりなのも飽きる……」


 泰村真音、三十五歳、ため息をつきながらお餅を焼いていた。こんな正月料理を春に食べているのも理由がある。


 金がないからだ。もっと簡単にいえば、貧乏だからだ。アウトットショップで安く買える食材は季節感はズレてしまう。季節感を無視すれば安く買えるし、お得ではあるのだが。


 真音はバツイチだった。子供はいない。元夫とは長年不妊治療を頑張っていたが、結果は良くなかった。そのこともきっかけで喧嘩も増え、去年、離婚にいたった。真音も自分が悪い面もあったと自覚があったし、円満な離婚だった。


 とはいえ、アラフォーのバツイチ女性に給料のいい仕事は見つからず、結局、食品工場で働いていた。生活できるギリギリの給料だ。上司や同僚もそんな感じで、アウトレットショップの噂を聞き、どうにか食費を浮かせていたが。


「ああ、もうお餅飽きたわ」


 愚痴しか出てこない。SNSを見れば「映える」投稿だらけ。クリームとチョコレートたっぷりのコーヒーの画像を見ながら、さらに不満が膨れる。真音がコーヒーを飲むとしたら、アウトレットショップのドリップコーヒーをお湯が薄くなるまで煮出すことが多い。


「あーあ。コーヒー、美味しそうだな」


 そんなため息をこぼしながらSNSを見たとき、ネット記事の引用を見た。栗の甘露煮のシロップをコーヒーに入れると美味しいらしい。


「へえ。そんなに美味しいもの?」


 栗の甘露煮とコーヒー。全く別物じゃないか。どうも結びつかないが、ためしてみるか。どうせアウトレットショップで入手した栗の甘露煮も冷蔵庫にある。


 お湯をわかし、安物のコーヒーを作る。これもアウトレットショップのもので賞味期限が近いから、早く飲まないと。


 安物といってもコーヒーのいい匂いが広がる中、スプーンで栗の甘露煮のシロップを入れる。コーヒーの匂いと栗の匂いが混ざり始めた。


 色は変わった様子はないが、本当に美味しいのだろうか。まずは一口。


「うん? これはマロンコーヒーか?」


 驚いた。昔飲んだフレーバーコーヒーと似たような飲み心地だ。ほんのり甘いのも悪くない。確かにクリームやチョコレートの味よりは地味だけど、元々は正月料理の余り物とは思えない感じ。


「これはマロンコーヒーだね。栗の甘露煮シロップコーヒーじゃない」


 そう言い換えるだけで余計に美味しいから不思議。そいえばカフェで売ってる高いコーヒーも原料は安いのかも。食品工場で働く真音は原料の安さはよく知っているし、高級品も安物も同じラインで作っていたりする。中身は大差ないのに、見せ方を変えて高く売っているもの、かなりありそう。


「そう思うと、別に安物でもアウトレット品でも別にいいか……?」


 もう一度、マロンコーヒーをすする。悪くない。映えないコーヒーだけど、自慢もできないけれど、味は確かにおいしい。


 

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