File05:崩壊
事務所に戻った俺は悠仁に親っさんが長くないことを伝えると、悠仁も俺と同じように信じられないと心の底から落ち込んでいた。
事務所には重い空気が流れていた。
自室でベッドに横になったがなかなか寝付けずにいた。親っさんにもらったジッポライターを開けたり閉じたりする。
キィン、カン、キィン、カン…。
銀色で『Souls Meet Beyond Time』と刻まれたシンプルなデザインになっていて、所々に擦り傷があった。
彫られた文字を指でなぞる。
「魂は時を超えて巡り合う…」
親っさんも俺と似た境遇だった。
俺がここにいて、生きていられるのは親っさんが拾ってくれたおかげだ。
薫を失い、警察に犯人扱いされ、全てに絶望していた俺に光を射してくれた。
生きていてくれたから、出会えたのだ。
感謝してもしきれない。
明日になったら何か出来ることはないか聞いてみよう。少しでも恩返しがしたい。
枕元のサイドテーブルにジッポライターを置いて眠りについた。
翌日にさっそく悠仁と二人で何か出来ることはないかと親っさんに聞いた。
「まだ倒れたりしてねぇってのに気が早いなお前さん達は。そんなに儂はやわじゃねぇから心配すんな」
「でも…」
悠仁が食い下がる。
出た、愛想がいい悠仁の必殺技が。
耳と尻尾を下げてクゥンと鳴く仔犬のようになっている。
親っさんは悠仁のこれに弱い。
なんなら正直、俺も弱い。
「はぁ…ったく、わかったわかった!
儂の好きな酒を丁度昨日で切らしちまったから、それとついでに生活に必要な備品も買ってきてくれ」
「は~い!親っさん!さ、兄貴行きましょう!」
悠仁に腕を引っ張られ、仕方なく付き添うことにする。
「では行ってきます。親っさん」
「あぁ、気をつけてな二人とも」
頼まれた酒と備品の買い出しを済ませて、
悠仁の話を聞き流しながら事務所に向かっていたときだった。
俺は買い物に行く前と後で街の雰囲気が違うのに気づく。
ピリついているのだ。
すれ違う人達がちらちらとこちらを見ながら通り過ぎていく。
「…何かあったんですかね」
「妙だな…」
嫌な予感が脳裏を過る。
すると1人の年配の女性が悠仁ちゃん、悠仁ちゃんとこちらに向かって駆けてくる。
「どうかしたのお婆ちゃん?」
「さっき、篁さんのところに黒ずくめの男達が入っていったのを見たの。銃とかバットを持ってた。みんな抗争が始まったんじゃないかって言ってる」
それを聞いた瞬間に走り出す。
「あ、兄貴!ごめんお婆ちゃんこれ持ってて!」
道路に飛び出しクラクションを鳴らされるのも構わず、急いで車を呼び出す。
自動運転で向かってきた車に急いで乗り込む。
「悠仁、早く乗れ!」
「はい!」
悠仁が乗ったのを確認してアクセルを踏む。
車や人にぶつかりそうになりながら道路を疾走する。
「間に合ってくれ…!」
事務所の前に滑り込むように車を停止させる。
割れたガラスに黒ずくめの残骸。
血の色に着色されたオイルが床を染めている。
俺たちが着くなり、黒ずくめの男達に囲まれる。
「来たか、篁の忠犬ども」
黒ずくめの1人が口を開く。
スキャンしたが何も出てこない。
「生憎こっちには挨拶する余裕がねぇ。死にたくなきゃ道を開けやがれ」
「篁もお前たちも生きて返さねぇ。懸賞金はたんまり頂くんでな。この数だ。てめえらに勝目なんざねぇんだよ」
腰のベルトに着けたホルスターから銀色の片手程の長さのスティックを取り出して、悠仁に銃を投げ渡す。
スティックのスイッチを押して、日本刀に変形させる。銀色の刃先が赤いオイルを反射している。
「あぁ…兄貴。暴れすぎて事務所壊さないでくださいよ」
「おう。…さて、時間切れだ野郎共。俺らに喧嘩売ったことを後悔させてやる」
ガシャンと2階の窓から奴らの仲間の1人が落ちてくる。
戦いの火蓋が切られた。
一瞬で距離を詰めて二・三人を一文字の如く、真っ二つに切り裂く。オレンジの火花とオイルの赤が花を咲かせる。
「よっ、ほっ!」
悠仁は複数人の攻撃を軽い動きで避けて、銃と脚の仕込みブレードで相手を翻弄させて致命の一撃を叩き込んでいる。
一人の胸部を刀で突き刺したまま弧を描くように周囲をなぎ払う。一人の敵の手から落ちたサブマシンガンを拾い片手で乱射してなぎ払った連中を制圧する。
俺の背後に迫る連中を悠仁がハッキングして動きを一瞬止めた。その隙を逃さず、持っている武器ごと両断していく。
悠仁を撃とうとしている奴に先ほど使った空のサブマシンガンを投げつける。
「さっすが~!」
当たって怯んだ瞬間にブレードが首を刈る。
悠仁が離れているのを確認して、残りの連中に目にも止まらぬ斬撃を無数に浴びせ、オイルを払って刀を仕舞う。
雨が降り注ぐ。
残ったのは残骸の山と赤の海。
「悠仁、怪我は?」
「大丈夫です!」
「よし、親っさんのとこに急ぐぞ!」
2階に駆け上がってドアを蹴破る。
そこには爆弾を身体中に纏った黒ずくめの男と
こめかみに銃を突きつけられた親っさんの姿があった。爆弾のタイマーが開始され残り1分をきっている。
「動くな!」
男の一声に俺と悠仁は動きを止める。
悠仁がハッキングを試みようとした。
「ハッキングするな悠仁!お前さん達も巻き添えになっちまう!」
「黙れ!」
ガンッと男が親っさんを銃で殴る。
怒りと悲しみに手が震える。
「……悪いな、悠仁、愁染」
すると親っさんは一瞬で男の銃を奪い、奴の頭を撃ち抜いた。
「親っさん!」
「来るな!」
残り20秒。
「何があろうと魂を手放すな」
残り10秒。
俺と悠仁を親っさんが両手で吹き飛ばす。
親っさんは俺達に向けて穏やかな笑みを浮かべていた。
遠ざかって行く親っさんに手を伸ばす。
光。
背中から窓を突き破り地面に叩きつけられる。
激しい耳鳴りと激痛が身体を支配する。
ぼやけた視界に燃え盛る事務所が映った。
意識が遠のいていき、真っ暗闇に包まれた。




