File17:機械仕掛けの愛
「……さて、私にはやらなくちゃならないことがあるの」
薫が柱の方に向かい、柱にそっと手を置きながら語る。
「ここには篁夫妻の記憶と私達の情報が眠っている。私が複製体だと知ったとき、ここで奥さんの記憶を見た。彼女がどんな人でどう生きて亡くなったのかを知るために。彼女の魂の叫びを聞いた。世界が希望に満ちる中で、ただ一人絶望を抱いた女性の声を。……記憶を見終わる直前に彼女が私に語りかけてきたの。彼女は篁を狂わせてしまったと後悔していた。彼は優しいから、救えなかったと自責の念に駆られて私達を生み出し世界を少しでも変えて償おうとしている。そんなことをしないでほしい。彼と私達が幸せに生きていてくれればそれでいい。世界が誰かがなんと言おうと最期まで自分という魂を燃やしてほしい。それが証明することだからと。彼女の言葉が存在意義がわからなくなっていた私に意義をくれた。もう一度記憶を見たけど私に語りかけた部分は見当たらなかった」
青白いパネルへと薫が移動する。
「彼女の魂がきっと私に会いにきてくれたんだと思う。彼女にそれができたのなら、私がいなくなってもあなた達に会いに行ける。
だから……ガルダがここに来る前に私が全て持っていく。篁夫妻の思いもあなたと悠仁の苦しみも全部私が背負って逝く。それが彼女と同じ名前をつけられた私の魂の証明…」
薫が片方の手を翳す。
柱に青白い輪が現れる。
するとパネルが赤に切り替わり、警告が鳴る。
『破壊コードの入力を確認。自爆モードに移行します。施設内にいる者は直ちに避難してください。繰り返します…』
柱に火花が散り、研究所のあちこちから爆発音がした。立っていられない程の揺れが襲い、天井からバラバラと破片が降ってくる。
薫はパネルの前に立ち尽くしたままだ。
「薫!何してる、早く逃げないと!」
薫がこちらに微笑みを向ける。
その笑みが意味するものに気づいて走り出す。
「逃げて愁染。悠仁はドローンを使って外に運んでるから」
目の前に天井の大きな瓦礫が落ちてきた。
その揺れに倒れ込む寸前、薫のいる地面にひびが入るのが見えた。
地面が割れ、薫が落ちていく。
その瞬間、俺の中の何かが切れた。
足元が割れる程の強さで地面を蹴って薫を追う。
視界に、強制リミッター解除による身体へのダメージの警告が表示された。
邪魔だ!
周囲の瓦礫を縦横無尽に駆けながら、落ちていく薫を死に物狂いで追う。
人工皮膚が破片で裂けていく。脚が瓦礫を蹴る強さに中身が露になる。
どんなに醜い姿になろうと構わなかった。
薫だけが全てを背負うなど、そんなことは許さない。
君が俺に言ったように、雨宮薫としての魂を燃やしている君だからこそ今度は俺がーー!
活動限界が迫る警告が視界を遮る。
うるさいうるさいうるさい‼
もう少し、もう少しで手が届く!
ーアクセスを承認 文章生成を開始ー
落ちていく、落ちていく、どこまでも。
これで全てが収まる。二人共もう苦しまなくて済む。これでいい、これでいいの。
「薫ーーーーーーー!」
目を開ける。そこには愁染がぼろぼろになりながら私を追う姿があった。
ああ、どうして…。きっと痛いはずなのに。
あなたにこれ以上苦しんでほしくない。
そのためにここにいるのに。
愁染と過ごした日々が浮かぶ。
朝が弱くて、いつも私が起こしてた。
何気ないことで笑って泣いて、幸せだった。
真っ直ぐで不器用で、誰よりも優しい彼の穏やかな笑顔。それを守りたいから、幸せでいてほしいから全てを棄ててここにいる。
なのに、なのに…。
視界がぼやけていく。
ーアクセスを承認 文章生成を再開ー
頬に一粒の雫が当たる。
薫が泣いている。頬に当たったのは彼女の涙だった。
辛かっただろうに。もう一人で抱えなくていい。
俺も君の荷物を背負うから。
俺も薫も手を伸ばす。
指先が触れあい互いの手が絡み合う。
引き寄せて強く抱き締めた。
それは薫も同じだった。
「薫」「愁染」
互いに名を呼び、顔を見つめる。
もう離さない。
口づけを交わす。
これが雨宮愁染と雨宮薫の魂の証明だ。
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ー不正アクセスを検知 文章生成を中断ー
『雨宮愁染・雨宮薫、両者の反応のロストを確認 これにて村雨悠仁の観察者の業務を完遂とする』




