File02:蜥蜴の尻尾切り
篁の親っさんがとあるジャンク屋の帳簿を洗ったところ、3年前に富裕層に雇われる傭兵用の強力な戦闘用ガジェットが複数回に分けて取り引きされているのを見つけた。それも富裕層しか払えないかなりの額で。
そこは3年前以前から戦闘用ガジェットではなく、今はほとんど手に入らない紙の本やレコードなど人類がかつて好んだアナログな商品を取り扱っている。
戦闘用ガジェットはその時だけで、それ以降はアナログ商品の取り引きばかりだ。
もしかしたら、ここで奴が般若の面を購入したかもしれない。
早速、ナビを設定して向かう。
店はネオンが輝く大通りから外れ、物乞いの多いスラム街の奥にあった。
店に続く道は紙屑やパーツの破片など様々なゴミが散らばっている。
カラスが道端に捨てられた袋を仲間とつつき食べるものを探していた。
華やかな大通りとは真逆な場所だ。
「ここの人たち、パーツが欠けてる人たちばっかりですね。人工皮膚もボロボロ…」
「なんかやったりすんなよ。奴らがお前の優しさに溺れて面倒なことになるのは御免だ。あと掏られたりするから大事な物はちゃんと持っとけ」
「はい…」
ナビが到着を告げる。
店は3年前に大金を仕入れたというのに随分寂れている。
急に外観が高級になったら物乞いが群がってくるだろうから大金を隠すのが無難だと踏んだらしい。
「ここだな」
ドアを開けるとカランというドアに付けられた鐘が虚しく響いた。
黄色い電球がぽつんと灯っている。
棚には紙の本やレコード、紙のタバコなどアナログな商品がところ狭しと並んでいた。
よく見るとどれもうっすら埃を被っている。
客はほとんど来ていないようだ。
「いらっしゃい…」
中年で体格のいい店主が顔を覗かせた。
俺は一目で店主自身に金をかけているのがわかった。
スラム街で店をやるには、不自然なくらい綺麗すぎる。
「久しぶりのお客さんだ。何をお求めで?」
「悪いが、あんたに聞きたいことがあるんだ。篁組って言えばわかるよな?」
組の名前を聞いた途端、背を向けて店主が逃げ出そうとしたところをすかさず服の襟を掴んで阻止する。
「おっと逃げるってことは余程やましいことがあるみてぇだな」
後頭部に銃を突きつける。
「ま、待ってくれ。殺さないで」
「質問に素直に答えてくれりゃあ命までは取らねぇ。さて、続きは奥で話そう」
奥の部屋で椅子に店主を縛り付ける。
「悠仁、お前はこいつの代わりに店番頼む」
「はい兄貴!」
ドアを閉めて鍵ををかける。
さあて、ともう一脚の椅子を引き寄せて逆向きに座る。
「あ、雨宮さん…上納金をウチも納めろってことかい?」
「必要ねぇ、今のところはな」
「…」
「あんたスラム街に似つかわしくない程、外見に凝ってるみたいだな。…3年前の取引と関係があるんだろ?」
「3年前?ウチはアナログなモンしか扱ってない」
「3年前にあんたは富裕層の傭兵が使う戦闘用ガジェットを複数回に分けて取引している。
それもかなりの額でな。男が1人来たはずだ」
懐から、奴が身に付けていたものに近い般若面の写真を突きつける。
「般若面を被っていた、もしくはここで戦闘用ガジェットと一緒に般若面を購入してなかったか?」
「こ、こっちにも守秘義務ってもんがあるんだ。顧客の情報は教えられない」
「守秘義務か…。口の固い奴は嫌いじゃねえよ」
店主の視覚にハッキングをする。
ノイズを走らせて不安を煽るためだ。
「ゔぁ!何をした!」
店主の目に赤い光が灯る。
「人はまず目から情報を仕入れる。赤の他人に食べ物に服とか車…。今はそれに目を向ければ、ポップアップがどんな人間か、カロリーは、成分は、サイズは、値段はこれだって教えてくれる。だが目が使えなくなったらなにもわからない。あんたは今普段どれだけ目に助けられいるかそれを痛感してるはずだ」
椅子から立ち上がり店主の前に向かうとナイフを取り出す。
「つまり、残った耳と触覚で判断しなきゃならない。俺が何かをするまでわからない。」
「ヒィッ、や、やめてくれ。」
店主の靴と靴下を乱暴に外す。
右足に冷たいナイフの面を這わせる。
「さっさと話せ。でないと指を1本ずつ詰める。手も合わせて20本だ。それより下回りたくなけりゃ話せ」
「だ、駄目だ。話したら俺が殺される!」
右足の親指に掠れる位置にナイフを思い切り振り下ろす。
「最後の警告だ。話せ」
「わ、わかった!話す、話すから!」
「…3年前のある日、店を締めようとしたら妙な奴が来たんだ。黒いフードを被ってて顔は見えなかった。合成音声だったから男か女かは知らねぇ。目で情報を確認したが何も出てこなかった」
「で、そいつは何て?」
「何も聞かずに、富裕層の傭兵が使う戦闘用ガジェット一式用意しろと。自分が用意したルートを使えば誰にも目をつけられないからって。それで奴が俺に持っていた手提げカバンを開けて大量の現金の札束を見せたんだ。余った分は俺にやるって」
「なるほど。現金なら金の流れが電子マネーより追われにくい。それで?」
「金に困っていたのは事実だったからのったよ。仕入れたものから奴に渡した。複数回取引してたのはそのためだ。」
「般若面は?」
「面は幾つか取り扱ってるが、般若面は無い。用意しろとも言われてない」
「嘘ついたら針千本飲ますだったか?」
右足の小指にナイフを当てる。
「本当だ!信じてくれよ!」
「カメラは?」
「ハッキングされてて残ってない!」
「悠仁!カメラ調べろ!」
悠仁を中に入れて店主のPCでカメラを調べさせる。
「……そいつの言う通り、ハッキングで消されてます。奴は相当なやり手ですね。」
「チッ…!」
自分の椅子を蹴り飛ばす。
「悠仁、カメラの記録の消去とついでにこいつの記憶も改竄しとけ」
「はーい!それじゃ、バイバーイ!」
悠仁がハッキングをする。
「嘘だろ、おい!待て嫌だぁ!」
店主が激しく痙攣し、椅子にぐったりともたれた。
手足を解放してやると、店を後にした。




