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File16:雨宮薫

俺も悠仁も薫も造られた存在だった。

ここまでに至る全ては人形劇に過ぎなかったのだ。

地面が崩れていくような感覚が襲う。

今胸の内側で渦巻いているのはなんなのだろう。

魂か?ただのプログラムか?

わからなくなる。

『壊れる前に全てを投げ出して逃げたっていいんだ』

草薙さんの言葉が聞こえる。

逃げる...。

こんなに自分の存在意義に苦しむくらいなら…。

ホルスターから銃を取り出して側頭部に突きつける。引き金を引けばこの苦しみは一瞬で消え去る。

『……愁染、悠仁達も影で悩み、苦しみながら生きているんだ』

二人は俺と同じように絶望したはずだ……。

なのに悠仁も薫も生きている……。

死にたくなるほど残酷な真実を告げられてなお、生きていられるのはどうしてだろう。

『お前さんのために二人が自ら動いたんだ。

自らの意志で悩み、苦しむことを選択した』

俺のためにどうして…。

すると簡易マップの最奥を赤い点が示した。

そうだ、薫が待っている…。

生きた屍のようにふらふらと向かう。

俺を動かしているのはなんなのだろう。

俺についてくるように足元の照明が灯っていく。

赤い点が示す最奥の扉は頑丈な造りだった。

扉がシュンッと左右に音を立てて開く。

中央に施設の核である巨大な柱が聳え立っている。肌色がかった光が中を満たしている。

青白いパネルの前にフードを取った女性の後ろ姿があった。

「薫、なのか…?」

振り向いた彼女は三年前と少し変わっている。

長かった髪は肩のところでバッサリと切られていた。

「そうよ。久しぶりね、愁染。…ひどい顔ね」

夢と同じようにハンカチで涙を拭ってくれた。

薫が俺を抱き締める。恐る恐る背中に手を回す。夢ではない、生きている。

張りつめた糸が切れたように涙が溢れてくる。

腕の中の薫をただただ強く抱き締める。

「生きていてくれたんだな…薫」

「ええ、愁染も無事でいてくれてよかった。

悠仁とは決着をつけたのね。彼はずっとあの日のことを引きずっていたから…。直ぐに治療室に運べたから彼は大丈夫よ」

「さっきのドローンは君が送ってくれたんだな。ありがとう」

薫が頷く。

「…あなたには辛い思いをさせた。悠仁にも。本当にごめんなさい…。あなたを複製体から魂がある人間にするために死を偽装したの」

「どうして俺のためにそこまで…?」

「私が元凶だったから。私が遺した言葉が篁を狂わせた。神に近づく人間達に肉体と魂の尊厳を取り戻させるために私達を兵器として扱おうとしていたから。そんなことは彼にもあなた達にもさせたくなかった。ジャンク屋で武器ガジェットを購入したのも、氷室組を壊滅させたのも、ガルダからあなたを救ったのも私がやった。氷室組に居たのは奴らが富裕層と繋がりが深かったからなの。あなた達の追手が少なくなるように。悠仁にハッキングしたのはあなた達を隠れさせるため」

たった一人で俺達のために影で動いていた薫。

観察者の役目を与えられ、笑顔の裏で心に血を流し続けていた悠仁。

二人共、大切な者のために全てを背負って生きてきたのだ。それが二人が選んだ美しくも切ない生き方…。

俺は二人が苦しんでいたのに何もできなかった。守るどころか、守られるばかりだった。

「俺は守られてばかりだな…」

「存在意義がわからなくなっているのね。

守られてばかりだから、価値なんてないと」

彼女はいつも勘がいい。彼女の前で嘘はつけない。

「あなたこそ、守られる価値があるのよ。

どれだけ絶望に堕ちようとあなたは自分の足で歩んできた。今私の前に居るのはあなたが歩みを止めなかったからよ。雨宮愁染としての魂を燃やして生きているあなただからこそ私達は守りたかったの。だから価値がないなんて思わないで」

薫の言葉が迷子になっていた俺に光を射した。

そうだ、俺は親っさんの複製体じゃない。

俺は雨宮愁染という一人の人間だ。

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