File14:村雨悠仁
『やぁ、待っていたよ。雨宮愁染』
仮面の奥から合成音声が聞こえてきた。
姿は三年前と変わっていない。
奴がゆっくり立ち上がり、足元に転がった球体を拾って弄ぶ。
『大人しくついてきてくれて助かったよ。
来てくれなかったら何もかも台無しだったからね。それならそれで力ずくで連れてくるつもりだったけど』
あの日の怒りと悲しみは消えていない。
だが、奴の飄々さにどこか悠仁と似ていると感じるせいか、戸惑いを覚えている自分がいる。
「お前の計画なんざ知らねぇ。二人はどこにいる?」
『ようやく会えたのに、もう二人の心配?
寂しいねぇ…』
「口を閉じろ。その喋り方、弟分とそっくりで癪にさわるんだよ」
『…そう。二人の心配より自分の心配をしたら?』
気がつくといつの間にか背後をとられていた。
すかさず日本刀に変形し、斬りかかるがそれはホログラムだった。
『何してるの?俺はここだよ』
奴は球体を弄んだまま一歩も動いていない。
「くそ、小賢しい奴め」
『俺が遊んであげるよ』
奴が俺に向かって球体を投げつける。
それを両断した瞬間、ナイフで突くように斬りかかってきた。
それを躱して柄で殴り付けて距離をとる。
すると奴が一人二人と増えていく。
まるで踊るような一斉連撃が襲う。
躱し続けていると背後から悠仁と同じ脚の仕込みブレードが振り下ろされる。
刀で受けると火花が散った。
「お前は誰なんだ…」
『命のやり取りの最中だよ!』
首を狩りにブレードが横なぎに迫る。
顔までミリ単位の位置で躱すがバランスを崩して倒れ込む。
『あれ、もう終わり?俺が憎いんでしょ?』
奴の姿が悠仁と重なる。
違う、そんなわけがない。
『俺が弟分にでも見えてるのかな?……じゃあ、三年前の怒りを引き出してあげるよ』
「やめっーー」
視覚に警告が表示される。
あの日の記憶が強制的に蘇る。何度も何度も。
内側からふつふつと憎悪が呼び起こされる。
ー奴だ。
ーー違う。
ー薫を殺した。
ーーそんなわけない。
ー殺せ。
ーーやめろ。
俺の声がぐちゃぐちゃと頭の中をかき乱す。
「ゔあああああっ‼」
ノイズが走る視界の中がむしゃらに刀を振り回す。
その内の一振が何かを斬った。
動きが止められない。
攻撃をしようとしている人影が見え、身体が反応し何かを貫く。
その瞬間、ノイズと声がクリアになる。
合成音声ではない静かな悠仁の声がした。
「それで、いいんだ……兄貴」
刀が深々と悠仁を貫いていた。
傍らに真っ二つに割れた般若面が落ちている。
あ、あ、おれは、なんてことを…。
刀を投げ捨て、崩れ落ちる悠仁を咄嗟に支える。
「悠仁…どうして…」
「…般若面は俺ですよ。兄貴に殺されることが、俺の償いですから…さぁ、とどめをさしてよ」
何度も想像してきたこの時を。
般若面の正体が悠仁だと知った今、そんなことは到底できない。
悠仁から流れるオイルが床を染めていく。
どうしたら、どうしたらいい。
このままじゃ…。
パニックになっているとあの球体が現れた。
悠仁の身体をスキャンしてシールドが悠仁を包み込み宙に浮かせた。
『雨宮愁染 様、こちらに』
「悠仁をどうするつもりだ?」
『治療室へ運びます』
病院を思わせる真っ白な部屋の中央にカプセル型のベッドが一つ置かれていた。
球体が悠仁をそこに寝かせる。
「兄貴…ここに行ってください。そこに…親っさんの遺した音声データがあります。知りたいことは全部そこに…」
悠仁が俺に施設のマップを転送した。
赤い点が目的地を指している。
するとベッドの蓋が閉まっていく。
「わかった...。本当にすまない…」
「謝らないで…兄貴。行ってください」
頷くと同時に蓋が閉まり、治療が開始された。
俺は悠仁が示した所長室に向かった。




