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日常を彩るライフハック短編小説集  作者: 地野千塩


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卵かけご飯を食べる時

 ゴールデンウィークといっても、部屋に引きこもり、読書三昧だった。


 机の上に買ってきた本を積み上げ、一冊ずつ読んでいく。それだけで豆岡真珠の口元はゆるんでいく。


 真珠の趣味は読書だった。学生時代は書店員になるぐらい本が好き。図書館司書の資格も持っているが、残念ながらその道に行くのは難しい。低賃金で生活は難しくなりそうだと悟った真珠は、工場の総務課で働いていた。


「あー、本読むの楽しかった……」


 一冊の本を読み終え、満足感で口元が緩むが、何か完全に満たされないものもあった。SNSを開けば好きを仕事にとか生きがいとか、自由という言葉の渦。ゴールデンウィークは家族や恋人との話題も多く、目眩がしそう。


 ふと、SNSの渦を思い出してしまうと、全く好きでもない仕事をしている現状、本当にいいものかわからない。


 目の前に積み上げられた本を眺めながら、何か心の穴が開いていくような気分だ。楽しいことをしているはずなのに、なぜだろう?


「あ、そうか。お腹減っていたからか」


 気づくと昼の十二時だった。まだご飯食べていない。こんな風にモヤモヤしていたのも、空腹だった辛かもしれない。


 冷蔵庫の中は昨日の余りのささみフライ、冷やご飯、納豆、卵もある。


「これで卵かけご飯を食べたら十分か」


 そうして昼ごはんの準備をする。レンチンで手抜き極まりないが、空腹時はこんなもんでいいだろう。


「そういえば……」


 昨日読んだ小説の中、主人公が卵かけご飯を食べるシーンがあった。貧困労働者の主人公だったが、卵かけご飯に感動し、もくもくと食べているシーン、なぜか心に残っていた。確か最初に醤油とご飯を混ぜ、最後に卵を落としていた。そうすると、より美味しくなるという。


 同じように試してみることにした。レンジで温めたご飯に醤油をかけ先に混ぜる。最後に卵を落として完成。


「いただきます」


 果たしてあの小説の主人公のように感動できるかはわからなかったが、箸をもち、まずはひとくち。


「あ、ちょっといつもと違うかも?」


 いつもの卵かけご飯、味が圴一にならず、どうもバラバラとした料理になってしまっていた。それはそれで悪くないが、今の卵かけご飯はそれがない。味にまとまりが生まれ、食べやすい。


「案外おいしいなぁ……」


 確かに小説の主人公のように感動はしなかったけれど、いつもと違う味の卵かけごはん。これはこれでアリじゃないか。


 食べながらお腹も満たされてきた。心の穴が満たされているかはわからない。それでも、この瞬間は良い気分だった。

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