食パンを保存する時
とにかく新しいものが良いと思っていたし、流行の最先端を行きたい。
「マツリ、最新のスマホ? えー、いいな」
友達に羨ましがられ、調子に乗っていた加藤マツリ、二十歳。ファッションもスイーツも全部今流行っているものを追いかけ、友達やSNSに自慢するのが楽しかった。
しかし、そんな日々もあっけなく砕けた。交通事故にあい、右腕を骨折してしまった。しばらく実家の田舎で療養することに。
「何この、田舎。本当ファミレスもファストフードもコーヒーショップも何もないじゃん。全然映えない」
実家の縁側に座ると文句しか出てこない。医者には大したことないと言われている右腕だが、なんだかまだ痛む。利き手が使えないだけでとても不便だし、田舎の何もない風景にウンザリする。
「よぉ、マツリちゃん。暇か? ニートってやつか?」
隣の農家のおじさんにも揶揄われ、マツリの頬はぷくぷくと膨らんでいた。
「ニートじゃないし……!」
言い返すがおじさんは笑っているだけ。呑気そのもの。実に張り合いがない。
「何なん。骨折とか嫌だし……」
文句しか出てこないが腹が減る。右手が使えないため、片手で食べられるパンばっかりだけど。最近は食パンばっかり食べてる。バターもジャムもつけず、トーストもせずそのまま食べるだけ。どうせろくな食事はできないし、どうでもいいや。上手くいかない現実にヤケクソになっていた。
「あれ? なんかテーブルも上、食パンがいっぱいあるな……?」
そんな文句を言っていたのに、母が食パンを大量に買ってきたらしい。どうやら好き好んで食パンを食べていると誤解したらしいが。
「でもお母さん、賞味期限近いよ。こんな食パンどうするの?」
母はケラケラと笑っていた。
「それは文明の利器を使って冷凍するよ」
「冷凍したパンなんて美味しいの?」
確か、ラップにくるんで冷凍したパン、あんまり美味しくなかった記憶がある。
「アルミホイルに包んで冷凍するのよ。そうすると、そのままトースターで焼けるし、なぜだがとーっても美味しくなるわ」
「へえ?」
「アルミホイルに包んである食べ物ってなぜか美味しそうよねぇ。ピザもアルミホイルに包んで冷凍すると美味しいままらしいよ」
「へー」
そんなの迷信じゃないかと思ったが、翌朝。アルミホイルに包んだ食パンを焼いてもらい、片手で食べてみた。
確かに銀色のアルミホイルの上にある食パン、なぜか美味しそう。普通のトーストと何ら変化はないのに、アルミホイルのカサっとした音や表面の艶、食べ物をおいしく見せる何かがある?
「あれ? 本当に美味しい」
バターもジャムも何もつけないのに、香ばしい。サク、サクと軽い咀嚼音も何だか華やか。
「この食パンをおいしく食べられたら、それで良いよ」
母がまたケラケラと笑う。
「そうかもね?」
マツリは頷き、また食パンを齧る。今は流行を追いかけるのもお休み。上手くいかない現実もアルミホイルに包んで保存しておけば、おいしく食べられる気がする。




