File06:再起
『脳への影響なし。
人工皮膚・内臓、四肢の稼働に異常なし。
修復・テスト完了。
システムオールグリーン、再起動します』
お寝坊さん早く起きてーー。
薫の声。
何があろうと魂を手放すなーー。
親っさんの声。
目を開けると四角い白いライトが幾つも並んだ天井が見えた。
ウィーンという駆動音と共にカメラが付いたアームがこちらを覗きこんでくる。
『おはようございます。ご自身のお名前を言って下さい』
「雨宮、愁染…」
『意識の混濁・回答スピード異常なし。
では、私の動きを目で追って下さい』
ゆっくりと上下左右に動くアームを目で追う。
『視覚の稼働異常なし。ではご自身でゆっくり身体を動かして下さい。違和感があれば報告をお願いします。』
慎重に身体を起こして手足を動かす。
問題ない。
「問題ない」
『身体稼働の本人確認異常なし。確認完了。
付き添い人の村雨悠仁様に連絡します』
間もなくしてシュンという扉が開く音がした。
「兄貴!」
「悠仁…って、うお!」
悠仁が勢いよく抱き着いてきた。
「良かった…本当に」
「あぁ、無事だったんだな」
お互いの無事を確認し安堵する。
爆風で負ったであろう傷も、戦闘で浴びたオイルも時間が巻き戻ったようになくなっている。
それは悠仁も一緒だった。
「…ここは、病院か?」
「はい。街の人達が俺達を運んでくれたみたいで」
「そうか…。親っさんは?」
「……」
悠仁が拳を固く握りしめて、今にも泣きそうになりながら首を横に振る。
分かっていた。
親っさんは俺達を守るために亡くなった。
最後に見せた穏やかな微笑みが鮮明に蘇る。
「悠仁、タバコ持ってるか?」
「はい、ライターも」
悠仁からタバコ1箱とジッポライターを受け取り、ベッドから立ち上がる。
「兄貴、何処に行くんです?」
「……外で吸ってくる。そいつが問題ないって言ったからな」
アームを顎で指す。
悠仁が心配そうに見つめてくる。
「……そんな顔すんな。悪いが一人にさせてくれ」
「わかりました…」
屋上に向かうと人は誰もいなかった。
キィンとジッポライターを開いてタバコに火をつける。
まただ。また一人、大事な人を失った。
俺は大事な人を不幸にする死神なのだろうか…。
上から見下ろす街並みはひとつも変わらない。
一人の命が散り、それを悲しむ人間がいても気にも留めない。
親っさんが抱いた絶望が痛いほどわかる。
親っさんは奥さんとあの世で逢えただろうか。
空は雲一つなく星が瞬いている。
俺にできるのは戦うことだけ。
「…どうか安らかに眠ってくれ、親っさん。」
タバコを握り潰し、屋上を後にする。
戻ると悠仁が俺の着替えを持って待っていた。
一頻り泣いた痕が残っている。
「行くんですよね、兄貴」
「もちろんだ」
着替えをしながら悠仁に質問していく。
「現場のサツの動きは?」
「俺達が運ばれた頃に到着、現場は一通り洗ったみたいです。予想通り、ヤクザ同士の抗争で片付けるようです」
「黒ずくめの奴ら、懸賞金がどうのって言ってたがそっちは?」
「懸賞金をかけた奴を探したんですが、こいつまるで煙みたいで証拠がひとつもありませんでした。でも黒ずくめの男達を送った連中を割り出せました。来栖組、氷室組です。どちらも親っさんの次の座を狙ってた奴らですね」
「上出来だ。懸賞金は悠仁が追えないとなると3年前にジャンク屋に現れた奴かも知れねぇ。奴等には洗いざらい吐いてもらう」
「あ、車がサツに持ってかれちゃったんで新しいの用意しときました。データ上書き済みですからいつも通り呼んで大丈夫です。」
着替えを済ませ、車を呼ぶ。
「まずは来栖組だな。行くぞ、悠仁」
「目にもの見せてやりましょう!」
来栖組の事務所の死角に車を停める。
「悠仁、偵察頼む」
悠仁の前にキーボードとパネルが現れ、高速タイピングで周囲のカメラをハッキングしていく。
パネルを共有してもらう。
外には偵察用ドローンが二機、事務所を一周するようにプログラムされている。
組員達は中にいるようだ。
「奴らは全員いるか?」
「います。出かけているのはゼロですね。
うわぁ、コイツら親っさんが亡くなったからって酒飲んでます。俺達が生きてるのも知らないで」
「救いようがねぇ連中だ。これが親っさんの後釜なんざ反吐が出る」
「同感です。…3Dスキャン完了したので共有しますね」
事務所の中が緑色に映される。
「四階建てで、赤色に点滅してるのが組員達です。組長を含め殆どが四階にいますね。残りはそれぞれ他の階にいるみたいです」
「よし、悠仁はハッキングで支援してくれ」
「えぇ~、俺も暴れたいんですけど!」
「氷室組か般若面の男が来るかもしれねぇ。
挟み撃ちされたら面倒だ」
悠仁が頬を膨らましてムスッとする。
本当にコロコロ表情が変わる奴だ。
「…そういうことだ頼んだぞ」
「はぁい…」
スティックを日本刀に変形させて正面玄関に向かった。




