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日常を彩るライフハック短編小説集  作者: 地野千塩


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冷凍チャーハンを温める時

 年度が変わった。おかげで忙しい。


 そろそろベテランという年齢の青海燈子、新入社員の指導も任され、疲労困憊中。


「若い人の言葉とか意味わからない。素直すぎるというかさあ。指示待ちっていうか」


 家に帰っても愚痴が出てしまう。一人暮らしが長い燈子、孤独な愚痴もベテランの域だ。


「それにあの新人、二十代中盤とか歳とるのこわーいとか言ってたわ。アラフォーの私への嫌味かよ?」


 愚痴というより被害妄想になりかけた。これはまずい。慌てて愚痴を止めたら、急にお腹が減ってきた。こんな疲れた日、あんまり料理はしたくない。


 冷凍庫を漁ると、冷凍チャーハンがあった。こんな疲れた時は救世主だろう。


 さっそく皿に盛り付け、レンジで温める。油の香ばしい匂いが漂う。冷凍食品らしい濃い味付けが今は美味しいが。


「あ、まだ冷たいお米混じってるわ。冷凍チャーハンは温める時ムラができるのが難点よな」


 また愚痴が溢れてしまった。急に冷凍チャーハン、不味くなってきた。


 それに一人暮らしもベテランな癖に、こんな冷凍チャーハンの夕食ってどうなんだ。スローライフとか丁寧な暮らしに憧れていたんじゃないのか。皿やコップは北欧風のデザインに統一している癖に、冷凍チャーハンでいいのか?


 いつのまにか自分への愚痴も止まらない。まるで自分の中にモラハラ人格が棲みついているみたいじゃないか。モラハラ夫だったら離婚したり対処方法があるが、自分の中に棲みついてしまった場合、どうしたら良いのか?


 もう冷凍チャーハン、全然美味しくない。わざわざ自分で不味くしている状態だったが、どうにか完食。


「はぁ……」


 ため息しか出ないが、仕事は相変わらず忙しく、数日後もまた冷凍チャーハンのお世話になることに。


「あの新人! 退職代行使って辞めたわ! まさか一週間しかいなかったとか予想できない……」


 今夜も疲労困憊。明日から新人が抜けた穴の業務も増え、今から肩が重い。もう愚痴すら出てこないが、またムラのある冷凍チャーハンは食べたくない。


「あ、そっか。ネットで温めるコツ調べてみるか」


 それぐらいの力は残っていたらしい。


「なるほど、温める前にざっくりとダマを叩いて、まんなかを空けてドーナツ状で皿に盛ると良いのか」


 少しの手間だ。それでも、この手間をかけることで冷凍チャーハンを食べる罪責感が消えていく。


「小さなひと手間って大事なのかも?」


 出来がったチャーハン、ムラもない。全体的に温まり、この濃い味付けが疲れた身体に沁みてきた。


 たまには良いんだ。忙しい日もあるから、冷凍食品に頼るのは悪いことじゃない。


「そうだよな……」


 気づくと、チャーハンを完食。北欧風のデザインの皿も綺麗だ。残念ながら丁寧な手料理を乗せられないけれど、今日ぐらいはいいか。たまには自分を許してみても。


「さて、明日から忙しいし、もう寝るか」


 愚痴を吐く時間も無駄だ。皿を洗って片付けたら、さっさと着替えてベッドに寝転がろう。


 

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