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File15:真実

悠仁を刺してしまった衝撃に足がふらついている。

『それで、いいんだ……兄貴』

あまりにも穏やかな悠仁の微笑みが脳を殴り付ける。

重い足取りで所長室に向かう。

悠仁はそこに俺が知りたいことが全てあると言っていた。

所長室の中には本や資料の束が積み上げられている。

端末を探すが見当たらない。

本棚や物陰にあるか確認する。

医療の本や論文が多い。悠仁が入っているカプセル型の医療ベッド…。

ここは何かしらの研究所だろうか。

でなければわざわざ廃墟の地下に作ったりはしない。机の上の資料を動かすと一枚の写真がひらりと落ちた。拾って確認する。

そこには篁の親っさんと、薫と瓜二つの女性が写っていた。

なぜこんなところに親っさん達の写真が?

他に何かあるかと探していると、机の手前側の縁に丸みを帯びた長方形の小さな窪みがあるのを見つけた。その下に英語が彫られている。

『Where does the soul go?』

魂はどこへ行く…。

ハッとしてジッポライターを取り出す。

『Souls Meet Beyond Time』

魂は時を越えて巡り会う…。

窪みにジッポライターをはめてみる。

するとカチッという音がして音声ファイルが一件のみ現れた。

『雨宮愁染へ』の再生マークをタップする。


ーー愁染。聞こえているか?

お前さんがこれを聞いているということは、儂は既にこの世にいないだろう。

そして、真実を知る時がきたということだ。


全ての始まりは、儂が世界を牛耳る富裕層にいたときのことだ。儂と妻の写真は見たか?

儂も妻も全てを見下ろす側にいた。

今のように脳の再利用をする技術はなかったが、鋼鉄の身体にしたことで健康で長い時を生きられていた。技術の恩恵を真っ先に受けられていたんだ。そう、肉体を棄てた最初の人間達。それが富裕層だ。

しかし、脳を再利用する技術が試作段階で実験を繰り返していたとき学者があることに気づいた。

再利用が一定回数を越えたとき、記憶が曖昧になるという兆候が見られた。観察側からすればいつもと変わらず過ごしていたというのに。

さらに再利用を重ねると、まるで抜け殻のようになっていた。自分で何かを判断して動くということが一切できなくなっていた。ところが学者が指示を出すと全てを完璧にこなして見せた。再利用を繰り返した結果、人間の魂が消滅し命令に忠実に従う機械と化してしまったんだ。学者は直ぐに脳の再利用を危険な代物だと判断して上層部に開発を中止すべきだと進言した。

抗議も虚しく上層部はそれを好都合だと受け取った。

人生を散々謳歌させてやるのだから、魂が消滅した人間は残りの人生を奴隷として世界を回す歯車として動かせばいいという最悪な姿勢を貫いた。

それを上層部に気に入られていた妻は知ってしまった。儂に全てを泣きじゃくりながら話してくれた。


妻は言った。

魂の消滅は死ぬことと同じ。

自分を証明する魂を失うくらいなら、

鋼鉄の身体よりずっと脆い肉体のままでありたかったと。

病気も怪我もあって、傷つきながら魂を最期まで燃やして美しく散っていく人間の頃に戻りたいと。

何もかも自分のものだったあの頃に。

だから、永遠に近い命などいらないと。


妻はしばらくして自殺した。脳は学者が引き取ろうとしたのを説得して儂が預かった。

絶望した世界に妻をもう一度呼び戻すことは妻を殺すことと同義だったからな。


ならば儂が妻の望んだ肉体に近い身体を作ればいいと気づいた。

神になろうとした人間に肉体と魂の尊厳を取り戻させようと。それを証明しようと。

そのためにこの研究所を作った。

そして、愁染、薫、悠仁…。


お前さん達を儂が生み出したんだ。


愁染、お前さんは儂の若い頃を基にした複製体だ。

薫は、生前の妻を基にした複製体。

彼女には悠仁を通して複製体であると知らせた。

そして悠仁は、最初のプロトタイプだ。愁染と薫を見守る者として。悠仁はお前さん達が完成する前から全てを知っていた。


最初は薫だけの予定だった。

だが、彼女を一人世界に放り込むことに気が引けて儂の複製体であるお前さんを作った。兵器として戦うために。

これで証明することが出来ると思っていた。

だが、儂は何度も再利用を繰り返し、魂が失われつつあるのを感じている。儂には時間が残されていない。

儂の代わりに奴らに証明してほしい…そう思っていた。

三年前の薫の死の偽装によって全てが変わった。

真実を知った薫はお前さんに真実を知ってもらうため悠仁と共に死を偽装した。

お前さんが自分の意志でここまで来るように。

儂が指示したわけではない。

お前さんのために二人が自ら動いたんだ。

自らの意志で悩み、苦しむことを選択した。それはお前さん達に紛れもない魂があるということだ。

愁染どうか、お前さん自身の魂を手放さないでくれ。

お前さん達には複製体としてではなく、一人の人間として生きてほしい。


こんな形で真実を告げることになってしまったことを許してほしいとは言わない。

儂を憎んでくれて構わない。

お前さん達に幸せが訪れることを願っているーー。


再生が止まり、『罪人:篁霙一より』と表示された。

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