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SecretFile03:兄弟の休日③

映画館を出てショッピングモールに向かう。

暫く放心状態でいたため、ここに着くまでの記憶が曖昧だ。

悠仁が隣でバイタルチェックをしていたような気がするが。

「兄貴、どこ見ます?ついていきますよ」

「見たいものと言ってもな……」

マップを一通り見てみる。

正直ここは男二人で来るというより、恋人達や家族連れが来るイメージが強い。

俺はただでさえ恐がられやすいから早めにずらかりたいところだ。

かといって悠仁がリストを作ってくれたのだからそれを無下にはしたくない。

悠仁が隣でしかめっ面の俺に笑いを堪えている。

「あの、兄貴ちょっといいですか?」

悠仁が声を静かにして話しかけてきた。

「どうした」

「あそこにいる小さい女の子見えます?」

悠仁の視線を追うと5歳ぐらいの小さい女の子が周りをきょろきょろと見ながら不安そうな顔をしている。迷子だろうか。

「悠仁、行ってこい。俺だと泣かれるのが目に見えてる」

「は~い」

悠仁が女の子の所へと駆けていく。

愛嬌があるから子供には好かれやすい。

こういうのはあいつの方が向いている。

その間俺はマップに視線を戻して時間を潰す。

すると悠仁がチャットを送信してきた。

『兄貴、この子どうやら一人で来たみたいです。母親に誕生日プレゼントを買いに来たとかで。調べてみましたが、両親は事故にあって父親は脳破壊で他界し母親は一命を取り留めて入院中のようです』

『店員に引き渡してこい。俺らが出る幕じゃない』

『でも、この子放っておけないです。力になってあげられるかも』

悠仁の方を見ると、仔犬が二匹に見えた。

頭を掻いた後に返信する。

『後を追うからお前が先導してくれ』

『ありがとうございます、兄貴!』

二人を後ろで見守りながら、怪しまれないように振る舞う。

花屋に本屋にアクセサリー店と見ていく。

時折女の子がお菓子やおもちゃなどを物欲しそうに見ていることに気付く。

母親のために我慢しているのだろう。

健気な子だ。

色々見た結果、小さい花形がたくさんついた髪飾りを選んだようだ。

悠仁が会計をしているとき、女の子が側を離れていくのを見て後を追う。

その子はガラス越しに2組のテディベアを見ていた。赤と青のカーネーションをそれぞれ抱えているデザインのようだ。

すると、夢中な女の子の元にこの辺りには似つかわしくない男の二人組が近づく。

明らかに「こちら側」である。

俺はすかさず割って入った。

「…うちの子に何か?」

「あ?……⁉」

ハッキングで動きを止めて二人組にだけに聞こえるように呟く。

「さっさと失せろ。次その面見せたらこんなもんじゃ済まさねぇ」

俺の圧力に屈したようでギギッと頷いた。

解除すると一目散に去っていった。

その場を離れようとすると、袖を軽く引っ張られる。女の子が袖を掴んでいた。

しまった…。

泣かれるかと覚悟したものの、その様子はない。屈んで目線を合わせる。

「あー…えっと、怖くなかったか?」

「うん。ずっと見ててくれてたでしょ?

ありがとうおじさん」

『おじさん』が頭の中で延々と木霊する。

「……おう」

『兄貴、あの子知りませんか?』

『俺のとこにいる。気付かれちまった』

『泣きました?』

『泣かなかった』

『いや兄貴がです』

『泣くわけねぇだろうが!全部聞いてやがったな⁉』

悠仁と合流すると一旦悠仁の頬をつねる。

仏の顔も三度までだ。

「あにひ、ふひはへん!いあいへふ!あいへひひへはふー‼」

(兄貴、すみません!痛いです!マジで千切れますー‼)

女の子を店員に引き渡す。

疲れが押し寄せてため息をつく。

「悠仁、リストのやつ買ってこい。俺は疲れたから車に戻る」

リストを送信して車に向かう。

あの子の母親が入院している病院宛に親っさんからの資金を送金する。これで少しは負担も減るだろう。


陽も落ちて来た。悠仁の提案で夜景をながめるため人気のない丘に向かった。

タバコを吸いながら夜景を眺める。

街中で見るとネオンの賑やかさに目眩がするが、丘の上で見るともう一つの星空のようで美しいと感じる。

少し見方を変えただけでこんなに印象が変わるのだと感心する。

「兄貴、今日は付き合っていただいてありがとうございました!」

「断ったところで強制連行されるのは目に見えてたからな」

「それにしても兄貴がテディベアを購入するなんて驚きましたよ!薫さんにですか?」

「まぁ、そんなところだ…」

病院への資金を送金したついでに、あの子が一番目を輝かせていた2組のテディベアも匿名で送った。

「悠仁、晩飯奢れ。俺を散々振り回したツケ払ってくれよ?」

「はいもちろんです!」


読者の諸君、読んでくれたことに感謝する。

少しでも心を動かせたのなら幸いだ。

世界は様々な試練を理不尽に課すだろう。

もし、理不尽さに悲鳴をあげそうになったら自分の心が寄りかかれるものや場所に逃げ込むんだ。それがきっと君達の魂を証明し続けてくれる。

ーそういうものや場所がない?

それなら、この番外編を逃げ道にしてはいかがだろうか。色々あったがそれで笑顔になってくれたならば嬉しい。

君達の魂がすり減ることのないよう祈っている。


…そういえば、もし悠仁がメイドカフェの俺の姿を君達に見せようとしたら言ってくれ。

何が何でも俺の黒歴史を世に放たれるのは避けたいからな。

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