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赤字領地に飛ばされた会計官、公開照合で汚職網を断ったら契約の婚約が再定義されました  作者: 夜摩 高嶺
第一章「乾いた解任通知」

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第7話「封印印章」

 七日運用の三日目、旧会計室文書庫の印章箱から欠品が出た。

 欠けたのは封印補助印。

 単体では決裁できないが、票に「公式らしさ」を足すには十分な印だ。


 私は欠品簿を開く。

 最終使用者欄、空白。

 また空白だ。


 空白は偶然ではなく、手口になる。



 午前、私は印章管理手順を一時変更した。

 出庫時に指紋粉を薄く塗る。

 戻り時に布拭きを禁止。

 雑でもいい、触った事実を残す。


 兵站長は顔をしかめた。


「そこまでやるか」


「印章偽装は一度許すと止まりません」


 オルドは短く言う。


「継続」


 この一語で会議は終わった。



 昼、北門で新しい便が止まる。

 便名「監査協力便」。

 笑ってしまうほど露骨だ。


 札には封印補助印が押されていた。

 欠品中の印章と同型。


 私は札を回収し、角度と欠け位置を測る。

 印の左下に、砂粒ほどの欠け。

 印章箱の型帳に残る欠けと一致した。


 門番ベルンが低く言う。


「これ、もう言い逃れ無理だろ」


「無理にしないと、また別の名で来ます」


 私は停止記録へ三件目を追記した。



 午後、グレゴルが会計庫に現れる。

 今日は笑わない。


「印章の欠品を私のせいにするつもりですか」


「まだ“誰のせい”とも言っていません」


「では何だ」


「系統です。どの便に、どの印が、どの時刻で現れたか」


 私は板へ線図を描く。

 慈恵支援便、寒冷慰問便、監査協力便。

 すべて第七刻以降。

 すべて停止後に別名義再入門。

 札に共通の補助印。


 グレゴルは線図を見て、唇を引く。


「辺境運用を王都の理屈で断罪するな」


「断罪はしていません。記録しているだけです」


「記録は武器になる」


「はい。だからこそ公開しています」


 彼は何も言わず去った。

 扉際に香油だけ残る。



 夕刻、印章箱の裏板を外すと、薄い紙片が挟まっていた。

 数字三つ。

 六二、七三、八四。

 そして「葡萄庫」。


 符丁だ。

 私は倉庫台帳を引く。

 葡萄庫は旧街区の民間蔵。

 名義はワイン商会だが、最近は出荷実績がない。


「今夜見に行きます」


 ミレナが即答した。


「私も」


「危険です」


「数字だけで追うなら、現場目が必要です」


 私は一拍置き、頷いた。

 彼女はもう補助書記ではない。

 現場を読む目を持ち始めている。



 第八刻、旧街区。

 葡萄庫の扉は閉じ、灯りはない。

 だが裏手に車輪痕が新しい。


 近衛と立会で開扉する。

 中には炭袋と布束、そして未使用の通知紙。

 会計庫ロットと一致。


 さらに木箱一つ。

 中に補助印が三個。

 欠品印章と同型の複製だ。


 私は息を吐き、押収票へ記す。

 物証名、補助印複製。

 押収時刻、第八刻四十七分。


 この時刻は、後で必ず効く。



 夜更け、会計庫へ戻る。

 オルドが押収票を読み、珍しく眉を上げた。


「ここまで出るとはな」


「次は資金線です」


「急ぐな。まず保全」


 私は頷き、封緘箱へ複製印を収める。

 赤鉛筆で欄外に印。

 第七の赤印。


 公開板へは、まだ書かない。

 書くのは証拠の鎖が繋がってからだ。

 見せる順序を誤ると、相手に逃げ道を与える。


 窓外の風は強い。

 それでも今夜は、追う側の足場が少しだけ固くなった。

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