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日常を彩るライフハック短編小説集  作者: 地野千塩


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ブロッコリーを買う時

 マッチングアプリ、見ているだけで感覚が麻痺しそうだ。


「あー、この人は年収が微妙だしな。顔もちょっと……」


 自宅のソファで寝っ転がりつつ、マッチングアプリを眺めていた。石川苗子、三十歳。そんな人の肩書きをとやかく言える身分でもない。大卒後はずっと事務職だったし、モテた経験もないくせに、こういうアプリを見ている時、ついつい上から目線になってしまう。


 まるで人を商品みたいに見えてくる。そこには恋愛感情どころか、人間らしい交流もない。実際、こういうアプリで知り合った人と長く続いた経験もなく、婚活期間だけが伸びている。


「なんか私、地上に残ったかぐや姫って感じ……」


 上から目線で求婚を断り続け、かといって月に帰りもせず、お爺さんとお婆さんと一緒に老けていくかぐや姫。


「いやいや、そんな悪い妄想したって仕方ないな。っていうかお腹減ったな」


 冷蔵庫の中を見ると何もない。買いに行くしかない。


 近所のスーパーへ行くことに。休日のスーパーマーケット、夫婦や家族連れも多く、一人で来ている人は少数だ。それだけで気後れもしてくるが、まずは野菜コーナーを見よう。今日はブロッコリーが特売らしい。


「あれ? 紫色のブロッコリー……」


 紫色のブロッコリーが売られいた。綺麗な緑色のブロッコリーと比べて色合いは悪い。腐っているように見える。誰も買っていないようで余っていた。


 見向きもされていないブロッコリーを眺めていたら、他人事にはなれない。腐っている可能性も高そうだったが、衝動的にカゴに入れてしまった。


「まあ、いいか」


 そして家に帰り、茹でて食べてみることに。紫色のブロッコリー、味はどうなんだろう。本当に腐っているのか気になる。茹でている時は特に変わった様子もなく、匂いも異変なし。


「うん? あれ?」


 味味してみたが、驚いた。紫色のブロッコリー、腐ってもないし不味くもない。むしろ甘い。おいしいじゃないか。


「え、嘘?」


 見た目はどう見ても悪いのに、いい意味で裏切られてしまった。


 ネットで検索すると、紫色のブロッコリーはむしろ美味しいらしい。寒い時、糖分を溜め込む時、紫色になってしまう副作用があるだけのことだったみたい。


「目から鱗……」


 見た目だけではブロッコリーの味、全くわからなかったらしい。腐ってると安易に思い込んだのもったいなかったみたい。


 しかも紫色のブロッコリー、規格外の訳アリ商品でしか買えない場合もあるらしい。


「それは本当にもったいないな……」


 もしかしたら、紫色のブロッコリーみたいな人、マッチングアプリにはいないかもしれない。見た目や肩書きは悪いけれど、食べてみたらとってもおいしい人。


「私、視野狭かったかも……?」


 もう一度、紫色のブロッコリーの味見をする。やっぱり甘くておいしい。




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