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日常を彩るライフハック短編小説集  作者: 地野千塩


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傘が乾かない時

 七月に入ってもジメジメしてる。窓の外からはポツポツと雨音が響く。


「はぁ。この時期、なんか憂鬱」


 雨川水穂は女子高生。来年受験もあり、そのことを考えるとさらに憂鬱。今日の宿題もあるし、推しのライブ情報だってチェックしないといけないのにやる気が出ない。


 傘も乾かない。今日の学校の帰り、急に雨が降ってきた。慌てて折りたたみ傘を広げた。折りたたみ傘はびしょびしょとすぐ濡れてしまった。もうそれだけで、楽しくない。今も部屋の中で折りたたみ傘を乾かしているが、雨水の匂いが鼻についてしまう。じっとりと重い匂いだ。なかなか消えてくれない。


「はぁ……」


 思わずため息をついた時だった。友達から通知が。


「は? 飯塚先生、結婚してたの?」


 そんなニュース。担任の先生が結婚するという。二十代の先生で、けっこう爽やかでイケメン。生徒からも人気があったが、先月の六月に入籍していたらしい。式はあげずに地味な結婚だったらしいが。


「そっかぁ。なんかショック」


 水穂も飯塚先生に憧れていた。好きとは言えないほどの淡い想い。ショックを受けると言って良いのかもわからないが、勝手に裏切られた気分になるから不思議。


 また窓の外から雨音が響く。ポツポツ……。そうか、この音のせいかもしれない。憂鬱な気分になるのも環境要因のせいと思えば少しは心が楽だ。


「それにしても傘、どうしよっかな」


 濡れた傘を見ながら、早く乾かす方法がないか考える。確か母はドライヤーで乾かしてた。そうすれば撥水効果も復活し、一石二鳥だと笑っていたのを思い出す。熱風で撥水加工の表面が整って復活するって飯塚先生も豆知識を披露していたじゃないか。


「そうか。ドライヤーで乾かすか」


 思いったらすぐ実行だ。水穂はドライヤーを洗面所から持ってくると、さっそくドライヤーにスイッチを入れる。ぶわっと暖かい風が吹く。濡れていた傘も徐々に乾燥してきた。思ったよりも早く終わった。あっけないほどだ。


「撥水加工、復活すると良いけどね……」


 そして翌日、この傘を持って学校へ。相変わらず薄曇りの天気で空気もじっとりしてるが、またポツポツと雨が降り始めた。


 さっそく傘を広げた。本当に撥水加工も復活してる?


 半信半疑だった。それでも、傘は昨日ほど濡れていないようだ。ちゃんと雨水をはじく。水滴がコロコロと傘の上を滑ってる。それに傘の下で聞く雨音、案外悪くない。


 ポツポツ♪


 雨音もちょっとした音楽だと思えば、そこまで憂鬱に思う必要はないかもしれない。


 こうして学校に到着すると「水穂、いつもより元気?」と友達に指摘されるほどだった。傘も復活したが、水穂の気持ちも復活したのかもしれない。

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